香港では、2月7日及び8日に600人以上の陽性患者が報告された後、9日には一気に1153人の報告例へと急増し、医療体制にも支障が生まれるなど、急速に状況が悪化しています。香港では2020年8月以降に本土からの支援も得ていったんは抑え込みに成功しましたが、オミクロン株対策で初動が遅れたことが響いて(後掲の何亮亮文章参照)、現在の危機的状況に至っているわけです。香港の林鄭月娥長官は、中国政府の支援をバックにして「動態ゼロ」実現方針を堅持しており、中国国務院香港マカオ弁公室のスポークスマンは10日、質問に対して、同弁公室が国家健康衛生委員会、国家疾病局、広東省人民政府、深圳市人民政府及び香港特別行政区政府とともに深圳で会議を開いて、香港の防疫対策を共同で研究、制定、実施することを明らかにしました。香港では、西側諸国やシンガポールのように「コロナとの共存」に転換するべきだという主張も現れているようですが、2月12日付(ウェブ掲載は11日23時40分)環球時報社説「香港抗疫「ゼロ」を全力で支持する」が明らかにしているように、中国は全力で香港が「動態ゼロ」に回帰できるよう支援する構えを示しています。香港のコロナ対策の成り行きが注目される所以です。2つの注目される文章を紹介します。

○何亮亮「内地に学ぶ香港の抗疫能力」(中国語原題:"借鉴内地,香港有能力控制疫情")
 何亮亮は香港鳳凰(フェニックス)テレビ評論員で、この文章は2月11日付の環球時報に掲載されています。

 香港は昨年(2021年)秋には患者ゼロの日が長く続き、動態ゼロを実現していたが、キャセイパシフィック航空の乗組員が昨年12月に帰港後、在宅隔離規定に違反して動き回ったことによってオミクロン株が香港の至る所にばらまかれる結果を招いた。さらに、春節期間中、3.7万人が住む大型公営住宅団地に患者が発生した際、その一棟を封鎖する必要があったのに、人手不足が原因で対策を講じるのが一日遅れ、その間に人の出入りがあってウィルスの拡散を招いてしまった。その後でいくつかの棟を封鎖したけれども、時すでに遅し、だった。
 現在の香港は医療資源が緊急事態で、検査所では長蛇の人が順番を待ち、結果待ちの人は家でその結果を知ることを強いられる状況になっている。ところが、香港は人口が密集しており、半分の人口は公営住宅に住んでいるが、一人一人を隔離する条件を満たさない。全住民に検査するとしても、検査を望まない住民をどうするかという問題がある。全員強制検査をという声が上がる所以である。
 警戒を要するのは、香港でも「コロナとの共存」の声が現れていることだ。メディアでは、「ワクチン接種率が70%を達成した国家ではコロナ抑え込み放棄が選択され、インフルエンザと同様に対応し、その結果としてオミクロン株が急速に蔓延して残りの30%が感染して抗体を作れば、'全員抗体あり'が最終的に実現するから、コロナとの長期共存ができる」(浅井:2月10のコラムで紹介したように、抗体をすり抜けるオミクロン株の登場で、「集団免疫」説は破産しました)とか、香港もシンガポールに倣って「ゼロ実現」は放棄するべしとかの主張が現れている。
 「コロナとの共存」説は香港及び中国全体を賭けにするものであり、香港の今後の発展にとって極めて不利である。また、香港の現在の主流の見解は、香港が中国本土のやり方を採用してもっと強力に「動態ゼロ」を実行するべきことを主張している。大公報、文匯報、香港商報、星島日報などのメディアはこうした内容の社説を多く発表している。香港珠海書院「一帯一路」研究所の陳文鴻所長は、香港の抗疫を中国本土、少なくとも深圳と融合一体化させ、本土の厳しい防疫方法を採用して、積極的な政府の関与を実現し、防疫を強化し、本土とのインタラクションを増やし、連接チャンネルを開設し、経済民生に対する圧力を緩和するべきだと提案している。極めて見識ある意見だ。
○環球時報社説「香港抗疫「ゼロ」を全力で支持する」(中国語原題:"全力支持香港抗疫"清零"")
 香港のコロナ第5波の情勢は極めて深刻である。香港では現在すでにPCR検査能力が追いつかず、医療資源も飽和状態で、社会的には生活物資の買いだめ現象が起こっている。早急に資源を整え、コロナを抑え込むことは香港各界の強烈な願いとなっている。香港では現在なお100万人以上の市民が第1回のワクチン接種も行っておらず、老齢人口の比重が大きく、人口密度も高く、域外からのコロナ流入リスクも高いため、専門家の中には、3月下旬には病例が3万人に近づき、放置するならば医療系統がマヒし、死亡率もそれに伴って上がっていくと予想するものもいる。以上の状況は「動態ゼロ」目標を放棄するわけにはいかず、現在の状況に歯止めをかけることが緊急を要することを物語っている。ところが、香港社会の独特なことは、防疫対策に関する議論の中に「コロナとの共存」という主張も現れていることであり、このことは抗疫に関する決意及び実行に影響を及ぼしている。したがって、香港政府としては、「動態ゼロ」目標を追求するプロセスの中で、具体的状況に合わせて香港に適合した具体的対策を探求し、最小のコストで最大の成果を実現することが求められている。
 現在の基本状況は、ブレークスルー感染が広範囲に存在し、しかも現段階では頼りになる特効薬もなく、「コロナとの共存」のための条件が具わっていないということだ。西側のいわゆる「共存」は畢竟するに政府に責任があることを拒否する一種の「開き直り」に過ぎず、「ゼロ」対策失敗によるやむを得ない動きである。より重要なことは、「開き直り」に寄り添っているのは社会的ダーウィン主義であり、つまり、一部の人口とりわけ老齢者及び弱者グループを残酷に切り捨てるということなのだ。香港は確かに西側の理念を高度に受け入れてはいるが、同時にまた東方文化の底流も根強く、生命権を重視する程度は西側より高く、したがって「弱者切り捨て」は香港社会が受け入れることができる価値観ではあり得ない。
 防疫対策を制定する上では科学的な態度を堅持しなければならず、その過程でイデオロギー的要素の影響をできうる限り避けなければならない。また、「動態ゼロ」については香港における実践で有効性が検証済みだ。コロナ初期に香港は西側モデルを模倣したが、その結果は押し寄せる波のような流行に見舞われ、経済と民生は深刻な打撃を被った。2020年11月以来、香港は(大陸の)「外防輸入、内防反弾」に学んで、総じて良好な成果を収め、昨年(2021年)の数ヶ月は新たな病例も生まず、社会経済活動も段階的に回復した。現在のオミクロン株による感染に対してもこの選択を放棄する理由はさらさらない。
 西側による中国の防疫政策に対する歪曲宣伝は甚だしいが、それによる香港社会に対するミスリードを回避するべきである。防疫専門家の梁万年が明確に指摘したように、「動態ゼロ」とは「感染ゼロ」ということではなく、「早期発見、早期対処、精準管理、有効治療」をやり遂げるということである。香港政府はあらゆる雑音の干渉を排除し、宣伝を強化して社会を心理的に導き、香港の実情に合った防疫対策を探求、実行し、香港式「ゼロ」の道を歩むべきである。
 「香港に必要がある限り、祖国は必ずこれに応じる」。1997年のアジア金融危機、2003年のSARS、2008年の国際金融危機、さらには2019年の「暴乱」(浅井:いわゆる民主化運動)のいずれにおいても、香港は中央の援助の下で乗り越えてきた。今回も例外ではあり得ない。大陸はすでに香港に対する、野菜、生鮮食品その他の必需品の供給を保障し、防疫政策方案を共同で研究制定し、香港政府が果断に措置を取り、コロナ蔓延を断固防遏することを支持している。一言で言おう。危難の時、祖国は永遠に香港の確固たる後ろ盾である。