ロシア・ウクライナ戦争に関する「事実関係」が完全に西側メディアの報道によって歪められてしまっている日本国内では、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を余儀なくされた根本原因がアメリカ主導のNATO「東方拡大」、特にロシアにとって最後の緩衝地帯であるウクライナをも「東方拡大」の対象にすることを排除しないバイデン政権の対ロ政策に対する危機感にあることを正確に認識する向きはほとんどありません。毎日朝から晩までテレビで流されるウクライナの悲惨な光景とウクライナの人々の惨状が日本国内でかつてない「ウクライナ支援の自発的な動き」を引き起こしています(そのこと自体はいいこと)が、私は複雑な感慨を禁じえません。アメリカが発動した対テロ戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争の時でも、まったく同じ光景・惨状があったわけですが、西側主導の日本のメディアが流さないために日本人の大部分は知らないままに無関心で打ち過ごしていたのです。つまり、今回の日本国内の「ウクライナ支援の自発的な動き」も、ロシア叩きに奔走する西側メディアの偏向報道に「洗脳」された結果であることは否定できない事実だと思います。そういうことを考えるとき、私は「ウクライナ支援の自発的な動き」にも素直に肯定できない怪しさを嗅ぎ取ります。
 ロシアの軍事侵攻は、戦争を禁じた国連憲章第2条4項違反で許されないことは間違いありません。しかし、ロシアをそこまで追い込んだアメリカの対ロ政策、さらにいえば、相変わらず世界の「一極支配」にしがみつくバイデン政権の危険な本質を見極めないと、今後も私たちはアメリカそして西側メディアによって「思いのままに動かされる操り人形」であり続けることになってしまいます。私は、物事の現象面と本質面とを冷静に見極める判断力を私たち日本人が我がものにすることが何よりも求められていると考えます。
 3月28日付の環球時報社説「他国に指図する資格のないアメリカ」(中国語原題:"华盛顿没有资格给别国划"红线"")は、アメリカの言いなりに対ロシア包囲網に参加することを拒否する中国に対して、バイデン政権が居丈高に迫るアプローチを厳しく批判し、「ウクライナ危機の張本人」であるアメリカ(バイデン政権)のグロテスクな本質を摘発しています。「アメリカをどう見るか」という問題は、今や10人のうちの実に9人が「アメリカに対して好感を持っている」(内閣府世論調査結果)私たち日本人のもっとも根本的な課題だと思いますので、紹介するゆえんです。

 バイデンは4日間の欧州旅行でウクライナ危機を主題とする外交活動を行ったが、和平を促す行動はゼロ、言葉もゼロだった。バイデンがやったことは、ロシアに対する全面制裁のための動員であり、欧州同盟国がこの問題で後ずさりしないように全力を挙げることだけだった。しかもこの間に、中国が米主導の制裁行動に参加することを要求・脅迫した。バイデンの発言に先立って、サリバン補佐官は中国に対する3項の「レッド・ライン」まで持ち出した。3項とは、ロシア制裁がもたらす商売のチャンスを利用するな、ロシアが輸出規制を回避することを手伝うな、禁止された金融上の交易を行うな、である。
 アメリカはウクライナ危機の張本人であるくせに、全世界を自らが作り出した罠の中に陥れようとしており、中国を含む広範な途上国に脅しをかけたり、餌で釣ろうとしたりして、自分が作った危機の責任と結果を分担させようとしている。しかし、アメリカが勝手に作り出した危機のツケをほかの国々が背負う義務はないし、ましてやアメリカには他国に対して「レッド・ライン」を敷く資格はさらさらない。
 アメリカにあるのは動乱を輸出する野心だけで、後始末をする気持ちはまったくない。アフガニスタン、イラク、シリア等々、アメリカはどれだけ世界に収拾のつかない混乱を残してきたことか。
 ロシア・ウクライナ危機勃発後、アメリカはロシアに対する制裁を不断にエスカレートさせ、しかも、全世界にアメリカの味方になることを迫り、その結果、景気回復に悩んでいる世界経済にさらなる重荷を負わせ、各国民生は本来受けるべきでない損害に見舞われている。アメリカは今やグロテスクな巨人に成り下がった。制裁や戦争という手段だけが異常に発達し、平和と発展を促す建設のための手段は筋肉の萎縮を起こして機能退化してしまい、その結果、戦争反対をいいつつ至る所で戦争を引き起こし、平和をいいつつ気の向くままに平和を破壊している。
 「冷戦の父」とも言われたジョージ・ケナンは、1990年代に、「ロシアに対するNATOの拡張継続はアメリカの政策における致命的な誤りになる」と述べた。NATOの東方拡大がゼロ・サムを好む政治屋の決定だったとしたら、「意思はあっても力足らず」というのが今のワシントンの現実である。他人を叩く手段は発達したが、対ロ制裁網一つを取っても、同盟国の支持を必要とし、非西側諸国の同調を必要とする始末だ。そうであればこそ、中国に対してロシアを支持するなと警告することにもなる。アメリカは、一方で競争相手の中国を叩いておきながら、同時に中国が対ロ制裁に同調することを望むという始末だ。
 アメリカは一貫して地球上の至る所で敵を探し、いないとなれば自分で敵を作り出してきた。ワシントンには次のことを言っておきたい。既成大国は新興大国によって打ち負かされるということはなく、覇権維持のためのコストで自壊するのだ。最近、アメリカはロシアをG20から追い出そうとしているが、多くの国々が明确に反対を表明している。今日の世界はもはやアメリカなど少数の国が一手に支配する時代ではなくなっている。アメリカの覇権を弄ぶ「自虐的プレー」に加わる国はほとんどないのだ。