ホワイトハウスは8月11日、「独裁主義反対、腐敗撲滅、人権尊重促進」の3大テーマを主題とするテレビ会議形式の「デモクラシー・サミット」の開催(12月9日-10日。約1年後に第2回サミット-対面-開催)を発表しました。西側メディアが一斉に報道しているように、バイデン政権の反中戦略の一環として行われるものです。さらに重大なことは、このサミットに関しては、ブリンケン国務長官が3月に米下院外交委員会の聴聞会で、「台湾は頑強な民主政体、科学技術の重鎮であり、世界に貢献できる国家だ」と述べて、台湾のサミット参加を招請するという発言を行っていることです。案の定、今回のホワイトハウスの発表に接して、台湾の駐米事務所の蕭美琴代表は早速、アメリカは台湾を重要な「民主的パートナー」と見なしており、台湾のサミット参加について米側と打ち合わせていくと言明しました(13日付環球時報記事)。
私は、ブリンケン・サリバンが主導する対中戦略はもはや「狂」としか形容の言葉が見つからない境域に迷い込んでいると思います。彼らが本気で蔡英文を招くつもりでいるならば、1972年(ニクソン訪中時)、1978(米中国交樹立)年及び1982年(アメリカの対台湾武器売却)の3つの米中共同コミュニケでアメリカが厳粛にコミットした「一つの中国」原則に対する正面切っての挑戦であり、中国は絶対に曖昧にやり過ごさないと私は断言します。果たせるかな、8月13日付(WS掲載は12日20時4分)の環球時報社説「大陸は絶対に蔡英文の「デモクラシー・サミット」参加を許さない」は、米台が暴走するならば「台湾に照準を合わせた大量のミサイル及び多数の爆撃機によって決定的な回答を行い、歴史を書く」という文章で終わる、これ以上はあり得ない内容の警告を発しました。要旨以下のとおりです。
 今日における台湾海峡における軍事バランスは圧倒的に中国が優勢であることは、アメリカ国内の軍事専門家を含めて広く承認されていることです(それが故に、最近、米国防省は中国の攻撃に対応できる多数の迎撃ミサイルを極東(日本が中心)に配備する計画を打ち出しています。アメリカの「誇る」航空母艦群で正面から相まみえる意志がないということです)。私は、最近のアフガニスタンからの撤兵に見られるとおり、今のアメリカには中国と「雌雄を決する」戦争を行う覚悟はもはやあり得ないと思うし、それだけに、ブリンケン・サリバンの前後の見境のない、後先を考えずに突っ走る「狂」気に絶望するのです。かつては米上院で「外交通」として名を馳せたバイデンがブリンケン・サリバンのごとき「若造」の言うがままに動いているのを見ると、「バイデン老いたり」の感を深くします(そんなアメリカに「尻尾を振って無邪気に付き従う」菅首相・茂木外相・岸防衛相の対中跳ね上がり-茂木と岸は確信犯でもあります-に対してはもはや言葉を失います)。

 中国は次のことを明確に態度表明する。すなわち、我々は絶対にアメリカがこの会議への蔡英文参加を要請することを受け入れない。彼女が各国元首・政府首脳と共にこの会議に参加し、同じスクリーンに登場することは一つの中国原則に対する宣戦となる。
 アメリカが台湾の参加を要請するのであれば、APEC方式を参照する必要がある(注)。そうでないと、このサミットは台湾問題干渉の深刻なエスカレーションとなる。中国大陸は、米台がこのようなやり方でボトムラインを突破することを絶対に座視することはなく、その時は必ず台湾海峡にかつてなかった猛り狂う荒波が出現することになる。
 ここに米台に厳かに告げる。いわゆる「デモクラシー」なるものは、「台独」を安全に押し込むことができる篭ではない。仮にワシントンがアメリカ及び各国の指導者と蔡英文が共同で会合する場面を作るならば、公に台湾の「国家」としての地位を承認するに等しく、台湾海峡地域の政治的現状を外部から打ち壊すものである。中国としては断固とした措置を取るほかなく、決定的な真正面からの反撃を行い、一つの中国原則を防衛する。
 1995年、当時のいわゆる「総統」李登輝が母校であるコーネル大学校友会活動参加の名目でアメリカを訪問することについて認められたとき、深刻な台湾海峡危機が醸成され、解放軍は台湾島の周囲にミサイルを打ち込んだことがある。仮にバイデンが蔡英文のサミット参加を招請して登場の一幕となれば、その質はさらに深刻であり、わが方としては1995年の時よりもはるかに激烈な反応を行ってバランスを取るほかなくなる。仮にその一歩にまで至るのであれば、わが方の反応は一時的臨時的なものではなく、反「独」促統(独立反対統一促進)という長期的効果を作り出すことに必要なものとなる。
 最近の米台共謀は不断に「サラミ戦術」的に突き進み、しかも大事をしでかそうとする野心をにじみ出している。しかし現在は、中国大陸が「台独」を抑え込む手段と資源が急速に伸びている時期でもある。複雑な情勢に直面して、我々は刀を抜き、実際行動で米台の気炎に打撃を与え、一つの中国原則の主導的地位を確保する必要がある。そうすることは、他の西側諸国が台湾海峡問題でこそこそした動きを取らないようにする上でもこの上なく重要である(浅井:最近日本が働きかけて、イギリスの航空母艦群及びドイツの戦艦が南シナ海で行動しているケースが念頭にあることは間違いありません)。
 我々が幾度となく警告したとおり、米台が結託して一線を越えるならば、解放軍戦闘機が台湾島上空を飛び越えていくことになるだろう。こうすることは極めて震撼力を備えた、かつ、極めて現実的な実行可能性を持った措置であり、明确かつ誤解の余地のない形で台湾に対する中国の主権を宣告し、米台の様々な言葉の遊びや陰謀奸計を圧倒するだろう。そうすることはまた、台湾海峡情勢に明確な方向性を与える意義があり、大陸が台湾海峡情勢を掌握する上で斬新な一頁を開くことになるだろう。大陸がこの一歩を踏み出すためには一つの危機が特殊なチャンスが提供される必要があり、蔡英文がバイデンの招請を受けてこのサミットに参加するとすれば、それは正にそうしたチャンスとなるだろう(浅井:中国が中国軍機の台湾上空飛行を断行する具体的なケースを示したのはこれが初めて)。
 バイデン政権が台湾海峡情勢に対する攪乱を強化するにしたがって、台湾問題の処理のために中国大陸が支払うコストは大幅に増大する。大陸としては「相手のやり方に関係なく自分のやり方で戦う」(中国語:"你打你的我打我的")政策を確実に励行し、米台の些末なゴタゴタから超越して、確固としてわが方の掌中にある、強力なレバーを構築する必要がある。
 米台が以上のようにやり続けていくならば、台湾海峡には間違いなく新たな重大危機が発生する。我々としては、新たな危機が到来したときにすさまじい手段をもって、対決をいとわず、米台ののさばりと怪気炎を徹底的に叩きのめし、勝利の効果を長期的なものにしなければならない。早晩到来するこの高度に激烈な力比べに対応するべく、我々は充分な思想的準備と軍事的準備を行う必要がある。
 我々が期待するのは、米台の突発的な動きが解放軍戦闘機による台湾島飛行という歴史的チャンスとなることであり、それによって台湾本島上空が解放軍機の巡航範囲内に収まるようになるということだ。中国軍機の翼はその下にある土地がすべて中国領土であることを宣告するであろうし、台湾問題を中国との駆け引きの材料としようとする様々な企てを圧制することにもなるだろう。仮に台湾軍が解放軍機に発砲することをしでかすならば、台湾に照準を合わせた大陸の大量のミサイル及び多数の爆撃機によって決定的な回答を行い、歴史を書くということになるだろう。
(注)2020年9月25日の中国外交部定例記者会見で汪文斌報道官は、「(2020年の)APEC非公式首脳会議は史上初のオンライン開催となり、台湾当局が蔡英文氏の参加を目指すと表明」したことに関する記者の質問に対して次のように回答しました。
 「中国台北は、『一つの中国』原則の下で、地域エコノミーという身分でAPECに参加している。APEC非公式首脳会議の開催方式がどうであろうと、中国台北の代表派遣はAPECの関連覚書とルールに則らなければならない。これが、中国台北のAPEC参加の重要な政治的前提である。この問題において、私たちの立場は明確かつ断固たるもので、いかなる側も幻想を抱いてはならない。台湾当局がこれに付け込んでの『現状打破』の企みは、徒労に終わるだろう。」
 汪文斌が言及した「APECの関連覚書とルール」については、私は寡聞にして知りませんでした。ネットでいろいろ検索した結果、在福岡中国領事館WSの「中国とAPEC」と題する紹介に、「1991年10月、中国とこの年度のAPEC高級官僚会議議長(韓国外交部次官補)と諒解覚え書きを調印し、中国は主権国家として、"中華人民共和国"の名称で、台湾と香港は地域経済実体として、それぞれ"中国台北"、 "香港"(1997年7月1日香港が中国に返還した後は"中国香港")の名称で、同時にAPECに加盟し、台湾の所謂"外交部長"と"外交副部長"はAPEC会議に出席できず、経済関係の部長しかAPEC会議に参加できないことが決定されました。」と記載されているのを見つけました。要するに、台湾は「中国台北」という名前しか使うことはできず、かつ、出席者は「国家」を代表する立場のもの(台湾については総統あるいは外交部長)であってはならない、ということです。これは、中国の台湾の国際的取り扱いの立場に関する私の従来からの理解と一致します。