12月16日、中国の孔鉉佑駐日大使は共同通信社、放送協議会の会合でスピーチを行い、日中関係が直面している問題に即して、今後の日中関係のあり方に関する中国側の考え及び日本への期待を披瀝しました。①イデオロギー、価値観の違いを適切に処理して相互尊重、求同存異を、②互いに脅威とならないという共通認識に基づいて合作共嬴を、③互いのこれまでの約束を守って日中関係の政治的基礎の擁護を、と訴え、さらに台湾問題に関する「少数の政治屋」(浅井:いうまでもなく、安倍晋三氏、高市早苗氏等を指している)の過激な発言に惑わされず、「一つの中国」原則は日中関係正常化実現の前提であり、かつ、日本が中国に行った厳粛な約束であることを踏まえて、台湾問題で日中関係の大局を誤ることがないようにクギを刺すものです。私がこのコラムでくり返し強調している内容とぴったり符合しています。
 ネットで検索する限り、孔大使スピーチの全文は、共同通信を含めまだ紹介されていません。中国大使館のHPでは日本語訳が全文紹介されていました。中国側の問題意識の所在を確認することができるものですので、中国大使館HPに載っている日本語訳を紹介します(中国語原文に即して一部修正しました)。ただし、スピーチの後半部分は「宣伝臭」が強いので割愛します。

  去る1年間を振り返ると、中日関係の一番のビッグニュースは、日本の政権交代直後の習近平主席と岸田首相の電話会談と思います。両国指導者は国交正常化50周年を契機に、新しい時代の要請に合致した中日関係を構築することで一致し、両国関係の進むべき方向性を明確にしました。同時に、中日関係の情勢は依然として複雑かつ厳しく、古い問題と新しい問題が絡み合い、外部の妨害要因に直面しており、「進まざれば、すなわち退く」岐路に立たされています。そのような背景のもと、私たちは国交正常化50周年という重要な節目を迎えようとしています。双方はこれを契機として、両国関係の過去の経験と示唆を汲み取り、現在直面している問題を如何に適切に処理するかを考え、両国関係の将来の方向性を正確に把握するべきだと考えます。
 第一、相互尊重を堅持し、小異を残して大同につく精神でイデオロギーと価値観の違いを処理すること。50年前の冷戦時代、中日は真っ向から対立する陣営に属し、お互いの相違する部分は今よりはるかに大きいものがありました。にもかかわらず、先輩政治家たちは、政治体制や社会制度、イデオロギーにおける異を残しつつ、中日平和、友好、協力という大同につき、国交正常化の戦略的決断を下して、両国を敵対から和解へと導き、アジアと世界の平和と発展に重要な貢献を行いました。この事実が証明したように、イデオロギーや価値観の違いは国同士の付き合いの障害にはならないし、ましてや対立や対抗の理由になってはなりません。
 50年後の今日、冷戦時代の幕は引かれましたが、イデオロギーの対立や国家間の対抗を煽り立てる冷戦的思考はなお消えていません。中米対立が激化し、米国が対中イデオロギー攻勢を強める中、中日間のイデオロギーや価値観の違いが人為的に際立たされるようになりました。日本の一部の人が偏見に基づき、中国の政治制度・道を攻撃し、新疆、香港のいわゆる人権問題のデマやウソを喧伝し、ひいては北京冬季五輪に対する「外交ボイコット」という政治的パフォーマンスを鼓吹しています。日本側には、両国関係の大局に衝撃やダメージを与えないよう、この危険な逆流を強く警戒し、阻止してほしいと願っています。また、日本側にはスポーツの政治化に明確に反対し、中国が東京五輪を支持したことに善意でもって応えることを希望します。
 第二、「中日両国が互いにパートナーであり、互いに脅威とならない」という政治的コンセンサスを履行し、協力・ウィンウィン(中国語:'合作共嬴')という正しい方向性を把握すること。国交正常化以来、中日関係は量的にも質的にも飛躍的に発展し、両国のそれぞれの発展を力強く後押しし、両国民にも大きな利益をもたらしました。中国の改革開放は日本から多大な支援をいただき、中国の発展も日本側に大きなチャンスを与えました。コロナ禍が続く今年も中日の二国間貿易額は3,800億ドルに達し、記録を大幅に更新する見込みです。中国は14年連続で日本最大の貿易相手国となり、対中貿易は輸出入ともに日本の対外貿易の20%以上を占め、3万社以上の日本企業が中国で事業を展開しています。このように密接に依存しあう中日両国は互恵、協力で発展を支え合うことは理の当然であり、良き友人やパートナーにならない理由がどこにあるでしょうか?
 しかし、日本国内では常に様々な「中国脅威論」が出てきています。日本メディアの中国関連報道では、「念頭」と「牽制」という2つの言葉が頻繁に登場し、あたかも日本側の一挙一動はすべて、中国を阻止し、封じ込めることが目的であるかのようです。中日の利益が最も密接な経済分野でも、昔日と比べて協力を呼び掛ける声は少なくなり、代わりに「経済安保」を強化する声が増え、双方の経済面での相互補完や依存をサプライチェーン上のリスクと見なし、正常な経済・貿易・科学技術協力にも干渉や制限を加え、さらには中国との「デカップリング」を吹聴する人もいるなど、中国はいつの間にか日本の最大の貿易相手国から最大の経済的脅威に変わったかの如くです。中米対立という背景のもと、アメリカの対中圧力・抑え込みに対して、日本の一部の人は、日本自身の利益が何であるかについて考えもせず、アメリカの対中抑圧に何事であれ同調しようとしています。このままだと、日本の対中政策は迷走し、中日関係の健全で安定した発展は難しくなるでしょう。
 中国は果たして日本の脅威なのでしょうか。中日はパートナーになるのか、それともライバルになるのか。これは日本側が明確に答えなければならない根本的問題です。中国の対日政策は一貫して明確であり、日本をライバルや敵として扱ったことは未だかつてなく、常に中日の平和友好、協力ウィンウィンを主張してきました。日本側にも、不要な猜疑や誤解をやめ、客観的かつ理性的な対中認識を確立し、前向きで友好的な対中政策を実行し、自信を持って開かれた姿勢で対中協力を推進すると同時に、戦略的バランスと自主性を維持し、外部からの干渉を排除し、中日関係を正しい軌道に沿って安定的に推進することを希望します。
 第三、信義と約束を守り、両国関係の政治的基盤を守ること。近隣国である中日に矛盾や相違が存在するのは当たり前のことであり、要はそれを適切にマネージし、激化させず、中日関係の大局に支障をきたさないようにすることが大切です。国交正常化以降、双方は4つの政治文書に合意し、歴史や台湾などの重大な問題を取り扱うルールを定め、内政不干渉などの重要原則を確認しました。数年前、双方は海洋に関わる問題などの敏感問題を巡って、4項目の原則てきコンセンサスを得ました。これらのルール、原則、合意がある以上、それらに反して、枠からはみ出たり、一線を越えたりすることを絶対しないよう、約束を守るべきです。こうして初めて中日関係が安定して持続的に発展できるのであり、さもなければ大変なことになることは、繰り返し証明されています。
 台湾問題についても若干お話したいと思います。このところ、日本側のマイナスな動きが目立ちます。一部の政治屋が「台湾有事は日本有事」と公然と主張し、台湾海峡情勢への介入を煽るなど、過激な発言を繰り返しています。これは、中国の主権に対する意図的な挑発であり、中国は絶対に受け入れられません。現在の両岸関係の緊張の根本的原因は、台湾当局が「台湾独立」路線を頑なに進めていることにあります。また、少数の国々は「台湾独立」勢力との結託を強め、公然とあるいは隠れてそそのかし、支持しており、同じく責任を逃れることはできません。その因果関係を明確にしなければなりません。我々は最大限の誠意と努力でもって、両岸の平和的統一を実現したいと考えていますが、「台湾独立」分裂活動や外部勢力の干渉に対しては、もちろん断固として対応します。中国人民が国家主権と領土を守る堅強な決意、確固たる意志と強大な能力を、誰もが過小評価しないことです。
 中日関係の歴史を知る人であれば、一つの中国原則が中日国交正常化実現の前提であり、日本が中国に対して行った厳粛なコミッであることをよく知っているはずです。台湾問題は、中日関係の政治基礎及び中日両国間の基本信義に関わる最も敏感な問題であり、一歩間違えれば両国関係に破壊的な影響を及ぼします。日本側が台湾問題の高度な敏感性を十分に認識し、中日間の4つの政治文書の諸原則とこれまでの約束をしっかりと遵守し、台湾問題での言行に慎み、挑発やトラブルを止め、「台湾独立」勢力に誤ったシグナルを送らず、実際の行動で中日関係の大局を守ることを希望します。