7月22日付けの経済日報は、清華大学習近平新時代中国特色社会主義思想研究院の艾四林院長の署名文章「中国式現代化『新道路』の「新」の所在」を掲載しています。私はこれまで、「中国の特色ある社会主義」をどのように理解するかに関する中国側の様々な文章に接してきました。艾四林は、①社会主義初級段階という条件下の現代化問題、②社会主義制度と資本主義制度という制度的条件下の現代化問題、③グローバル化という条件下の現代化問題という三つの問題意識からアプローチすることによって、中国式現代化の「新しさ」がどこにあるかを理解することができる、という斬新な視点を提起しています。私自身、艾四林の文章を読んで頭の中がとてもすっきりしました。私が中国についてお話しする機会があるとき、大国化し、自己主張を強める中国に対する、批判的、懐疑的、当惑的、さらには敵対的ですらある様々な見方に接します。艾四林文章を読むことで、そうした様々な疑問が基本的に根拠のないことを理解できるのではないかと思います。艾四林文章大要を紹介するゆえんです。

 中国式現代化の新しい道という場合における「新」はどこにあるか。この問題に答え、明らかにするためには、三つの前提となる問題を考える必要がある。すなわち、①社会主義初級段階という条件下の現代化問題、②社会主義制度と資本主義制度という制度的条件下の現代化問題、③グローバル化という条件下の現代化問題、である。
<社会主義初級段階という条件下の現代化問題>
 社会主義初級段階という提起は、中国共産党の理論及び実践における重要な革新(イノベーション)であり、マルクス主義発展史上で重要な意義を持つ。ただし、すべての国々がこの段階を経る必要があるということではなく、マルクス主義古典作家が普遍的な社会主義初級段階を想定することはあり得ないし、社会主義初級段階の現代化の道を想定することもまたあり得ない。中国式現代化にとっての基本的前提は社会主義初級段階ということである。したがって次のように言うことができる。すなわち、中国式現代化の道は社会主義初級段階における現代化の道である。
<社会主義制度と資本主義制度という制度的条件下の現代化問題>
 一方において、二つの制度は併存するのであり、したがって現代化のプロセスは、一つの制度がもう一つの制度に取って代わるということではない。もう一方において、先発現代化国家は後発現代化国家に対して一定の影響を持ち、後発現代化国家は先発現代化国家の経験をくみ取り、発展する。したがって次のように言うことができる。すなわち、中国式現代化の新しい道は人類のすべての有益な成果(西側現代化の経験を含む)をくみ取る基礎の上で、西側現代化の道を越えることである。
<グローバル化という条件下の現代化問題>
 グローバル化は後発国家が現代化に向かうことに新しい動力、新しいチャンスそして新しい挑戦をもたらすとともに、後発国家の現代化に対して新しい時代的色彩をも付与する。グローバル化という条件のもとで、国と国との関係及び相互の影響は未だかつてないものがある。したがって次のように言うことができる。すなわち、中国式現代化の新しい道は、このような関係及び影響の下で現代化に向かうものである。
 世界には、まったく同じ2枚の葉はないし、まったく同じではない2枚の葉もない。これすなわち、現代化の道における共通性と特殊性との関係という問題である。習近平が言うように、現代中国の社会変革は、中国の歴史文化の祖型(プロトタイプ)の単純な延長ではなく、マルクス主義古典作家が想定したひな形の単純な踏襲ではなく、他の国家の社会主義実践の再版ではなく、国外現代化発展の複製ではない。したがって次のように言うことができる。すなわち、中国式現代化の新しい道は、畢竟するに、現代化における新しい道である。
 以上の考察に基づいて、次のように概括することができる。中国式現代化の新しい道は次第に新しい特徴を表しつつあり、特に、自主性、全面性、協調性、平和性、包容性等の面に表されつつある。
<自主性>
 西側国家は富裕問題を解決することができるが、「共同(富裕)」「全面(富裕)」の問題を解決できず、一部分の人々、少数の人々の富裕は実現できるが、多数の人々は貧しく、両極化が深刻であり、この状況は西側の現代化プロセスでは消滅せず、逆に拡大する趨勢にある。中国式現代化は人民全体の共同富裕の現代化であり、共同富裕への道において一人たりとも遅れることは許されず、富裕における全面性を体現している。しかも、中国式現代化のプロセスの中では、人民を以て中心とすることを堅持し、終始一貫して人の全面的発展を突出した位置に据えるのであり、人の全面的発展という現代化の実現を求めるのである。
(浅井注) 日本を含む西側の中国批判の一つは中国における貧富拡大です。しかし、確かに貧富は拡大していますが、貧困層の所得・生活水準は確実に年々向上しています。習近平肝いりの絶対的貧困解決政策により、2020年には農村部における絶対的貧困は解決されました。「社会主義の制度的優位性」の一つの端的な例といえると思います。
<協調性>
 西側の現代化は人と自然との間の衝突という問題を解決できず、同時に、資本主義の発展に従ってプロレタリアートとブルジョアジーとの矛盾が不断に激化するので、西側社会の分裂は不断に深まっていく。習近平は、「我々は中国の特色ある社会主義を堅持し発展し、物質文明、政治文明、精神文明、社会文明、生態文明を協調的に発展させる」と指摘する。中国式現代化プロセスにおいては、「五位一体」の総体的配置を統括的に推進する。すなわち、経済建設、政治建設、文化建設、社会建設及び生態文明建設を統括的に推進し、発展の不均衡、不十分という問題の解決に力を入れ、人と自然等との間をより協調せしめ、和諧せしめる。
<平和性>
 歴史的に見るとき、西側現代化プロセスは総じて覇権主義と結びついており、植民、侵略等を伴ってきた。しかし、中国の現代化の道は平和的である。習近平は、「中華民族の血液中には、他人を侵略し、王を称し覇を称える遺伝子はない」、「中国人民は他の国の人民を欺き、圧迫し、奴隷化したことは未だかつてない。過去になく、現在になく、将来にもない」と指摘している。事実においても、数十年来、中国は全速で現代化のトラックを走ってきたが、これは正に世界の平和な環境のお陰である。したがって、過去、現在はもちろん、将来にわたっても、中国式現代化プロセスは終始一貫して平和のプロセスであり、展開していくのは非攻撃的、非侵略的な平和な現代化という新しい道である。
<包容性>
 中国式現代化の新しい道は、現代化の道における西側中心主義を打ち破り、道の多様性、現代化モデルの多様性を明らかにしている。習近平は次のように強調している。「現代化の道には固定したモデルはなく、自己に適合したものが最善であり、サイズに合わない靴を履くことはできない。それぞれの国が自主的に自国の国情に合致した現代化の道を探求する努力は尊重されるべきである。」中国式現代化の道と西側の現代化の道は代替関係にあるのではなく、共存関係にある。我々は西側の現代化を排斥するわけではなく、西側の現代化における有益な経験に学び、教訓をくみ取る。習近平は次のように指摘している。「中国共産党は、すべての平和愛好の国々及び人民とともにあり続け、平和、発展、公平、正義、民主、自由という全人類共同の価値を大いに発揚していく。」全人類共同の価値を堅守し発揚するということは、中国共産党の博大な矜持を示すものである。公平、正義、民主、自由は、近代以来人類が追求する共同価値である。同時に、合作共嬴、共商共建共享等は、中国式現代化の実践に基づいて人類に提供する新しい価値理念である。これらの価値理念は、人類運命共同体建設の不断の推進に伴ってますます影響力とアピール力を備えることになるだろう。さらに見ておく必要があるのは、中国式現代化は途上国の現代化に対して選択できる新しい道筋を提供しているけれども、我々がこのことを他国に押しつけることはないということであり、そのこと自体、中国式現代化の道の包容性を十分に体現している。