アフガニスタンの首都カブールが陥落した2日後の8月17日、中国人民解放軍東部戦区報道官は、戦闘艦、対潜哨戒機、戦闘機などを出動して、台湾島の西南及び東南等の周辺海空域で突撃その他の実戦演習を行い、戦区部隊の統合共同運用機能(中国語:'一体化联合作战能力')を検証したと述べました。しかも異例なことですが、「最近、米台がしきりに結託して挑発し、極めて過ったシグナルを発出し、中国の主権を深刻に侵犯し、台湾海峡の平和と安定を深刻に破壊し、今や台湾海峡の安全に対するリスクの最大の原因となっている。今回の演習は、現在の台湾海峡の安全にかかわる情勢及び国家主権を擁護する必要に基づいて取った必要な行動であり、外部勢力の干渉及び「台独」勢力の挑発に対する厳正な回答である。東部戦区は今後も引き続き戦争準備の訓練を強化し、すべての「台独」分裂活動を打ち砕く決心と能力を持ち、国家主権と領土保全を断固として防衛する」ことを表明しました。
 翌日(8月18日)付の「専門家:解放軍はすでに台湾本島全域を封鎖し、包囲殲滅する能力を備えている」と題する環球時報記事はこの事実関係を報じるとともに、専門家等の見解として次のように説明を加えています。

○匿名の専門家は、今回演習に関する公の情報は演習の背景、任務及び目標対象を明確にしており、これまでの「公の宣言」とは次の点で大きく異なっている。第一、多くの詳細を明らかにし、対象性を突出させている。第二、決心・意志を表明し、戦略性を突出させている。第三、能力のレベルを体現し、デタランス性を突出させている。
○台湾のネット・メディア「新頭壳新聞」は17日、次のように分析している。今回の解放軍の演習がこれまでのものと異なる最大のポイントは、大陸沿海部に局限せず、バシー海峡を直接またいで台湾東南海域にまで及んでいることだ。台湾防衛分野シンクタンク・国防安全研究院の蘇紫雲は、解放軍が台湾島東南海域で演習した目的は米軍がバシー海峡から南シナ海に至るシー・レーンを遮断することにあると推定した。
○公開報道から明らかなことは、東部戦区が台湾島及び台湾海峡で多軍種連合訓練を行うことはまれではなく、常態化していると言えることだ。現実に、2020年2月、8月及び9月にも東部戦区は類似の多軍種演習を行った。しかし、演習自体は常態化しているが、演習における戦法は千変万化している。今回の演習に関して一人の専門家は、兵力配置が台湾島の東南及び西南であるということは、解放軍が台湾本島全域を封鎖し、包囲殲滅する能力をすでに備えていることを表していると述べた。また、発表文から見て取れるように、今回の演習時間が短いということは、今回の演習が定点一掃を目標とし、外科手術式の精確打撃、速戦速決で短時間内に目標を達成するものであることを読みとることができる。
○軍事専門家の宋忠平は次のように述べた。台湾問題の解決は東部戦区だけが参加するものではあり得ず、多くの戦区がかかわることになるだろう。常態化演習によって熟練、精錬が可能となり、必要となれば演習から軍事行動に即時に転換できる。このような演習においては当然に米軍の介入を想定しており、様々な対応策を含んでいる。「現在の演習訓練はもはや単なる威嚇のためではなく、能力を高めて将来的なとっさの必要に備えることにある。」
 日本のメディアも紹介していましたが、8月17日(ウェブ掲載は16日17時43分)付の環球時報社説は、「台湾当局はアフガニスタンから教訓をくみ取る必要あり」と題して、①アフガニスタンのアメリカにとっての地政学的価値は台湾のそれより低いということはあり得ないこと、②現状維持が目的だったアフガニスタンと異なり、台湾有事におけるアメリカの目標は現状変更を目的とするものとなるため、アメリカに求められる決意と犠牲はより大きくなることを指摘して、「アメリカはアフガニスタンを放棄できるとしても、台湾は放棄できない」と強弁する民進党の主張を一蹴し、アメリカの使い捨てのコマとならず、政治的に台湾海峡の平和を守る道に戻るように促しています。また19日(同18日17時36分)付の「アメリカが必ず最終的に台湾を放棄するという理由」と題する同紙社説は、以下のように、中国の台湾解放の決心が変わらず、軍事力を今後も増強していけば、アメリカは最終的に台湾を放棄すること間違いなしとして、以下のように述べています。
 第一、アメリカの正式文献でアメリカの台湾防衛を要求しているものはなく、仮にそうするとなれば、これまでの法律的枠組みを突破し、対大国戦争を行うというバクチを行うことになり、第二次大戦以後かつてない戦争動員を行うことになる。
 第二、中国は核大国であり、近海軍事戦闘準備は万全であり、アメリカにとって台湾海峡戦争で勝利する確信はない。事実、アメリカ内での台湾海峡戦争予測もすべて悲観的である。アメリカが第二次大戦後にアジアで戦った主要な戦争はすべて敗北しており、仮に中国と開戦するとすれば、国力をすべて傾けなければならなくなる。
 第三、民進党当局はかつての国民党より弱く、闘志も欠いており、台湾内部での民進党と国民党の対立ははっきりしており、一言で言って、アメリカが支えきることができない能なしである。民進党はその運命をアメリカが台湾を絶対に放棄しないということに賭けており、全島挙げて「玉砕」することは考えたこともないし、可能でもない。
 第四、台湾はアフガニスタンと違うというが、何の根拠があってそう言うのか。台湾維持のコストが利益より大幅に高くなるとなれば、アメリカは台湾を放棄する。1949年にアメリカが国民党を放棄したのは支えきれないことが明らかになったからだ。1979年にアメリカが外交的に台湾を放棄したのも、中国大陸と国交を樹立することが冷戦においてソ連と対抗する上でより利益になるからだった。コストが巨大で台湾防衛戦争に勝利する可能性がない場合、アメリカは「痛みが軽い方を取る」のであり、アメリカ人も「台独」のために多くのアメリカ青年が犠牲になることを許さない。
 第五、アメリカが台湾を放棄することは、米中の力関係の変化を承認することではあっても、それ以上の損失を意味するものではない。しかも、この力関係の変化は隠しようもないことだ。したがって、両岸統一を受け入れることはアメリカにとって苦々しいことではあっても、それは柿が熟して落ちるということなのだ。
 第六、大陸が台湾を攻撃するとなれば、朽ち木をなぎ倒す総攻撃となり、数時間で台湾軍隊の抵抗の能力と意思を壊滅させるものとなる。アメリカが反応するまでには必ず一定の時間がかかるし、その間に新しい台湾海峡情勢が速やかに作り出される。アメリカが戦時総動員でその新たな現実をひっくり返すためには、アメリカの国家的命運を賭ける必要があるが、アメリカはそうする理由がない。
 以上を要するに、大陸の「台独」阻止の決意は断固として揺るぎがない以上、台湾当局が仮に「主権独立」を台湾島全体の生命だと見るならば、全民戦争動員モデルに切り替え、軍事費を数倍も増やし、戦争能力を拡充する必要がある。しかし、「小確幸」(村上春樹の造語)に纏綿する台湾社会、政治的内ゲバに明け暮れする彼らは、アメリカが保護してくれる中で中国分裂の目標が実現できると安住している。バカな夢は見ないことだ。