7月26日、中国外交部の謝鋒次官は天津でアメリカ国務省のシャーマン次官と会談し、その後、王毅外交部長が同次官と会見しました。私が謝鋒及び王毅の発言(中国外交部WS掲載)を読んで直ちに理解したのは、中国はアメリカに対して「もはや堪忍袋の緒が切れた」ということでした。同時に王毅と謝鋒の率直な物言いは、中国が目指している内外政策を極めてクリアにするものであり、私たちの中国観を正す上でも至極重要な内容に満ちていると言えます。
私の以上の理解を裏書きするのは7月27日付(ウェブ掲載は26日18時58分)の「アメリカの傲慢にもはやうんざりの中国人 奥ゆかしさはもうヤメ」(中国語:"中国人受够了美国的狂妄,不再含蓄")と題する環球時報社説の冒頭部分の次のくだりです。

 外交部の対外的な通報の中で謝鋒次官が表明したアメリカに対する強烈な不満はネット上で賞賛を引き起こした。謝鋒はアメリカの「競争、協力、対決」の三分法における本質は対決であり、協力はその場しのぎ、競争は言葉の罠だと論難した。謝鋒は、米側は悪事はやりたい放題、甘い汁は独り占めにしようとするが、世の中にこのような道理があり得るはずがないと述べた。謝鋒はさらに、「実力に基づいて」他国とやりとりするというアメリカの傲慢な姿勢を激しく非難した。
 これまで中国は、中米会談のための良好な雰囲気作りを重視し、双方間で激しい応酬があったとしても対外的に明らかにするとは限らなかった。しかし今回の天津会談では、中国側は謝鋒次官の強硬な発言を直ちに公表し、アンカレッジ会談から開始した中米のやりとりにおける基本姿勢の調整を進めた。それは即ち、中米関係の世論上の雰囲気を維持するために一方的な努力を払わないということだ。
 かかる変化の基にあるのは次のことだ。すなわち、中国社会はアメリカの覇道にはもううんざりであり、予見しうる将来における中米関係の実質的改善にももはや幻想は抱いておらず、中国の人々は、中国が対米関係で民族の尊厳を防衛し、米側の様々な挑発に断固反撃し、硬には硬でお返しすることを強く支持しているということである。アメリカの最近二つの政権が行ってきた悪辣な対中圧迫対決政策に対して、中国人民は一致団結、アメリカに屈服しないで対応することによるコストを請け負い、闘いの中で国家の未来を勝ち取ることを願っている。言いかえれば、アメリカが中国に対して仕掛ける衝突のそれぞれについて、中国政府が強硬を極めるいかなる反撃を行うとしても、中国社会は一つとなって無条件で支持するだろう。
 (ちなみに、以上の後に、「アジア太平洋のアメリカの同盟国・友好国、特に日本とオーストラリアは、時と情勢とを判断し、アメリカの中国抑え込み政策にかけ参じる片割れとならないこと、自らを対中国対決の突出した位置に置かないことを我々は希望する。さもなければ、両国は自国の将来的国運をバクチにかけることとなる。」という文章が続いています。バイデン政権の対中対決政策にのめり込む日本・菅政権とオーストラリア・モリソン首相に対する中国の怒りのほどが窺われます。)
 謝鋒次官の発言は大要次のとおりです。外交部WSの報道文は、「会談は4時間以上にわたって行われ、双方は会談が率直かつ突っ込んで行われたと考え、このような私心のない誠意ある意思疎通を維持したい」という言葉で結んでいます。なお、会談では、気候変動、イラン核問題、朝鮮半島、ミャンマー、麻薬取り締まり等の共通関心事項も話し合われ、シャーマンは一つの中国政策を遵守し、「台独」を支持しないことを再確認したことにも言及しています。
 謝鋒は次のように述べた。中米関係が現在膠着状態に陥り、深刻な困難に直面している根本原因は、アメリカが中国を「仮想敵」と見なし、中国を悪者扱いすることでアメリカ人の国内政治、経済、社会に対する不満の矛先をそらし、アメリカ国内の深層に至る構造的矛盾を中国に転化していることにある。我々は、アメリカがこのような極端に間違った考え、極端に危険な対中政策を改め、中国内政に対する干渉を停止し、中国共産党及びその指導者に対する攻撃を停止し、中国の特色ある社会主義制度に対する攻撃を停止し、中国の核心的利益を損なうことを停止し、中国の発展を抑え込み、圧力をかけることを停止することを促す。
 謝鋒は次のように指摘した。アメリカの「競争、協力、対決」という三分法は、中国に圧力をかけ、打撃を与える「目くらまし手段」である。対決と圧迫が本質であり、協力はその場しのぎ、競争は言葉の罠である。中国から欲しいものがあるときは協力を要求し、自らが優勢にあると考える領域ではディカップリングと供給遮断、封鎖・制裁を行い、中国を抑え込むためには衝突対決もいとわない。自分の関心問題の解決しか考えず、一方的に受益することだけを考え、自分の思いどおりの結果を得ることだけしか考えない。悪事はやりたい放題、甘い汁は独り占めにしようとするが、世の中にこのような道理があり得るはずがない。
 謝鋒は次のように表明した。アメリカは「実力に基づいて」中国とやりとりすると豪語するが、その本質は上から目線であり、嵩にかかって圧力をかけるということだ。この手口はアンカレッジで通用しなかったし、天津ではさらに思いどおりにはならない。対話においては相互尊重、平等相対がマストだ。米側は、中米関係に「ガードレール」を設置して衝突を防止し、回避することが必要だと公言するが、このような行動ルールは双方の協議に基づいて定めなければならず、平等互利原則に従わなければならず、双方の利益を擁護することを導きとしなければならず、双方に対して拘束力がなければならないのであって、アメリカが一方的に中国に対して行動の境界を設定するということは許されない。アメリカが言う「ルールに基づく国際秩序」の維持とは、アメリカその他の少数の国が勝手に定める「内部ルール」を国際ルールに飾り立て、それを以て他国を縛り付け、圧迫しようとするものであり、理不尽なことをし、ルールを勝手に変え、他人に枠をはめて自らの利益を図ろうとするものであり、要すれば、弱肉強食、大を以て小を欺く「ジャングルの法則」を行おうとするものである。アメリカは何を以てグローバル・デモクラシーのスポークスマンを自任し、何を以てグローバル・デモクラシーの基準を定め、何を以て他国に制裁圧力をかけるのか。アメリカはまず、顧みて自らを反省し、自らの民主人権問題を真剣に解決するべきである。
 謝鋒は次のように述べた。中国はアメリカを打ち負かそうと思ったことはついぞなかったし、アメリカを弱体化させてアメリカに取って代わるというような「大戦略」を持ったこともなく、そういう類いの見方は「陰謀論」そのものであって、アメリカが疑心暗鬼になる必要はさらさらない。中国はアメリカと敵対しようと思ったことはかつてなく、アメリカと軍備競争をするつもりもかつてなく、アメリカと対抗する軍事同盟を組織したこともかつてなく、イデオロギー及び発展モデルを輸出することもかつてなく、アメリカの内政に干渉することもかつてない。同時に、アメリカも中国を負かそうとするべきではなく、ましてや中国の分裂崩壊、体制転換を望んだりするべきではない。百年の実践が充分に証明しているとおり、中国共産党は世界でもっとも成功している政党であり、中国の特色ある社会主義は中国にもっともマッチし、もっとも成功している発展の道である。中国共産党は中国人民の大救世主であり、平和安定、発展繁栄の中国は世界の福の神である。
 謝鋒は次のように強調した。中国はアメリカが新型コロナ・ウィルス発生源追究問題を政治問題化し、推定有罪及び中傷で罠に陥れることに断固反対する。コロナは世界の多くの地点で発生しており、多くの地域で調査しなければならない。アメリカはコロナ拡散が格別に深刻な国であり、発生源追究における死角となるべきではなく、率先して調査を受け入れるべきであり、特にフォートデトリック・バイオラボのウィルス流出、2019年7月のウィスコンシン州で大規模に起こった電子たばこ肺炎及びアメリカの海外200カ所の生物実験センターについて徹底的に調査するべきである。さらにアメリカは、科学調査の邪魔をすべきではなく、デマを飛ばすべきではなく、特定国に罪を着せ、WHOや専門家、科学研究機関を脅迫して自分に都合が良い結果を出させてはならない。
 謝鋒は次のように指摘した。「一つの中国」原則は中米国交樹立及び中米関係の土台である。台湾問題をどのように処理するかについては、中米の3つの共同コミュニケに明確な規定がある。アメリカは最近台湾問題でコミットメントに違反し、立場を後退させており、火遊びを行っている。いかなる者であれ、中国人民の国家主権及び領土保全を防衛する確固たる決意、頑強な意志、強大な能力を過小評価するべきではない。「台独」に反対し、これを制止することによってのみ台湾海峡の平和がある。
 謝鋒は次のように表明した。アメリカは中国が新疆で「ジェノサイド」と「強制労働」を行っていると中傷するが、これは完全なでっち上げである。過去40年間、新疆ウイグル族の人口は倍増し、寿命も倍増し、生活はますます豊かになり、教育水準もますます向上しており、このような「ジェノサイド」がこの世にあり得るはずがない。人々は職業教育訓練を受け、テロ思想を取り除き、知識と技能を身につけて社会復帰し、創業致富を実現しており、このような「強制労働」がこの世にあり得るはずがない。アメリカがインディアンに対して行った犯罪こそがジェノサイドの反人類罪である。アメリカは自らの原罪を反省し、是正するべきである。
 謝鋒は次のように述べた。中国はアメリカが香港問題にかかわって不法な制裁を行うことに断固反対する。アメリカは香港がすでに中国に復帰した現実を正視しようとせず、香港を「独立」「半独立」の政治実体とみなそうとし、中国に対する破壊、浸透、転覆の「橋頭堡」に仕立て上げようと企んでいる。香港を貶め、一方的に制裁する手口で香港を揺るがすことはできないし、中国が推進している「一国二制」の決意と確信を揺るがすこともできない。香港同胞を含む14億の中国人民は幽霊を恐れず、悪を信じることもなく、いかなる外からの圧力といえども、過去はもちろん、現在においてはなおさら恐れおののくことはない。
 謝鋒は次のように指摘した。アメリカは少数の国々を糾合して中国が「悪意あるサイバー攻撃」を発動しているとねつ造しているが、これはまったく根も葉もないことであり、「注意をそらして自分は逃げよう」とするものだ。アメリカは世界のインターネットの技術と力がもっとも集中している国であり、サイバー攻撃がもっとも激しく、サイバー盗難がもっとも多い国である。中国は主要被害者の一つだ。アメリカこそが今日の世界における「マトリックス」であり「盗聴帝国」であり、アメリカのいわゆる「クリーンなネット」にはいささかのクリーンさもない。アメリカは直ちに中国及び全世界に対するサイバーによる盗難及び攻撃を停止し、サイバーセキュリティ問題で中国に濡れ衣を着せることをやめ、手段を選ばず中国企業に打撃を与えることをやめるべきである。
 謝鋒は次のように表明した。今日の世界に必要なのは団結協力、同舟共済である。中国人民は平和を愛好し、新型国際関係及び人類運命共同体の構築を積極的に推進している。アメリカは態度を改め、中国と向き合い、相互に尊重し、公平に競争し、平和裡に共存することを選択するべきである。健康で安定した中米関係は両国の利益に合致するだけではなく、国際社会がこぞって期待することでもある。
 中米外務次官レベルの会談の後、王毅外交部長が天津でシャーマンと会見しました。謝鋒次官が米中間で争点になっている「各論」について中国側の立場を詳論したのに対して、王毅外交部長は米中関係に関する中国の立場を「総論」的に論じています。なお、シャーマンは王毅に対しても、アメリカが「一つの中国」政策を堅持し、台湾の「独立」を支持しないことを重ねて述べたと紹介されています。王毅発言の大要を紹介します。
 王毅は次のように表明した。現在の中米関係は深刻な困難と挑戦に直面しており、次の一歩は衝突対決に向かうか改善発展に向かうかであって、アメリカは真剣に考え、正しい選択を行う必要がある。あなたの今回の訪中は中米接触対話の一環であり、双方は絶え間ない対話を通じて理解を増進し、誤解をなくし、誤った判断を防止し、互いの違いをより良く制御するべきである。
 王毅は次のように述べた。米新政権は総じて前政権の極端で誤った対中政策を継続しており、不断に中国のボトムラインを挑発し、中国に対する封じ込めと圧力を強めている。中国はこれに断固反対する。これらの問題が出現するのは、畢竟するに、アメリカ側の対中認識に問題が現れており、中国を主要なライバルと見なし、ひいては敵に仕立て上げ、中国の現代化プロセスを阻止し、断ち切ろうとしていることに原因がある。このような狙いは今も実現できっこなく、将来はなおさら実現できっこない。
 王毅は次のように強調した。私は明晰かつ明确にアメリカに告げる。中国の発展と振興は巨大な内生的動力を持ち、歴史的推移における必然の趨勢である。中国の特色ある社会主義は中国の国情と必要に完全にマッチしており、すでに巨大な成功を収めたし、今後もそれが続くだろう。中国共産党は中国人民と血肉のつながりであり、命運を共にしており、一貫して14億の中国人民の内から発する擁護と支持を得ている。中華民族の偉大な復興はすでに逆戻りしようがない歴史的プロセスに入っており、いかなる勢力、いかなる国家といえどもこれを阻止することはできない。中国各族人民が現代化に向かって歩むことは人類文明の進歩の偉大なプロセスでもあり、いかなる勢力、いかなる国家といえども阻止するべきではない。
 王毅は次のように指摘した。私は明晰かつ明确にアメリカに告げる。中国は引き続き確固として平和発展の道を歩み、互利共嬴の開放戦略を奉じ行い、絶対に国強必覇の古い道を歩まず、アメリカを含む世界各国との共同発展、共同繁栄を願っている。中国は第二次大戦以来の国際秩序の創立者の一つであり、受益者の一つでもあって、他の秩序を打ち立てることもなければ、他のことをやらかすということもない。中国は確固として、国連を核心とする国際システムを擁護し、国際法を基礎とした国際秩序を擁護し、国連憲章の精神と原則を礎石とする国際関係の基本原則を擁護する。
 王毅は次のように述べた。私はさらに明晰かつ明确にアメリカに告げる。中国の発展の目的は中国人民全体のための幸福を図ることである。習近平が指摘したように、人民の麗しい生活への憧れ、これこそが我々の奮闘目標である。中国の発展はアメリカに挑戦しようとするものではないし、アメリカに取って代わろうとするものでもない。我々はアメリカと勝ち負けを争うことに興味を感じたことはないし、中国の発展がアメリカの衰退を前提として成り立つということでもない。我々はイデオロギー及び発展モデルを輸出したことは未だかつてない。なぜならば、我々には一つの基本的立場があるからだ。それはすなわち、各国は自主的に自国の国情に合致した発展の道を探求するべきであるということだ。
 王毅は次のように指摘した。双方の間に存在する不一致を管理コントロールし、中米関係がさらに下降し、制御不能になることを防止するため、中国はアメリカに対して3つの基本的要求、これはまた中国が堅守する3つのボトムラインでもあるのだが、それを提起する。
 第一、アメリカは中国の特色ある社会主義の道及び制度に挑戦し、これを中傷してはならず、ましてや転覆しようとしてはならない。中国の道と制度は歴史的選択であり、人民の選択でもあり、ことは14億中国人民の長期にわたる福祉にかかわり、中華民族の前途命運にかかわるのであって、中国が絶対に堅守する核心の利益である。
 第二、アメリカは中国の発展プロセスを邪魔し、さらには断ち切ることを試みるようなことがあってはならない。中国人民にも当然により良い生活を過ごす権利があり、中国にも現代化を実現する権利があるのであって、現代化はアメリカだけの専権事項ではない。このことは人類の良識及び国際の正義にかかわる問題である。中国は、アメリカが中国に対して実施している一方的な制裁、高額関税、ロングアーム管轄及び科学技術分野における排除を速やかに取り消すことを促す。
 第三、アメリカは中国の国家主権を侵犯してはならず、さらには中国の領土保全を破壊してはならない。新疆、チベット、香港等にかかわる問題はもともと人権、民主とやらの問題ではなく、「新疆独立」「チベット独立」「香港独立」に反対することは原則的な是非の問題であり、いかなる国家も国家の主権、安全が損なわれることを許すことはあり得ない。台湾問題に至っては重要の中でも最重要の事柄である。両岸は未だ統一していないが、大陸と台湾は一つの中国に属し、台湾が中国の領土の一部であるという基本的事実は一度として変化はなく、また変化はあり得ない。仮に「台独」という挑発をしでかすのであれば、中国はいかなる必要な手段を取ってでもこれを制止する権利を持つ。我々は、アメリカが台湾問題でコミットメントを必ず堅く守り、必ず慎重にことを行うことを懇ろに忠告する。
 王毅は次のように表明した。中米は最大の途上国と最大の先進国であり、双方のどちらも相手に取って代わることはできないし、どちらも相手を打倒することもできない。中米関係はいずれの方向に向かって進むか。我々の意見は極めて明確である。すなわち、対話を通じ、異なる制度、異なる文化、異なる発展段階の二つの大国がこの地球上で平和に共存する道を探し出すということだ。もちろん、互利双嬴であればさらに良い。このことは中米両国にとって大いによいことであり、世界にとっては大きな福音であり、そうでないということは途方もない災難となるだろう。アメリカが客観的で正確な対中認識を確立し、傲慢な偏見を捨て、教師面をすることをやめ、理性的、実務的な対中政策に回帰することを希望する。