私はかねてから、自民党文教族と文科官僚が1950年代から一貫して推進してきた歴史教科書検定を通じた歴史の改ざんが「大成功」し、多くの日本人の歴史認識がゆがめられていることを痛感してきました。私が最初にこの事実に直面したのは、1990年代に明治学院大学で「日本政治論」の講義を担当していた時です。その時の学生たちはいまや40~50代ですから、日本人の2/3以上は歪められた歴史で洗脳されていることになります。同じことが民進党政権のもとでの台湾でも起こっているらしいことを、毎朝チェックしている報道を通じて知ることになり、暗然たる気持ちに襲われました。日本の場合は皇国史観に基づく「不都合な歴史」の部分的な書き換えですが、台湾の場合は、台湾独立を目指す立場から行われる「中国からの台湾切り離し」作業の一環としての「中国史のトータルな抹殺」のようです。
ウィキペディア(日本語及び中国語)を見ると、蔡英文の出自について台湾省屏東出身の祖父(祖母は原住民族・パイワン族の末裔)から説き起こしています。しかし、いわゆる「本省人」とされる人たちはもともと福建省か広東省から台湾に移り住んだわけで、蔡英文も例外ではありません。中国大陸の文献は、彼女の祖先が200年前に福建省漳州市から台湾に渡ったことを記しています。
 民進党が主張する「台湾独立」論に関しては様々な議論があり、ここでこの問題を取り上げる気持ちはありません。私が暗然たる気持ちに襲われたのは、「台湾独立」を正当化するために「歴史そのものをまな板に載せる」民進党当局の意識であり、歴史に向き合う姿勢です(10月19日付環球時報に掲載された文化学者・劉仰「八国聯軍を弁護する洋奴史観」は、1900年に行われた義和団鎮圧のために行われた日本を含む8カ国軍隊の干渉行動を「人道救援」だったと解釈する本・『八国聯軍乃正義之師』が台湾で刊行されたことを紹介しています)。高市早苗と蔡英文が意気投合した所以が理解できるというものです。
 これから紹介する文章(要旨)は中国メディアに掲載されたものです。したがって、事実関係の記述についてバイアスがかかっている可能性はあると思います。しかし、台湾の若い世代の歴史認識に深い爪痕を刻みつけている深刻な状況に関する指摘は「他山の石」とするに十分なものがあると思います。

<張盼「民進党「脱中国化」歴史教育、台湾の学生を毒する」(10月18日人民日報海外版)>
*張盼は人民網台湾駐在記者
 台湾の作家・呉淡恕は最近、中学校に学ぶ娘と同級生が孫中山(孫文)を知らず、人によっては、日本統治時代の前はオランダ統治時代であり、その前は石器時代であると理解しているものすらあることを発見した。台湾の鴻海集団の創始者・郭台銘も、娘は岳飛が誰のことか知らないと述べている。民進党当局が長期にわたって教育分野で進めている「脱中国化」が台湾の学生に及ぼしている害の深さの一端がここに示されている。
 歴史観念が欠けるということは、「脱中国化」が「脱歴史化」をもたらすことを意味している。民進党当局が歴史教育における最重要の時系列と脈絡を削除することにより、学生たちは大陸について理解できないのはもちろん、台湾についても正しく理解するすべがなくなり、その結果は「歴史的無知」となって、危害は深遠となる。
 台湾の教科書の乱れは早くも李登輝、陳水扁の時代に禍根が埋められた。彼らは台湾の小中学校で「台独」教科を推進し、「脱中国化」を図ろうとした。…陳水扁政権時代には、高校の歴史教科書で「台湾史」が「中国史」から切り離され、「中国史」はあたかも「外国史」であるかのように扱われた。いわゆる「台湾史」は、「無主の地」である台湾がポルトガルによってはじめて発見されたとし、今日までの歴史は400年しかないとした。  民進党が再度政権に就いてから、国語教科書中の古文の比率を大幅に減らしたほか、歴史の教科については大々的に書き換えてきた。高校の歴史教科においてはもはや「中国史」を設けず、全歴史を「台湾」「東アジア」「世界」に三分した。「中国史」はもはや存在せず、「東アジア史」の中で扱われ、その内容ももともとは1.5冊分だったのが1冊に削減された。以前の歴史教科書は朝代または年代の順序で編纂され、歴史の脈絡にしたがっていたが、いまは中国関連の主題の単元は4つしかなく、それぞれ「中国と東アジアの交わり」「国家と社会」「「人の移動」「現代化の歴程」と題され、内容的に支離滅裂であるだけでなく、中華文化の起源及び政治史などは悉く消し去られている。
 2019年には新たな歴史課程綱要が導入された。歴史担当の教師たちは、時間軸が欠落し、歴史の連続性も断ち切られ、何から教えていいのか分からないと嘆いている。民進党当局が意識的に政治を弄び、歴史を歪曲するために、台湾の学生たちは「ルートを失った世代」と化し、歴史的視野及び人文的素養を欠如することとなっている。
 台湾の新しい歴史教科書は、「脱中国化」を大いに進めるとともに、「文化的台独」「台湾の地位未定論」「一辺一国」等を鼓吹し、「台独」を暗示する内容に満ちている。このことは、歴史教科書が実は「台独」の「政治教材」であり、民進党当局による青少年に対する政治的洗脳の産物であることを物語っている。ちなみに、冒頭に紹介した、若い世代には歴史教育が欠如していると慨嘆した呉淡恕は民進党及びネットの総攻撃にさらされた。
<熊興「最終的厳罰を免れない台湾当局の一再ならぬ情勢判断の誤り」(10月18日付中国網)>
*熊興は華中師範大学台湾及び東アジア研究センター研究員
 辛亥革命110周年に際しての蔡英文のいわゆる「双十講話」は、孫中山(孫文)及び辛亥革命に触れようとしなかったのみならず、両岸が一つの中国に属するという「九二共識」を承認することを拒否し、両岸は「互いに隷属しない」と公然と述べ、蔡英文版「両国論」が公然と明らかにされた。…民進党当局は外国メディアにも寄稿し、国連総会決議2758を意図的に歪曲し、「2つの中国「一中一台」を作り出そうとしている。(中略)
 とりわけ警戒するべきは、長年にわたる「脱中国化」教育と様々な民進党系メディアによる世論操作の影響により、台湾の人々なかんずく青少年に対する「洗脳」教育は彼らの望どおりの成果を挙げ、島内の少なからぬ人々の認識には憂慮するべき変化が起こっている。その変化は、最近の数度にわたる選挙、特に台湾指導者の選挙結果に表れているだけでなく、台湾社会の主流的認識にも顕著に反映し、多くの台湾の人々特に青年層の「主体的意識」は不断に固定化される傾向にある。しかも選挙においては、国民党支持層が一貫して縮小し、民進党支持層が一貫して拡大する傾向にあり、このことは今後の両岸関係の展開に対してますます大きなチャレンジとなるだろう。(後略)