7月2日のコラムで朝鮮半島核問題に関して紹介した王毅外交部長の講演の全文が中国外交部WSに掲載されました。予想どおり、中国共産党100周年の習近平演説を受けて、中国の主要な対外政策について説明するものです。すなわち、100年来の中国共産党の基本的立場(平和発展堅持による世界の平和安定擁護、公平正義堅持による人類の自由解放推進、合作共嬴堅持による各国共同発展促進)を紹介した後、今日の世界情勢の特徴を簡明に指摘した上で、①グローバルな挑戦、②主要地域問題、そして③アメリカ(バイデン政権)を強く意識した、分裂対抗を作り出す動き、以上三つの主要問題に関する中国の原則的立場を明らかにする、という内容です。環境・気候変動問題に関しては、福島第一原発の汚染水海洋排出の動きに対する批判的言及があるのが際立っています。③においては台湾及び香港を取り上げています。
 私は、①グローバルな挑戦(新型コロナ・ウィルス、環境・気候変動、テロリズム)、②主要地域問題(アフガニスタン、ミャンマー、朝鮮半島核、パレスチナ、イラン核)そして③アメリカ(バイデン政権)を強く意識した、分裂対抗を作り出す動き(集団対決、強権政治、内政干渉)に関する、王毅が示した中国の認識、立場及び政策についてほぼ完全に賛同します。特に、一方的な中国との対決戦略に世界を巻き込み、国際的な分裂と対決を煽るバイデン政権の異様を極めた動きを真っ向から批判する王毅の発言は真摯に受け止めるべき内容があります。
 21世紀国際社会を規律するのは国連を中心とする国際システムであるべきであり、国際秩序は国際法によって律するべきであり、世界共通のルールは国連憲章諸原則であるべきです。このことは、1945年に国連憲章が制定されて以来の国際的コンセンサスです。日本外交にいう「国連中心主義」の意味するものも正にそういうことです。ところが、国連設立を主導したアメリカが意図したのは、国連が「アメリカの意のままに動く」時は利用するが、「アメリカの意のままにならない」国連は迂回して(あるいは無視して)行動するというもので、これは1945年から今日まで一貫しています。バイデン政権が強調する「ルールに基づく国際秩序」という時の「ルール」とは、アメリカ(及び西側)が恣意的に定める「ルール」であって、その意図するところは、西側による世界支配を国際社会が受け入れろということなのです。20世紀までの西側支配を21世紀においても貫徹させようとする、21世紀世界の圧倒的・支配的現実に抵抗しようとする見苦しいあがきにほかなりません。王毅は、「各国が共通に認めるのは、国連を核心とする国際システム以外にはなく、各国が共同して守るのは国際法を基礎とした国際秩序以外にはなく、各国が共通して遵守するのは国連憲章の精神及び原則を基礎とした国際関係の基本準則以外にはない」と述べています。それは、米日欧以外の世界的共通認識を確認したものといえるでしょう。
 私たち日本人は、「アメリカ=善、中国=悪」というステレオタイプな見方に囚われることからいい加減卒業すべきです。国際社会の平和と安定そして繁栄を代表しているのはアメリカと中国のどちらなのか。私は、この王毅のスピーチを一人でも多くの日本人が虚心坦懐に読み、そして、この問いに対する正しい答を自ら我がものにすることを願わずにはいられません。そういう願いを込めて、大要を紹介します。

(タイトル)「世界平和を守り、人類の進歩を推し進める」
 (7月1日の習近平演説に言及して)習近平は、歴史をふり返り、未来を展望して、中国共産党は人類の前途命運に関心を持ち、世界のすべての進歩的勢力と手を携えて前進することを強調した。(100年来の中国共産党の基本的立場(平和発展堅持による世界の平和安定擁護、公平正義堅持による人類の自由解放推進、合作共嬴堅持による各国共同発展促進)を紹介した上で)中国共産党は、人類の進歩的事業及び世界の平和と安全のためにさらに大きな貢献をしていく。
 今日、世界は特殊な歴史的な時期に位置している。世紀的な新コロナ・ウィルス(以下「コロナ」)と100年(一度)の情勢変化が交錯して共振し、多国間主義と一国主義とが激烈に争い、グローバル・ガヴァナンス・システムは未だかつてない深刻な調整を経ており、国際の平和と安全は未だかつてない深刻な挑戦に直面している。今日世界で起こっている様々な対抗衝突及びガヴァナンス面でのジレンマを通観するとき、その根っこにあるのは何かといえば、多国間主義の理念が擁護されておらず、国連憲章を基礎とする国際原則が十分に尊重されていないということである。真正な多国間主義を擁護し実践することは、今日の世界の錯綜した複雑な問題を解決し、様々な伝統的及び非伝統的な安全に対する挑戦に効果的に対処する正しい方向性であり、ゼロ・サムの争いを打破し、一国覇権に抵抗し、持久的平和及び共通の安全を真に実現するために必ず経なければならない道である。
 第一、世界の平和と安全のため、我々は喫緊のグローバルな挑戦に共同で対処するべきである。
 当面の急務は、ウィルスに対抗するための「免疫長城」の構築を急ぎ、コロナに早期に打ち勝つことである。コロナはなお世界を襲い、世界76億人の健康と生命を深刻に脅かしている。各国は、人類衛生健康共同体の理念を堅持し、政治的偏見を超越し、いささかの留保もなく国際抗疫協力を行うべきである。日増しに突出するワクチン接種不平等問題に対しては、我々は「ワクチン・ナショナリズム」に断固反対し、ワクチンの生産及び分配の問題を解決し、WHOが推進する「ワクチン実施計画」を支持し、グローバルな「免疫ギャップ」を埋めなければならない。中国は、ワクチンはグローバルな公共品であることを提起し、自ら実践し、これまでに全世界の100カ国近くに対して4億8千万のワクチンを提供してきた。今後も可能性をつくし、途上国に対する提供を高めていく。ウィルスの起源を追究することは厳粛な科学問題であり、世界各国の共同の義務であり、全世界的に展開するべきである。この問題に関しては、政治問題化、レッテル貼り、汚名をかぶせる等の様々な企てに反対しなければならず、医学専門家及び科学エキスパートが各国で調査することを支持しなければならない。そうすることによってのみ、今後の大流行に対処するために必要な経験と教訓を提供することができるだろう。
 グローバルな環境ガヴァナンスは困難に面しており、気候変動は重大なチャレンジとなっている。国際社会は未だかつてない行動が必要であり、「人と自然の生命共同体」を共同で構築し、人と自然の調和共生を促すべきである。中国は経済発展モデルを転換し、緑水青山の生態文明社会を建設することに力を入れている。最近、雲南の(インド)象の群れが移動した際の物語は、ある側面から、中国の環境保護理念の向上、人と自然の調和を明らかにした。中国は2030年までに炭素排出のピークアウトを実現し、2060年までにカーボンニュートラルを実現するというコミットメントを実現することに力を入れている。各国もまた、共通にして各国ごとの責任を負担し、パリ協定を全面的かつ効果的に実現するべきであり、先進国は特に借りを埋め合わせ、途上国に対して資金、技術、能力建設面での支援を行うべきである。中国は「生物多様性条約」第15回締約国会議を主催することになっており、各国とともに、生物の多様性を推進し、世界の生態を保護するために新たな貢献を行おうと考えている。
 近年においては、テロリズム等の安全に対する非伝統的な挑戦が日増しに突出してきている。国際社会は協調を強化し、重点的に総合的な施策を講じ、現象と根源をともに扱い、国連の対テロ戦略及び決議を全面的に実行し、特にテロリズムが生まれる根源を取り除くべきである。中国新疆はかつてテロリズムに襲われた。近年、新疆では法に依拠した予防工作が顕著な成果を収め、4年以上にわたってテロ事件が起こっていない。中国の対テロ事業の成果は国際社会の広範な認識と肯定を獲得しており、いかなるデマ、中傷も事実の前にはまったく無力である。テロとの戦いにおいてダブル・スタンダードは許されず、ましてや特定の国家、民族及び宗教と結びつけることはあってはならない。
 第二、世界の平和と安全のため、我々は共同してグローバルなホット・イッシューの政治的解決を推進する必要がある。
中国は地域及び世界の平和のために尽くすべき責任を果たし、建設的な役割を発揮することを願っている。
 アフガニスタン問題に関しては、もっとも緊迫している課題は情勢の安定を保ち、戦争と混乱が起こることを防止することである。現在、情勢は極めて重大な局面にあり、戦争か平和か、混乱か治安か、という厳しい挑戦に直面している。アメリカは、アフガニスタン問題を作り出した張本人であり、責任を持って情勢の平和的移行を確保するべきであって、責任を他になすりつけ、自分は「はい、さよなら」ということはあってはならない。アフガニスタンと国境をともにする友好国である中国は一貫して、「アフガニスタン人主導、アフガニスタン人所有」という和平和解プロセスを確固として支持している。中国は最近5点からなる提案を行ったが、その核心とは、アフガニスタンの各当事者が国家及び人民の利益を中心とし、内部的な交渉の流れを維持し、可及的速やかに和解のためのロード・マップとタイム・テーブルを明確に実現し、広範にして包括的な将来的政治フレームワークを共同で作り出すというものである。中国は、地域諸国及び国際社会とともに努力して和平和解プロセスを推進し、アフガニスタンが再建のための内生的な動力を発展することを強化し、和平と発展の良性的なサイクルを段階的に実現することを願っている。
 ミャンマー問題に関しては、もっともカギとなるのは内部の対話を促進し、政治的和解を実現することである。ミャンマーの民主への転換プロセスは困難に遭遇しているが、それは根本的に内政問題であり、憲法及び法律の枠組みのもとで、対話協商を通じて政治的に解決するべきであり、再び暴力事件が起こることを回避し、速やかに国家及び社会の安定を回復するべきである。同胞的兄弟として、中国は心からミャンマーの平和と安定を願っており、ASEANによるASEAN方式に基づいたミャンマー情勢の速やかな「軟着陸」推進を確固として支持するとともに、ミャンマーに対しては抗疫及び経済等の援助を共同で提供し、中国とミャンマー各当事者との友好関係を利用して意思疎通と斡旋とを積極的に行っていく。
 朝鮮半島核問題に関しては、もっとも重要なことは平等対話及び平和的解決という大方向を堅持することである。半島核問題は30年近くも延々と続き、曲折と反復を何度もくり返してきた。我々は一貫して、対話交渉と平和解決が根本原則、段階的かつ同じステップで進むことが必須方策、半島の非核化と和平メカニズムの同時推進が正しいプロセス、であると考えている。中国は朝米双方が最近流している情報を重視しており、半島の対話緩和の流れに有利となるすべての言行を支持する。アメリカは、数十年にわたって朝鮮に加え続けてきた軍事的な威嚇及び圧力を反省するべきであり、朝鮮の合理的な関心を正視して解決するべきである。朝鮮が非核化及び情勢緩和についてすでに取った措置を考慮し、アメリカは誠意を持ってこれに応えるべきである。国連安保理もまた、タイミングよく朝鮮に対する制裁決議の遡及条項を起動させ、朝鮮の経済民生状況の改善を助けるべきである。半島の問題は中国の玄関の問題であり、中国はこれまでどおり、半島に長期にわたる平和と安定が実現するまで建設的な役割を発揮していく。
 パレスチナとイスラエルとの問題に関しては、もっとも根本的なことはパレスチナ人民に対して公正な正義が遅々として訪れていないということである。「二国方式」は国際社会の共通認識であるとともに、公正な正義の体現でもあり、「二国方式」の基礎の上で可及的速やかに和平交渉を再開することによってのみ、パレスチナ問題は公正な解決が得られ、中東地域は恒久的な和平を実現することができる。私は、関係国が公正な立場を取り、利己的な利益を捨て良識と勇気を出して、信頼を再建し、和平交渉を勧め促し、人道援助を行うなどの面で果たすべき役割を担うことを促す。中国は中東和平を一貫して心がけ、引き続き公理と道義を堅持する。
 イラン核問題に関しては、最大のカギはアメリカが速やかに核合意(JCPOA)に全面回帰する決断を行うことである。JCPOAは13年にわたる困難な交渉を経て成立したものであり、多国間主義の重要な成果であって、対話協商で紛争を解決する代表的な模範である。アメリカが一方的にJCPOAを脱退してイランに最大限の圧力をかけてきたことがイラン核危機の根源である。問題の解決は問題を生んだものの責任である。アメリカは誤りを正すべきであり、まずは全面的かつきれいさっぱりとイラン及び第三国に対する不法かつ一方的な制裁を取り消し、イランの相応する行動を引き出し、交渉の突破実現を推進するべきである。中国は引き続き建設的にイラン核交渉に参画し、JCPOAが再び正軌道に戻ることを推進するとともに、自らの正当かつ合法的な権益を確固として擁護する。イラン核危機の管理制御は湾岸地域の安全と綜合して考えるべきである。中国はすでに湾岸安全対話フォーラム設立を提案している。その狙いは、各国の合理的な安全上の関心の解決を模索することであり、我々としては各国と緊密な意思疎通を保っていきたい。
 第三、世界の安全と平和のため、人為的に分裂と対抗を作り出すすべての危険なやり方に共同して反対する必要がある。
 本年は冷戦終結30年である。冷戦に勝者はなく、世界が深い傷を受けた。歴史と現実はくり返し次のことを戒めている。すなわち、分裂した世界では人類共同の挑戦に対処するすべがなく、対立した世界は人類に災難をもたらすということだ。我々は対抗を煽り、分裂を作り出す動きに対して断固として抵抗しなければならず、国際及び地域の平和と安全に影響する障碍を徹底的に除去しなければならない。
 我々は集団的対抗に旗幟鮮明に反対するべきである。ゼロ・サムの争いは冷戦思考であり、平和を求め、発展を計り、協力を促す各国の普遍的期待にはとっくに合致しなくなっている。集団的対抗を意図する「インド太平洋戦略」を推進することは地縁争奪の「シマ」を作ろうとするものであり、冷戦思考の復活、歴史の後退であって、ゴミ箱に掃き入れられるべきである。冷戦覇権の古い夢を温めても未来を勝ち取ることはできず、ましてや「より麗しい未来の再建」などは望み得べくもない。各国は共同して、相互尊重、公平正義、合作共嬴の新しいタイプの国際関係を構築するべきである。
 我々は強権政治に旗幟鮮明に反対するべきである。何かにつけて「ルールに基づく国際秩序」維持を唱えて他国に圧力をかけるのは強権政治の焼き直しである。その本質は、自己の意思とスタンダードを他者に強要し、一握りの国家の徒党を組んだ規則をもって普遍的に受け入れられている国際法規則に置き換えようとするものである。基づいている「ルール」とはそもそも何なのか、守ろうとしている「秩序」とはそもそも何なのか、その定義は明確にしなければならず、意味不鮮明ということは許されない。中国の立場は鮮明である。すなわち、各国が共通に認めるシステムは国連を核心とする国際システム以外にはなく、各国が共同して守る秩序は国際法を基礎とした国際秩序以外にはなく、各国が共通して遵守するルールは国連憲章の精神及び原則を基礎とした国際関係の基本準則以外にはない。
 我々は他国の内政に干渉することに旗幟鮮明に反対するべきである。主権及び領土保全を尊重し、互いの内政に干渉しないことは国連憲章中の規定であり、重要な国際関係の基本原則であって、それは世界の平和と安定の基礎であるとともに、途上国が自国の安全を守り、自主的な発展を実現する保障でもある。中国は他国の内政に干渉することはあり得ず、他国の発展を妨げることもあり得ない。同時に我々は、いかなる国家が中国の内政に干渉し、中国の発展を妨げることに対しても絶対に受け入れることはない。今日の中国はもはや100年前の中国ではない。いかなる人、いかなる勢力も、国家の主権、安全、発展の利益を防衛する中国人民の確固とした意志と強大な能力を過小評価するべきではない。  台湾は中国の領土の不可分な一部であり、このことは国際社会公認の基本的事実である。祖国の平和的統一プロセスを推進することは中国政府の一貫して堅持する既定方針である。最近になって、アメリカの一部勢力は台湾問題でリスクを冒そうとしており、不断に台湾独立勢力を放任し、激励している。これは極めて間違った危険なことである。こういう勢力に対して正面から告げる。国家の完全統一を実現することはいかなる者も阻止することのできない歴史の潮流であり、いかなる外部勢力も揺り動かすことのできない時代の大勢である。
 過去数年間、香港社会の乱れが頻発し、暴力的恐怖的行動が横行したが、その主要原因は、一部政治勢力が外国勢力と結託し、公然と「香港独立」を鼓吹し、中国の国家的安全と香港の「一国二制」に対して深刻な脅威となったことにある。中央政府は座視して取り合わないということはできず、香港もまた混迷状態を続けるべきではない。タイミングよく香港国家安全法の立法を推進し、関連する香港特区の選挙制度を改善することは、完全に正当であり、合法的かつ合理的である。香港の法治が回復し、健全になることで、「一国二制」は安定的に発展していくに違いない。