ウクライナ情勢が緊迫の度を深めています。しかし、私の率直な実感を先に言ってしまうと、現在の軍事的緊張は多分にアメリカ・バイデン政権が人為的に煽っている結果であると思います。内憂外患が膨れ上がり、支持率がじり貧状態に陥っているバイデン政権としては、"ロシアによるウクライナ軍事侵攻の危険が高まっている"ことを誇大宣伝することで、自らに対する批判の高まりを躱し、批判の矛先をロシアに転じようとする意図が見え見えです。いわばイソップ童話の'オオカミ少年'です。しかも、ロシアの軍事侵攻の危険を煽りながら、バイデン自ら早々と「ウクライナに米軍を派遣しない」と言っているのです。独仏首脳が会談して「話し合いによる解決」を強調したのは、バイデンの'腹の底'を見透かした上での情勢沈静化への動きとも見ることが可能です。
 中国側の分析・観測も基本的には以上の私の判断と同一線上にあると思います。1月25日付の新華社・国際観察「ウクライナ情勢に関する5つの問い」(中国語原題:"危机重重 何去何从——五问乌克兰局势")は危機の由来と見通しを的確にまとめています。そして、2021年12月28日付環球時報社説「ウクライナ危機:アメリカの入念な計算」(中国語原題:"乌克兰危机,华盛顿在危险边缘精心算计" WS掲載は27日23時)は、アメリカの計算づくのパワー・ポリティックスに対して警鐘を鳴らす内容です。両文章の大要を紹介します。

○(新華社・国際観察)
 バイデン政権登場以来、ウクライナ問題を巡る米ロの争いはエスカレートし、ロシアとウクライナの対抗は火薬の匂いを強め、「凍結」されていたウクライナ東部のドンバス問題も再び温度が上昇しはじめている。ウクライナ問題を整理する時、以下の5つの問題が注目される。
①ウクライナ問題の発端
 2014年2月、時の大統領・ヤヌコヴィッチがカラー革命の中で降壇し、代わった親西側政権はEUとNATOへの加盟を国家戦略として打ち出した。ウクライナの戦略的地位は重要であり、もともとからして米ロの地縁政治上の争いの焦点だったが、これによってますます大国の格闘の場となり、果てしない激動へと陥っていくこととなった。
 クリミア半島における住民投票の結果、同地がロシア領に編入され、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)が独立を宣言してウクライナ政府との間で戦闘が起こってから、ウクライナ政府はロシアに対してクリミア「返還」とドンバス武装勢力に対する「支持停止」を強硬に要求した。これに対してロシアは、クリミア編入は同地人民の合法的な選択であり、ドンバス問題についてはロシアは当事者ではなく、ウクライナは武装勢力と交渉を通じて問題解決を図るべきだと主張した。
 ドンバスにおける戦火拡大で大量の犠牲が生まれる状況の下、国際的な政治調停の動きが起こり、ウクライナ、ロシア及びCSTOによるウクライナ問題3者接触グループ及び「ノルマンディ方式」の調停メカニズムが作られた。後者による最大の成果が2015年に結ばれたウクライナ東部問題の政治解决に関するミンスク合意である。この合意は、武装側の特殊的自治の地位獲得要求を満たすと同時に、ウクライナ政府のウクライナ・ロシア国境に対する支配要求をも満たすものだった。しかし、ミンスク合意は必ずしも円滑に履行されず、近年では、ドンバスの2「共和国」の遠心力が強まり、ウクライナ政府軍との武力衝突も小規模ながら発生するようになった。ところが、東部問題に対する国際的関心は次第にさめ、事実上の「凍結」状態になってきた。
②ウクライナ問題が再びホットになった原因
 バイデン政権は対ロ強硬姿勢を取り、ウクライナがロシアと対抗することをそそのかし、ウクライナのNATO加盟を支持すると表明し、同政府に対する軍事援助を強化した。そうした背景のもと、ウクライナ政府はクリミアの武力による「回収」及びロシアによるウクライナ東部への「侵略」を停止させることをしきりに表明するようになった。それと時を同じくして、NATOは黒海における軍事行動を強化し、ウクライナに対する軍事プレゼンスを実現しようとするに至った。ロシアがこれに強硬に反応すると、西側はロシアがウクライナ国境沿いに兵力を展開し、ウクライナに対して軍事行動を取ろうとしていると非難した。
 分析筋によれば、バイデン政権の狙いは、ウクライナというコマを利用してロシアの孤立化と圧力行使を図るとともに、ロ欧関係を挑発して欧州同盟国を引き寄せ、対米軍事依存を強めさせることにある。アメリカ内政という点では、バイデン政権は「ウクライナ・カード」を利用して中間選挙の得点を稼ぐことも意図している。ウクライナ東部で再び大規模な武力衝突が起きれば、ロシアは部外者に留まることはできないし、欧州はアメリカに従って対ロシア制裁に進むほかなく、アメリカは漁夫の利を得ることができる。仮に大規模武力衝突が起こらないとしても、バイデン政権は自らを「平和の担い手」と演出することで影響力を増すことが期待できる、というわけだ。
③緊張激化の導火線
 バイデン政権登場以来、ウクライナの緊張は、2021年4月と同年11月以後の2回にわたってエスカレートし、後者についてはアメリカがウクライナに対する軍事協力を強化したことと直接関係がある。すなわち、8月末から9月初にかけてゼレンスキー大統領が訪米した際に両国間で一連の軍事協力文書が結ばれた。バイデンはウクライナに対して6000万ドルの追加軍事援助を発表した。同年10月にオースティン国防長官がウクライナを訪問し、ウクライナのNATO加盟を力説した。
 ロシアは以上に対して強烈な不満を表明した。ペシュコフ大統領報道官は、アメリカがキエフに軍事援助を提供することで、ウクライナが予測不可能な行動を取る可能性があると述べた。さらに彼は、ウクライナのNATO加盟はNATOの軍事力がロシア国境に近づくことを意味し、ロシアの安全を危うくすると述べた。
 もはやこれ以上の退路がないという認識のもと、ロシアは西側と外交対話を展開し、ウクライナ問題で2つのレッド・ラインを突きつけた。一つは、西側はウクライナをNATOのメンバーにしてはならないこと、もう一つは、西側はウクライナに攻撃型重火器を配備してはならないこと、である。
 ロシアとアメリカ、NATO、CSTOとの間で本年初めに行った対話はこれまでのところ目立った効果を上げていないが、対話の窓口は閉じられてはおらず、関係当事者は引き続き外交ルートを通じて当面の危機をコントロールする意思があるものと受け止められる。
④大規模衝突の可能性
 ウクライナ政府がドンバスの武装勢力に対して大規模な軍事攻勢をかける可能性も、ロシアがウクライナに侵攻する可能性も、ともに低いとみられる。
 まず、ウクライナ軍の軍事力は西側の援助で向上したとは言え、ドンバスで軍事的勝利を収めるまでの能力はまだ備えていないし、ロシがウクライナの軍事行動に反応する可能性もゼロである。
 次に、西側はウクライナの利益を真剣に考えているわけではなく、ロシアを弱体化するための道具にしたいだけであり、アメリカと欧州諸国にウクライナのために冒険する気持ちはない。バイデン政権の対ロシア政策は、ロシアを防遏すると同時にロシアと「安定した予測可能な関係」を構築するということであり、ロシアと軍事激突するとなれば米ロ関係そのものが崩壊してしまう。バイデンは、ロシアがウクライナに「侵攻」すれば「深刻な代価」を支払うことになると勇ましいことを言っているが、軍事行動で直接干渉するとは一度も公言していない。
 第三に、ロシアとしても、仮にさらなる行動を取ればいっそうの制裁措置を招くことになることは慎重に考慮しているだろう。
 とはいうものの、武力衝突の可能性は依然として存在している。ロシアのシンクタンク「ヴァルダイ」国際ディベート・クラブのボルダチェフ主任は、ロシアと西側との安全対話が進展するとしても、ウクライナとドンバスとの軍事行動によって大規模軍事衝突が起こる可能性があると考えている。
⑤今後の地域情勢
 米ロ間の構造的な矛盾は短期間で解消する見込みはないため、ウクライナは今後も双方の争いの最前線となり、情勢はおそらく平静になることはないだろう。中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の趙懐栄研究員の認識は次のとおりだ。アメリカは今後もウクライナとの戦略パートナーシップを強化し、ウクライナがロシアと対抗することを支持するだろう。ロシアがウクライナのNATO加盟をレッド・ラインに設定したため、アメリカはウクライナの「ソフトな加盟」を推進しようとするのではないか。つまり、不断にウクライナの武装を促進してウクライナとNATOの実際上の融合を進めつつ、正式メンバーの資格は与えないことでロシアを過度に刺激することは避けるというものだ。クリミアとドンバスの問題はロシア・ウクライナ関係における、双方が妥協することがあり得ない難題であり、この2つの問題を巡る摩擦が絶えることはない。ロシアとしては、ウクライナの反ロ言動に対しては強硬に対応しつつ、柔軟な外交政策を取ることで逃走と対話の中で利益を確保していこうとするだろう。
○(環球時報社説)
 ハリス副大統領は(2021年)12月26日、現在のウクライナ情勢に鑑み、アメリカは同盟国・友好国と協力してロシアに対して「史上前例のない制裁」を実施することを準備していると述べた。それに先だってアメリカとロシアはウクライナ情勢に関して相互非難を行い、アメリカはロシアの国境地帯での軍事演習はウクライナ「侵入」の前触れの可能性があると公表し、ロシアは自国領土で軍隊を動かすのは当然の権利だと応酬するとともに、NATOの軍事力がウクライナに配備されてはならないと要求した。
 ウクライナを巡る米欧とロシアの対峙はすでに一定の時間を経ている。アメリカの情報機関は、ロシアが明年(2022年)春に「ウクライナを侵攻」する可能性があるとし、一方のプーチンはウクライナにミサイルを配備しようとするNATOの計画を非難し、配備されたら4,5分でモスクワに到達できるとした。双方の応酬は過熱するばかりだ。では、米ロの間で戦争は勃発するのか。世論の普遍的な見方はあり得ないということだ。ワシントンは、コロナ、インフレ、来たる中間選挙等で悩まされており、万難を排してアフガニスタンからようやく撤兵した後でもあり、現在もう一戦構える意思も余力もないからだ。
 しかしアメリカは、ウクライナで緊張した情勢が起こることを推し進めている。本年(2021年)に入ってから、アメリカはB-52、B-1Bを含む様々な戦略爆撃機を黒海に派遣し、11月には戦略爆撃機がロシアに対する模擬核攻撃を行い、ロシア国境から20キロの空域にまで進入するなど、挑発する意図は明々白々だ。このほか、ワシントンは対ロ経済制裁及び東欧への增兵の情報をひっきりなしに流して圧力行使を極限まで推し進めた。アメリカからすれば、ウクライナ情勢が緊張すればするほど、欧州諸国の対米依存はますます深まるし、NATOにとっての共同の敵を作れば同盟諸国の団結にも資するということだ。今回の危険なゲームの最大の受益者はアメリカである。
 このゲームにおける最大の敗者は、混迷し分裂したウクライナである。ワシントンは自分の大国地縁政治上の競争のために、ロシアとウクライナの国境で起こっている事態を「侵略」対「反侵略」のドラマに描き出すという厚化粧を施し、ウクライナをアメリカの欧州におけるチェス・ボード上のコマにしようとしている。ソ連解体から今日まで、ウクライナを含む少なからざる国々でアメリカが支援する「カラー革命」が起こったが、これの国々の命運はほとんどが悲劇的であり、しかもアメリカにはこれらの国々に対して中身のある援助を行う意思も力もない。アメリカはここ数年ウクライナに大量の軍事援助を行ってきたが、それはウクライナを爆薬の包みに縛り付けるだけで、ウクライナが戦う可能性は明確に排除してきた。アメリカの危機製造政策は、ウクライナを地域の「火薬庫」に仕立て上げる可能性が極めて大きい。
 アメリカは信用すべからざる存在である。このことはウクライナにおいて検証できるだけではなく、実はロシアについても同様である。今日のこの紛争の本質は、アメリカがウクライナあるいは欧州のために「正義を伸張する」ということではなく、NATOという道具を利用してロシアの戦略空間を蚕食し、すり減らすことである。冷戦終結後、ロシアはかつて政治路線を改めることを通じてアメリカと西側に受け入れてもらおうとしたことがある。しかし、ロシアにとっての見返りは、アメリカがかつて行った、"統一後のドイツはNATOに留まるが、NATOは東方拡大を行わない"という口約束すら完全に反故にされるという仕打ちだった。過去20年余の間、アメリカはNATOを率いて5波に及ぶ東方拡大を行い、今やロシアがレッド・ラインとするウクライナまでが吸収されようとする勢いである。プーチンは12月23日の年次記者会見の席で、これを「厚顔無恥なペテン」と厳しく批判した。
 紛争、分裂、衝突、対抗を作り出すことを通じて常に優位を占めること、これこそはアメリカが国際関係において一貫して追求してきたことだ。ロシアの門口にミサイルを配置することにしても、中国の沿海地区で「接近偵察」し、あるいは台湾海峡で米艦船が通航することにしても、すべてはワシントンが2つの最大の「敵」と決めつける相手に探りを入れ、隙さえあればクギを打ち込もうとする動きである。アメリカはおそらくロシアあるいは中国と開戦する計画はないだろうが、ロシアと中国の周辺で適度の緊張と混乱を維持することにより、世論という場でロシアと中国に関する「脅威論」を宣伝し、同時に同盟諸国を引っ張って圧力を行使し、ロシアと中国が核心的な利益について譲歩することを迫ろうとしているのだ。
 今日欧州の東部で起こっていることは、中国人にとってとてもためになる授業である。すなわち、アメリカは地域の緊張から漁夫の利を得ようとする対外政策を変更したことは一度としてなく、中国としても、「弱みを見せる」ことを通じて安寧な発展環境を獲得することは不可能であるということだ。中国としては、確固として自分のペースで前進し、それを通じて、「実力と優位的地位」によって中国に圧力をかけるというアメリカの考え方を変えさせるということ、これが大国としての中国がアメリカとの間で身を処する重要な法則である。