6月25日、中国の呼吸器疾患臨床医学研究センター主任で、中国のコロナ対策に関してももっとも権威ある発言を行ってきた鐘南山氏が、広東省のデルタ型変異株対策の成功、経験、課題等について、メディアの質問に答えました。翌日(6月26日)の中央テレビWS、新華社、中国新聞網は鐘南山の発言内容を紹介しています。私は6月10日と6月25日のコラムで広東省のコロナ事情に関する中国メディアの報道内容をまとめて紹介しましたが、専門家である鐘南山の今回の発言は、デルタ株による感染者の急増が心配される東京(首都圏)における今後の対策を考える上でも参考にするべき内容が含まれていると思いますので、主立った発言内容を紹介します。ただし、素人の悲しさで専門用語の日本語訳が間違っていることが多々あると思います。文脈で判読してください。

○広州ではすでにデルタ型変異株による感染流行を基本的に抑え込んだといえるが、仮に有効な対策が講じられなかったとすれば、広州で730万人程度が感染していただろうというモデル予測がある。
○デルタ型変異株は、感染力が強い、潜伏期間が短い(武漢の時は人体内のウイルス潜伏期間は3日~7日だったが、広州では1日~3日である)、ウィルス量が高い(デルタ株変異株感染者の体内のウィルス量は普通株の場合よりも高い)、病状の進行が早い、などの特徴がある。デルタ型変異株と普通株とを比較すると、感染者体内のウィルス量は100倍になる。広州市における100人以上の患者に対する観察によれば、体内のウィルスが陰性になるまでの時間は13日~15日で、20日以上にもなるものが少数あり、これは普通株の場合が7日~9日であるのと比較するとはるかに長い。感染力が強い、潜伏期間が短い、ウィルス量が高いというデルタ株の特徴により、普通株よりも伝染力は2倍になる。
○広州の戦いにおいては、デルタ型変異株が地域に広がる第一段階の戦いで重要な成果を収めた。
一つは感染チェーンを迅速に精査したことである。5月21日に広東省と広州市の関係部門は、感染の最初の報告を受けた後迅速に疫学調査を行った。その結果、153の病例すべてについてウィルスの遺伝子配列を測定することに成功した(ほかの場所ではこれまでできていないことである)。その結果、ウィルスには「一人のおばあさんに由来する」という相当性があり、感染チェーンが明確にされた。この成果により、我々が取るべき措置について明確なデータ的裏付けが得られた。
もう一つは濃厚接触者の管理に関するものである。これまでの濃厚接触者とは、発病前の2日間に患者といた家族、家の中にいたもの、同じ事務室にいたもの、1メートル以内で食事を共にした、会議していたもののことだった。しかし、ウィルス量が高く、伝染性が強いというデルタ株の特徴に基づき、感染者が発病する前の4日間に、当該患者と同一空間、同一単位、同一建築物にいた者はすべて濃厚接触者とした。この認識の変化に基づき、重点グループが所在する区域ごとに封鎖、ロックダウンの異なる管理モデルを採用することにつながった。
○防疫コントロールの面では、北京の新発地における有効な方法に学んだほか、デルタ型変異株による感染の特徴に基づき、いくつかの創新的な科学的管理措置を講じた。すなわち、①濃厚接触者の概念を変更し、レベルごとに封鎖、ロックダウンなどの異なる管理コントロールのモデルを制定した(上述)。②コミュニケーション・ビッグデータを通じて、初めて全国で「黄色カード」制度を開設し、より精確な監視を実現した。「黄色カード」とは、ビッグ・データの追跡を通じて、重点地域に行ったもの、重点グループと接触があったものには黄色カードを与えるというものだ。③広州、深圳、仏山、東莞などを離れようとするものに対して、48時間(浅井:72時間と報道しているものもあります)核酸検査陰性証明、「健康コード」、グリーン・コード等を義務づけた。④各地域では、その地域のリスクの高さに基づき、グリーン・コード人員のPCR検査の頻度を増やした。こうした措置の結果、6月24日現在、省外への感染の広がりはない。
○「有効な感染抑制」とは、長期にわたって地域の感染例をゼロにするということと同義ではない。監視下にあるチェーン・グループ内でたまに感染者が出るとしても、有効な感染抑制に属する。しかし、監視対象外で感染者が現れるならば、高度に警戒する必要がある。
○デルタ株は感染力が強いので、病院、発熱外来などにおける厳格な措置を講じる必要がある。現在、大多数の都市医院で厳格な要求基準を満たすものは多くない。発熱外来では診察用建物を独立させるなどの物理的措置、出入り口を完全に分ける、風下に位置させるなども必要だ。
○広州では、重点グループをホテルで集中隔離することで多くの問題を解決したが、一般的なホテルでは隔離の要求基準を満たすことができない。全国の80%以上、国外からの旅客が滞在するホテルでは90%近くが基準以下だ。広州当局は目下郊外に、25万平米の「広州国際健康宿泊ステーション」建設を計画している。この施設は5000の個室を設け、厳格な隔離基準に基づいて入境隔離人員を受け入れることになっているが、そういう要件を満たして初めて「隔離ホテル」と言いうる。
○大規模なワクチン接種は、グループ免疫バリアを構築し、コロナを防ぐ重要な手段である。ワクチンの保護率が70%前後とした場合、中国では80%以上の人がワクチンを接種することによって集団免疫バリアを作り出すことができる。確かに、実験結果によれば変異株に対するワクチンの中和能力は下がるが、保護作用は維持している。広東における100人以上の患者に対する初歩的分析の結果、肺炎に発展する、あるいは重症化するといった面で一定の効果が確認されている。中国内地で使用されている3種類のワクチンは従来型の全ウィルス不活化ワクチンで副作用は少なく、安全性が確立している(米英のワクチンについてはさらなる時間をかけて資料を蓄積して初めて明確な答が出せるだろう)し、デルタ株に対しても一定の保護的効果(感染者に対しては60%以上、重症者に対しては80%前後)を持っている。したがって、ワクチン接種には大いに力を入れるべきだ。ちなみに、イスラエル、アメリカ、イギリスの結果から見ても、ワクチン接種後の感染率は顕著に減少している。
○ワクチンを打っても半年後あるいは1年後には抗体が減少するといわれているが、抗体は一つの指標(体液性免疫)にすぎず、ほかにも細胞免疫とか記憶免疫などがある。したがって、体液性免疫が低下したからといっても、それで保護功能が完全に失われるということではない。抗体だけを唯一の指標にするのは不十分である。我々は現在、体液性免疫、細胞免疫、細胞記憶等々の功能指標を用いてワクチンの保護機能について研究しているところだ。