キエフ(キーウ)周辺を包囲していたロシア軍の撤収後、ウクライナ側が発表した「ロシア軍による民間人虐殺」事件は西側メディアが大きく報道し、日本のメディアも軒並み、ロシア軍の残虐な行為と断定する報道を行っています。私が今朝(5日)チェックしたロシア外務省・英文WS及びタス通信・英文WSによれば、ラブロフ外相は、ロシアを訪問している国連人権問題担当のグリフィス事務次長との会談の冒頭発言でマリウポリ問題(ウクライナ側がロシア軍の犯罪を糾弾)に関して、ウクライナ側が示した情報が偽物であることが暴露されたと述べた後、ブチャ事件を取り上げて「もう一つの情報攻撃」と名づけて次のように述べました。

 ロシア軍がブチャを離れた後、もう一つの情報攻撃が起こった。すなわち、数日後に「ショー」が演出され、ウクライナ側と西側のパトロンはありとあらゆるメディア手段を使って騒ぎ立てている。(事実関係は)ロシア軍は3月30日に町を離れた。3月31日にブチャ市長がすべてはうまくいっている(everything was all right there)という公式声明を出した。その2日後に「ショー」が行われ、彼らは反ロ目的に利用しようとしている。我々はこの問題に関する国連安保理の緊急会合を今月の議長国であるイギリスに要請した。この挑発は国際の平和と安全に対する直接の脅威だと確信するからだ。しかし、イギリスは会議開催の確認をしようとしていない。我々は、イギリスが議長国としての機能を果たすべきだと要求する。
 ラブロフの以上の発言に前後して行われたロシア側のこの事件に関する反応・対応をタス通信の報道順にまとめると、次のようになります。
○ロシア国防省:ブチャの写真及びビデオは、マリウポリの際と同様、ウクライナ及び西側メディアがでっち上げた偽物であり、挑発である。ロシア軍は3月30日にブチャから撤退した。「4日後にウクライナの安全保障会議関係者がブチャに到着した後に、「証拠と犯罪」が浮上した。ブチャ市長は3月31日にロシア軍はブチャにいないと述べたが、その際、両手を縛られて射殺された者が街路にいるとは何も言わなかった。」
○ロシア国連代表部:ブチャ問題に関する安保理会合を4日に開催することを要求した。「我々は、ウクライナ挑発者と西側パトロンの正体を暴くつもりだ。」
○ロシア外務省ザハロヴァ報道官:「写真やビデオが発表された文字通り数分後に西側の政治的な声明が発表されたという事実そのものが、誰がこのストーリーをでっち上げたかを証明していると思う。」「考慮しなければならないのは、各国元首、外相たちがビデオと写真だけに基づいて声明を出し、ロシアに非難を浴びせたということだ。専門的な分析もなく、相手側(ロシア)の言い分も聞かずに声明が出されたのだ。」「キエフは、平和交渉を妨害し、暴力をエスカレートするためにまたもや罪を犯した。」
○ラブロフ外相(上記発言)
○ペスコフ大統領報道官:「事態は実に深刻であり、国際的指導者たちが声明や根拠のない非難に走るのではなく、様々な情報を求め、少なくとも我々の議論に耳を傾けてほしい。」ウクライナ側が出した情報の中身は「信用できない」。「時系列的事実関係は彼らの主張を裏付けていない。」ロシアは安保理で議論することを提案した。しかし、「提案はブロックされた。」「だが、安保理で議論するという我々のイニシアティヴそのことが、国際レベルでの議論をしたいというロシアの立場を示している。」
 私は、ブチャ事件の真相が不明なので、これがロシア軍によるものであるのか、それともウクライナ側のでっち上げなのか、いずれとも判断できません。しかし、ロシア軍のウクライナ侵攻以後、日本を含む西側メディアは、ウクライナ側が発表することは「すべて事実である」という大前提で報道してきており、今回の事件に関してもそれがくり返されていることには、客観的に公正な報道を旨とするべきジャーナリズムのあるべき姿をはなはだ逸脱している、という批判を提起せざるを得ません。
 この点で、タス通信の紹介報道で知ったのですが、元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)主任査察官(イラクの大量破壊兵器捜索を担当)のスコット・リッターがツイッターで次のように述べていることは傾聴に値するし、日本を含む西側報道に対する私の根本的疑問を裏付けるものだと思います(なおタス通信は、アメリカ国家安全保障局の情報をリークしたスノーデンに協力した経歴の持ち主であるグレン・グリーンウォルドのツイッター記事(ウクライナ側が発表した写真・ビデオは「中身も証拠もない(context-and-evidence-free)」と批判)も紹介しています)。
 「プロパガンダ目的の主張をすることで広く知られているソースからの未確認ビデオだけに基づき、確認することもせずに、瞬間的に判断するような者は自らをジャーナリストと呼ぶことは止めるべきだろう。」
 「法医学の基本では、死の時刻、死のメカニズム、死体が動かされたかどうか、以上3つのカギとなる問に答えることが求められる。ところで、ウクライナ側は彼らの非難を裏付けるに足る証明可能な法医学的データを示しているだろうか。…死亡時間、死亡メカニズムそして死の場所。一人一人の死体についてこの3つの問に答える。その後で(犯人を)特定する。そういう手続を踏まなければ、偽情報をばらまいているということになる。」
 「ロシアを悪者に描き出すことのみを狙った情報戦争作戦によって西側の世論が形成されているときに、客観的なオブザーバーは「有罪」と叫ぶ前に法医学(による答え)を待つだろう。」