9月22日に国連総会で演説した韓国の文在寅大統領は、昨年の同総会で行った朝鮮半島の「終戦宣言」提案を再度提起し、次のように述べました。

 「終戦宣言」こそ、朝鮮半島における「和解と協力」の新たな秩序を作る重要な出発点となるでしょう。
私は本日、朝鮮半島の「終戦宣言」のために国際社会が力を合わせてくださることをもう一度促し、南北米三者または南北米中の四者が集まって、朝鮮半島での戦争が終結したことを共に宣言することを提案いたします。
 韓国戦争(朝鮮戦争)の当事国が集まって「終戦宣言」を成し遂げる時、非核化の不可逆的な進展と共に完全な平和が始まると信じています。
 今年はちょうど、南北が国連に同時に加入してから30年になる意味のある年です。国連同時加入により、南北は体制と理念が異なる二つの国という点をお互いに認め合いました。しかし決して分断を永続させるためではありませんでした。互いを認め合い尊重し合う時、交流も和解も、統一へと進む道も始めることができるからです。
 南北と周辺国が協力する時、朝鮮半島の平和を確固として定着させ、東北アジア全体の繁栄に貢献することになるでしょう。それは後日、協力によって平和を成し遂げた「朝鮮半島モデル」と呼ばれるようになるでしょう。
 正確に言うと、文在寅が国連総会演説で「終戦宣言」を直接取り上げて提案したのは、金正恩総書記との最初の首脳会談(4・27板門店)直後の2018年9月、国連総会演説で「非核化のための果敢な措置が関連国の間で実行され、終戦宣言につながることを期待する」と述べたのが最初で、今回は3回目ということになります(9月23日付ハンギョレ・日本語WS掲載のイ・ジェフン先任記者文章)。イ・ジェフンはまた、文在寅の意図について、「文大統領は来年3月9日の大統領選挙まで5カ月ほど残っているが、最後まで首脳外交を中心とするトップダウン方式の情勢突破を止めないという意向を表現したもの」と分析するとともに、「今回、「南北米の3者または南北米中の4者」と終戦宣言の主体を改めて明示したこと」にも注目し、「中国の役割を期待するという外交的なシグナルだと読みとれる」と指摘しました。私はイ・ジェフンの分析・指摘に同感です。
 文在寅の「終戦宣言」提案に対する朝鮮の反応は素早いものでした。9月24日、金与正党副部長は談話を発表して次のように述べました。
文在寅大統領は第76回国連総会で終戦宣言問題を再び提案した。
長期間持続している朝鮮半島の不安定な停戦状態を物理的に終え、相手に対する敵視を撤回するという意味からの終戦宣言は興味のある提案であり、よい発想であると思う。
朝鮮半島平和保障システム樹立の端緒となる終戦宣言の必要性と意義を共感したことからわれわれは、これまで複数の契機に終戦宣言について論議したことがある。
終戦宣言は悪くない。
しかし、今、時が適切であるか、そして全ての条件がこのような論議をするのに満足しているかを先に察しなければならない。
今のようにわが国家に対する二重的な基準と偏見、敵視的な政策と敵対的な言動が持続している中で半世紀以上に敵対的であった国々が戦争の火種になりかねないそれら全てのことをそのまま置いて終戦を宣言するというのは言葉にならない。
私は、現存する不公平とそれによる深刻な対立関係、敵対関係をそのまま置いて互いにわざと笑みを浮かべ、終戦宣言文を朗読し、写真を撮るそんなことが誰かには緊切であるか知れないが、真の意味がなく、たとえ終戦を宣言するとしても変わるのは何もないだろうと思う。
終戦が宣言されるには、双方間に相手に対する尊重が保障され、他方に対する偏見的な視覚と毒々しい敵視政策、不公平な二重基準から先に撤回されなければならない。
自分らの行動の当為性と正当性は美化し、われわれの正当な自衛権行使にはあくまで言い掛かりをつけて罵倒しようとするこのような二重的で、非論理的な偏見と悪習、敵対的な態度は捨てなければならない。
このような先決条件が整ってこそ、互いに対座して意義のある終戦も宣言することができ、北南関係、朝鮮半島の前途問題についても相談してみることができるであろう。
南朝鮮は、つねに自分らが言うように心から朝鮮半島に恒久的で、完全な平和がしっかり根を下ろすようにしようとするにはこのような条件を整えることから神経を使うべきであろう。
われわれは、南朝鮮が時を構わずわれわれを刺激し、二重尺度を持って意地を張り、ことごとに言い掛かりをつけていた過去を遠ざけ、今後の言動で毎事熟考し、敵対的でないならいくらでも北南間に再び緊密な疎通を維持し、関係回復と発展展望に対する建設的な論議をする用意がある。
 金与正発言の要諦は、韓国が朝鮮に対する敵視政策と二重基準を撤回するという「先決条件」を満たす場合には「終戦宣言」を考慮することができるということです。金与正は翌9月25日にも談話を発表し、韓国が「正確な選択をすべきだ」と勧告しました。また、朝鮮の金星国連大使は9月27日、アメリカに対しても米韓合同軍事演習と戦略兵器投入の永久中止及び二重基準の撤回を求める発言を行いました(9月28日付聯合ニュース)。金正恩は9月29日に最高人民会議で施政演説を行いましたが、「梗塞している現在の北南関係が一日も早く回復され、朝鮮半島に恒久平和が訪れることを望む全民族の期待と念願を実現するための努力の一環としていったん10月初めから関係悪化で断絶させた北南通信連絡線を再び復元するようにする意思を表明」する一方、「終戦宣言」については金与正の提起した先決条件を確認するとともに、バイデン政権については、「米国の軍事的脅威と敵視政策は少しも変わったものがなく、かえってその表現形態と手口はいっそう狡猾になっている」と厳しく批判しました。
 「終戦宣言」に関する米韓の折衝は、9月30日にインドネシアで行われた、韓国のノ・ギュドク朝鮮半島平和交渉本部長とソン・キム対朝鮮特別代表の協議を皮切りに様々なレベルで行われています(10月5日:米韓外相略式会談(パリ)。10月12日:サリバン補佐官・徐薫(ソ・フン)国家安保室長会談(ワシントン)。10月18日:ノ・ギュドク・サリバン協議(ワシントン))。しかし、アメリカが文在寅の「終戦宣言」構想に慎重であることは、10月26日にサリバン補佐官が行った記者会見で明らかになりました。サリバンは、朝鮮戦争の終戦宣言について韓国と協力しているとしながらも、「われわれはそれぞれの措置のための正確な順序(sequencing)・時期(timing)・条件(condition)に関して多少違う観点を持っているかもしれない」との認識を示したのです(10月27日付韓国・聯合ニュース)。ただし、鄭義溶長官は11日の韓国国会外交統一委員会で、「終戦宣言の形式、内容に関して米側と最近、非常に緊密に協議を進めている」、「相当の調整が終わった」とし、「(米側と)大きな原則で合意し、形式や内容について協議している」と説明するとともに、「北(朝鮮)を対話に引き出し、非核化の達成、平和定着への最初の段階として終戦宣言が必要というのがわれわれと米国の一致した意見」と表明しました(11月11日付聯合ニュース)。
 他方、ロシアと中国は韓国と協調する用意があることを示しました。鄭義溶長官は10月27日にモスクワでラブロフ外相と会談しましたが、「会談に出席した韓国の高官は韓国政府が進めている朝鮮戦争の終戦宣言について、ロシア側が積極的に支持する立場を示した」と明らかにしました(10月28日聯合ニュース)。また、鄭義溶長官は10月29日に北京で王毅外交部長と会談し、「朝鮮半島情勢の最新発展について意見交換し、中国側は、半島問題の政治解决プロセスに役立つあらゆる努力及び提案を支持する」(中国外交部発表文)と表明しました。「終戦宣言」についての明示的言及はありませんでしたが、翌30日に韓国外交部は「(韓中外相は)終戦宣言問題を含め、韓半島平和プロセスの早期再稼働のための協力について率直に深い意見交換をした」と明らかにしました(11月1日付韓国・中央日報日本語WS)。
 文在寅の「終戦宣言」をめぐる韓国と米中ロ3国との協議の内容は、これまでのところ以上のようにまとめることができます。11月15日付の環球時報は、社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院研究員で中国周辺戦略研究室主任の王俊生署名文章「半島終戦宣言 「象徴的」だけではダメ」を掲載しました。私がこれまでチェックできた範囲内では、「終戦宣言」に関して中国側の見解が示されたのはこれが初出です。要旨訳出で紹介します。
 文在寅は今年の国連総会演説で再び終戦宣言発出を提案した。実は、半島平和メカニズム建設プロセスの一環としての終戦宣言に関する議論というのは必ずしも新しいテーマではない。1997年12月-1999年8月に6回行われた米中南北4者会談における主要テーマの一つは半島平和メカニズム構築だったし、2005年の6者協議で達成された「9.19共同声明」も「関係者による朝鮮半島永久平和メカニズム構築交渉」に言及していた。
 1953年7月27日に休戦協定が締結されてから今日までに朝鮮半島の戦略環境には根本的な変化が起こり、休戦協定ではもはや関係諸国の行動を規律できなくなっており、終戦宣言を含む新たな平和メカニズムの構築が必要となっている。終戦宣言が今日再び盛んに議論されるようになっているが、これは主に文在寅政権の努力のたまものである。文在寅政権は半島和平プロセスに一貫して力を尽くしてきたが、特に2019年の朝米首脳ハノイ会談が成果なく終わり、半島非核化及び和平プロセスが停滞に陥ってからも、ソウルは一貫してその推進に努力してきた。本年に入ってからは、バイデン政権が韓国の役割を重視するようになり、また、明年5月(ママ)に任期終了となる文在寅政権は終戦宣言推進に大いに力を入れるようになっている。
 半島の終戦宣言に関して、中国は一貫して積極的にかかわる姿勢であるし、国際法に基づいても当然そうであるべきである。その原因の一つとして、国際法の基本原則に基づけば、多国間条約は一部の締約国だけで当該条約を改定したり終了させたりすることはできない。1953年休戦協定を正式に終了させるためには、同協定署名国全員の参加する状況下でのみ終了は有効である。関係国指導者はしきりに終戦宣言は法律文献ではなく政治的文書だと主張するが、休戦協定を正式に終了させようとするものである限り、協定署名国である中国は当然欠席するわけにはいかない。
 したがって、(文在寅は)終戦宣言について「三者」または「四者」によって行うと主張しているが、国際法の角度あるいは常識的判断として、終戦宣言は、朝鮮、中国、アメリカ及び韓国の4カ国が共同で休戦協定終了交渉に参加し、かつ、新平和協定署名を推進することにするべきである。同時に、終戦宣言を含む半島和平メカニズムの構築は半島非核化プロセスとも密接に関連しており、仮に半島非核化に関して実質的な進展が得られない場合には、終戦宣言だけでは半島の平和を保障することは難しい。したがって、終戦宣言交渉プロセスにおいては半島非核化をも連携づける必要がある。換言すれば、終戦宣言は単なる「象徴的」なものに留まってはならず、朝米の相互信頼構築及び半島非核化プロセスに有利なものでなければならない。11月に中国政府朝鮮半島問題特別代表の劉暁明は、韓国外交部半島和平交渉本部本部長の魯圭德とのオンライン会談で次のように述べた。「半島問題の重要な当事者かつ休戦協定署名国である中国は、半島和平交渉の推進及び終戦宣言発表について関係諸国と意思疎通を保ち、建設的役割を担いたい。中国は、関係諸国及び国際社会が半島問題の政治解决プロセスにとって有利となることを大いに行うことを希望している。」