12月2日のコラムで紹介した安倍晋三「妄言」に対する中国の厳しい反応、特に、中国外交部の華春塋部長助理が垂秀夫大使を深夜に呼びつけて抗議表明したことに関しては、12月3日付の人民日報も取り上げて報道し、中国側の深刻な問題意識の所在を反映しました。12月2日16時36分に環球時報WSは、「安倍妄言(「台湾有事」即「日本有事」)は計画的! 岸田政権は事情を知りながら黙認、とする専門家」(中国語タイトル:"安倍妄言"台湾有事"即"日本有事"或早有预谋!专家:岸田政权不排除知情且默许")を掲載し、翌3日7時31分にはこの記事に若干の新しい内容をつけ加えて、「中国、深夜に日本大使を召喚して「厳正申し入れ」 植民の旧夢、台湾を「裏庭」と見なす一部日本人」(中国語タイトル:"中方深夜召见日本大使"严正交涉",专家:日本一些人沉溺在殖民旧梦中,将台湾看作"自家后院"")とタイトルを変えて再度掲載しました。紙面に載ったのは後の記事だと思われます。タイトルを変更したのは、岸田政権の名指しを取りやめるという「配慮」によるものだと思われますが、本文では、「岸田黙認?」というサブタイトルをつけて、岸田首相の関与の可能性を指摘する上海外国語大学日本研究センターの廉徳瑰主任等の発言を再び紹介しており、"岸田政権に対する不信感を表す"基調はまったく変化ありません。
 私は、岸田首相が対中国政策を根本から見直すことを「緊急提言」し(9月30日)、中国側が岸田首相に期待を寄せている兆候が看取できることを紹介(10月10日)しました。しかし、岸田首相のその後の言動に対しては、コラムでの紹介はしてきませんでしたが、中国側が神経を研ぎ澄ませてフォローしていることも観察してきました。岸田首相に対する中国側の「疑心」は、安倍「妄言」が安倍・岸田会談の直後であったことで、華春塋による「正式抗議」へとエスカレートしたことを、上記環球時報の報道は、「専門家意見」という形を取りながら、明確に伝えています。
中国とりわけ習近平が、「宏池会」の岸田首相登場をチャンスと見なし、2022年の国交正常化50周年という歴史的節目に21世紀日中関係を規律する歴史的文書(国交正常化共同声明、日中平和友好条約等に続く第5の日中関係基本文書)を作りたいと考えているという私の基本判断に変わりはありません。しかし、安倍「妄言」に岸田首相が自らかかわり、事前に了承していたとする中国「専門家」の判断は中国党・政府も共有していると思います。岸田首相が今後も姑息な言動に終始するならば、中国が堪忍袋の緒を切ることは「時間の問題」だと思います。「岸田首相よ、目をいい加減に覚ませ! 事態の深刻さを認識せよ!! 喝!!!」 岸田首相に関係する部分の環球時報の報道内容を紹介するゆえんです。

○多くの日本問題専門家は、環球時報記者の取材に対して、日本の前の指導者による中国関連の間違った発言について、華春塋部長助理が日本大使を深夜に召喚して厳重な申し入れを行うというのは極めてまれである、岸田政権はこのこと(安倍「妄言」)についてあらかじめ知った上で黙認したに違いないことを示す形跡があると述べた。環球時報記者も関連ルートを通じて、今回の安倍の言動は早くから予兆があり、岸田政権が「中国脅威論」を入念に設計し、中国を挑発する外交的布石と密接につながっていることを知るに至った。
○分析筋によれば、中国政府は中日関係を含むあらゆる国々との関係を重視しており、駐在国大使を召喚するというケースはあまり例を見ないという。本年4月、呉江浩部長助理が垂大使を召喚し、日本政府が海洋放出の形で福島原発汚染水を処理する決定を行ったことに厳正な申し入れを行った。今回は、日本の前の指導者の中国関連の間違った発言に関して日本大使を呼び出したということで、このようなことはさらにまれに見るケースである。
○廉徳瑰は記者のインタビューに次のように述べた。今回の間違った発言は、安倍晋三の「発言」を取る形で、最近頻繁に「台湾カード」を切っているアメリカに格好をつけた(中国語:'交代')ものだ。しかも、日本メディアの報道によれば、安倍晋三は11月30日に岸田を首相官邸に訪れ、約20分間会談している。その翌日、安倍は台湾側でのオンライン活動に参加してくだんの発言を行った。様々な形跡が示すように、岸田政権はこのことを知った上で黙認したに違いない。
○中国国際問題研究院アジア太平洋研究所の特任研究員の項昊宇は次のように述べた。安倍の発言は極めて悪辣な挑発行動であり、対外的に極めて危険なシグナルを発出したものだ。まず、彼の身分は特別であり、前首相である彼は台湾問題の敏感性と日本のこの問題に関する政策を知悉した上でなお、日本政府の基本的立場に公然と違反する発言を行ったのであり、確信犯として極めてたちが悪い。次に、安倍発言は台湾当局に対して誤ったシグナルを発出しただけでなく、日本国内及び国際社会に対しても「日本は台湾問題に軍事介入するべきだ」という危険な情報を発したものだ。その結果、「台独」勢力の勢いを助長し、島内の情勢判断を誤らせる可能性があるのみならず、中日関係そして日本自身の安全をも危険な境地におくことになる。
 項昊宇はさらに次のように述べた。台湾問題は中国の内政であり、日本が介入にこだわれば、最終的に火を招いて焼身するだけである。日本の責任ある政治家(浅井:岸田と読み替えよう)は情勢を正確に認識し、台湾海峡の安定に資することをすることに心がけるべきであり、人為的に対立を煽り、対決を作り出すべきではない。
○安倍晋三の影は菅政権にも一貫してみられたが、岸田政権にも引き続いている。この分析には早くから裏付けがある。清華大学日本研究所の劉江永教授は、次のように述べた。今見るところ、岸田政権は安倍晋三の影響から抜け出していない。注意すべきは、岸田はかつて安倍政権で5年間外相を務めており、安倍政権の政策決定者の一人であり、したがって、岸田が安倍に「追随」していると簡単に言うことはできず、彼自身が安倍の政策の重要な参画者だったということだ。
項昊宇も次のように述べた。安倍は右翼政治屋として台湾海峡の緊張を煽り、改憲に勢いをつけようとしている。岸田も、速やかに改憲したいという希望を表明している。今回の総選挙で改憲勢力は2/3を越える議席を占め、改憲手続を発動するに足りている。