前3回を通じて、中国の改革開放政策の先陣を切ったのは中国の農民の動きであったことを繰り返しお話ししましたが、改革開放特に社会主義市場経済化の中心はその後今日に至るまでの40年間ずっと第二次・第三次産業と都市であり、農業(第一次産業)・農村は取り残されてきたことは否定できないと思います。それだけではありません。生産請負責任制とともに1990年代の中国経済の成長を支えた郷鎮企業が国内総生産(GDP)に占める比率は、1980年:3.3%→1990年:13.3%→1995年:24.7%まで上昇しましたが、1990年代初期の税制改革と様々な名目による費用負担(「農村のことは農民がする」)により、1990年代の農民の負担総額は469億元から1359億元にまで上昇したという指摘があります。これにたまりかねた農民の直訴を受けて、2000年に安徽省で農村税改革の試点工作が行われたのをスタートとし、2006年1月には農業税が全面的に撤廃され、こうして2600年以上に及ぶ中国歴史において初めて農民の税負担ゼロが実現しました。それとともに、「農民のことは農民がする」政策自体も改められ、「農民のことは財政がする」方針に転換したのです。
 とはいえ、財政における農業・農村重視が数字として表れるまでにはさらに時間が必要でした。例えば、2009年-2011年の間に、全国農林水関係の財政支出が占める比率は支出総額の9%前後、同時期の都市インフラ建設のための財政支出は13.4%という数字が示すように、公共サービスにおける財政支出の違いは都市と農村における公共サービス格差拡大をもたらしたと指摘されています。習近平が総書記に就任したのはそういう時期であり、都市と農村の格差是正は正に「待ったなし」の課題となっていました。  特に、2017年の1号文件が打ち出した、農村の土地について集体所有権、請負権(中国語:承包権)、経営権という3つの権利(従来の請負権を請負権と経営権とに分離)を設けるという政策は、家庭生産請負責任制導入後でもっとも重要な制度的ノベーションであると評価されています。そして、同年に開催された19回党大会(第2期習近平体制)は「郷村振興」戦略を打ち出し、ここに党中央の「三農」工作は社会主義現代化国家建設・小康社会全面建設の中心的位置に据えられることになりました。したがって、これからの3回のお話では、習近平・中国における農業・農村・農民に関する政策の展開を見ていくことが中心になります。

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中国の農業政策