7月13日付けのハンギョレ日本語WSは、「ユネスコ、日本の軍艦島歪曲に警告状…朝鮮人強制動員が知らされておらず「強い遺憾」」という見出しの記事を掲載し、世界遺産委員会が「明治日本の産業革命遺産」世界遺産登録の後続措置履行状況の点検結果を記した決定文案(44COM/7B.Add.2)において、「2015年7月に日本の23の近代産業施設が世界遺産に登録された際に、日本政府に対して各施設の「歴史全体」が理解できるようにする「解釈戦略」を立てるよう勧告し、これを忠実に履行することを求めた2018年の決定文の内容に改めて言及しつつ、日本が「決定をまだ忠実に履行していないことに対して強い遺憾を表明(strongly regrets)した」と報じました。この記事は、当該決定文案は韓国外交部が12日に公開したと紹介するとともに、「今月16日からオンラインで行われる第44回世界遺産委員会に上程され、22~23日頃に採択される見通しだ」とも伝えています。ちなみに、第44回世界遺産委員会は当初2020年6月に中国・福州市で開催予定でしたが、コロナのために延期されて今回開催される運びとなったとされます。
 ハンギョレ日本語WSは、同日付の「韓日の外交対立の中での登録「ユネスコ世界遺産」とは何か」と題する記事で、「「明治日本の産業革命遺産」とは、明治維新が発生した1860年代末から1910年までの、日本が起こした超高速産業革命の実態を示す、三菱長崎造船所など日本の8県に散らばる23の施設のこと」と紹介するとともに、特に問題となったのは、これら23の施設の中に長崎県の軍艦島が含まれていたためであると指摘しています。同記事はさらに具体的に、①「「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会」の2012年の報告書によると、1944年現在で、この島の地下に造成された海底炭鉱では、500人から800人の朝鮮人労働者が強制労働をさせられていたと推定される。日本の市民団体が発掘した「火葬認許証」によって、1925年から1945年の間に同島で死亡した朝鮮人は少なくとも122人以上いることが確認されている」という歴史を紹介して、韓国国内に強い反対の世論が起きたこと、②最終的には「韓日両国間の熾烈な外交交渉の末、日本政府がこれらの施設で朝鮮人の強制労働が行われたという事実を認めるならば韓国は登録に反対しない、という妥協が成立した。アウシュビッツ強制収容所(1979年登録)のように、否定的な遺産も世界遺産としての価値があるという説得が受け入れられた」、そして③「2015年7月5日にドイツのボンで開かれた第39回ユネスコ世界遺産委員会において、日本大使は、軍艦島などの一部の産業施設において「1940年代に朝鮮半島出身者などが『自らの意思に反して(against their will)』動員され、『強制労役(forced to work)』させられたことがあった。犠牲者を追悼するため、インフォメーションセンターの設置などの措置を取る」と約束した」等の経緯を紹介しました。
 ところが、日本政府は、軍艦島がある長崎にではなく東京に情報センターを作り、しかも、「朝鮮人の強制労働を否定する内容の証言や資料ばかり」(ハンギョレ記事)を展示したために大きな批判を浴びることとなり、世界遺産委員会調査団による後続措置履行状況の点検調査となったというわけです。7月12日付けの聯合ニュースは、調査団の報告を次のように紹介しています。

 全60ページからなる調査団の報告書は、1910年以降の「歴史全体(full history」に対する日本の説明戦略が不十分だと結論付けた。「歴史全体」とは、軍艦島など明治時代の産業遺産を日本人の観点からだけでなく朝鮮半島出身の強制徴用労働者など被害者の視点からも均等に扱うことを意味する。
 報告書は特に、1940年代に韓国人などが本人の意志に反して強制労働をさせられたことが理解できるようにする日本の措置が不十分だと指摘した。
 産業遺産情報センターの展示だけでは、強制労働があったことを日本が認めたと見なすのは難しいと判断したといえる。
 また、報告書はセンターの場所が産業遺産から遠く離れているのに加え、強制労働の犠牲者を悼むために適した展示がないなど、犠牲者を追悼するための適切な措置を取らなかったと指摘。類似した歴史を持つドイツなど世界の模範事例と比べて不十分であり、韓国など当事国との持続的な対話が必要だとした。
 聯合ニュースによれば、以上の報告に基づいて作成された決定文案には、「日本が2018年6月に世界遺産委員会で採択された決定を十分に履行していないことに対する「強い遺憾」(strongly regrets)という表現が盛り込まれた」そうです。
 以上の韓国メディアの報道からは、日本政府の「歴史の事実に対する不誠実きわまる対応」が浮かび上がります。韓国外交部が世界遺産委員会の決定文案を韓国メディアに明らかにしたのは、韓国メディアによる報道を通じて、日本政府がユネスコ予算に対する最大の拠出国である立場を利用して決定文案の「もみ消し」を働きかける可能性を未然に防止するためだと考えられます。第44回世界遺産委員会の議長国は中国であり、中国は菅政権の中国敵視政策の数々(直近の事例は防衛白書における台湾有事の大々的取り上げ)に心底怒っていますから、日本が「もみ消し」を図ってもまともに取り合うことはまずあり得ません。しかし、最悪状態の日韓関係を背景として、韓国政府としては万全を期していると思われます。
 私が以上の事実関係に接したのはもっぱら韓国メディアの報道を毎朝チェックしているおかげです。ネットでチェックしたところ、ヤフー・ニュースがかろうじてハンギョレの記事を紹介しているだけで、大手メディアは「なしのつぶて」です。韓国側報道を鵜呑みにする危険性を踏まえつつも、韓国側からの問題提起があってもなお「だんまりを決め込む」日本のマスコミの対応は、いつもながらのこととは言え、やはり「頭にくる」というのが正直なところです。コラムで取り上げた所以です。