9月10日の米中首脳電話会談と同じくアメリカのイニシアティヴで行われた11月16日(ワシントン時間15日夕刻)の米中首脳オンライン会談は、3時間半に及ぶもので、突っ込んだ意見交換が交わされました。内外政策に行き詰まりが顕著で、バイデン大統領に対する支持率が41%の最低を記録する状況の下で、バイデン政権としては対中強硬政策一本やりの従来の方針の見直し・転換を迫られていることは明らかです。中国側としては、現在の険悪な米中関係はひとえにアメリカ側(トランプ及びバイデン両政権)の「けんか腰」の対中政策によって引き起こされたものであり、中国としてはもともとアメリカとの良好な関係発展を望んできたわけですから、バイデン政権が対中政策の見直し・転換の必要を認識するに至ったことは歓迎すべき変化であり、今回の首脳会談にできる限りの積極的姿勢で臨んだのは当然と言えます。唯一、中国がアメリカに絶対に譲歩の余地なしと引導を渡したのは台湾問題であり、習近平が直接バイデンに対して、「レッドラインを突破するならば、中国は断固とした措置(浅井:軍事行動)を取らざるを得なくなる」と明言したことを中国外交部発表文が公開したのははじめてのことです。バイデン政権にとっては、「喉元に匕首を突きつけられた」と言っても過言ではないと思います。これからのバイデン政権の台湾問題に関する言動を注目する必要がある所以です(注)。
(注)ただし、11月17日付のロシアのタス通信ワシントン電は、首脳会談は台湾問題で何か進展があったかという記者の質問に対して、バイデンが次のような「意味不明」発言をしていることを伝えており、これが虚勢発言なのか、それとも、習近平発言の重大さを相変わらず認識していないのかは不明です。

 ジャーナリストの質問に対して、バイデンは「我々は台湾関係法を支持すると明確にした、ということだ("We made very clear we support the Taiwan Act and that's it.")」と述べた。彼は、「それ(台湾)は独立だ。自らの決定をする。("It's independent. It makes its own decisions,")」と述べた。…バイデンは、アメリカは台湾に関する政策を変更しないと説明した。彼は、「我々は政策を変えるつもりはまったくない("We're not going to change our policy at all,")」と述べた。「私は、我々ではなく彼ら(中台)が台湾について決めなければならないと言った。我々は独立を奨励していない。我々は、台湾関係法が求めていることそのものをするように彼らに奨励している。それが我々のやっていることだ。決めるのは彼らだ("I said they have to decide on Taiwan, not us. We are not encouraging independence. We're encouraging them to do exactly what the Taiwan Act requires. That's what we're doing. Let them make up their mind.")。」

1.米中の公式発表

(アメリカ)
 アメリカ側の発表文(Readout of President Biden's Virtual Meeting with President Xi Jinping of the People's Republic of China)の内容は11月17日付の朝日新聞が正確に要約しています。以下のとおり。
「両首脳は、複雑な状態にある米中関係と、二国間の競争を責任をもって管理することの重要性について議論した。
 大統領は、米国が引き続き自国の利益と価値観のために立ち上がり、同盟国やパートナーとともに21世紀の自由で開かれた公正な国際システムを推進していくルールを確認することを強調した。
 大統領は、新疆ウイグル自治区、チベット、香港における中国の活動や、より広範な人権問題に懸念を示した。大統領は、中国の不公平な貿易・経済活動から米国の労働者や産業を守る必要性を明確に述べた。また、自由で開かれたインド太平洋の重要性についても言及し、この地域に関与し続けるとの米国の継続的な決意を伝えた。大統領は、この地域の繁栄には、航行の自由と上空航行の安全が重要だと繰り返した。大統領は台湾について、米国は台湾関係法と三つの共同コミュニケ、そして六つの保証に基づき「一つの中国」政策に引き続き関与していることを強調し、一方的な現状の変更や台湾海峡の平和と安定を損なう試みに強く反対すると強調した。
 大統領は、戦略的リスクを管理することの重要性を強調した。大統領は、競争が衝突へと発展しないようにするための常識的なガードレールと、意思疎通の回線を常にオープンにしておくことの必要性を述べた。両国の関心が交わる具体的な課題として、健康安全保障を挙げた。特に、両首脳は、気候変動の危機が世界の存亡の危機にあることと、米国と中国が果たす重要な役割について議論した。また、世界のエネルギー供給問題に対処することの重要性についても議論した。両首脳はまた、北朝鮮、アフガニスタン、イランなど、地域の重要な課題について意見を交換した。」
(中国)
 中国の発表文(中国外交部WS)は長文ですが、会談当日(11月16日)に外交部の謝鋒次官が記者会見で首脳会談についてメディアとのインタビューで行った会談内容の紹介がまとまっており、的確です。謝鋒は、今回の会談の内容は「3421」と概括できるとした上で、次のように紹介しました。
「習近平は中米関係発展に関して「3つの原則」と「4分野の優先事項」を提起し、両首脳は「2つの原則共識」を達成し、習近平はさらに「1つの重要問題」について突っ込んだ対米工作を行った。
 3つの原則。習近平は会談で新時代における中米の正しい関係のあり方を明確にした。すなわち、3つの原則を堅持するということだ。
第一は相互尊重。互いの社会制度と発展の道を尊重し、相手の核心利益と重大関心を尊重し、それぞれの発展権利を尊重し、平等に相対し、違いをコントロールし、求同存異する。
第二は平和共存。衝突せず対抗しないことは、堅守しなければならない最低線だ。
第三は合作共嬴。中米の利益は深く交融している。地球は中米各自及び共同発展を受け入れるのに十分な大きさがある。互利互恵を堅持し、ゼロサムの争いをせず、勝ち負けを競わない。
 4分野の優先事項。習近平は4つの分野の優先事項を中米が力を入れて推進するべきだと述べた。
第一は、大国としての責任を担い、突出した挑戦に対応するべく国際社会を牽引すること。中米協力は万能ではないかもしれないが、中米協力なしにはすべてが不可能である。中国が提起したグローバル・イニシアティヴはアメリカにも開放しており、アメリカにも同様のことを希望する。
第二は、平等互利の精神に基づき、各レベル・領域での交流を推進し、中米関係により多くのエネルギーを注入すること。両国首脳は、会談、通信、電話等様々な方式で密接な連携を保ち、中米関係の導き手となるべきだ。中米は多くの分野で共通の利益を有しており、互通有無、取長補短によって合作の「ケーキ」を大きくするべきだ。中米は、両国の外交安全、経貿財金、気候変動グループの対話のチャンネルとメカニズムを活用して、実務協力を推進し、具体的問題を解決するべきだ。
第三は、違いと敏感問題を建設的にコントロールし、中米関係の脱線と制御不能を防止すること。中米間に違いが存在するのは自然なことであり、カギは建設的にコントロールし、激化と拡大化を防ぐことだ。主権、安全、発展利益を守る中国の立場は確固不変であり、アメリカは関係問題を慎重に処理する必要がある。
第四は、重大な国際及び地域の問題で協調合作し、世界により多くの公共物を提供すること。天下は必ずしも太平ではなく、中米は国際社会とともに、共同して世界平和を守り、グローバルな発展を促進し、公正で合理的な国際秩序を守るべきだ。
 2つの原則共識。
第一は、両国首脳がともに中米関係の重要性を強調していること。…
第二は、両国首脳がともに「新冷戦」に反対し、中米は衝突対抗するべきではないと考えていること。…
 1つの重要問題:台湾問題。
習近平は次のように明確に指摘した。一つの中国原則と中米3共同コミュニケは中米関係の政治的基礎である。歴代米政権はこれについて明确にコミットしてきた。国連総会決議2758にしろ、中米3共同声明にしろ、‥世界には一つの中国があり、台湾は中国の一部であり、中華人民共和国政府は中国を代表する唯一の合法政府である。中国の完全統一は中国人全体の共同願望である。我々は最大の誠意、最大の努力を尽くして平和統一を獲得することを願っている。しかし、仮に「台独」分裂勢力がレッドラインを突破するならば、我々は断固とした措置を取らざるを得ない。中国の主権と領土保全に関係するこの問題については、中国には妥協の余地はない。
 台湾問題について謝鋒より更につけ加えたい。‥一つの中国の含意及び内容については、政治上も法理上も極めて明確であり、中米3共同声明及び国連総会決議2758などの法律的効力を持つ正式な国際協定・文件注に集中的に体現されており、改ざん、歪曲は許されず、ましてや否定は許されない。国連事務局法律局も一連の法律意見の中で、「国連は、中国の一つの省である台湾は独立の地位を有しない」、「台湾当局はいかなる形式の政府たる地位をも持たない」と確認している。中米3共同声明は更に、「アメリカは中国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認し、一つの中国であり、台湾は中国の一部であるという中国の立場を承認する(注)」と墨黒々と記している。
(注)「中国の立場を承認する」は中国語における表現であり、アメリカ側の英文表現は'acknowledge'。
 なお、11月16日(ワシントン現地時間)にブルッキングス研究所で発言したサリバン補佐官は、今回の首脳会談で達成された重要な共通認識の一つは、最高指導者間の経常的定期的な意思疎通を通じて両国関係に方向性を示し、下級レベルに具体的任務を設定することだと表明し、そうすることで「指導者間のインタラクションが双方のハイレベル・対話担当者に対する一連の任務に転化する‥ことを通じて摩擦・衝突の可能性が減少することを確保する」、「様々なレベルにおける接触を強化することで、競争の周りに「ガードレール」を確保し、競争が軌道を逸れて衝突になってしまわないようにする」と説明しました(11月17日付環球時報WS)。

2.中国側評価

 11月18日付(ウェブ掲載は17日18時22分)の環球時報は、今回の米中首脳オンライン会談について「中米緩和 中国はもっと自分のことをやるだけ」と題する社説を掲載して評価を行っています。バイデン政権の対中アプローチに現れた変化を抑制的に評価しつつ、その変化は中国のこれまでの毅然な対応が引き出したものであり、バイデン政権の対中政策における言行不一致、変わりやすさが根本的に改まったわけではなく、中国としてはこれまでどおり自分のことをやっていくという王道を進むことを確認しています。アメリカの発表文を見ても明らかなとおり、バイデン政権の基本的スタンスが変わった兆候はなく、環球時報社説の評価に私も基本的に同感です。社説要旨は次のとおりです。
 (サリバンのブルッキングスでの発言を紹介して)この表明は、アメリカが中国との緊張した関係を緩和したいというアメリカ側の願望を表している。サリバンはアメリカの対中政策に関して4つの点を概説した。すなわち、①米中の利益が一致する緊迫した問題での協力、②両国がかつては協力していたが、今は試練に直面している挑戦についての対応、③直接意思疎通を通じた違い(例:台湾問題)のコントロール、④第一段階の経済貿易協議での未解決問題で、あらゆる手段で中国の「不公正経済慣行」で対抗してきたものの解決。この提起の仕方は、ブリンケンの「協力、競争、対抗」の三分法と似ているようだがスタイルを変えている。
 最近のアメリカは、中米の激烈な競争に加えて、衝突に変化しないための「ガードレール」をしきりに強調するようになっている。中国はアメリカのこの提起の仕方は受け入れがたく、我々の通常の言い方では違いをコントロールするということだ。というのは理由がある。アメリカ側がいう激烈な競争には中国をやっつけ、圧力をかけることを合法化するという意味合いが含まれており、いわゆる「ガードレール」なるものは、アメリカ及び同盟国の利益に立って中国に出してくる一方的な縛りだからだ。違いをコントロールするという際の出発点はより平等であり、双方が義務を担うことを要求するものだ。
 「ガードレール」説の積極的な意義は、中米の過度な力比べや誤った判断がコントロール不能な衝突を生み出すリスクがますます増えており、アメリカ側はこの種のリスクを減らしたいという明確な意思があるという点にある。中米双方は収拾不可能な戦略衝突に陥ることを望んではおらず、そのことが、サミットの成果を実際に貫徹することの緊要性を高めている。
 中米関係について見届けるべきことは、アメリカがすでに中国を戦略的に壁際まで追い詰めているという状況ではないことだ。この状況は、中国がここ数年アメリカに対して全線にわたって効果的な抵抗を行い、アメリカに対して戦略的マヌーバーを行うスペースを作り出し、発言力とゆとりを勝ち取ってきたことのたまものである。
 戦略的に中国を抑え込もうとするアメリカの態勢には変化はなく、今後もおそらく変化はないだろうが、最近になってリズムが緩慢になり、圧力をかける程度にも調整をかけているのは、緊急を要する気候変動等の分野での協力に必要な余地を捻出する必要によるものだ。彼らは協力の必要を感じてはいるが、現実を受け入れることにはなお抵抗があり、これまでどおりの競争を主とする戦術を強調したいと考えている。アメリカは今後も揺れ動き続けるだろう。
 総じて見る時、中国は過去数年間持続して途切れることがない耐久力があることを証明してきた。貿易戦争で生み出された大部分の指標は我が方に有利であり、コロナはアメリカの弱点を痛撃し、アメリカはますます新たな対中攻撃を組織する力がなくなっている。我が力量は闘いのなかで継続的に成長し、中米間の実力差は更に縮小した。それらの結果、アメリカのエリートたちが力任せに中国を押しつぶし、あるいは中国の成長の勢いを打ち砕こうとする野心は挫折に至っている。中国が自分のことをうまくやるという路線は初歩的な成功を収め、アメリカの対中傲慢に打撃を与えた。
 バイデン政権は就任当初「実力的地位から出発」して中国に対処するとくり返し公言していたが、歴史的な状況との対比でいえば、今日のアメリカの実力的地位が提供する力は相対的に最小の部類に属する。中米の生産規模と国際貿易に占める比率は大体同じであり、中国の潜在力は明らかにアメリカに勝っている。アメリカのエリート連中はそれでもなお、中国を抑え込み、中国を改造できると信じているのだろうか。バイデン政権が最近、中国の体制をもはや変えることを追求しないと述べたのは、中国をマヒさせようとする単純な煙幕弾のようには見えない。
 我々の結論は以下のとおりだ。アメリカの対中政策は移ろいやすく、言行不一致が常であるが、中国は引き続き自分のことをやるということ、これがアメリカの千変万化に対処する不変のカードだ。自分のことをやるというのは中国最大の本領であり、対米闘争上の最大の優勢でもある。中米関係に緩和の兆しが現れたことは大歓迎だし、我々が真剣にエネルギーをつぎ込み、守る価値がある。同時に、我々が銘記する必要があるのは、いちばん頼りになるのは永遠に我々自身だということだ。