麻生太郎氏(副総理兼財務相)が7月5日、いわゆる「台湾有事」に言及し、日本がアメリカとともに集団的自衛権を行使する可能性に言及しました。私はこの事実を毎朝チェックする中国、韓国等のニュースによって初めて知りました。詳しい発言内容を知ろうと思い、購読している朝日新聞と赤旗(いずれも7日付け)をチェックしましたが、朝日新聞では4面の囲み記事、赤旗は取り上げていませんでした。ネットで検索しましたが、昨日(6日)のNHKニュースの以下の記事ぐらいしかめぼしいものは見当たりませんでした。

2021年7月6日 NHK
"台湾有事「存立危機事態」にあたる可能性"麻生副総理
中国が台湾に侵攻した場合の対応について、麻生副総理兼財務大臣は、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。
麻生副総理兼財務大臣は5日、都内で講演し、中国が台湾への圧力を強めていることを踏まえ「台湾で騒動になり、アメリカ軍が来る前に中国が入ってきて、あっという間に鎮圧して『中国の内政問題だ』と言われたら、世界はどう対応するのか」と指摘しました。
そのうえで「台湾で大きな問題が起きると、間違いなく『存立危機事態』に関係してくると言っても全くおかしくない。日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べ、中国が台湾に侵攻した場合「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。
「存立危機事態」は安全保障関連法で、集団的自衛権を行使できる要件として「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」などと規定されています。
 ちなみに、朝日新聞の囲み記事は以下のとおりです。
(政官界ファイル)台湾海峡情勢巡る麻生氏発言に中国政府が抗議
2021年7月7日 朝日新聞4面
 中国外務省の趙立堅副報道局長は6日、麻生太郎副総理兼財務相が、台湾海峡情勢が悪化した場合に集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたる可能性に言及したことについて、「強烈な不満と断固とした反対」を表明し、日本側に抗議したと明らかにした。
 趙氏は、麻生氏の発言を「誤っており、危険だ。いかなる方式であっても台湾問題に介入することは絶対に許さない」と語った。
 麻生氏の発言は、一昔前ならば即刻クビ(ないし辞職)、内閣総辞職に直結する重大きわまるものです。なぜならば、日本は1972年の日中国交正常化を実現した日中共同声明(第3項)で、台湾は中国の領土の不可分の一部であるとする中国政府の立場を「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と約束しており、麻生氏の今回の発言は日中関係の拠って立つもっとも根本的な両国間の合意を否定してかかるものだからです。「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」ということの意味は、台湾が「中国に返還されることに異議は唱えませんということを日本は約束したという意味」であり、具体的には「台湾独立を日本は支持しないし、「一つの中国、一つの台湾」も日本は支持しません」、「そういう意味での「一つの中国」に日本はコミットします」ということです(外務省条約課長として日中共同声明第8項を起草した栗山尚一氏の説明)。麻生氏の発言は日中共同声明に対する正面からの挑戦であり、同時に、日中関係存立の法的基盤そのものを突き崩すものです。
 私が恐ろしくさえ感じるのは、朝日新聞、赤旗等の感覚マヒであり、麻生暴言、いや妄言に対して野党から厳しい批判が起こらないことに如実に示される日本政治そのものの末期症状です。朝日新聞がごく軽く触れている中国外交部の趙立堅報道官の定例記者会見における発言内容(7月6日)は実は極めて深刻なものです。以下のとおりです。ちなみに、質問者はブルームバーグ通信記者であり、日本メディアの記者ではありません。
(質問) 共同通信によると、麻生副首相は、"重大な問題が発生するならば、日本とアメリカは共同して台湾を防衛せざるを得なくなる、中国の台湾侵略はいわゆる「存立危機事態」と見なされ、その時は日本が集団的自衛権を行使できることになる"と表明した。中国外交部のコメント如何。
(回答) かかる発言は極めて誤ったかつ危険なものであり、中日間の4つの政治文献(浅井:1972年日中共同声明-毛沢東・周恩来-、1978年日中平和友好条約-鄧小平-、1998年日中共同宣言-江沢民-、2008年日中共同声明-胡錦濤-)の原則に深刻に違反しており、中日関係の政治的基礎を損なうものであって、中国は強烈に不満であり、断固反対である。すでに日本側に厳正に抗議した。
 日本軍国主義はかつて中国に対して語り尽くせない侵略罪行を犯した(浅井:ちなみに、麻生妄言の2日後の本日7月7日は1937年に盧溝橋事件が起こった日)。一部の政治屋は今日に至るまで台湾のことを忘れられないでおり、彼らが歴史の教訓を深刻に学び取っていないことを暴露している。
 今日の中国はもはや昔日の中国ではない。我々は、いかなる国、いかなる方式であれ、台湾問題に手を突っ込むことを絶対に許さない。いかなる者も、国家主権と領土保全を防衛する中国人民の強固な決意、確固とした意志そして強大な能力を過小評価しないことだ。
 実は、麻生妄言はいきなり飛び出したものではなく、菅首相の訪米及びバイデン・菅共同声明以来、バイデン政権の対中国対決戦略にのめり込んだ菅首相、茂木外相をはじめとする日本政府「高官」による中国との対決をことさら意識した言行の線上にあるものです。台湾問題に関しては、麻生発言に先だって、中山恭秀防衛副大臣が6月28日、アメリカの保守的シンクタンクであるハドソン・インスティテュートにおけるネット討論会で、台湾を「国家」と称し、「一つの中国」政策を奉じることが正しいかどうか「分からない」と述べ、さらに中国脅威を唱えて日米軍事協力強化を呼びかけ、中国側の強い警戒を引き起こしています。
 すでにご案内したとおり、私は、「梨の木ピース・アカデミー」で「戦後日中関係」についてお話しすることになっています(本日が第1回)。日中共同声明については第3回(8月4日)にお話しする予定をしていましたが、麻生暴言の重大性について皆さんと認識を共有する意味も込めて、第2回(7月21日)に繰り上げることにします。関心を共有してくださる一人でも多くの方が、7月21日だけでも結構ですので、ZOOM講座に参加してくださることを期待しています。