*岸田文雄氏に届く可能性は限りなくゼロに近いとは思いますが、日中関係の回復・改善を心から願う者として、緊急提言(在宅リモート直訴)を行います。

次期首相になるであろう岸田文雄氏が緊急に取り組むべき最重要・最喫緊課題の一つは最悪の状態に陥っている日中関係の改善です。特に、岸田氏は、日中国交正常化を成し遂げた田中政権で日中交渉に中心的役割を果たした大平正芳外相が率いた宏池会の第9代会長です。日中関係を改善することには格別に重い責任があるといわなければなりません。確かに、反中、嫌中の感情が支配する国民世論・自民党という厳しい現実は大きな壁でしょう。しかし、「台湾海峡有事」に首を突っ込むことが日本全土を悲惨な状況に追い込むことは岸田氏も当然認識していると確信します。日中国交正常化が可能になった最大の要因の一つは、日本が「一つの中国」原則を受け入れたからであることにも、改めて岸田氏の注意を喚起しておきます。
 私は決して不可能なことを岸田氏に要求するつもりはありません。私が岸田氏に是非とも思い出してほしいのは、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と定めている日本国憲法第98条2項です。日中共同声明そのものは条約ではなく政治文書です。しかし、「前記の共同声明が両国間の平和友好関係の基礎となるものであること及び前記の共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことを確認」(前文)した日中平和友好条約は正に同条にいう「条約」であり、「誠実に遵守する」ことが求められます。そして、憲法第99条の「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」という規定により、首相たる者は憲法を擁護するべき特別に重い義務を負っています。つまり、岸田文雄首相は日中共同声明及び日中平和友好条約を遵守し、擁護する最大の責任と義務を負っています。
 以上を踏まえた上で、日中平和友好条約は次のように規定していることについて、岸田氏の注意を喚起します。

○第一条
 1 両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。
 2 両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
○第二条
 両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。
 また、尖閣諸島に係わるいわゆる領土問題に関しては、日中共同声明交渉並びに日中平和友好条約締結交渉及び批准の際に、係争のあるこの問題について日中最高首脳間でいわゆる「棚上げ」合意が行われています。民主党政権及びその後の自民党政権は「棚上げ」合意はなかったとする立場を取ってきましたが、これは正に「信義に悖る」ものであり、岸田政権は「棚上げ」合意の原状回復を行う責任があります。
 仮に岸田氏が現在の日中関係悪化の責任は中国側にあると認識しているとしても、「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えない」という約束を守らなければなりません。また、中国が拡張主義、大国主義等の「覇権を求める」行動を取っていると認識するとしても、中国に対して取るべき行動は、第二条に違反することを指摘し、第一条2に基づいて平和的に解決することであり、アメリカと一緒になって軍事的に対抗するという現在の日本政府の対応は明らかに条約違反であるといわなければなりません。付言すれば、日本がアメリカの中国敵視政策に同調する行動は、中国からいえば、「覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試み」そのものであり、やはり条約違反です。
 来る2022年は日中国交正常化50周年という極めて重要な区切りの年に当たります。私は、岸田政権が、このことを念頭に置いて、以上の緊急提言に即した対中アプローチを行えば、中国は必ず高く評価し、積極的に応じることを100%断言します。日中関係の緊張を解消することはアジア太平洋地域の平和と安定に資する所以となります。日本の最高責任者として、また、日中国交正常化を成し遂げた宏池会の伝統を受け継ぐ者として、是非日中関係改善を最重要かつ最緊要の課題として取り組むことを岸田氏に心から期待し、かつ訴えます。