10月1日(中国国慶節当日)から10月4日まで、合計で150機(4日は過去最多の56機)の人民解放軍の空海軍機が台湾南西防空識別圏に進入したことは、台湾当局が警戒を強めたのは当然として、米国務省も3日、プライス報道官の声明で重大な関心を表明し、「誤った判断を導きかねず、地域の平和と安定を破壊するものであり、中国が台湾に対する圧力行使を停止することを促す。アメリカは米中の3つの共同声明及び台湾関係法、「対台湾6項目保証(*)」コミットメントに基づいて台湾が自衛能力を強化することを支持する」と述べました。
(*)対台湾6項目保証とは、対台湾武器輸出に関する1982年7月の米中共同声明の交渉中に、台湾当局がアメリカに提起した台湾関係法実施に関する6項目のガイドラインで、アメリカ政府はこれに合意し、議会にも通用した。内容は次のとおり(台湾ドキュメント・プロジェクトWSによる)。

1 アメリカは台湾向け武器売却の終了期日を設定しない。
2 アメリカは台湾関係法の条項(terms)を変更しない。
3 アメリカは、台湾向け武器売却の決定を行う前に中国と協議しない。
4 アメリカは、台中間の仲介をしない。
5 アメリカは、台湾の主権に係わる立場を変更しない。すなわち、問題は中国人自身により平和的に解決されるものであり、アメリカは中国と交渉に入るよう台湾に圧力を行使しない。
6 アメリカは、中国の台湾に対する主権を公式に承認しない。
この声明に対して、中国外交部の華春塋報道官は4日に記者の質問に答える形で次のように述べました。
 台湾は中国の台湾であり、アメリカにとやかく言われる筋合いではない。米側の言い分は一つの中国原則と中米3共同声明に著しく違反しており、極めて誤った、無責任なシグナルを対外的に発出するものである  近時以来、台湾向け武器輸出、オフィシャルな軍事関係等の面でアメリカの良からぬ動きは絶えることがない。7.5億ドルの武器輸出計画、米軍機の台湾着陸、艦船の頻繁な台湾海峡通過等々。これらの挑発行動は中米関係を損ない、地域の平和と安定を破壊するものであり、中国は断固反対するとともに、必要な対応措置を取るものである。
 一つの中国原則は中米関係の政治的基礎である。台湾問題に関しては、アメリカは一つの中国原則と米中3共同声明の規定を遵守するべきであり、自分が一方的にでっち上げたいかなるものにもよるべきではない。
 「台独」に動くことは死への一本道だ。中国はすべての必要な措置を講じていかなる「台独」陰謀をも断固粉砕する。国家主権と領土保全を防衛する中国の決心及び意思は確固として不変である。
 アメリカは過ちを改め、一つの中国原則と中米3共同声明を確実に遵守し、台湾にかかわる問題を慎重かつ適切に処理し、「台独」分裂勢力を支持し、勢いづけることを止め、実際の行動で台湾海峡の平和と安定を、破壊するのではなく擁護するべきである。
 9月13日及び20日のコラムで、独立への動きを強める台湾に対して中国の実力行使の警告を行った環球時報の社説を紹介しました。10月1日以後の中国軍機の大量出動の報道を見て、私自身、実力行使の警告が一段とエスカレートしたものと受け止めていました。ところが、環球時報WSの「環球網-国際ニュース」が10月5日(0時4分)に掲載した「枢密院十号」(浅井注:検索サイト「百度」によれば、環球時報傘下のサイトのオフィシャル・アカウント名)署名記事「6カ国3空母の台湾海峡演習 同日の52解放軍機大量出動」は、中国軍機の大量出動について「一石二鳥、真の狙いは他にあり」として、真の狙いはアメリカ空母の台湾海峡における軍事行動及びそのエスカレーションに対して中国側も軍事的対応をエスカレートして対抗することにあると解説しています。つまり、「一石二鳥」と自ら言うように、台湾に対する警告エスカレーションの意味合いはもちろんありますが、もう一つのより重要なメッセージは「目には目を、歯には歯を」であり、アメリカ等の軍事エスカレーションで中国が怖じ気づくことはあり得ず、「とことんお付き合いする」という対米意思表明だということです(浅井:黒船来訪で天地がひっくり返った徳川末期の歴史をもつ日本にとっては耳が痛い話です。)。
 私は正直意表を突かれましたが、10月6日付の米'The Diplomat'WSに掲載されたBrian Hiou署名文章("What Do Taiwanese Think of China's Record-Setting Incursions Into Taiwan's ADIZ?")は、枢密院十号署名文章の指摘を裏付ける事実関係を紹介しています。
 (解放軍機の大量の)フライバイ(flyby)は台湾だけに向けて送るシグナルではない可能性がある。週末にかけて、アメリカの二つの空母艦隊がイギリスの空母艦隊及び日本海自の「伊勢」とともにバシー海峡で演習を行った。月曜日に英艦隊はシンガポール海軍との共同演習に向かった。
 これに対して、枢密院十号署名文章はより詳しく次のように述べているのです。この文章が示唆しているように、アジア太平洋地域に留まる米空母は間もなく1隻になることから、中国軍機の台湾海峡への大規模出動も終わるということでしょう。米側報道には、国務省の警告が効いたので中国軍機の大量出動が5日以降なくなったと勝手に解釈しているものもありますが、アメリカ的「天動説」国際観以外の何ものでもありません。
 日本の海上自衛隊は10月4日、同月2日から3日の間、米空母レーガン号、カール・ビンセン号及び英空母エリザベス号とともに沖縄西南海域で合同演習を行ったと報じた。オランダ、カナダ、ニュージーランドも訓練に参加した。この報道は、「3隻の空母を投入する訓練はまれに見るものであり、海洋活動を強める中国を牽制する狙いがある」と述べている。
 この報道は、海自がヘリコプター搭載駆逐艦「伊勢」、イージス艦「霧島」等3隻の艦船を派遣して演習に参加したとさりげなく述べている。しかし事実は、排水量1.35万トンに達する「伊勢」は軽空母並みの甲板設計を採用しており、日本メディアは「空母型」駆逐艦と称している。したがって、今回の演習に参加したのは4隻の空母及び准空母を含む6カ国17隻の艦船だった。…
 台湾の東南方に位置するバシー海峡は南海(南シナ海)とフィリピン海域を結ぶ交通の要衝であり、米空母が常に航行する海上の要道でもある。それ故にこそ、外国メディアが早くから気づいているように、米空母がバシー海峡を通過して南海に進入して挑発を行うとき、解放軍機が大規模に出動して「熱烈歓迎」を行うのである。台湾メディアは更に、解放軍は米空母がバシー海峡を通過する時を利用して爆撃機、戦闘機、レーダー哨戒機で構成される大規模な編隊で「模擬攻撃演習」を行うのだと見積もっている。
 国慶節以来、解放軍機が記録破りの大量出動で台湾西南空域を巡航したことに対しては、様々な推測が行き交っている。米国務省は10月3日に声明を出して重大な関心を表明した。しかし、最近の米英空母の活動を合わせ見れば、一体誰が台湾付近で挑発的軍事行動を行っているのかは直ちに明らかである。日本・共同通信と米海軍学会WSのニュースによれば、9月末から10月1日にかけて、カール・ビンセンとレーガンからなる2艦隊は、日本海自と沖縄以南海域で「中国に対抗する」合同演習を行った。10月2日-3日には、この2艦隊に英空母エリザベスさらには日本、オランダ、カナダ、ニュージーランド等の艦船も加わって再び沖縄西南海域で「中国に対抗する」演習を行ったが、その規模は更に大きいものとなった。
 つまり、9月末以来、米空母艦隊は台湾周辺を離れず、しかも「連チャン」で2回の大規模演習を続けさまに行い、その後には英空母とともに南海に進入した。このようなのさばり方をする「残忍貪欲な獣」に対して解放軍が「猟銃」でお出迎えして何の問題があるというのか。
 最後に強調しておきたいのは、のさばっているかに見える「獣」の内実は「見かけ倒し」にすぎないということだ。レーガンは5月に遠洋航海してアラブ海域で3ヶ月以上にわたるアフガニスタン撤兵支援行動に従事し、いまは横須賀港に帰還して修理休養に向かう途上だったし、英空母エリザベスもさえないアジア太平洋遠征を終えて本国に帰還する途上だった。したがって、もう少しすれば、アジア太平洋に残って配備される米空母はカール・ビンセンだけになるというわけだ。