2月9日付の環球時報は、中国疾控中心の疫学首席専門家である呉尊友(このコラムでたびたび紹介している)に対する単独インタビュー記事を掲載しました。呉尊友は、①コロナをインフルエンザと同じ扱いをしようとする動きは間違い(例えば死亡率の大きな違い)、②インフルエンザの周期性からコロナの終息時期を示した医学誌『ランセット』掲載論文の科学的信憑性は大きな疑問符、③コロナの流行には周期性があることは事実が示している、④感染力と毒性(病原性)とは反比例するという理解は社会学的知見に基づくもの(生物学的知見ではない)、⑤コロナ対策におけるワクチンの重要性、⑥ブレークスルー感染の出現により集団免疫という考え方はもはや通用しない、⑥中国の「動態ゼロ」政策は引き続き有効であり、中国は今後も堅持すべし、等を指摘しています。日本国内の「俗論」を正す上で身につけるべき、いくつかの重要な視点を確認することができました。大要を紹介します。ただし、医学的知識ゼロによる用語的訳出上の間違いなどは多々あると思います。判読してください。

(質問) 国外では、オミクロン株の感染力は強いが重い症状を引き起こす力は弱く、「大型インフルエンザ」にますます似てきているとする主張が出ている。貴見如何。
(回答) オミクロン株は「大型インフルエンザ」ではあり得ない。なぜならば、感染する部位がオミクロン株とインフルエンザとでは異なり、引き起こす臨床症状の深刻さはまったく違うからだ。インフルエンザ・ウィルスの感染部位は上気道であるのに対して、コロナ・ウィルスの感染部位は下気道である。上気道感染では肺炎を引き起こすことが非常に少ない。下気道感染では肺炎を引き起こすことが多く、オミクロン株に感染する場合もそうである。最近の天津のデータによれば、361例の感染病例のうち、42%の感染者になんらかの肺炎症状があった。この比率はかなり高いものだ。これらの肺炎患者について、もしもワクチンによる保護作用が働いていなかったとすれば、病状はさらに深刻だっただろう。ワクチンによる一定の免疫力があったからこそ、症状ははるかに軽かった。また、中国の場合は対応が早く、病人がまだ発症前か発症初期の段階で、全員が入院して治療を受ける。この点が米欧とは異なる。また、国外では症状がないとか軽いとかの場合は入院治療ということはあり得ない。中国では、2020年6月の北京新発地での症例以来、死亡例がほぼゼロだが、その原因は治療が早いことにある。
 世界に関して言えば、オミクロン株で肺炎を引き起こした比率はかなり高く、中国を別とすれば、オミクロン株による重症率及び死亡率はインフルエンザよりもはるかに高い。アメリカの場合、オミクロン株流行期間中の同株による死亡者数はデルタ株流行期間中の死亡者数よりもはるかに多い。インフルエンザによる死亡率はそれより小さい。したがって、オミクロン株は「大型インフルエンザ」ではあり得ない。これを「大型インフルエンザ」と見なすことはコロナに対する人々の関心を弱め、防疫管理にとって極めて不利となる。
(質問) 最高の権威がある医学誌『ランセット』は1月19日、アメリカ・ワシントン大学の健康指標評価研究所(IHME)主任・マレー(Murray)の論文を掲載した。それによると、コロナの世界的大流行は間もなく終息し、来る3月がターニング・ポイントになるだろうという。この観点に対する貴見如何。
(回答) この論文が示す観点はあまり正確ではないと考える。この論文の作者は統計学者で、数学モデル分野の世界的権威だが、生物学及びウィルスに対する理解は必ずしも正確ではない。彼はインフルエンザに基づいて、これまでのインフルエンザが2年以内に終息していると仮定すれば、コロナはすでに2年流行しているので、終息する時期に至っているとする仮説を提示した。しかし、インフルエンザとコロナとは違いが多く、彼の以上の仮説は現実に基づく検証を受ける必要がある。第一、インフルエンザ感染後の免疫持続時間は通常1年に達するが、コロナ感染後の免疫持続時間は一般的に3~6ヶ月だ。第二、コロナの変異は速やかで、ほぼ毎日変化している。しかし、インフルエンザ・ウィルスの変異は規律性があり、変異の周期は通常1年~数年であり、また、ウィルスの変異が「サブタイプ」に留まるならばクロスプロテクションに影響しない。したがって、ウィルス変異の特徴及びコロナ流行2年の傾向から見て、「来る3月がコロナの世界的大流行終息のターニング・ポイント」とする見方は科学的根拠が不十分である。
(質問) コロナの流行は趨勢として弱まっていくという見方に関する貴見如何。
(回答) 今後の一定期間内にコロナの流行が弱まっていく傾向であることは確かだ。なぜならば、どの新ウイルス株の流行もピークに達した後下降していくのであり、オミクロン株も南アフリカではすでに下降傾向を呈しており、その他の国々でも一定期間流行した後は下降傾向を示しているからだ。例えばインドだが、昨年4,5月にデルタ株が大流行した後、一定期間流行レベルが下がった。ところが現在第4波が起こって再び上昇している。日本でも、昨年の東京オリンピック期間中は深刻だったが、その後はいったん大幅に下がり、世界的に第4波が起こる中で、日本でも突如再び上昇し始めている。コロナ・ウィルスにはこのような流行上の規則性があり、世界的に見る場合、3月またはそれ以外のある時に流行が弱まるという可能性は存在するし、その可能性は極めて大きいと言える。
 世界的な大流行はいくつかの要因によって促されている。第一、冬期はコロナ・ウイルスの生存と伝染に比較的適している。第二、冬期は感謝祭、クリスマス、新年などの祝祭日が多く、人々が集まりやすい。冬期が過ぎれば人々が仕事に戻り、流行を促す要素が減る。第三、オミクロン株の感染力が強く、既往感染者あるいはワクチン接種者でも感染することがある。
(質問) ウィルス進化の特徴から、感染力が強まるにつれて毒性は弱まり、最終的に「先細り」となって寄主と共生するに至るという見方の科学性如何。
(回答) この見方はいくつかの問題を混同している。コロナ・ウィルスの感染性と病原性との間には生物学的には必然的関連はなく、むしろ社会学的角度から見た場合の問題である。私の個人的見解では、感染性が強いほど病原性は弱くなるという逆方向の関係性の多くは社会的要因によるものだ。コロナ、SARS、中東呼吸器症候群という3つの呼吸器伝染病を例に取ると、すべてコロナ菌であるけれども、死亡率はまったく異なる。コロナの場合の死亡率は2%に達しないけれども、SARSでは10%前後、中東呼吸器症候群の場合は34%程度で、死亡率がいちばん低いコロナが人に及ぼす影響においてはいちばん大きい。どうしてこのような状況が起こるのか。主には、症状が軽い患者は簡単には診察を受けようとしないために、それだけ人に移しやすく、社会に感染が広がってしまう。逆に、感染後すぐに重症となる状況では、病人は即入院となり、他人に移す機会はそれだけ低くなるから、感染性も低くなる。つまり、感染性は人の社会的行動と関係があり、交流が頻繁になればなるほど、また、人の密集度が大きくなればなるほど、伝染性もますます強くなるわけであり、感染後の深刻性によって人と社会のインタラクションが異なってくるということだ。したがって、「感染力が強いほど毒性は弱くなり、病原性も弱くなる」という主張は生物学的には起こりうるはずはなく、むしろ、社会学的な角度から見るとこういう問題が起こるということになる。
 私個人の見解では、コロナの流行においてかかる傾向が現れるとは考えていない。コロナのこれまでの変異の状況からもこのような規則性は見られないし、今後に関しても、こういう見方は楽観的に過ぎると思われる。
(質問) コロナは人に感染するだけではなく、動物の中でも感染する。したがって、人類はコロナ流行と永遠に決別できず、長期にわたって共存を強いられるという見方があるが、貴見如何。
(回答) 軽症と無症状の感染者が増えているのには2つの原因がある。一つは、オミクロン株による感染者の症状が相対的に軽いことだが、オミクロン株にせよデルタ株にせよ、感染者の症状が比較的軽いという状況になっているのは、例えば、中国におけるワクチン接種率の進行によって70~80%の接種者の中では一定の免疫力が生まれており、この種の免疫力では完全に感染を防ぐことはできないとしても、症状については大幅に軽減できるし、まったく症状が出ないケースもある。
 無症状感染者の増加は間違いなく防疫管理上の難しさを増やしている。なぜならば、感染源の特定がますます困難になるからだ。しかし、見ておかなければならないことがある。感染を抑える上でのワクチンの効用は極めて大きく、感染者の症状も軽くなる結果として医療的負担は大幅に軽減されるし、重症ないしは死亡者も大幅に減るから、それに伴う医療的負担も軽減される。したがって、ワクチンは引き続き、コロナ(オミクロン株を含む)対処における重量級の「武器」である。
(質問) WHOスポークスマンは1月24日、環球時報記者の質問に対して、世界におけるワクチン接種率が70%レベルに達すれば、大流行のピークを越えたことを意味すると述べた。中国にはこのようなタイム・テーブルがあるのか。
(回答) 今の段階では、WHOのこのような見方は検討の余地がある。第4波の大流行が起こる前の時点で、独仏英などの欧州諸国の多くで接種率はすでに70%を超えていたし、アメリカでも70%以上だった。ここに一つの問題がある。以前我々は、ワクチン接種後に集団免疫が実現するという考え方をしていたが、オミクロン株の出現以後、ブレークスルー感染によって集団免疫という考え方は見直しを迫られることになった。つまり、コロナ変異株の多くが免疫回避能力を備えるとすれば、ワクチン接種を通じて集団免疫を実現し、コロナの大流行を抑えるという考え方はもはや通用しない。したがって、「70%のワクチン接種率になれば、大流行のピークは過ぎたことになる」という考え方そのものに問題があるということだ。中国でも70%はとっくに達成しているが、ウィルスに回避能力がある限りはやはり感染する。先頃の天津での感染者についても、相当数の人はワクチンの接種を受けていたのであり、症状がより軽くなったというだけの結果だった。したがって、ワクチン接種率という指標によってコロナ大流行収束のタイム・テーブルを定めることはもはや不可能である。ワクチン接種のほか、厳格な公共衛生措置、個人の衛生習慣の改善、適時の医療的関与、中西医学の結合、予防プラス治療、こうした手段の総合的運用によってのみコロナの大流行をコントロールすることができるだろう。
(質問) 海外メディアは一貫して、中国の「動態ゼロ」政策に様々な形でケチをつけている。中国の「動態ゼロ」が最良である所以は如何。「動態ゼロ」を調整するとしたら、どのような標準に依拠することになるか。
(回答) 事実として、中国の「動態ゼロ」政策によって、中国における感染状況は全世界平均より数百倍は低い水準が実現している。世界でコロナが原因で命を失う人の数は多く、アメリカ一国だけでも死者数は92万人以上だが、中国では最初に武漢で数千人の死者を出した後は、ほとんど死亡例を出していない。このデータは、「動態ゼロ」がコロナ抑え込みと死亡者減少に有効であるだけではなく、社会経済の発展にとっても非常に有効であることを示している。国家単位で見る時、コロナ防疫管理において中国ほど成功している国はほかにない。「動態ゼロ」政策は、目下のところでは最善の防疫管理方式であるというべきだ。中国としては、海外からのコロナ持ち込みによる感染を防ぐことができる新たな方法が見つからない限り、あるいはコロナを抑え込むもっといい方法が見つからない限りは、動態ゼロ政策が調整されることはないだろう。