ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に対して、西側メディア(及びそれを受け売りする能しかない日本メディア)の「ロシア=侵略者、ウクライナ=犠牲者」宣伝に洗脳された日本社会が「ウクライナ支援」一色に染まる中、バイデン政権に忠誠を尽くすこと(G7の一員として行動すること)しか念頭にない岸田政権も負けじとばかり、ロシア政府関係者の資産凍結制裁措置(2月27日)、一部のロシア銀行に対するSWIFTからの締め出し(2月28日)、ロシアに対する最恵国待遇取り消し(3月12日、正式決定は16日)、ロシア外務省のザハロヴァ報道官、8名のロシア国防省次官を含む15人の個人に対する追加制裁(3月18日)等々を発動しています。更に、北方4島問題に関して、岸田首相は3月17日の参議院予算委員会で「ロシアの占領には如何なる法律上の根拠もなく不法占領である」「日本の固有の領土だ」と発言し、安倍首相在任時代の立場(二島返還で交渉妥結を目指す)を事実上否定しました。(ただし、石油・天然ガス開発のサハリン-2プロジェクトに関しては及び腰?)。
 これに対してロシアが対抗する行動に出たことは事理の必然です。3月21日、ロシア外務省は次の内容の声明を発表しました(ロシア外務省英語WSによる)。

 ウクライナ情勢に関連して、日本がロシアに対して課した一方的制限の明らかな非友好的性格に鑑み、ロシアはいくつかの対抗措置を取る。
 現在の状況のもとでは、ロシアは日本と平和条約交渉を継続する意思はない。なぜならば、明らかに非友好的立場を取り、我が国の利益を害そうとする国家との間で、二国間関係に関する基本文書を議論することは不可能だからである。
 ロシアは、1999年のビザ免除の交流協定及び1999年の旧南千島住民の旧居住地訪問に関する協定を停止する。
ロシアは、南千島における合同経済活動に関する日本との対話から離脱する。
ロシアは、黒海経済協力(BSEC)機構における日本のパートナーたる地位の延長を阻止する。
二国間協力及び日本の利益を損なうことに関するすべての責任は、相互の利益となる協力と近隣関係を発展させようとせず、反ロシアの道を意図的に選んだ東京にある。
 さらに3月22日付のタス通信は、ロシア安全保障会議副議長のメドヴェージェフ(元大統領・首相)が以下の内容の見解を投稿したことを報道しています。ロシア外務省の声明はまだ自制している様子が窺えますが、今はなかば「自由の身」であるメドヴェージェフの発言はロシア側のホンネを吐露していると見るべきでしょう。
 メドヴェージェフは投稿の中で、ロシアと日本は南千島に関してコンセンサスを達成することは決してないだろうと述べた。彼は、「ロシアは日本との平和条約交渉を拒絶した。南千島に関するこの拒否は、ずっと引き延ばされてきた公正なものであり、歴史的に正当なステップである」と述べた。
 メドヴェージェフによれば、ロシアと日本がこの紛争に関してコンセンサスに達することがあり得ないのは「明らか」なことだ。彼によれば、「双方が前からそのことを分かっていた。千島に関する交渉は常に儀式的な性格のものだった。」
 メドヴェージェフは、ロシア修正憲法は「我が国の領土は譲渡(alienation)の対象ではないことをはっきり規定している」、「これはクローズド・イッシューだ」と強調した。
 メドヴェージェフは次のようにも述べた。日本人はアメリカの例に倣い「誇り高い独立したサムライ」のように行動し、ロシアに制裁を課すことで、平和条約という仮想のテキストを交渉することについて「話し合いはもはや無意味だということを示した。それは結構なことだ。」
 メドヴェージェフは次のようにも述べた。千島の開発の方がもっと重要だ。「近年、ロシアはこれらの領土に新しい命を吹き込んでいる。自分は何度も訪れ、支持する措置を取り、学校、道路、空港などの目に見える改善を見届けている。」「いちばん重要なことは、現地の人々もそれを見届けていることだ。将来にわたってそうなっていくだろう。」
 私がむしろ唖然としたのは、岸田首相の「脳天気な外交」を改めて見せつけられたことです。ロシア外務省の声明に対して、岸田首相は22日の参議院予算委員会で「今回の事態はすべて、ロシアによるウクライナ侵略に起因している」「日ロ関係に転嫁しようとするロシアの対応は極めて不当で、断じて受け入れられない。日本国として強く抗議する」(23日付朝日新聞)と述べたというのです。安倍晋三氏が「トランプのポチ」だったとしたら、岸田文雄首相は「バイデンのポチ」そのものです。
私は、岸田首相のインドとカンボジア訪問にも極楽とんぼさながらの醜態ぶりを見る思いがしていました。QUADに加わっていながら、伝統的な印ロ関係を踏まえて国連総会のロシア非難決議に棄権票を投じているインド・モディ首相が、「バイデンのポチ」である岸田首相の話に真剣に耳を傾けるはずがありません。大盤振る舞い(といっても大した額ではない)の経済協力のお話しはありがたくちょうだいするが、そんな「はした金」で印ロ関係を犠牲にすることができるはずはないではないか、とモディ首相がつぶやく様が目に浮かびます。カンボジアのフン・セン首相と中国との親密な関係も知らないものはいません。
 しかも、岸田首相は、ブリュッセルにおけるG7首脳会談でアジアの声を伝えると述べたとか(NHKニュースで小耳に挟んだ程度なので、正確な内容は記憶していませんが)。「この人、本当に大丈夫なのか」というのが私の偽りない気持ちです。国交正常化50周年なのに冷え切っている日中関係改善のわずかな可能性を宏池会・岸田文雄に託したいと思ってきた私ですが。
 岸田首相のインドとカンボジア訪問について、3月22日付のハンギョレ日本語WSはキム・ソヨン特派員の「岸田首相「反ロ参加」に直接乗り出したが…及び腰のASEAN、距離を置くインド」と題する記事を掲載していますので、紹介しておきます。岸田首相の行動は見透かされているということの一つの例証として。
 日本の岸田文雄首相がインドやカンボジア首相と相次いで会談し、ウクライナ戦争などに対する協力案を協議した。「反ロ戦線」に対してASEANは曖昧な立場を取っており、インドは一定の距離を置いている。
 岸田首相は20日、カンボジアのプノンペンでフン・セン首相と2時間ほど首脳会談を行い、ウクライナ戦争について「武力の行使の即時停止及びウクライナ領土からの軍隊の撤退を求める」共同声明を出した。ロシアを狙った内容だが、声明には「ロシア」という国名は含まれなかった。これについて岸田総理は記者団に「すべての国が同じことをするのは現実的に難しい」と述べた。
 フン・セン首相は岸田首相に会う前の18日、中国の習近平国家主席と電話会談した。中国外務省は「両首脳がウクライナ事態で均衡と公平性を堅持し、平和的解決を促すために努力するということで一致した」と明らかにした。日本経済新聞は「岸田首相がインドに続きカンボジアを訪れた。目的はロシア包囲網の穴を減らし、協力国を増やすことにあった」とし、「ASEANの対ロ批判に及び腰な姿勢が浮かび上がる」と報じた。
 ASEAN10カ国はロシアや中国と緊密な関係を結んでいるか、領土問題などで対立している国もあり、一致した外交方針は決定しにくい構造だ。ASEAN諸国は先月、外相名義で発表したウクライナ戦争に関する声明で、「非難」ではなく「懸念」を表明するのにとどまった。今月2日に国連総会で採択されたロシア非難決議案も、ベトナムとラオスが棄権した。
 岸田首相は19日にはインドの首都ニューデリーでインドのナレンドラ・モディ首相と首脳会談を行った。共同声明でウクライナ戦争について「戦闘行為の即時中止を要求する」と明らかにしたが、「ロシア」という国名は使わなかった。インドは3日、米国・日本・インド・オーストラリアによる協力枠組み「クアッド」(Quad)の首脳会談でも「反ロ制裁」に参加しなかった。インドが「反ロ戦線」に乗り出せないのは、ロシアと安全保障及び経済的に緊密な関係を維持しているからだ。防衛大学の伊藤融教授は日本経済新聞に「中国と国境を接するインドの安全保障上の懸念は海より陸地にある」とし、「ロシアとの歴史的なつながりなどインド側の事情を理解せずに経済制裁への同調などを迫れば、逆にクアッドの足並みが乱れかねない」と述べた。
 3月22日付の環球時報は、「ロシア・ウクライナ衝突:方向違いの反省をするEU」(中国語原題:"欧盟对俄乌冲突的反思别跑偏了")と題する、欧州政治の専門家である王義桅・中国人民大学教授の文章を掲載しています。EUがロシアの安全保障に関する問題意識を正確に認識せず、ロシアをギリギリまで追い込むことが如何なる結果を欧州自身にもたらすことになるかをよくよく考えないと、その最終的ツケは自分自身に返ってくることを戒める内容です。日本・日本人にとってEUの今は正に「他山の石」であることを教える内容です。以下に紹介するゆえんです。
 (ロシア・ウクライナ危機に直面する)EUの反省は徹底したものになっていない。EUの東方拡大は10カ国をのみ込んだが、消化不良を引き起こし、様々な要因も加わって債務危機を招いた。2013年のウクライナ危機と2014年のクリミア事件の原因の一つはEUとウクライナが協定を結ぶか結ばないかということにあった。つまり、欧州は「冷戦の敗者」であるロシアに対して払うべき敬意がなかった。NATOについてはいうまでもない。
 EUが本来考えなければならないことは次のことである。ロシアの安全に対する関心を一切無視して中東欧諸国を吸収するということをしていなかったならば、果たして今回の危機に直面することはなかったのではないか。ソ連解体を「自由とデモクラシーの勝利」と間違って理解することがなかったならば、東方拡大をしゃにむに推進していただろうか。
 EUの反省が中途半端であり、方向がずれているのは、体制的原因、文明的原因、さらにはアメリカという要因もある。「ヘルシンキ最終文書」の「不可分な」安全保障観に回帰して、「欧州の安全はモスクワ狙いのものでも、モスクワを迂回するものでもあってはならない」ということをEUが本当に認識すしたならば、EUはアメリカに引きずり回され続けるべきではなかった。そうすれば、ロシアとウクライナの衝突は回避できたはずだった。
 冷戦後、アジアは大きな戦争を免れてきたが、欧州は、コソボ、ジョージア、ウクライナと一貫して戦争が絶えることがなかった。今回のロシア・ウクライナ紛争の勃発は、冷戦終結後の欧州が直面する最大の危機である。欧州諸国はアメリカにぴったり従って次々とロシアに制裁を課してきた。永世中立国のスイスまで参加する始末だ。1648年のウェストファリア条約以来、スイスははじめて中立国ではない行動を取った。ヒットラー、ムッソリーニ、スターリンですら、スイスにそのような行動を迫らなかった。スイスの行動は、現在の欧州諸国の心理状態のいわば縮図である。こういう時であればますます欧州は体系的、制度的にもっと反省すべきだというのに。
 ロシア・ウクライナ衝突は欧州に次の一連の問を突きつけている。欧州はどこから来てどこへ行こうとしているのか。ウクライナは「欧州の入り口」なのか、それとも「欧州の境界」なのか。EUは欧州を代表できるのか。EUの未来はどこに向かうのか。「戦略的自主性」を模索するEUとNATOはどう住み合うのか、等々。
 反省する中で、欧州は自己の境遇、なかんずくロシアとのかかわりで、次のような現実と向き合って深刻に反省するべきである。第一、文化及び宗教的には「3つの欧州」がある。すなわちラテン・地中海のカソリック欧州、ゲルマン・北方のプロテスタント欧州、そしてスラブ・東方のギリシャ正教欧州だ。スラブ欧州は明らかにロシアと近親性がある。第二、政治的には「旧欧州」と「新欧州」があり、後からEUに加盟した中東欧諸国の多くは旧ソ連陣営出身であり、EUにチャレンジしているハンガリーを除けば、大半はロシアを多かれ少なかれ敵視している。第三、経済欧州となると内部の違いはもっと大きく、ロシアに対するエネルギー依存度もバラバラだ。以上を綜合するとき、EUにおける東西南北の矛盾が浮かび上がる。
 以上に加え、EUとしては今後の世界秩序についても考えなければならない。帝国に向かうのか民族国家の秩序に留まるのか。アメリカの覇権秩序の下で甘んじるのか、中国など新興諸国とともに新たな世界秩序建設を推進するのか。
 それとともに、現実問題である制裁という手段の合理性、合法性、合目的性ということも総合的に考えるべきである。歴史的に見ても、制裁という手段で停戦を受け入れさせた事例はない。今回の西側の制裁は前代未聞の規模と強度ではあるが、ロシアに軍事行動を終結させるにはなお力不足だ。
 EUにはロシアとの関係で「間違いを犯した」という意識が生まれている。EUがしなければならないことは、まだ間に合ううちに間違いを続けることを止め、ロシアにどう対応し、現下の情勢をどう改善するかに思いを巡らせ、さらに進んでは、アメリカのもう一つの戦いの場である中国にどう相対するかに思いを巡らせることにより、欧州観、中国観、世界観のあり方を考えることである。