第6回 中国共産党の「大国外交」と大国・日本に対する示唆
－梨の木ピース・アカデミー－
長い間、21世紀は平和憲法に立脚する日本の「平和大国外交」の出番であると提言してきた私にとって、習近平の「中国特色大国外交」は興味津々の観察対象です。今回のレジュメを準備する中で、ファイルしてきた中国側の文献をチェックしていて、「なるほど、習近平・中国が目指す「大国外交」とはこういうことか」と納得する文章に出逢うことができました。レジュメでも紹介していますが、もっともさわりの部分を紹介します。
（「中国特色大国外交」：民族性、時代性及び創新性の統一）
18回党大会以来、習近平は天下を以て己の任とし、中華民族復興のチャイナ・ドリームに力を尽くして中国特色大国外交の新局面を創造した。そのポイントは4点である。
第一、台頭大国、新興大国という自己定義及び「地位の自覚」を明確にし、中国外交における、地域及び世界の大国としての利益、権力、抱負、尊厳、威望、責任及びイメージを重んじた。
第二、いわゆる「中国特色」とは主に民族的特色、すなわち、中華民族の優秀な伝統文化の特色・本質・地金を指し、対外的には中華及び王者の風格に体現され、責任及び役割を担う大国である点で西側列強とは異なる東方文明大国であることをいう。
第三、一連の新外交理念を提起、実践する。重点は正しい義利観、合作共嬴、「人類運命共同体」構築等である。
第四、対外戦略における新しい提起、行動、進展、突破である。主に以下を含む。①「一帯一路」提起、②グローバル・ガヴァナンス変革牽引、③「新型大国関係」（中ロ、中米）提起、④周辺及び地域における主動的動きと危機管理（釣魚島、南海、朝鮮核問題等において受け身から主動への転換）
（中国特色外交：「務実王道」の古為今用・返本開新）
習近平はことのほか中華伝統文化を重視し、2017年初にジュネーヴ国連本部ではじめて王道を唱道し、覇道に反対するなど、中国伝統文化の創造的な転化と運用を強調し、中華伝統「戦略文化」は今や治国理政思想の重要な源となっている。
根源的に、中国特色大国外交はどこから来たのか。中華伝統文化から来たと言えるだろう。将来を展望する時、中国特色大国外交はどこに向かうのか。人類運命共同体に向かうだろう。中国特色大国外交の核心理念、一連の提唱、主動的進取的実践は、義利兼顧、德力具足、剛柔幷済、恩威幷施、内外兼修、兼善天下という「務実王道」の返本開新、古為今用、継往開来であり、中国台頭及び平和発展の「文化自信」と戦略定力を体現している。
これは、中国現代国際関係研究院危機管理研究中心主任兼世界政治所副所長の陳向陽という学者の「中国特色大国外交：「務実王道」に対する返本開新」（2017年5月17日付中国網）と題する文章の一節です。以上の記述から私たちが読みとることができるのは、①習近平個人の「大国外交」にかける自負・気概（「天下を以て己の任とし、中華民族復興のチャイナ・ドリームに力を尽くして中国特色大国外交の新局面を創造」）、②中国の特色ある「大国外交」の習近平カラー（「習近平はことのほか中華伝統文化を重視」「中国伝統文化の創造的な転化と運用を強調」）、③「大国主義」と決めつけるのは不適切な自己認識・定義に発する「大国外交」であること（「台頭大国、新興大国という自己定義及び「地位の自覚」」）、④「大国主義」とは無縁の外交理念（「正しい義利観、合作共嬴、「人類運命共同体」構築」）、⑤中国伝統思想の今日的発揚・展開（「中国伝統文化の創造的な転化と運用」「義利兼顧、德力具足、剛柔幷済、恩威幷施、内外兼修、兼善天下という「務実王道」の返本開新、古為今用、継往開来」）、⑥習近平・中国が目指すのは「平和大国外交」であること（「中国台頭及び平和発展の「文化自信」と戦略定力を体現」「人類運命共同体に向かう」）などです。
ちなみに、中国の一学者の文章を額面どおりに受け止めるのは単純すぎるという批判があり得ることは十分承知しています。しかし、私は恣意的に陳向陽の文章を取りだしたわけではありません。私が中国側の様々な文献に接した上で、陳向陽の指摘は「中国特色大国外交」に関する中国側考え方のもっとも凝縮された内容を表していると受け止めた上で、この文章を紹介しています。
以上に要約される「中国特色大国外交」と日本外交とを対比して考えるのは以下のことです。
第一、「天下を以て己の任とする」自負・気概を持つ政治家が今の日本にいるだろうか。答はあまりにも明白。
第二、中華伝統政治思想文化に比してあまりに貧弱な日本伝統政治思想。しかし、幸いにも私たちは日本憲法（前文＋9条）という世界に誇りうる政治思想を持っており、日本はよい意味で中国の「平和大国外交」に十分に太刀打ちできる。
第三、冷静な自己認識・定義に基礎を置かない政府・自民党の「大国外交」は「大国主義外交」、アメリカべったり・アメリカ追随に堕するほかはないこと。
今回のレジュメを以下に添付します。↓