4月15日及び26日のコラムで紹介した「梨の木ピース・アカデミー」で私が担当している6回シリーズの講座の最終回(第6回)を5月12日に行うことになっておりますので、再びご案内させていただきます。第6回は、「21世紀の国際環境と日本外交の可能性-アメリカに振り回されない視点の確立-」と題して行います。今回(最終回)の目的は副題に凝縮されています。前回の講座に際しては、このコラムを読んでくださった方の参加もあったと主催者から聞き及びました。つたない講座ですが、参加していただければとても嬉しいです。講座のレジュメをご紹介します。

第6回 21世紀の国際環境と日本外交の可能性
-アメリカに振り回されない視点の確立-

(はじめに)

 21世紀国際社会が対処しなければならない課題は明确です。ところが、1945年以後の国際関係における盟主であり続けたアメリカは、激変した21世紀の国際環境及びそれが求める国際協力による諸課題への対処の不可避性・必要性が認識できず、相も変わらずアメリカが「世界を仕切る」(=世界の盟主であり続ける)ことに固執しています。トランプ政権の「アメリカ第一主義」とバイデン政権の「国際協調主義」とは「別物」のように見えますが、アメリカの利益・見方を国際社会に押しつける本質において変わるところはありません。
 第二次大戦に敗北してからの日本は、長年にわたる保守政治のもと、「アメリカと一心同体」であることを当然視する(「自明の理」とする)「世論」(注)が支配してきました。そのような「世論状況」のもとで、アメリカは常に「正義の味方」であり、「アメリカと行動を共にしていれば日本は安泰」という見方が支配したままで21世紀を漫然とやり過ごしていこうとしています。
(注)内閣府の世論調査では、「アメリカに親しみを感じる」とする者の割合が84.0%、日米関係が良好だと思う者が86.3%、日本とアメリカとの関係の発展は両国やアジア及び太平洋地域にとって重要だと思う者の割合が97.1%に達しています。
 しかし、「21世紀の国際環境及びそれが求める国際協力による諸課題への対処の必然性・必要性」という視点から見るとき、トランプ政権の「アメリカ第一主義」は当然として、バイデン政権の「国際協調主義」もまた「悪あがき」であり、21世紀国際社会の課題に応えるものでないどころか、課題の解決を妨げ、これに逆行する動きです。私たちはこのポイントをしっかり認識することによってはじめて、①国際社会における日本の立ち位置を見極め、②アメリカの言いなりになる日本を卒業し、③21世紀国際社会の諸課題に対する日本の役割を正確に認識することができます。以上をまとめると、アメリカ特にバイデン政権を無条件で肯定的・好意的に見ることは危険であるということです。

1.21世紀国際社会・北東アジアが直面する(対処を迫られている)諸課題を正しく認識しましょう

(1) 21世紀国際社会の諸課題
① 紛争の平和的解決
*戦争・武力行使の違法化徹底
**21世紀の際だった特徴
***国際相互依存の不可逆的進行
***戦争・武力行使はもはや「政治の延長」「政策遂行手段」ではありえない。
***戦争・武力行使は歴史の「屑箱」に入れる時代
**国連憲章第2条4項の意義
(参考)第2条4項:「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、 いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他の いかなる方法によるものも慎まなければならない。」
*課題
**「自衛権行使」の濫用封じ込めと国際的取り締まり
***自衛権行使の要件の厳格化:国連憲章第51条改定
    (参考)第51条:「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。」
***国際的警察機能の集中・強化
****国連憲章第7章に基づく国連安保理の権限及び機能の強化?
****国際警察機関の創設?
***違反国・者に対する法的処罰
****国際司法裁判所の権限拡大・強化?
****国際軍事裁判所の新設?
⇒日本の役割とは? 私は、憲法違反の存在である自衛隊を廃止するだけではなく、「国際的警察機能の集中・強化」の一環として、自衛隊の実力・組織を国連に提供し、国連軍として衣替えすることを提唱します。
**最大の難問:「力による世界支配」に固執する超大国・アメリカ如何にして改心させるか?
***アメリカが世界支配にこだわる原動力
****「選良意識」:ウィンスロップ「丘の上の町」
****国際政治信条:ゼロ・サムのパワー・ポリティックス
***アメリカに「改心」を促す要素
****世界の多極化の進行(欧州の自立-対米独自性-;G20;BRICS;上海協力機構)
****ウィン・ウィンの脱権力政治を標榜する中国
****大国協調システム
⇒日本の役割とは? 日本はアメリカを「改心」させる巨大な力を持っています。すなわち、第9条に立ち返り、日米軍事同盟の法的根拠である日米安保条約を終了させ、アメリカのアジア太平洋戦略に引導を渡すことができるのです。
② 地球規模の諸問題
*定義:国家による個別的対応では解決できず、国際協力によってのみ解決できる、待ったなしの国際的取り組みが必要な問題群の総称
*類分け
**国際的取り組みが始まっている問題:気候変動・温暖化、様々な遺産の保全
**必要性は認識されているが取り組みが本格化していない問題:国際的貧困、エネルギー、難民、食料、水
**必要性に関する認識が共有されるに至っていない問題:脱原発
⇒日本の役割とは? 私は特に「唯一の被爆国」である日本が率先して脱原発に踏み切ることがとてつもなく大きな国際的インパクトを持つことを指摘したいと思います。
③ 普遍的価値(中国:人類共同価値)
*21世紀の課題:20世紀に普遍的価値・人類共同価値として承認・確立された尊厳・人権・デモクラシーをあまねく実現すること
*問題点の整理と共有
**本質:「多様な顔を持つ普遍的価値」
***欧米諸国の歴史:実現は漸次的・段階的だったこと(無条件的・即時的実現を要求する西側諸国のアプローチは誤り)
***国際人権規約:経済的社会的文化的権利のA規約と市民的政治的権利のB規約
**環境:「中央政府がない国際社会」
***実現の担い手:主権国家の主権者・人民
***国際社会の基本的アプローチ
****「多様な発展段階の主権国家の並存」という国際社会の歴史的現実の承認
****干渉・介入・強制は不可
****国際対話による環境醸成
**保障:国際法
***到達点
****司法:戦争犯罪人に対するアド・ホック裁判⇒国際刑事裁判所
****人権:国際人権法
****取り締まり:ジェノサイド、ハイジャック、国際テロリズム
****救済:過去の人権侵害に対する謝罪・補償
***課題・問題
****法的問題
*****人権侵害と主権免除 (例)「従軍慰安婦」問題
*****人権侵害と請求権協定 (例)「徴用工」問題
*****人権侵害・デモクラシー破壊行為と国家主権 (例)ミャンマー
****政治的問題
*****利用:「制裁」
*****宣伝:米欧ジャーナリズム
⇒日本の役割とは? 私は、日本が韓国との間で問題になっているいわゆる「従軍慰安婦」問題と「徴用工」問題で、主権者・国民が正しい歴史認識に基づいて日本政府の破廉恥な主張に引導を渡し、被害者の尊厳と人権の回復に応じることが真っ先の課題だと確信しています。
④ 大量破壊兵器
*到達点
**生物兵器禁止条約(1975年発効)
**化学兵器禁止条約(1997年発効)
*課題:核兵器
**核デタランスの「虚」と「実」
***「虚」
****アメリカの核固執戦略
****英仏の核戦略
****イスラエルの核戦略
***「実」
****ロシア・中国の対米核戦略
****インドの対中核戦略
****パキスタンの対印核戦略
**核兵器禁止条約:意義と問題
***意義:先駆的意義
***問題
****「悪いものは悪い」?
****「外堀を埋める」?
****核デタランスの「虚」と「実」を無視するアプローチ
*****対米(英仏イスラエル)説得力はゼロ
*****ロシア・中国・インド・パキスタンの立場と「橋を架ける」可能性を自ら封じている。
⇒日本の役割とは? 私たちは、「非核三原則もアメリカの核の傘も」あるいは「第9条も日米安保も」というような、およそ国際的に通用しない曖昧な認識を徹底的に清算することが必要です。その上で、核兵器を廃止できない根本の原因はアメリカの核固執戦略にあることを見極め、アメリカに照準を定める視点を確立することが絶対に必要です。その視点を確立した上で、ロシア、中国に対して働きかけることで、対話の足がかりを作ることが可能になります。
(2) 北東アジアの課題・問題
① アメリカ(バイデン政権)の対アジア(北東アジア)戦略
*目標:アメリカの支配・覇権体制の確立・固定
*戦略:分断と支配
**中国の孤立化・弱体化
**日本の対中動員(日米「2+2」、米日豪印「クアッド」)
**台湾問題の利用
*対中政策
**対決:政治・軍事
**競争:経済
**協力:環境・朝鮮半島
*問題
**アメリカの戦略的利益>北東アジアの平和と安定
**北東アジアの分断・対立の固定(中国と台湾、韓国と朝鮮)
**反中キャンペーン:新疆、南シナ海、海警法、香港
**米中基本合意(「一つの中国」原則)無視
**アメリカが恣意的に設定するルール>国際法(国連憲章、国連海洋法)
**日中相互不信増幅
⇒日本の役割とは? 私たちに必要なことは、アメリカ・バイデン政権の主張・政策を鵜呑みにするのではなく、その主張・政策がもたらすものは北東アジアの政治的軍事的危機であることを見極める眼力です。私たち・主権者は、アメリカの主張・政策とは一線を画す視点を根底に据えることが痛切に求められています。
② 習近平・中国
*目標:社会主義強国の建設
(注)「強国」の意味に関する日中の違いをわきまえることが不可欠。
日本:非難する意味合い
中国:列強に侮られ、蹂躙された歴史を繰り返さないための保証。
**国内:人民を豊かにすること
**対外:外国(アメリカ)に侮られない強い国家を建設すること
*戦略:改革と開放
**改革:中国の特色ある社会主義建設
**開放:ウィン・ウィンの国際協力
*対米政策
**政治:平和共存(互いの体制・制度を認め合う)
**経済:互恵平等
**軍事:抵抗(圧力には屈しない)
*「中国脅威」?
**対米:軍事?経済?ルール違反?台湾?
**対日:軍事?領土?海警法?台湾?
**その他:南シナ海?中印国境?「国際ルール」違反?
⇒日本の役割とは? 私が事実に基づいて確実に申し上げることができるのは、トランプ政権が攻撃材料に取り上げ、バイデン政権が中国攻撃のためにそっくり引き継いでいる中国批判の数々は事実の裏付けがないねつ造ないしはためにする強弁であるということです。私は、私たち・主権者が中国に関する正しい認識を備えることが急務であると申し上げます。
③ 朝鮮半島
*「朝鮮半島の非核化と平和・安定の実現」
**「朝鮮半島の非核化≄北朝鮮の非核化」
**朝鮮半島の平和と安定の実現
***南北の平和共存
***関係大国(米日中ロ)による保証
*アメリカの対朝鮮政策
**オバマ的「戦略的忍耐」? バイデン政権はNo
**「イラン核合意方式」?
**「6者協議方式」?
**トランプ的「一括妥結」? バイデン政権はNo
*朝鮮の対米政策
**最善:アメリカの朝鮮承認・朝鮮の核放棄
**次善:「イラン核合意方式」
**最悪:全面対決
⇒日本の役割とは? バイデン政権は、朝鮮が核を放棄するはずがないという前提に立って、「イラン核合意方式」あるいは「6者協議方式」などによる中間的解決を目指していると言われます。しかし、中国及びロシアは、朝鮮の核保有を固定化することは、日本(及び韓国)の核開発を導くことから断固反対です。朝鮮も、アメリカの朝鮮承認という見返りが得られれば核放棄に応じる用意はあるという基本姿勢です。私たち主権者は、「拉致問題なくして国庫正常化なし」とする安倍・菅政権の硬直した立場を批判し尽くすとともに、「朝鮮半島の非核化と平和・安定の実現」という本道にアメリカを引き戻すことに全力を尽くすべきです。
④ 日本
*北東アジアの見取り図(「可能性の束」)
**現実:「中国vs.米日」
**可能性
***「中日vs.アメリカ」?
***「中-日-米」?
*攪乱要因としての日本
**対米政策:「既成事実への屈服」
**対中政策:「権力の偏重・抑圧の移譲」
**対朝鮮半島政策:「小中華世界」
⇒日本の役割とは? 私たち主権者は、朝鮮半島問題で攪乱要因である安倍・菅政権の政策を改めさせ、朝鮮半島に対する植民地支配という負の遺産を清算する立場を確立しなければなりません。

2.アメリカ・バイデン政権の本質を見極めましょう

① 「国際協調主義」
*「アメリカ人民のための国際協調主義」(ブリンケン)
**オバマ政権まで:自由主義的国際協調
**バイデン政権:アメリカ人民の利益になる限りでの国際協調
*同盟
**オバマ政権まで:世界覇権の確立
**バイデン政権:中国(及びロシア)を総合力で圧倒することに主眼
② 「価値観外交」
*オバマ政権まで:普遍的価値の押しつけ
*バイデン政権:中国(及びロシア)の「強権主義」「全体主義」を批判・糾弾する政策的利用
③ 対日重視(日米同盟)
*オバマ政権まで:世界軍事戦略遂行上の手段
*バイデン政権:対中対決の「先兵」

3.自民党政治と決別しましょう

① 自民党政治と憲法
*憲法3原則の破壊
**国民主権:集団的自衛権行使容認の閣議決定(>憲法96条-憲法改正-)
**基本的人権の尊重:有事法制(>憲法11条-基本的人権-)
**平和主義:集団的自衛権行使への踏み込み(>憲法9条)
*なし崩し的な戦争への道:基地提供-(湾岸戦争)-後方地域支援-(2000年アーミテージ報告・イラク戦争)-自衛隊派遣-(安倍政権:2007年&2018年アーミテージ報告)-集団的自衛権行使容認閣議決定-(菅政権:2020年12月アーミテージ報告)-2021年「日米2+2」&米日豪印(クアッド)首脳テレビ会議&日米首脳会談による反中同盟への踏み込み
② 主権者・国民と日本政治
*国際社会・北東アジアにおける日本の立ち位置を見極める。
**紛れもない「大国」であることを自覚する。
**日本の一挙手一投足が国際関係を動かす可能性を認識する。
**21世紀国際社会の諸課題に率先して取り組むことを国民的コンセンサスとする。
**北東アジアの平和と安定の実現のために日本が何をするべきかについて正しい判断をする。
*アメリカ(バイデン政権)の言いなりになる日本を卒業する。 **バイデン政権の諸政策を正す。
**対米追随政策の自民党政治に引導を渡す。
*21世紀国際社会・北東アジアの諸課題に対する「大国」日本の役割を果たす。
**国際的諸課題
***紛争の平和的解決
***地球規模の諸問題
***普遍的価値
***核兵器
**北東アジアの課題
***アメリカ(バイデン政権)の対アジア(北東アジア)戦略
***習近平・中国:平和・協力の日中関係の構築
****虚構の「中国脅威」論に振り回されない日中関係
****21世紀諸課題の解決と北東アジアの平和と安定に協働する日中関係
***朝鮮半島:自民党政治の3つの誤りを徹底的に正す。
****朝鮮:「拉致・核・ミサイル」に固執する不毛な自民党政治
****韓国:歴史問題の清算に肯んじない自民党政治
****領土問題:ポツダム宣言(第8項)をひた隠しにする自民党政治
(参考)ポツダム宣言第8項
「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、 九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」