3月9日に行われた韓国大統領選挙で保守野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)が勝利したことは、朝鮮半島の平和と安定そして北東アジアの平和と安定を願う私としてははなはだ残念かつ遺憾な結果でした。他方、韓国有権者が「保守対野党」のイデオロギー的構図に縛り付けられることを拒否し、政権審判を行う主権者として行動する姿を際立たせたことは、相変わらず「保守対野党」のイデオロギーに縛られている者が多い日本政治との比較において、韓国のデモクラシーが数段先を行っていることを思い知らされるものでもありました。今回の大接戦は一見2020年の米大統領選挙を彷彿させるものでしたが、その内実には雲泥の差があります。アメリカの場合は民主党対共和党、というより反トランプ対親トランプで完全に二分される世論状況でしたが、韓国の場合、「ともに民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補も「国民の力」の尹錫悦候補も多くの問題を露呈して韓国有権者の反感・反発を招き、"二人の候補のいずれを積極的に選択するか"が韓国有権者の投票行動を決定する基準にはなりませんでした。また、韓国有権者は両党のいずれに対しても不満を持っており、"いずれの党を支持するか"もまた投票行動を決定する決定的決め手にはならなかったと思います。その結果、韓国有権者の投票行動を左右した最終的決め手は"政権継続か政権交代か"という問題に絞り込まれ、政権末期の文在寅大統領が40%を超える支持率を保っている(歴代大統領と比較して高率)にもかかわらず、「ともに民主党」・文在寅政権の5年間の実績に対する批判から、韓国有権者は「政権交代」という選択を行うことになったということのようです。
 もう一点、私が気づかされたことは、韓国の20代~30代の男性の有権者の投票行動が選挙結果の帰趨を決めたことです。日本でも、20代~30代なかんずく男性有権者の「保守化傾向」が指摘されています。この現象が単なる偶然の一致なのか、それとも深層的に何か共通する要素が働いているのか、今後注目すべき点だと思いました。なお、この点については、3月11日付の朝鮮日報日本語WSが次のように指摘しています。

 20-30代は過去の大統領選、総選挙などで民主党支持傾向が強かったが、今回の大統領選に先立ち実施された世論調査では、尹錫悦氏と李在明氏が接戦を繰り広げているという結果が出た。9日の投票直後、地上波3社が発表した出口調査結果で、尹氏と李氏は20代(45.5%対47.8%)、30代(48.1%対46.3%)で超接戦だった。2年前の総選挙では民主党が未来統合党に20代(56.4%対32.0%)、30代(61.1%対29.7%)で約2倍の差をつけて圧倒していたが、今回は状況が一変した。しかし、20-30代の男性は尹氏、女性は李氏を支持する傾向も見られた。Kスタットリサーチのキム・ジヨン代表は「今回20-30代は男女で支持傾向が分かれたが、これまで民主党の支持基盤だった20-30代が浮動票に転じたことは意味がある」と指摘した。
 いずれにせよ、今回の韓国の大統領選挙結果からはいろいろ学ぶことが少なくないように思います。私の「岡目八目」の判断を裏付けているのは3月12日付のハンギョレ日本語WSの「韓国大統領選、0.73ポイント差の勝負は厳しい「民心の警告」だった」と、3月11日付の聯合ニュース「次期大統領に投票した理由 4割が「政権交代」=韓国調査」です。また、朝鮮側の報道については、これまでの韓国大統領選報道と比較した3月11日付の聯合ニュース「「保守野党の尹錫悦が大統領当選」 北朝鮮メディアが短く報道」もあります。また、地域ごとの投票結果内容を分析した3月11日付の朝鮮日報日本語WSの「韓国大統領選:保守7戦6敗のソウル、5年前の0対25が14対11に」及び同日付の中央日報日本語WSの「「反感」が集めた1639万票vs1614万票…韓国が真っ二つに」も参考になります。以下に紹介します。なお、朝鮮日報は両候補(正確には正義党候補を含めた3人)の「都市別投票率」を図にして紹介しています。この図も末尾に紹介しておきます。
<ハンギョレ新聞:「韓国大統領選、0.73ポイント差の勝負は厳しい「民心の警告」だった」
 24万7077票、0.73ポイント差。選挙で示された民心は絶妙だった。有権者は次期大統領に当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏にも、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)候補にも支持を集中させず、過去最も僅差の薄氷ドラマを演出した。両候補ともにしっかりとした政策ビジョンを示せない中で、ネガティブ戦ばかりに没頭した結果、有権者はどちらにも投票を集めない方式で「牽制球」を投じたとの評価がある。
 有権者は、大統領選挙を通じて尹氏が圧倒的票差で政権を取れば暴走するのではないかという不安を示したとみられる。慶煕大学フマニタスカレッジのキム・ユンチョル教授は「市民はロシアのウクライナ侵攻などを見て、安保や平和問題が単純なスローガンの問題ではないと考えるようになった」として「だが尹氏の姿勢を見て、協力しようとの姿勢もなく、単独で国政をうまく運営するだろうという期待をしなくなったものとみられる」と話した。北朝鮮が今年に入って9回もミサイルを発射し、ロシアがウクライナを侵攻して、外交安保と世界経済の不確実性がますます大きくなっているが、尹氏は選挙運動期間にそれに対する代案と解決法を提示するのでなく、政府・与党を「運動圏勢力」と規定し暴言とも言える時代錯誤的な「理念論争」と「陰謀説」で一貫した。
 また、最大野党「国民の力」のイ・ジュンソク代表に代弁される「ジェンダー分断」と政治的見解が異なる勢力に対して一貫して皮肉で対応する「傲慢な」政治に対しても警告状を送ったとの指摘もある。選挙序盤にはイ・ジュンソク式の「イデナム」(保守化したと言われる「20代男性」を縮めた新造語)マーケティングが、保守言論などにより保守政治の変化と持ち上げられ、女性の民心は水面下に沈んでいた。だが選挙後半に、イ・ジュンソク式分断が一層露骨化し、尹氏がこれを受け入れるとの立場を繰り返し明らかにするに至って、不安を感じた20・30代の女性が李候補側に結集する現象が現れた。政治評論家のキム・ミンハ氏は「嫌悪に便乗する傲慢な政治は成功できないことを示した」とし「このような成功できない政治を放棄せずに継続するなら5年後には反対側への政権交替が再現されるだろう」と述べた。キム・ユンチョル教授も「韓国の国民的情緒は、権力が傲慢なことを強く嫌うが、イ・ジュンソク代表がそうした部分を刺激した側面がある」と語った。
 李候補と民主党も、20・30代の女性と湖南(ホナム)の圧倒的支持を受けながらも政権交替論に打ち勝つだけのビジョンを示せず、圧倒的支持を受けることに失敗した。特に、チョ・グク元法務部長官に対する捜査やチュ・ミエ前法務部長官と尹錫悦当時検察総長の対立状況で、民主党がネロナムブル(自分がやるのはロマンスだが他人がやるのは不倫=自分は棚にあげて他人を非難すること例え)式の独善政治を見せ、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がこれを傍観する政治をみせたが、李候補がこうした状況を克服するリーダーシップを示せずに新しさを前面に出せなかったということだ。評論家のキム・ミンハ氏は「李候補は推進力や決断力に秀でているという点で文在寅政権や民主党のそうした問題を突破できる政治家とみられていたが、大庄洞(テジャンドン)特恵開発疑惑に火が点いて、推進力と決断力が良い結果ばかりをもたらすわけではないとの認識が生まれた」と話した。
 今回の選挙で最大の争点になった大庄洞特恵開発疑惑を最後まで克服できなかった点も、李候補が薄氷の勝負から抜け出せなかった重要な原因になった。キム教授は「李候補が大庄洞疑惑で既得権層の談合構造を破れなかったことを認め、これを廃止することを国家的ビジョンとして掲げるべきだったのに、成果に基づく有能さなど実用的側面でのみアプローチし、これを克服できなかった」と述べた。
 二大政党はともに選挙期間を通じて革新する姿勢やビジョンを提示せず、ネガティブと理念論争に没頭した点も、有権者が双方に圧倒的な支持を送らない理由になった。政治コンサルティング「ミン」のパク・ソンミン代表は、「民主党は昨年4月7日の補欠・再選挙で敗北した後に省察と変化が求められたのに、それもできなかった」として「今回の選挙を通じて尹氏の家族に対するネガティブ攻勢で一貫し、支持層を結集するキャンペーンばかりをした」と指摘した。彼は「尹氏もまた、政権審判論ばかりを叫び、自身がなぜ大統領にならなければならないのかについては説明できなかった」として「両者とも相手にだけ変われと叫び、自らは革新しようとしなかったため、両者ともに有権者の多くの支持を得られなかった」と話した。
<聯合通信:「次期大統領に投票した理由 4割が「政権交代」=韓国調査」>
世論調査会社の韓国ギャラップが11日発表した調査結果によると、9日に実施された韓国大統領選で当選した保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長に投票した人のうち、39%が「政権交代」を投票の理由に挙げた。
 調査は10日、全国の投票者1002人を対象に行われ、このうち423人が尹氏に投票したと答えた。
 尹氏に投票した理由はこのほか、「対立候補が嫌いだから・それよりもましだから」(17%)、「信頼感」(15%)、「公正・正義」(13%)、「『国民の力』を支持・政治性向が一致」(7%)の順だった。
 尹氏に投票しなかった理由としては「経験不足」(18%)、「無能・無知」(13%)、「検察権力、検察共和国(検察が強大な権限を持っていること)」(6%)などが挙げられた。「家族の不正」や「好感を持てない」を理由にした回答者もそれぞれ5%いた。
 革新系与党「共に民主党」候補の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事に投票しなかった理由は「信頼性不足・うそ」が19%で最も多かった。
 以下、「道徳性不足」が11%、「大庄洞事件(ソウル近郊の京畿道城南市の大庄洞開発事業を巡る不正事件)」「不正腐敗」「政権交代」「前科・犯罪者」「家族関係・個人史(本人の経歴)」がそれぞれ6%ずつだった。
<聯合通信:「「保守野党の尹錫悦が大統領当選」 北朝鮮メディアが短く報道」>
北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信は11日、「南朝鮮(韓国)で9日に行われた大統領選挙で保守野党『国民の力』の候補、尹錫悦(ユン・ソギョル)が僅差で大統領に当選した」とだけ短く伝えた。北朝鮮の全住民が見ることができる内部向けメディア、朝鮮労働党機関紙の労働新聞も、同日付けの6面に同じ内容を掲載した。
 韓国大統領選は9日に投開票され、保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦前検事総長が当選した。
 北朝鮮メディアは投開票日の2日後、当確判明からは1日で結果を報じたことになる。北朝鮮としては望ましくない保守政党の候補の当選を、異例にも迅速に、それも名前入りで報じた。
 これに対し韓国内では、もはや韓国にどのような政権が発足しようと関心がないという姿勢のあらわれとの受け止め方がある。一方で、たった1文のニュースにはやはり、保守派の当選に対する不快感がうかがえるとの意見も聞かれる。
 過去の韓国大統領選に対する報道をみると、2012年12月19日の選挙で保守系与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏が当選した際は、朝鮮中央通信が翌日夜に「セヌリ党候補が僅差で当選した」とだけ、名前も入れずに伝えた。その前の07年12月19日の選挙では保守系野党ハンナラ党(セヌリ党の前身)の李明博(イ・ミョンバク)氏が当選したが、同月26日にようやく、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)機関紙の朝鮮新報がゴシップ的なコラムで取り上げ、保革対決ではなく経済面が優先されたと主張した。
 北朝鮮に融和的な革新政党が政権を取った場合には長めに報じてきた。17年5月9日に文在寅(ムン・ジェイン)現大統領が当選すると、翌日に朝鮮新報が「政権交代を成し遂げた民衆の力」としていち早く伝え、朝鮮中央通信も11日に4文からなるニュースにした。
 02年12月19日の選挙では、2日後に主要メディアが盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏の当選を一斉に報じた。1997年12月18日に金大中(キム・デジュン)氏が当選した際は、同氏の勝利とは伝えなかったものの、海外メディアを引用する形で「政権が交代することになった」と伝えた。
<朝鮮日報:「韓国大統領選:保守7戦6敗のソウル、5年前の0対25が14対11に」>
 今回の韓国大統領選は最近の主な選挙で民主党を圧倒的に支持していた20-30代と湖南(全羅道)、ソウル市の有権者の支持動向が変化し、尹錫悦氏の勝利に寄与したことが分かった。わずか0.72ポイント差で勝負が決まるほど与野党の支持層が総結集し、真っ向から衝突した格好で、今後も当面は20-30代、湖南、ソウルの有権者の支持動向がさまざまな選挙で与野党の勝敗に影響を与えるとみられる。
■20-30世代、与党地盤で浮動票に
 20-30代は勝負の鍵を握る浮動票として選挙期間中ずっと注目を浴びた。20-30代は過去の大統領選、総選挙などで民主党支持傾向が強かったが、今回の大統領選に先立ち実施された世論調査では、尹錫悦氏と李在明氏が接戦を繰り広げているという結果が出た。9日の投票直後、地上波3社が発表した出口調査結果で、尹氏と李氏は20代(45.5%対47.8%)、30代(48.1%対46.3%)で超接戦だった。2年前の総選挙では民主党が未来統合党に20代(56.4%対32.0%)、30代(61.1%対29.7%)で約2倍の差をつけて圧倒していたが、今回は状況が一変した。しかし、20-30代の男性は尹氏、女性は李氏を支持する傾向も見られた。Kスタットリサーチのキム・ジヨン代表は「今回20-30代は男女で支持傾向が分かれたが、これまで民主党の支持基盤だった20-30代が浮動票に転じたことは意味がある」と指摘した。
■保守「7戦6敗」のソウル、不動産高騰が支持傾向に影響
 ソウル市は1987年に直接選挙制が導入されて以降実施された7回の大統領選で、2007年に李明博(イ・ミョンバク)氏が勝利したのを除けば、保守政党が7戦6敗した劣勢地域だった。しかし、今回尹錫悦氏はソウル市で50.6%を得票し、李在明氏(45.7%)を4.8ポイントリードした。ソウル市の25区のうち伝統的に保守支持傾向が強かった江南地域を含め、14区を尹氏が制した。17年大統領選では文在寅(ムン・ジェイン)氏が全ての区で勝利し、12年大統領選でもセヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ)氏が優位に立ったのは、江南3区、江東、竜山の5区にとどまった。それに比べると、ソウル市の支持傾向は大きく変化した。
ソウル市での支持傾向の変化には、文在寅政権による不動産政策の失敗が大きな影響を与えた。尹錫悦氏は江南地域以外にも銅雀、永登浦、陽川、麻浦、竜山、城東、広津、東大門、鍾路の各区で勝利した。大部分が不動産高騰と総合不動産税の課税強化で影響を受けた地域だ。マイホーム購入の夢が遠のいたソウルの20-30代の相当数が民主党から国民の力に鞍替えした結果とみられる。カンターコリアのチャン・ホウォン部長は「昨年のソウル市長補選に続き、今回の大統領選もソウルは不動産問題が重要議題だった。仮に新政権も不動産政策の成果が上げられなければ、ソウルの有権者はいつでも支持を変えることがあり得る」と指摘した。
■湖南地域、保守候補の得票率が過去最高
 今回の大統領選で尹錫悦氏の湖南地域での得票率は、光州市(12.7%)、全羅南道(11.4%)、全羅北道(14.4%)だった。李在明氏が記録した光州市(84.8%)、全羅南道(86.1%)、全羅北道(83.0%)も比べると劣勢だったが、尹氏の湖南3地域での得票率(12.8%)はこれまでの大統領選の保守政党の候補で最高だった朴槿恵氏(12年、10.5%)を2.3ポイント上回った。依然として湖南地域の票は9割近くが民主党に集中し、国民の力の李俊錫(イ・ジュンソク)代表が公言した30%には到底及ばなかったが、保守政党としては「西進政策」の成果を期待できる前向きな結果だったと言える。
 国民の力の金鍾仁(キム・ジョンイン)元非常対策委員長が5・18民主化運動(光州事件)の犠牲者が眠る民主墓地でひざまずいて参拝を行ったことをきっかけとして、李俊錫代表らの相次ぐ「湖南票固め」が影響を与えたと評価されている。尹錫悦氏は「全斗煥(チョン・ドゥファン)称賛発言」などで曲折を経たが、「大規模複合ショッピングモール誘致」を公約に掲げ、民主党の「既得権益」を批判した。インサイトK研究所のペ・ジョンチャン所長は「過去の選挙では湖南地域主義が強固だったが、少しずつ壁が崩れていることははっきりと分かる。無条件で民主党や地元出身者にこだわる傾向は今後の選挙で弱まるのではないか」と指摘した。
<中央日報:「「反感」が集めた1639万票vs1614万票…韓国が真っ二つに」>
選挙運動期間はネガティブ攻防で汚された「非好感大統領選挙」だったが、この大統領選挙で逆説的に最多得票記録が生まれた。
「国民の力」から出馬して当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏は今回の第20代大統領選挙で1639万4815票(48.56%)を獲得した。これまで最多得票者だった朴槿恵(パク・クネ)前大統領が2012年大統領選挙で獲得した1577万3128票よりも60万票増えた。2位の「共に民主党」候補の李在明(イ・ジェミョン)氏も1614万7738票(47.83%)を獲得した。結果的に落選したが、民主党歴代大統領候補のうち最多得票者になった。歴代大統領選挙落選者のうち最多得票者でもある。1639万票と1614万票で大韓民国が真っ二つに別れた様相だ。
このような得票数は両側の支持者がお互いの「反感投票」に出て総結集した結果だという解釈もある。24万7077票(得票率0.73%ポイント)差という薄氷の勝負を決めた地域別投票者の心理を分析した。
(1)2つに割れた大韓民国…嶺南(ヨンナム)・湖南(ホナム)の障壁、依然と
選挙運動期間中、尹氏は「保守勢力の墓場」だった湖南に注力し、民主党は初の「TK〔大邱(テグ)・慶北(キョンブク)〕出身」候補であることを前面に出した。だが今回も嶺南・湖南の障壁は健在だった。
尹氏は嶺南で圧倒的な支持を受けた。李氏の故郷〔安東(アンドン)〕が属する慶北で72.76%を獲得したのをはじめ、大邱(75.14%)・釜山(プサン)(58.25%)・慶南(キョンナム)(58.24%)・蔚山(ウルサン)(54.41%)などすべての地域で得票率50%を超えた。嶺南で尹氏は計269万5973票差で李氏を上回った。
反面、李候補は民主党が優勢の湖南3カ所で80%台の得票率を記録した。光州(クァンジュ)の得票率は84.82%で、全南(チョンナム)・全北(チョンブク)もそれぞれ86.10%、82.98%を記録した。李氏は湖南で尹氏より249万余票多くの票を集め、バランスウエイトを合わせた。
(2)首都圏も半分…尹氏、漢江(ハンガン)ベルト中心にソウル5%ポイント先行
嶺南・湖南の票が半分に分かれた状況で両党が集中した勝負所は首都圏だった。尹氏はソウルで50.56%を獲得し、李氏(45.73%)よりも31万余票上回ったが、圧倒的ではなかった。現政権不動産政策に対する怒りで「国民の力」がソウル25区を席巻した昨年4・7補欠選挙とは違い、今回は尹氏の優位は14区にとどまった。
李氏は蘆原(ノウォン)・道峰(トボン)・江北(カンブク)と九老(クロ)・衿川(クムチョン)・冠岳(クァナク)のような伝統的な民主党の強勢地域を回復した。
李氏は自身が団体長を務めた京畿(キョンギ)で尹氏よりも46万2810票上回った。仁川(インチョン)でも李氏の得票数が3万4760票多かった。李氏は首都圏(ソウル・仁川・京畿)で18万6804票を上回り、結果的に嶺南・湖南の得票差を挽回した。
(3)キャスティングボートになった「スイングボーター」忠清…尹氏、15万票勝利
全国が二つに分かれた大統領選挙でキャスティングボートとして勝負を決めたのは忠清圏の民心だった。尹氏は世宗(セジョン)(44.14%)以外は大田(テジョン)(49.55%)・忠北(チュンブク)(50.67%)・忠南(チュンナム)(51.08%)で等しく50%前後の得票率を記録した。李氏も大田(46.44%)・忠北(45.12%)・忠南(44.96%)で45%前後の得票率で善戦したが、5%ポイントという微妙な差が結局全国の勝敗を決める結果となった。尹氏が忠清圏で追加で得た14万7612票は「25万票差」薄氷勝利の基礎となった。「忠清の息子」を自認した尹氏と「忠清の婿」と自身を呼んだ李氏の明暗が分かれた。
明智(ミョンジ)大学政治外交学科の申律(シン・ユル)教授は「かつて自由民主連合や自由先進党のような政党があった忠清圏は、自身の利益を代弁してくれる候補をその時その時に支持する典型的な『スイングボーター(swing voter)』地域」としながら「忠清圏で負けた人が大統領選挙で当選することができない鉄則は今回も続いた」と話した。
(4)世代・性別葛藤も最大化…「統合を悩むべき」
今回の大統領選挙に対する地上波3局の出口調査では地域別の票差とあわせて世代・性別葛藤も同時に浮き彫りになった。60代以上は67.1%が尹氏を支持し、40代は60.5%が李氏を支持した。同じ世代が性別格差を顕著に示したケースもあった。20代男性は58.7%が尹氏に投票したと答え、20代女性は58.0%が李氏を選択したことが調査で分かった。
このように地域と世代、時には性別で割れた大韓民国有権者の地形を巡り、学界からはNetflix(ネットフリックス)のドラマ『イカ ゲーム』にたとえる意見も出てきた。相手を殺そうと飛びかかったものの自分が死んでしまうドラマの中のゲームのように、極端な政治葛藤が蔓延すれば選挙に勝利した陣営も結局は不信に包まれるという懸念だ。
韓国政党学会長を務めた徳成(トクソン)女子大学政治外交学科のチョ・ジンマン教授は「尹氏には深刻な社会的葛藤を統合に導くという課題が与えられた」とし「特に過激保守支持者に取り込まれないように、彼らをうまく節制させる方案について悩まないといけない」と話した。

<地域別投票>