私は自民党総裁選挙で「反中」を競い合う候補者たちの醜い姿にうんざりしますが、それにも増して暗然とするのは、①マス・メディアが、「反中」を競い合うこの見にくいまでの狂騒劇を何の批判もなく「垂れ流し」していること、また、②総選挙を前にして国民に政策を争点にして自民党を批判するべき野党のどこからもこの自民党の狂騒劇とマス・メディアの「垂れ流し報道」に対する批判が皆無であること、したがって、③すでに早くから「反中」「嫌中」に染まりきっている大多数の国民が「狂騒劇」と「垂れ流し報道」に何の違和感も覚えずに身を任せていることです。日中関係を真剣に考える人が日本の政治を担ってくれる日が一日も早く現れることを願ってやみません。
 私はこれまでのお話しを通じて、次のことを明らかにすることに努めてきました。
 第1回:中国は戦後の早い時代から、日本軍国主義に対する怒りが渦巻いている中国人民に対する辛抱強い説得工作を行いながら、一貫して中日民間交流に力を入れ、中日復交を実現するための条件作りに注力してきたこと。
 第2回:アメリカが中国敵視政策を転換したこと(ニクソン訪中)で可能になった中日国交正常化交渉に臨むに当たっては、中国は日本に対して絶対に譲れないポイントを最小限に絞り込み、それ以外については最大限の譲歩・妥協を行う用意を示したこと。
 絶対に譲れないポイントとは、①日本(田中政権)が過去(日本軍国主義の対中国侵略戦争)に対して真摯な反省を行い、その反省を未来に活かしていく約束を行うこと、②中国政府が唯一の合法政府であり、台湾は中国の不可分の一部であること、③両国は覇権を求めず、両国間で起こりうる問題・紛争は話し合いで解決すること、以上の3点。
 最大限の譲歩・妥協とは、①戦争終結問題の「玉虫色」処理、②戦争賠償請求権の放棄、③領土(尖閣・釣魚島)問題を取り上げないこと、④日米安保条約問題(特に第5条「極東条項」)を取り上げないこと、⑤台湾の領土的帰属に関する日本側法的立場に対する配慮、以上の5点。これら5点に共通するのは、「サンフランシスコ体制堅持を大前提とする国交正常化しかあり得ない」(栗山尚一)日本政府の主張・立場を中国が受け入れたということです。
 第3回:共同声明で約束したこと、特に「日中は覇権を求めず、日中間で起こりうる問題・紛争は話し合いで解決すること」について、平和友好条約締結によって日中双方に対する法的拘束力を持たせること。  第4回&第5回:1989年(天安門事件)を除けば、日中関係は常に日本側の原因(小泉首相の靖国参拝、民主党政権の尖閣「棚上げ」合意否定と尖閣の「国有化」、安倍政権の日米同盟強化と中国敵視をセットにした政策)によって悪化し、中国はその都度機会を探って、共同声明及び平和友好条約の諸原則に基づく関係改善に努めてきたこと。
 日中国交正常化及びその後の日中友好関係を可能にした最大の要因は、アメリカが中国敵視政策を転換し、日米同盟(さらにいえばサンフランシスコ体制)の中国に対する敵対的本質が「解消」したことです。しかし、その後の事態の展開が示すとおり、この「解消」は一時的であり、日中関係の拠って立つ前提(米中関係)は脆弱でした。アメリカの対中国政策したがって日米同盟(サンフランシスコ体制)が中国に対する敵対的性格を再び露わにした時、日中国交正常化交渉で中国が「絶対に譲れない」とし、日本が受け入れた上記3点を引き続き誠実に遵守する場合、具体的には声明・条約を遵守する場合にのみ、日中両国は環境の変化という試練を乗り越えて友好関係を維持することができます。
 大胆に想像を働かせれば、中国はアメリカの対中政策(したがって日米安保条約)が再び対中敵対に変化する可能性を織り込んでいた可能性があります。その変化に影響を受けない中日関係を構築するべく、中国は上記3点を絶対に譲れないポイントとして日本に受け入れさせようとしたのではないでしょうか。上記3点に即して見れば次のようになります。
 第1点の日本が過去を反省し、未来に活かしていくとは、アメリカが日米安保条約第5条(「極東条項」)に基づいて、「台湾有事」における日本の対米協力を要求した時、日本はこの要求を拒否することが求められます。反省を未来に活かすとはそういうことです。また第2点及び第3点に関しては、日本政府は声明第3項で「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持」することを約束し、条約第1条で「主権及び領土保全の相互尊重」の原則の上に、「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認」しましたから、アメリカの要求を拒否する法的義務を中国に対して負っているのです。
 今日の最大の問題は、日本政府はおろか日本全体が日中共同声明及び日中平和友好条約が日本に対して以上の法的拘束力を持っていることを忘れ去ってしまっていることです。そのために、世界覇権に固執するアメリカが中国をライバル視し、特に台湾問題を利用して中国と対決を推し進め、日本に共同歩調を取ることを要求してくると、もともと親米・反中の日本政府は「待ってました」とばかり飛びつき、はしゃぐことになるわけです。  今回(第6回)のレジュメを添付しますので、関心のある方はご覧ください。↓

第6回 日中関係の現状と展望-問題点と可能性-