中国側の岸田政権に対する評価が変化していることをうかがわせる2つの文章に出会いました。一つは岸田政権がアメリカとNATOに追随して対ロシア制裁を強化していることに注目、もう一つは岸田政権下で最初の外交青書(原案)における「中国脅威」高唱に注目、という点で切り口は違いますが、これまでの岸田政権関連の論調と比較すると、両文章ともに批判一色である点に大きな特徴を感じます。
 特に、清華大学の劉江永教授は従来、岸田政権を含む日本政治の動向について穏健かつ好意的な見解を発表してきたというのが私の印象です。その彼にしてこの文章かと、私は軽いショックを感じるほどでした。とはいえ、岸田政権の対米追随の「すさまじさ」には、私もほとほと愛想を尽かしています。そういう実感からすれば、中国側のこの2つの文章における岸田政権批判は至極当然だと納得もしています。要旨を紹介します。

○劉江永「東アジアの持続可能な安全保障が直面する脅威」(中国語原題:"东亚可持续安全缘何面临威胁" 4月8日付環球時報) 劉江永:清華大学国際関係学系教授
ロシアとウクライナの衝突が東アジアと世界に与えている最重要な啓示の一つは、人類は持続可能な安全保障の道を歩む必要があるということである。
 第一、各国の政策決定者はいわゆる現実主義的パワー・ポリティックス及び伝統的地縁戦略的な旧思考を捨てる必要があること。しかるにアメリカの同盟国である日本が東アジアではこの傾向が顕著に現れており、このことに警戒するべきである。特に注目すべきは「海洋と大陸との対決宿命論」などの伝統的地縁的な覇権争奪戦のロジックである。岸田文雄首相が提起したいわゆる「新現実主義外交」は正しくその表れの一つである。その下では、ロシアとウクライナの衝突において、日本がアメリカとNATOの対ロ全面制裁に追随することを必然にする。また、韓国大統領選で勝利した尹錫悦が政権についた後、日米が韓国に徴用工問題等で譲歩するように圧力をかけるとともに、韓国を「インド太平洋戦略」に引き入れようとする可能性が大きい。しかし、日本のこうしたやり方は隣国の安全保障上の利益に対する深刻な脅威となるだけではなく、日本の周辺安全保障環境を戦後もっとも劣悪なものにするだろう。岸田「新現実主義外交」は日本に「非現実主義」的な結果をもたらすことになる。
 第二、東アジア地域においては、「暴力的多国間主義」がもたらす安全保障上の危機と災難を防止する必要があること。グローバルに見るとき、東アジア地域が相対的に平和で安定している原因の一つは、一国好戦主義や「暴力多国間主義」がまだはびこるに至っていないからである。しかし、東アジア諸国は、平安にいても危機に思いを巡らせる必要がある。2016年以後に米日が推進してきた「自由で開放されたインド太平洋戦略」の本質は、日米同盟を核とし、NATO諸国をも含めて、中ロ朝に共同で対抗する軍事・政治・外交・経済・科学技術を包括した集団を作り上げようとするものである。日本は、歴史の教訓(義和団鎮圧の8国連合軍、日独伊枢軸)を忘れてしまっており、軍事力と軍事集団を信奉する戦略的拡張遺伝子は今日の日本に隔世遺伝しているかのようだ。
 最近の10年間では、日本当局は釣魚島に関して「固有の領土論」、「実効支配論」、「中国領海侵入論」などを人々とりわけ若年層に宣伝し、対中感情の悪化、潜在的敵意の上昇に努めている。昨年からは、日本は英仏独加などの艦船を東海、南海に集結して軍事演習を行っており、その矛先はいわずとも明らかである。4月7日、日韓豪NZはアジア太平洋地域のパートナーとしてNATO外相会議に出席したが、日本と韓国の参加は初めてであり、関係方面の高い注目を集めた。5月には、日本は東京で米日豪印4カ国サミットを主催することになっており、ロシアと中国に対していかなるメッセージを出すかも要注目である。この流れが続いていくと、「東アジア版NATO」の形成及び日本の改憲後のNATOとの合流の可能性は高くなり、グローバルな「暴力多国間主義」の温床及び東アジアでの戦争と衝突の巣窟となることになりかねない。
○于海龍「新外交青書 脅威喧伝の目的」(中国語原題:"日本新《外交蓝皮书》草案炒作安全"威胁"意欲何为?" 4月8日付中国網) 于海龍:中共中央党校国際戦略研究院助理研究員
   岸田政権のもとでの2022年版外交青書原案は、安全保障上の戦後体制の束縛を脱却しようとする本質に基づいて「脅威」を大いに書き立てているが、その目的とするところは、①保守主義勢力の支持を獲得して政権の安定性を維持する、②安全保障上の能力の建設を強化する、③しずしずと改憲プロセスを推進していく、ということにある。要するに、岸田政権が周辺における安全保障上の「脅威」を喧伝することに熱心なのは、既存の国際秩序を守ることを名目にして既存の国際秩序を破壊するという実をあげ、自国の安全が「脅威」を受けていることを理由にして戦後体制の束縛を脱却することを積極的に追求することにあり、国際社会の平和と協力に対して重大な挑戦をもたらすものである。
 岸田政権は、一方で中日関係の重要性を強調し、共同の課題で協力し、建設的で安定した中日関係を構築すると強調している。他方では、主張するべきは主張し、中国が「責任ある行動」を取ることを強く要求するともいう。したがって、中国は中日関係の安定性を維持することを考えつつ、岸田政権の対中外交政策に対しては差別化した手段で対応するべきである。
 岸田政権の「中国脅威論」喧伝による「汚名を着せる」政策に対しては、次のように臨むべきである。  まず、戦後体制の束縛を脱却しようとする本質を徹底的に明らかにするべきであり、中国政府外交部門だけではなく、学術界、メディア、社会団体もその役割を担うべきである。
 次に、歴史及び事実の宣伝を強化し、東海及び南海における中国の正常な権利擁護行動について、まずは歴史に依拠して中国の正当な権益を詳述し、次いで国際秩序、国際法等の角度から、事実をもって中国の行動の合理性、合法性を論じるべきである。
 最後に、歴史問題に関わるパートナーシップ建設を展開し、岸田政権が進める戦後体制の束縛からの脱却という狙いに対して、日本国民を含む軍国主義被害者の広範な協調行動とともに歴史的正義を擁護する広範な統一戦線を構築し、国際秩序の安定を守り、国際秩序が「新冷戦」に陥ることを回避するように行動するべきである。