2月1日、ロシアのプーチン大統領はハンガリーのオルバン首相との首脳会談後に記者会見を行い、ウクライナ問題に関する見解を明らかにしました。1月31日のコラムで紹介したラブロフ外相発言と軌を一にする内容ですが、西側が無視したロシア側の安全保障上の主要関心事項として、ラブロフはNATOの東方拡大防止と攻撃兵器システムのロシア国境近辺配備拒否の2点を挙げたのですが、冒頭発言でプーチンはさらに、NATO・ロシア創設法(the NATO-Russia Founding Act)が締結された1997年レベルまでNATOの欧州軍事施設・基地を引き戻すことを加えた「3つの主要要求」を西側に提起していることを明らかにしました。
またプーチンは記者の質問に答える中で、"ウクライナのNATO加盟が如何なる事態を引き起こすか"について詳述し、ウクライナのNATO加盟に対するロシアの反対の立場に対する理解を求めました。要点は、'ウクライナのNATO加盟→ウクライナのクリミア「回収」のための武力行使=NATOの対ロシア軍事行動→NATOとロシアの軍事衝突'が不可避となるということで、この最悪の事態を回避するためには、出発点の「ウクライナのNATO加盟」問題を振り出しに戻さなければならない、ということです。
 今回のプーチン発言については、例えば本日(3日)付の朝日新聞も大きく取り上げていますが、プーチンの真意を伝えるものとはなっていません。ロシア大統領府・英語版WSに掲載されたプーチン発言(要旨)を紹介するゆえんです。

 我々の行動及び提案におけるロジックについて改めて説明したい。
 NATOブロックの軍事施設・基地が東方に1インチたりとも拡大しないという約束をロシアが受けたことは常識に属する。今日、NATOはポーランド、ルーマニアそしてバルト3国にいる。言行不一致だ(They said one thing but did another)。要は騙したのだ。そういうことだ。
 その後、アメリカはABM条約を脱退した。そして今、弾道ミサイル迎撃装置がルーマニアに展開され、ポーランドにも展開されようとしている。この装置はトマホークを発射できるMK-41発射装置だ。つまり、迎撃ミサイルだけではなく、ロシア領の数千キロをカバーできる攻撃ミサイルだ。これは我々の脅威ではないのか。
 そして今、彼らは次のステップはウクライナだといっている。私の言うことを注意深く聞いてほしい。ウクライナの文書には、必要ならば武力ででもクリミアを取り戻したいと書いてある。ウクライナ当局はこのことを公言しない。文書に書かれてあることだ。
 ウクライナがNATO加盟国だとしよう。ポーランドやルーマニアと同じように、ウクライナに攻撃兵器が配備されるだろう。ウクライナがクリミアで作戦を開始すると仮定しよう。クリミアはロシアの主権に属する領土だ。我々はこの問題は解決済みだと考えている。ウクライナがNATO加盟国として軍事作戦行動を開始することを想像してみてほしい。我々はどうするのか。NATOブロックと戦うのか。このことに考えを巡らせたものはいるだろうか。明らかに答は「ノー」だ。
 次に、ミンスク合意の実施についてだ。合意を実施したいとするウクライナの声明を聞く一方で、ロシアはこの合意を実行していないと非難されている。ところが他方で、ウクライナがこの合意を実行したら崩壊するだろうという趣旨の公式声明もある。ロシアに対してこのような脅威を作り出すならば、自分自身に同じような脅威を作り出すだけだということを考えてみたことがあるだろうか。こうした問題すべてについて、お互いの利益のためにじっくり分析し、考慮する必要がある。どの国も自らの安全保障システムを選ぶ権利があると聞かされている。我々はこれに同意するが、アメリカはウクライナの安全保障にそれほど関心があるわけではなく、付随的にしか考えていないと確信している。アメリカの主目的はロシアの発展を抑え込むことだ。これがポイントだ。つまり、ウクライナはアメリカの目標を達成するための道具でしかないということだ。
 アメリカがこの目標を達成する手段はいくつかある。武力衝突にロシアを引きこむこと、欧州の同盟国に強制してロシアに厳しい制裁を課させること、ウクライナをNATOに引き入れ、攻撃兵器を配備した上で、ドンバスあるいはクリミア問題を武力で解決するようにそそのかすこと、等々。こうして、ロシアは武力紛争に引きこまれるというわけだ。
 こうした数々の問題を凝視するならば、そうした状況が起こることを防止するためには(ロシアはもちろん回避したい立場だ)、ロシアを含むすべての国々の利益を全面的に考え、問題に対する解決を見つける必要がある。
 いかなる国も他国の安全保障を損なう形で自国の安全保障を確保しようとしてはならないというイスタンブール及びアスタナの条約及び関連文書を署名したのは何故なのか。我々は、ウクライナのNATO加盟はロシアの安全保障を損なうので、そのことについて考えてほしいと言っている。ところが西側はオープン・ドア政策だと言う。この言い草はどこから来るのか。そもそも、NATOにはオープン・ドア政策があるのか。どこに書いてあるのか。どこにも書いてない。私の記憶が正しいとすれば、1949年NATO条約第10条では、締約諸国は一致した合意により他の欧州国家を条約に受け入れることができると定めている(浅井注:正確には「締約国は、この条約の原則を促進し、かつ、北大西洋地域の安全に貢献する地位にある他のヨーロッパの国に対し、この条約に加入するよう全員一致の合意により招請することができる。」)。ということは、NATOはできるけれども、そうすることが求められているわけではないということだ。
 以上をまとめれば、アメリカとNATOはウクライナその他に向かって次のように言うことができる。すなわち、我々はウクライナの安全保障を確保したいし、ウクライナの希望は尊重する。しかし、我々には以前受け入れた国際約束があるのでウクライナを受け入れることはできない。こう説明することが、ウクライナにとってかんに障るということがあるだろうか。
 我々は、すべての当事国、すなわちウクライナ、欧州諸国及びロシアの利害と安全保障を確保する方法を見いだす必要がある。これが可能となる唯一の途は、我々が提案した文書について真剣かつ思慮深い分析が行われることだ。簡単なことではないことは分かっているが、最終的に解決が見つかることを希望している。