9月11日の英フィナンシャル・タイムズ(FT)WSは、「ワシントン、北京の怒りを買うリスク:台湾在米事務所名称変更提案」("Washington risks Beijing ire over proposal to rename Taiwan's US office")と題する記事を掲載しました。米中国交正常化に伴うアメリカの台湾との断交後、台湾は「台北駐米経済文化代表処」がアメリカとの実務関係の窓口になっています(日台間も同様)。台湾独立を目指す蔡英文政権は、米日を筆頭とする各国への出先機関の名称を「中華民国」または「台湾」と変更することを、「独立に近づくステップ」として重視してきました。本年7月にバルト3国の一つであるリトアニアが「台湾代表処」へと名称変更することで台湾と合意したのはその一例です。中国は双方の大使召還(断交の含みを持たせた措置)で対抗しました。私の感じとしては、「大使召還」で抑えた中国の対抗措置は、米台からすれば「この程度で済むのか」と受け止めた可能性が大きく、それが今回のFT報道のような米台の動きにつながった可能性があると思います。
 FT記事によれば、ホワイトハウスのアジア問題担当顧問のカート・キャンベルが名称変更を支持しているといいます。キャンベルはバイデン政権における対中国対決戦略・政策を担う中心人物の一人ですから、FT報道の中身は極めて物騒であることは間違いありません。私は昨日(9月12日)のコラムでバイデン政権が中国との第三次世界大戦(=核戦争)を覚悟することはあり得ないのに、対中対決政策をエスカレートする「火遊び」の所業を「悪あがき」と性格付けました。今回の動きが事実であるとすれば、もはや「悪あがき」で済ませられる次元を通り越して、危険水域に入り込んでいます。
 果たせるかな、9月13日付(ウェブ掲載は12日21時09分)の環球時報社説「米台が必要ならば、根源的教訓を与えよう」(中国語:"美台若需要根本教训,我们就送给他们")は、米台が思いとどまらない場合は、台湾に対する経済封鎖、台湾空域を解放軍巡航範囲に収める、(台湾の反撃に対する)壊滅的打撃、(アメリカも戦争の用意ありとするならば)いかなる代償を払ってでもボトム・ライン擁護等、断固とした対応を取ることを警告しました。社説(要旨)を紹介します。

 次のことは指摘しなければならない。すなわち、米台が名称変更するとなれば、アメリカが一つの中国政策を基本的に放棄したことを意味し、台湾問題に関する重大事変となる。(リトアニアに言及した上で)アメリカも同じことをやればアメリカの同盟国に対するデモンストレーション効果を生み出し、台湾が駐在する国々における名称変更ブームを引き起こすだろう。
 アメリカはこの問題の重みが分かっており、今のところは情報を流して大陸の反応を計っている段階だ。しかし、計ることは何もない。米台が雌雄を決する臨界点に問題を押しやるならば、大陸には挑戦を迎え撃ち、雌雄を決する準備を行う以外の選択はあり得ない。名称変更した時の大陸の外交対応はリトアニアに対する時よりも低レベルではあり得ず、大使召還は中国外交の「最低反応」となる。外交手段だけでは明らかに足りない。すでに反分裂国家法のレッド・ラインに抵触しており、大陸は厳しい経済的・軍事的措置を出動させて米台の怪気炎に打撃を与える必要がある。台湾に対しては、厳しい経済制裁を行い、状況次第で経済封鎖を実施する。軍事面では、台湾空域を解放軍の巡航範囲に収める。この措置は早晩やるべきことだが、名称変更は大陸が台湾に対する主権デモンストレーションを強化する上で充分な理由になる。仮に台湾側が発砲するような肝っ玉がある場合には、我々としては「台独」勢力に決定的壊滅的打撃を与えるまでのことだ。
 重要なポイントは、大陸が今回米台に対して姑息に振る舞えば、彼らはさらに図に乗って動くということだ。平和のために中国が「ならぬ堪忍するが堪忍」として「腹膨るる技」を決め込んだとしても、平和が訪れるだろうか。大陸の威信はどうなるだろう。国際的に中国の利益を擁護するシステムをどうやって維持できるだろう。
 事実は、台湾をめぐる問題はもはや「意志比べ」だということだ。台湾は中国の核心的利益であると宣言したからには、中国としては断固とした行動によってこの国家利益のボトム・ラインを守るのであり、そのためにいかなる代価を払うことも惜しまない。民進党当局が戦争リスクを賭してでも名称変更を推進し、アフガニスタンから敗北したばかりのアメリカも新しい戦争に巻き込まれることを恐れないというのであれば、大陸としては何にひるむことがあろうか。
 台湾海峡は遅かれ早かれ疾風豪雨を迎えなければならず、それは名実ともに地動山揺となるだろう。我々はありとあらゆる準備を整え、台湾海峡で何時でも「米台の足をへし折る」ことができるようにしておくべきである。
 アメリカは一貫して言葉の遊戯を弄び、中米の「競争」が「衝突」になることを避けようとしているが、台湾問題に関する中国との競争は必ず深刻な衝突に変化するのであり、その中間で融通を利かせる余地はないということを、我々は行動によってアメリカに分からせる必要がある。