4月16日にウクライナのゼレンスキー大統領はメディアのインタビューに答える中で、"ロシアがマリウポリのウクライナ軍を全滅させたら、和平交渉を継続できなくなる"と述べました。翌日(17日)にはCNNとのインタビューの中で、"ドンバスの戦闘はウクライナの運命を決定するだろう。ウクライナは、ロシアとの戦争を終わらせるためにウクライナ東部の領土を放棄することはあり得ない"とも述べました。
 マリウポリの存在自体を今回のロシアの軍事侵攻を通じて初めて知った私にとって、以上のゼレンスキーの発言の趣旨は理解しかねるものでした。しかし、4月18日の解放軍報が掲載した新華社モスクワ電(黄河記者署名記事)「マリウポリはなぜロシアとウクライナの衝突の焦点となっているのか」を読んで、はじめてマリウポリが持つ地政学的戦略的重要性を理解することができました。ゼレンスキーが執着する意味が分かりましたし、プーチンがマリウポリ攻略にこだわる理由も理解できました。皆さんにとっては旧聞に属することかもしれませんが、私の知識レベルの方もおられると思いますので、新たに学んだ知識をお裾分けするべく、この記事のさわり部分を訳出紹介します。

(ロシアはなぜ攻めあぐんでいるのか)
 分析筋によれば、ロシアがマリウポリ攻略に手間取っているのには以下の原因がある。
 第一に、マリウポリ市の環境が複雑であること。工業都市として重工業建築物が密集しており、それらの工場は鋼鉄とセメントでできた「要塞」となっているから、攻撃に抵抗する能力が強い。ロシアの軍事専門家アンドレイ・クーシキンによれば、アゾフスキー製鉄所の面積は工業団地に匹敵する広さがあり、地下構造だけでも8階となっており、地下通路の総延長は24キロを超える。
 第二に、ウクライナはロシアよりもマリウポリの地形に通暁していること。ウクライナの軍事力である「アゾフ軍団」はマリウポリに盤踞して数年の間に、この都市を堅固な防衛拠点に改造してきた。
 第三に、双方の戦術が膠着局面をもたらしていること。ロシアがウクライナに対する特別軍事行動を開始して以来、双方がマリウポリ人道回路の開通を相手側が妨害していると非難し合ってきた。ロシアは度々マリウポリの民族主義武装勢力が市民を「生身の盾」にしてロシア軍の攻勢を妨害していると非難してきた。  以上に加え、アメリカ以下のNATO諸国がウクライナに対する軍事援助を不断に強化してきたことがマリウポリ守備軍の士気と能力を高めてきたことも、ロシア軍の同市攻略の難度を増している一面もある。
(戦略的意義は極めて大きい)
 マリウポリの地理的位置は極めて高い軍事戦略的価値を備えており、ロシア軍が同地を攻略することができれば、ウクライナ東部からクリミアに至る地上コリドーを設けることができるし、新たな戦略的戦術的選択肢を獲得することもできる。ロシア高等経済大学欧州国際総合研究センターのワシリー・カーシン主任は、マリウポリはウクライナ軍の防衛の中心であり、この都市を占領することでその他の地域での軍事任務に大量の兵力を回せることとなり、また、ドンバスの民間武装勢力との編成合併も可能となるから、ドンバス地方における特別軍事行動任務の完成をも促進できることになると指摘した。
 マリウポリはまた、ウクライナ経済にとって重要な意義を持っている。ここはウクライナ鉄鋼工業の中心であり、イリッチ冶金工場、アゾフスキー製鉄工場などはウクライナ経済にとって極めて重要である。マリウポリ港はアゾフ海沿岸最大で、設備がもっとも整った港湾であり、ウクライナにとって鉄鋼、食糧等の輸出のかなめでもある。ロシア軍がマリウポリを支配することはウクライナの経済的命脈を支配することと同義であり、アゾフ海をも支配することとなると指摘するメディアもある。
 同時に、マリウポリはロシア及びウクライナの双方の士気にも大いに関わる。マリウポリを防衛する「アゾフ軍団」は、ロシアにとっては民族主義武装分子であり、同地を占領し、アゾフ軍団を消滅させることは、ロシアの特別軍事行動における既定目標である「ナチ勢力除去」にとって重要極まりない意味を持っている。ロシアの軍事専門家ブラディスラフ・シュレイキンは、マリウポリはウクライナにとっては「抵抗の象徴」であり、この都市の支配権の帰属如何はロシア及びウクライナ双方の士気に甚大な影響を及ぼすと述べた。ロシア軍事専門家ドミトリー・ボルジェンコフは、ロシアがマリウポリを占領すれば、ウクライナは交渉に戻らざるを得なくなる可能性が大きいと述べた。