7月20日に南京緑口飛行場で第1例が報告されてから始まった中国国内におけるデルタ株コロナ感染に関して担当主管庁である国家衛生健康委員会は、8月13日、「8月13日0時現在、全国18省48市で発生、累計病例は1282例。48市中36市では過去5日間の報告例なし。揚州、武漢、張家界以外では散発的病例報告に留まる。以上の状況から、全国的流行リスクはほぼ抑え込み可能であり、全国レベルで大規模流行が起こるリスクは小さいと判断される」と発表、さらに8月27日、「8月16日に初めて確定診断病例数が下降しはじめてから、11日連続で下降。8月26日現在、全国の26省市自治区プラス新疆生産建設兵団の全域が低リスク地域、中高リスク地域も38に減少。我が国の今回の流行はすでに効果的に抑え込まれた(浅井注:ただし、 8月28日に雲南省瑞麗市から1例の報告あり)。」と発表して、デルタ株による感染拡大を基本的に封じ込めたと発表しました。これまでコロナ抑え込みに成功してきたヴェトナム、カンボジアなどの国々がデルタ株による感染拡大に直面している中で、ひとり中国がデルタ株抑え込みに成功したことは欧米メディアも注目しています。
 私は中国メディアの報道をフォローする中で、市中感染拡大を招いてしまった江蘇省揚州市については、李克強首相の直接指示のもと、コロナ担当の孫春蘭副首相が8月11日から15日にかけて現地入りし、「PCR検査方法を改善し、地域ごとの検査頻度を確定。重点地区・重点グループに対する検査の質とレベルを向上。PCR検査の状況に応じて管理地域を動態的に調整。隔離者増大に伴う配置人員増加」等をきめ細かに指示するなど陣頭指揮に当たり、その結果、揚州市の感染拡大に急速にチェックがかかり、感染ゼロを実現するに至ったことを見届けました。このような光景は日本ではおよそ考えられないことだと思います。
 私がもう一つ注目ししたのは、感染の市中拡大を招いてしまった地域では、責任者が厳しく問責され、処分を受けている事実です。例えば、8月19日付中国紀検監察報(中国における規律検査担当省直属機関紙)は、8月14日に江蘇省揚州市12人の党員幹部が問責されたこと、8月16日に河南省商丘市で8人の党員指導幹部が問責されたこと、湖南省張家界市でも同様の措置が行われたことを報じています。
 さらに8月28日の中央テレビは、上海市の成功事例について具体的に報道しています。日本国内ではPCR検査に関する評価が大きく分かれていますが、その一因はこの検査方式の精度について疑問が提起されることです。しかし中国は、その問題はつとに承知の上で、感染の疑いがある者に対する検査回数を大幅に増やすことでカバーする方法を採用しています。感染リスクが高い職種に従事するグループに対しては日常的定期的にPCR検査を行い、また感染者が出た場合はその濃厚接触者及び次濃厚接触者を徹底隔離して、潜伏期間と見なされる最長期間(14日)の間、くり返しPCR検査を行うという念の入りようです。上海市はその成功例でもあります。日本も大いに上海の経験から学ぶところがあると思います。以下に大要を紹介するゆえんです。

上海市では8月2日に第1例が報告されてから、8月26日までの25日間にわずか10発症例で抑え込んだ。上海市では、全市民を対象とする大規模封鎖、大規模PCR検査を行うことなく抑え込みに成功した。成功の最大の原因は、「精確、快速の徹底調査による影響範囲の最大限の絞り込み」、「隔離封鎖した濃厚接触者・次濃厚接触者に対する7回にわたるCPR検査の実施」である。
上海における第1例は、空港従業員(高リスク作業人員)に対して行っている定期PCR検査の中で発見した。上海市は、全面的な疫学調査と一斉調査によって濃厚接触者と次濃厚接触者、高リスク人員グループの全員を隔離管理する。コロナの潜伏期は一般に1~14日(デルタ株の場合は通常3~5日で、7日で症状が出たものもいた)だが、その期間中は完全隔離を続けることによって他への感染を防ぐことができた。
全期間25日間で感染源となったのは3人、しかし発症者はわずか10人。如何にしてこの抑え込みは可能になったか。カギは以下の4つである。
第一:「早」。感染源の一人となった看護師にしろ、他の2人の空港運搬作業員にしろ、高リスク・グループに属し、日常の周期的PCR検査の対象で、この定期検査の中で発見に至った。そのうちの1人は感染1,2日で発見している。発見が早いことのメリットは、接触者及び影響範囲を非常に限定できることにある。
第二:「快」。陽性者を発見した後は、濃厚接触者及び次濃厚接触者さらに高リスクグループに対する追跡精密調査が迅速に行われる。現在の上海では基本的に時間単位で、日をまたがないことを原則として、迅速に追跡調査を行う。
第三:「精確」。上海市は、高いクオリティ、高いレベルの流行病調査隊伍を備えている。熱心であるだけでなく、専門性が要求される。
第四:「全」。科学を尊重する基礎に立って、芋づる式に関係者を全員しらみつぶしに調べ上げる。
最後に、今回のデルタ株流行で全国的に明らかになった弱点もある。
第一、国内感染源がゼロの中国の場合、飛行場、港湾など、国外からデルタ株が持ち込まれる可能性が大きいが、これらの場所における防護態勢にはまだまだ弱点が大きい。
第二、個人。コロナ感染常態化のもとで、個人の警戒心がマヒすることは感染拡大を助長する。
第三、医療機関、特に外来診察、発熱外来などの患者と直接接触する第一線従事者の間で感染事例が発生している。この点に関しては、国務院聯防聯控機構医療救治グループが最近「通知」を医療機関に発出し、「専門家グループ年度評価システム、衛生健康行政部門毎月サンプリング検査システム、医療機構第一責任者責任制及び毎月研究システム、責任追及システムの「4項システム」設立を決定」、これによって監視態勢に抜かりが生じないように措置を講じた(8月17日付新華網)。