菅政権の中国敵視政策の暴走が止まりません。いや、エスカレートする一方です。中国及び韓国のメディアも紹介した、7月13日に発表された防衛白書の表紙(騎馬甲冑武士を描いた水墨画-私は知りませんでしたが、中国・環球時報の記事によれば、「若い人々に人気がある」墨絵アーティスト・西元祐貴によるものとのこと-)を見た瞬間には度肝を抜かれましたが、次の瞬間に頭に浮かんだのは対米追随しか眼中にない菅政権の対中暴走ぶりの歯止めのなさということでした。
 防衛白書そのものには今の段階では接するすべがありません(市販されるまでには時日を要します)。しかし、中国メディア報道の指摘する事実関係は空恐ろしいものです。環球時報が特に注目しているのは、①従来は中国を扱う章節で取り上げていた台湾を、2021年版では初めて「米中関係」の章節の中で単独紹介するとともに、「台湾情勢の安定は日本の安全及び国際社会の安定にとって極めて重要」と述べていること、②東アジアに関する地図の中で今回初めて中国大陸と台湾を異なる色で示していることです。つまり、「一つの中国」原則という、日本が1972年の日中共同声明で遵守を確約した、日中関係を成り立たせる最重要原則にことさらに挑戦する姿勢を際立たせているのです。
 2021年版防衛白書におけるこのような台湾問題の扱いを踏まえるとき、冒頭に紹介した白書表紙の騎馬甲冑武士の図は否が応でも重大なメッセージ性を帯びることになります。環球時報記者の取材に対して、防衛省報道官は「これは、自衛隊の力と我が国の確固とした防衛意志を表す、躍動力と重厚感を備えた騎馬武士である」と説明したといいます(ただし別の防衛省筋は、「刀を振り回すのは専守防衛に悖る」ので手綱を握る姿になっていると補足したとか)。いずれにせよ、騎馬甲冑武士の表紙は中国人に広く行き渡っている「尚武」民族・日本人を彷彿させることになり、「台湾有事の際には集団的自衛権を行使して台湾防衛」という麻生(副総理兼財務相)妄言と直結して、中国・中国人の日本に対する警戒感をいやが上にも高めることになるのです。防衛白書(岸防衛相)の狙いは正にそこにあるのでしょう。自民党タカ派はそうすることで中国・中国人を震い上がらせ、縮み上がらせることができると思い込んでいるのかもしれません。彼らの悲しいまでの中国認識の貧しさ(19世紀以来の「チャンコロ」意識を半歩も出ていない)を窺わせます。
 しかし、21世紀の中国・中国人はもはや19世紀の中国・中国人ではありません。そのことを認識するためには、呂小慶(中国在日本大使館参事官を経て現在は中日関係史学会常務副会長)の7月14日付け環球時報掲載「台湾問題でますます度を超す日本」(中国語:"日本在台湾问题上越来越过分了")はうってつけです。大要は以下のとおり。

 近年、日本の対中政治の右傾化、保守化に伴い、特に第二次安倍政権になってから、安倍の「台湾史観」及び台湾内部の「台独」勢力形成が重なり合って、日本の台湾に対する姿勢は、かつて中日双方が約束し合った「日本は台湾との関係を経済文化面に限る」ことから、次第に政治外交関係にまで発展させてきた。政治面では、多くの高官が台湾問題で声を上げており、ひどいのになると、「重大問題」が発生したら日本はアメリカと共同で台湾を防衛せざるを得ないとまで公言する始末だ。外交面では、日本は台湾がオブザーバーの資格でWHOの世界保健会議に参加することを公然と支持した。今回公開された防衛白書は、台湾問題を日本の軍事レベルまで引き上げるという一つのシグナルである。
 メディアの評価では、日本の台湾政策が以前の曖昧から「ますます明確」へと向かっているとするものがあるが、そうではない。「情勢に阻まれて容易には行えない」(中国語:"形格势禁")という形容が日本の台湾政策の変化を表すのにはふさわしい。ぶっちゃけて言えば、情勢に迫られて不本意なことをしてきたということだ。過去のかなりの時間、日本が台湾問題で取ってきたのは、情勢に阻まれて容易には行えないもとでの自己抑制ともいうべき「こっそり」方式だ。昨年にコロナが爆発して安倍が下野してから、日本が台湾問題でますますしたい放題になってきた背景には、アメリカに従って台湾カードを使い出したという一面があるとともに、日本自身の国家戦略上の要求に基づいているという一面もある。
 第一、中華民族の復興への歩みのスピードが上がるにつれて祖国統一のプロセスも加速しており、中国統一を望まない日本では戦略的な焦りが生まれている。この焦りの根源にあるのは「中強日弱」、つまり日本は衰えつつあり、中国は発展しつつあるということだ。日本が台湾問題でレッドラインを突破する度を超した行動に出るようになっているのはこのためだ。
 さらに、台湾問題は釣魚島(尖閣)問題と密接にかかわっている。台湾が祖国に復帰する日はすなわち釣魚島歴史問題が解決される日であると考える人は少なくない(浅井:中国は尖閣諸島が台湾の一部であると認識しています)。そうであるが故に、日本国内では釣魚島問題で未だかつてない騒ぎとなっており、「尖閣防衛」は日本国民のコンセンサスとまでなっている。
 最新の防衛白書が台湾問題を軍事レベルにまでエスカレートさせたことは中日関係の政治的基礎を深刻に破壊し、さらにはぶち壊す可能性を持っている。1972年の中日国交正常化の核心は台湾問題であり、中日共同声明9項中の3項が台湾関連である。
 第二、台湾問題は中国の核心的利益にかかわることであり、中国の対外関係において「敵か友か」を分けるレッドラインでもある。誰であろうとも、台湾問題で挑発するものは国際関係の原則に違反し、国家関係の常識に違反するものであり、背信棄義の行為である。これは我々が絶対に許さないことである。
 第三、中国人民にとって、台湾問題における日本は特別な意味的な違いがある。台湾は日本が中国侵略戦争を開始した起点である。1874年の台湾侵略から始まって、日本は70年間に及ぶ中国侵略戦争を行った。台湾はまた日本の対中全面侵略の基地であり、跳躍台である。日本の台湾問題にかかわる歴史は、ほかの国家と比べて我々の記憶にとりわけ深刻なものがある。日本が台湾問題について取るすべての動きは中国人民の神経を逆なでし、その常軌を逸した言動は中国人民の怒りを倍増する。
 第四、21世紀に入ってからの台湾内の「台独」勢力は外国の勢力に頼ってのさばってきたが、その外国とは米日であることは中国人民の普遍的コンセンサスである。こうした外来勢力の台湾問題に対する干渉は、逆に中国人民の台湾統一、民族復興実現という求心力をますます高めている。外国勢力が中国統一を妨げているという現実は、今正に成長しつつある中国の若い世代にとっての生き生きとした教材である。しかも、日本が台湾問題で暴走すればするほど、中国人民の中で日本に対する新たな民族的・時代的な記憶がますます形成されていくことになる。このことが生み出す中国人の民族的感情に対する傷跡は無視することができないものになるだろう。
 中国国内の日本に対する民族的反感の激しさを窺わせる一つの事例を紹介します。私は韓国・中央日報日本語WSで知ったのですが、「六軍韜略」というIDの中国ユーチューバーが7月11日の動画プラットホーム「西瓜視頻」に、「台湾統一に日本が軍事的に関与すれば『核打撃日本例外論』を出すべき」と題した5分44秒の映像を載せているのです。私は中国検索サイト『百度』でチェックしましたが間違いありませんでした。このコラムを書いている時点(7月17日)でも載っています。その内容も確認しましたが、中央日報記事は正確に伝えています。日中関係が良好であれば、このような内容の映像は直ちに削除される運命にあるでしょう。しかし、今もなお「健在」であるという事実は一つの明確な対日向けの政治的メッセージであることは間違いありません。以下では同記事を紹介します。私が皆さんに重く考えていただきたいのは、「核先制不使用」は中国の核政策の大原則ですが、「六軍韜略」は日本に対してのみ「核打撃日本例外論」、しかも、「日本が台湾統一を含む中国の国内事務に干渉すれば、無条件に投降するまで核兵器を使用する」ことを主張していることです。菅政権、というより自民党右翼勢力の暴走(質的にかつての関東軍の暴走と同質)がどれほどまでに中国人の民族感情を激発させているかということを、皆さんに是非とも理解していただきたいと願っています。
「問題の映像は「日本が中国の国内事務に軍事的に関与すれば、大陸の台湾統一を含め、必ず日本に核兵器を使用し、無条件に投降するまで引き続き使用を続けるべきであり、その間、平和談判はない」と主張する。検閲が厳格な中国で「核打撃日本例外論」が削除されない点が注目される。最近、日本の麻生太郎副総理兼財務相ら日本の政界で、台湾軍事介入論など強硬発言が増えていることへの中国当局の対応という解釈も出ている。
映像は「中国は60年前、非核保有国に核兵器を使用しないと誓ったが、日本が台湾防御に協力して中国の統一を防げば、中国は国際的な承諾を違反する理由を持つことになる」とし「日本が台湾防御を放棄するまで核攻撃を終えてはいけない」と強調した。
また、映像は日本人の反中感情を日本の政界の問題とした。「六軍韜略」は「安倍首相が執権し、菅義偉首相が引き継ぎながら極右反中路線の道を進み、新軍国主義が日本に蔓延した」とし「日本の高位層が中国の崛起を恐れて絶えず中国に墨を塗り、日本の一般民衆が高位層の誤った指導と影響を受けて中国に悪い感情を抱く日本人が80%を占めた半面、中国民衆の日本に対する悪い感情は40%にすぎない」と主張した。
続いて「日本はすでに中国に戦争を宣言する国民的な基礎を固めた。現情勢が続けば、日本が甲午戦争(日清戦争)をまた起こす可能性が高い」とし、日本発の戦争の可能性に言及した。
映像は「日本核打撃例外論」と共に領土紛争中の尖閣諸島(中国名・釣魚島)と沖縄まで核攻撃の過程で返還されるべきだと主張した。「中国は日本に限り世界に核兵器を使用しないという誓いの例外とし、日本と世界各国に厳重に警告しなければいけない」とし「日本が台湾統一を含む中国の国内事務に干渉すれば、無条件に投降するまで核兵器を使用する。この時、釣魚島と沖縄を返してもらったり独立させ(たりし)なければいけない」とした。
自称軍事専門家の主張に中国ネットユーザーは圧倒的な賛成で歓呼した。2日間で219万ビューを記録し、1万件以上の賛成一辺倒のコメントが付いた。
関心の順序で最も上に表示されたコメントは「作家の観点を強く支持する」とし、バラの花と賛成の顔文字を入れた。愛国主義に染まった中国ネットユーザーは7600件以上の「いいね」で応えた。
「山里的王先生」というIDのネットユーザーは「核兵器の使用は不可能だ。先に中国の領土を核兵器で攻撃しなければ、中国は決して先に核兵器を使用することはできない。通常兵器は使用できる」と反論したが、「いいね」は1800件ほどにすぎなかった。
「日本核打撃例外論」主張を米国のラジオ・フリー・アジア(RFA)が12日、中国では遮断されたフェイスブックに載せたところ、今度は正反対のコメントが続いた。13日午前まで書き込まれた360件ほどのコメントには「核兵器を一度でも使用する日が中国の終末」「日本も核武装をすることができる」など中国を非難する内容が大半だった。」