1月12日付の環球時報は、中国社会科学院日本研究所助理研究員(アシスタント・リサーチャー)の孟明銘署名文章「日中関係レッドラインに頻繁に踏み込む安倍(晋三)とその背後関係」(中国語:"安倍屡触日中关系红线背后")を掲載しています。安倍が親米反中の言動を強めるのは岸田首相の動きを牽制するためであり、その背後には「安倍離れ」を志す岸田と安倍との間の確執があるとする分析で、その内容に格別の新味があるわけではありません。しかし、日豪首脳会談や日米2+2でバイデン政権の対中政策への傾斜を強める岸田首相に対する中国側の批判が全体的に強まる流れの中で、日中国交正常化50周年の本年に日中関係の打開の可能性を考える立場から岸田首相は「それでもまだ外交上のボトム・ラインを維持して可能性を残している」(中国語:"尚能守住外交底线,留有余地")とする好意的な見方の文章を環球時報が掲載したという点で、無視するわけにはいかないと思います。
 今朝(1月13日)のNHKニュース(おはよう日本)で、岸田首相の施政方針演説の内容が判明したと報じ、その中で岸田首相が日中関係に関して、「(正常化50年を念頭に)建設的安定的な関係の構築を目指す」と述べることを紹介していました。対米のめり込みが際立っている岸田首相ですから、「成算あっての発言」とは考えにくいですが、日中関係正常化を心から願うものとしては、岸田首相が宏池会のよき伝統に立ち戻り、一念発起の大勝負に出るというわずかな可能性に「首の皮一枚」の期待を捨てきることはできません。主観的願望を込めて、岸田首相に期待をつなごうとする孟明銘署名文章(要旨)を紹介するゆえんです。

 安倍の中国に関する言動は本質的に、日本の統治集団の国際情勢に対する誤った判断を代表している。すなわち、いわゆる「中国の脅威」に対してより強硬な対応措置を取ることで、対中政策の方向性を調整して「聯米制華」を主動的に推進し、中国の復興プロセスを阻止し停滞させようとするものだ。ただし、日本の国内政治の角度から見る時、安倍と岸田首相との間の葛藤と衝突が安倍をして進んで発言させる重要な原因にもなっている。
 岸田は「宏池会」領袖として、安倍の傀儡としての役割をこれまでのように続けることは望んでおらず、自らの治国経綸を実行したいという志を持っている。2021年の衆議院総選挙で岸田が率いた自民党が絶対多数の議席を守ったことは主流メディにとって大きな驚きだった。日本民衆も新政府に一定の期待を持っており、世論支持率はこれまで緩やかに上昇を続けている。こうした外部要因は岸田の自信と主体性を強め、表面では安倍に恭順の意を示しつつも、密かに安倍との距離を置こうとする動きにつながっている。昨年12月、「森友学園」事件における安倍のデータ改ざんによって自殺に追い込まれた財務省の赤木俊夫の死亡について、岸田は日本政府に責任があると公言し、関係部門に対して国家賠償を担当させることとした。安倍の醜聞をどう処理するかは、岸田が安倍との闘いにおける有力な牽制材料となるだろう。
 岸田の自主性の強まりは、日本政界で常に中心にいたいとする安倍にとっては脅威と映じ、したがって一連の岸田掣肘行動を取ることにつながっている。両者の闘いは強烈ではなく抑制されているものの、「うわべと中身は違う」流れはすでに明らかになってきている。対中関係での「聯米制華」については日本政治のエリート層の間で基本的な共通認識が出来上がっているとは言え、その前提のもとでどのように日中関係を処理するかを巡っては、安倍と岸田の間の違いは明らかである。安倍、高市早苗を代表とする保守右翼層は日本政府がアメリカに忠誠を誓い、対中挑発に乗り出すことをいとわない。しかし、岸田の「宏池会」系のホンネは「経済重視の平和路線」で知られ、中国とは安定した関係を築きたいと考えており、政治手法もバランスを重んじ、極端を嫌う。岸田に近い茂木、福田等も日中関係及び日本の国益に関して冷静な認識を持ち、対中では慎重を主張し、自民党内右翼グループの反中の動きには批判的だ。
以上の背景事情を綜合すると、最近の安倍の中国問題に関する一線を越えた言動には次のような考慮が働いていることを見て取ることは難しいことではない。第一、日本の名の知られた政治家として中日間の敏感な分野で「地雷を埋め」て緊張した情勢を作り出し、その既成事実で岸田が政治的に動けるスペースを狭めることで外交的主導権を奪いあげること。第二、日本の政策決定層の中国抑え込みという共通認識と反中嫌中の世論の雰囲気を利用して政治的な管制高地を制圧し、岸田等に妥協退却を迫り、自らの政治的地位をひけらかすこと。第三、「反中愛国」の旗印で日本の保守右翼勢力を自らの元に糾合し、自らの発言力と影響力を強化すること。第四、自らとアメリカとの親近さを誇示し、岸田が焦って日米関係について「教えを請い」、「協力を求める」ように仕向けること。現在、安倍などの「聯米制華」戦略が「大勢」を占めているために、岸田は中国関係での立場が後退し、消極的な発言が増えているが、それでもまだ外交上のボトム・ラインを維持して可能性を残している。
 2022年は中日国交正常化50周年である。しかし、両国関係に負の影響を及ぼすエネルギーは蓄積している。日本におけるコロナの再流行及び7月の参議院選挙に伴い、日本の国内の政争は再び激化し、中日関係は新たな試練に直面する可能性がある。我々としては、安倍以下の保守右翼勢力が政治的私利のために日本社会で新たな、より踏み込んだ戦略的判断の誤りを行うことによって地域の平和と安全に害を及ぼさないことを願う。また我々は、日本政治のエリートが実務的な姿勢で中日関係者間の対話に臨み、交流の中でデマを一掃し、疑いを解き、新時代の要求に見合った中日関係構築推進に努力することを期待している。