中共中央台湾弁公室と国務院台湾事務弁公室が管理する中国台湾網が12月31日、台湾の雑誌『遠見』が発表した台湾における世論調査結果について報道していました。「中国大陸が台湾に対して軍事行動を取った場合にどう反応するか」という設問に対して、20~29才の年齢の者の実に70.2%が「戦場に行きたくない」と答え、アメリカがどう対応するかという質問に対しては「台湾と共に戦う」と答えたのはわずか10%だった、という点を強調する内容の報道でした。極めて興味をそそられたのでネットを検索したところ、12月28日付で同誌が「2022年最新民心動向調査:44%は経済に信頼、過半数は戦場に行くつもりなし」というタイトルで、11月25日から12月9日にかけて世論調査を行った結果を発表したことを確認しました。中国台湾網が報道した内容には間違いがないことも確認しました。
 しかし、中国台湾網が紹介した内容は世論調査結果のほんの一部であり、『遠見』が行った世論調査結果は台湾の民意の所在を知る上で参考になる数字をほかにも数多く示しています。皆さんにも参考になると思いますので、『遠見』雑誌の内容をかいつまんで紹介します。

<観察1> 6人の政治人物の好感度
 侯勇宜(国民党、新北市長)、賴清德(民進党、「副総統」)、鄭分燦(民進党、桃園市長)、蔡英文、柯文哲(台湾民衆党、台北市長)、朱立倫(国民党)、以上6人の政治家に対する好感度は、今回の調査では、侯勇宜(2021年2月:7.16%→2021年12月:6.69%)、賴清德(6.24%→5.79%)、鄭分燦(6.70%→5.66%)、蔡英文(6.33%→5.57%)、柯文哲(5.69%→5.24%)、朱立倫(5.77%→4.64%)の順番でした。『遠見』は、①全員が好感度を下げていること、②下げ幅が最も低いのは賴清德と柯文哲の0.45ポイント、その次が侯勇宜の0.47ポイント、朱立倫、鄭分燦及び蔡英文の下げ幅がもっとも大きいことを指摘した上で、民進党と国民党との対立が激化している中、いずれの党も中間層を引きつけられずにいること、そのことは台湾の選挙民が理性さを増しており、政党の働きかけに左右されなくなっていることを示している、と分析しています。
<観察2> 2022年台湾経済に関する見方
 2022年の台湾経済がどうなるかに関しては、44.4%が楽観的、特に20~39才のグループがそうであり、37.2%が悲観的で、その傾向は特に50~59才のグループに著しいという結果でした。2022年は選挙年でもあって意見が分かれたが、総じて慎重的楽観と言えると、『遠見』は分析しています。
<観察3> コロナ収束後に行きたい国
 コロナ収束後に、仕事、投資、就学、観光等で行きたい国としては、中国大陸12.6%、アメリカ12.1%、東南アジア11.2%、東北アジア9.4%、欧州8.0%、NZ・オーストラリア7.2%の順でした(観光旅行先としては、日本49.8%、中国大陸6.9%、アメリカ4.6%です)。ただし、往年の調査結果と比べると、中国大陸は34.4%(2018年)→18.2%(2019年)→12.6%(2021年)と落ち込みが激しいと、『遠見』は指摘し、これは米中対立の激化を反映していると判断しています。ただし、私自身の印象としては、"今のような厳しい状況の下でもなお中国大陸が1位を占めていることの方が驚き"でした。
<観察4> 両岸関係に対する見方
 まず、両岸は交流を進めるべきかどうかについては、増やすべきだ60.1%、減らすべきだ26.9%でした。ただし、2021年5月の調査と比較すると、増やすべきだが8.5ポイント減ったのに対して、減らすべきだは6.1ポイント増えたそうです。『遠見』は、「多数の者が引き続き両岸交流は停滞すべきではないとしており、「親米」であるとしても「和中」ということだ」と分析しています。私の個人的感想も同じで、60%以上が交流を進めるべきだと答えていることに驚きました。
 次に、中国大陸に対する印象に関する質問に対しては、32.3%が相変わらずプラスに見ていると答えたのに対して、54.4%が悪い方に変わったと答えました。2018年12月の時は、大陸に対する見方が良い方に変わったもの59.7%に対して良くないと答えたものはわずか28.4%だったことと比べると、印象の悪化は否めないというのが『遠見』の判断です。
 中国大陸との関係をどう見ているかに関しては、競争相手と見るもの41%、商売相手とするものが25.2%、友人と見るもの10.8%、他人とするもの10.5%、敵とするもの2.8%でした。アメリカに対してはそれぞれ、5.9%、60.2%、16.4%、4.2%、4.7%です。この結果について『遠見』は、両岸の交流が減ったことに加え、アメリカの対中・対台政策が以上の結果を招いていると分析しています。
<観察5> 両岸の戦争に関する見方
 まず、開戦に対する民進党当局の準備状況に関しては、52.1%の人が準備できていないと答え、準備できていると答えたものはわずか35.2%でした。国民党支持者では74.8%が準備できていないとし、政治的中立のものでも58.7%にも達しています。民進党支持者は62%が準備できているとしました。
 次に、戦争が発生したら、自らあるいは家の者が戦場に行くことを希望するかという問に対しては、全体としては51.3%がノーと答え、イエスと答えたものは40.3%でした。女性は61.2%がノー、男性は50.7%がイエスでした。年齢別では、20~29才の70.2%がノー、イエスが一番多かったのは30~39才の47.9%でした。政党別では、国民党支持者の70.8%がノー、中立ではノーが58.6%の高率だったのに対して、民進党支持者は62.4%がイエスと答えました。
 開戦結果はどうなるかに関しては、「双方が協議して休戦成立」(中国語:"雙方協議和談")42.8%、中国大陸が速やかに勝利13.3%、中国大陸が最終的に勝利13.3%でした。『遠見』が注意を勧奨しているのは、中国大陸が速やかに勝利と答えたものは2020年9月当時より5.6ポイントも増えていることであり、「台湾の人々の焦りが募っている」と分析しています。
 開戦した時にどの国が援助を提供するかについては、アメリカ(2020年9月:57.5%→2021年12月:62.9%)、日本(45.9%→57.5%)、オーストラリア(1.3%→6.8%)、韓国(4.3%→5.6%)、すべてが与える(3.4%→3.5%)、どこも与えない(21.5%→16.3%)、その他(13.1%→14.7%)でした。私個人の印象ですが、安倍晋三氏等の妄言は明らかに台湾に「届いている」ことを示しています。
 アメリカはいかなる形で援助するかに関しては、武器売却33.7%、軍艦巡航19.8%、口頭または書面での大陸批判13.0%、台湾との共同作戦10.2%、設備提供9.0%、援助せず1.6%等でした。国民党支持者では武器売却45.2%、口頭または書面での批判20.4%であるのに対して、民進党支持者では軍艦巡航29.6%、共同作戦18.6%でした。
 以上の結果について『遠見』は以下のように結論しています。「当局の戦争準備に対して人々の信頼感はどちらかといえば低く、しかも多くの人々は戦場に行きたくないということであり、人々には自分で自分を守るという決意があるとは言いがたい。自分は戦場に行きたくないが、アメリカと日本は援助を提供するだろうと考えているということであるとすれば根本的な問題が出てくる。つまり、人々が自分の「国家」を守り、生活を犠牲にする気持ちがないのに、何故にアメリカや日本は台湾のために血を流す必要があるのか、という問いだ。世論調査結果が突出しているのは次のことだ。すなわち、当局は戦争対応の準備をするべきであり、民衆は自分の生活を守るために決心するべきであり、ひたすら米日等の援助に頼っているのではいけない。」
 最後の結論を見ると、『遠見』は戦争勃発をあたかも前提にしているかのようで、私にはまったく納得がいかないと言わざるを得ません。むしろ、台湾の人々が、現在のような客観的緊張状態のもとでも中国大陸に対するプラス的見方をしていることの方がはるかに重要であり、戦争を回避する方向での努力、すなわち民進党当局の大陸に対する対決姿勢・政策を改めさせることを最優先するべきだ、と思います。それが今回の世論調査結果の正しい読み方だと確信します。