私は常々、私たち日本人の思考におけるもっとも重大な問題の一つは「歴史的に物事を見る目」「歴史から学ぶ姿勢」が欠落していることだと考えています。これに対して、いわば「歴史的民」である中国人は、「歴史を以て鑑となす」を自家薬籠にしていることが示すとおり、歴史的に物事を把握し、歴史から学ぶことを民族的遺伝子の中に組み込んでいます。日中関係においてしばしば歴史問題が問題となる原因の一つが「歴史観のあるなし」に起因していることは間違いありません。
 4月27日付けの人民日報は、執筆者を「中国歴史研究院」とする「大歴史観を以て歴史の発展の法則と大勢を把握する」という題名の文章を掲載しました。この文章は、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想を深く学習する」シリーズの中で発表されたものですが、これまでの執筆者は個人であったのに対して、この文章が「中国歴史研究院」という機関名であることは、この文章の重みを物語っています。
「歴史の法則と大勢を把握することによって歴史の主動権を掌握することができる」ということを中心のメッセージとするこの文章は、中国共産党の自己宣伝の匂いがプンプンすることに抵抗を覚える方は多いと推察できますが、それにもかかわらず私たち日本人に正しい歴史観を備えることの重要性を教えてくれます。否みようのない歴史的事実は、今日に至る中国の巨大な成果は、中国共産党が正しい歴史観を以て中国社会の抱える目もくらむような難事業に取り組んできたことで初めて可能になったことです。また、敗戦日本は1970年代初までは高度経済成長を遂げましたが、その後今日に至る約50年間先の見えないトンネルの中でもがいているのは国民的な歴史観の欠落に大きな原因があることも否めない事実だと思います。要旨を紹介するゆえんです。

 習近平は、「大歴史観を樹立し、歴史の大河、時代の大潮、グローバルな風雲の中から変化発展のメカニズムを分析し、歴史の法則を探求し、それにしたがって戦略戦術を提起し、工作の系統性、予見性、創造性を高める」ことを指摘するとともに、「歴史の発展の法則と大勢を把握し、党及び国家の事業の発展における歴史的主動性を掌握する」ことを強調した。
<歴史の大勢を把握し、歴史のタイミングをつかみ、利用する>
 大道を知ろうと欲するのであれば、必ず歴史を以て先としなければならない。習近平が強調しているように、「国家が発展し繁栄するためには、世界の発展の大勢を把握し、それに従わなければならず、これに反すれば必然的に歴史に見放される。」歴史と実践が証明するように、歴史の発展には法則があるが、人はその中において完全に受け身であるということではない。歴史の発展の法則と大勢を把握しさえすれば、歴史の変革のタイミングをつかみ、さらに前進することができる。
 歴史の法則を熟知し、歴史の大勢を把握し、歴史のタイミングをつかみ、時代の潮流に後れをとらないこと、これが中国共産党100年の発展における貴重な経験であり、中国共産党が中国人民を導いて次々と勝利を収めてきた重要な原因である。時間と勢いは我々の側にあること、これこそが我々の定力と底力の所在であり、我々の決心及び信念の所在でもあることを認識するべきである。我々はなお予見しうるあるいは予見することが困難なリスクと挑戦に直面しているが、現実に立脚し、歴史の大勢を把握し、自分のことを巧みに行うことに努力する限り、新たな長い道程の中で輝かしい成果を作りだし、偉大な事業を創造できるにちがいない。
<歴史の方位をはっきり認識し、歴史的自覚を強める>
 歴史の方位をはっきり認識することは大歴史観を樹立する上でなくてはならない要素である。歴史の方位をはっきり認識することは、前進する方向を明確にし、発展の戦略を確定し、歴史的な自覚を強める上での前提条件である。
 党及び人民の事業が位置する歴史の方位と発展の段階を正しく認識することは、党が段階的な中心任務を明確にし、路線方針政策を制定する上での根本的なより所であり、また、党が革命、建設、改革を領導して不断に勝利を獲得してきた重要な経験でもある。党の百年の発展の歴史を振り返るとき、党は歴史の方位に対する正しい認識及び精確な定義を高度に重視してきた。このことこそが、歴史の要所、要所で歴史の発展の大勢を洞察し、党及び人民の事業の不断の勝利獲得を導いたカギの所在である。第19回党大会報告が指摘するとおり、「長期にわたる努力を経て、中国の特色ある社会主義は新しい時代に入った。これが我が国の発展の新たな歴史の方位である。」中国の特色ある社会主義が新たな時代に入ったということは、我が党が歴史の発展の法則及び大勢をはっきり把握していることの歴史的自覚である。「二つの百年」奮闘目標という歴史の合流地点に立ち、今後5年間及びさらに長期の経済社会発展工作を計画する上では、党及び人民の事業が位置する歴史の方位と発展の段階を正確に認識し、我が国の発展環境に起こっている深刻かつ複雑な変化を立ち入って洞察する必要がある。異なる歴史の方位における発展の重点及び発展の目標は自ずと異なる。我々は歴史の方位をはっきり認識し、新発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新発展パラダイムを構築し、質の高い発展を推進し、社会主義現代化国家建設の新局面を不断に切り開いていく必要がある。
<歴史的思考能力を高め、歴史の法則を認識する>
 習近平は、「歴史は最高の教科書である」と強調する。歴史の学習を強化し、歴史の経験を総括し、歴史の法則を認識するためには、歴史的思考能力を高める必要がある。歴史的思考能力とは、歴史を知って今日を測り、未来を予測するということであり、歴史的眼力を用いて発展の法則を認識し、前進の方向を把握し、現実の工作能力を指導するということである。歴史的思考能力を高めるとは、大歴史観を用いて問題を分析し、解決する能力を具体的に体現するということである。
 歴史的思考能力を高める上では、一面的ではなく全面的に歴史と向き合うことが要求される。歴史を研究する上では「全面的な歴史的方法」を堅持しなければならない。毛沢東はこの方法のことを「古今中外法」と呼び、「研究する問題が発生した特定の時間及び特定の空間をはっきりさせ、問題を特定の歴史条件下における歴史プロセスと見なして研究する」とした。「古今」とは歴史の発展であり、「中外」とは中国及び外国、すなわち「己」と「彼」である。
 歴史的思考能力を高める上では、静止的ではなく発展的に歴史と向き合うことが要求される。来たるところを知って、初めて行くべきところが明らかになる。マルクスは次のように指摘している。「人々は自らの歴史を自ら創造するが、それは心の赴くままに創造するわけではなく、自らが設定した条件下で創造するわけでもないのであって、直接遭遇した、既定の、過去から継承した条件下で創造するのである。」歴史は昨日から今日に至り、再び明日に向かうのであって、切り取ることはできない。前に向かう一切について歩んできた道を忘れることはできず、さらに遠くに到り、さらに輝かしい未来に到っても、歩んできた過去を忘れることはできず、なにゆえに歩み出したかを忘れることはできない。歴史的思考能力を不断に高める上では、歴史の連続性に対して深く思考し、過去、現在及び未来が相通じていることをはっきり認識することが求められる。
 歴史的思考能力を高める上では、抽象的ではなく具体的に歴史と向き合うことが要求される。人類の歴史的発展には法則があるが、異なる国家及び民族の発展は必ずしも千篇一律ではない。具体的問題について具体的に分析することを堅持してのみ、正しい結論を得ることができる。中国に関して言えば、独特の文化伝統、独特の歴史運命、独特の国情により、中国が自らの特徴に適合した発展の道を歩むことを必然としている。鄧小平は次のように指摘した。「マルクス主義の普遍的真理と我が国の実際とを結合し、自らの道を歩み、中国の特色ある社会主義を建設する、これが長期の歴史的経験を総括して得た基本的な結論である。」
<人民が歴史の創造者であることを堅持し、人民に依拠して歴史の偉大な事業を創造する>
 唯物史観によれば、人民は歴史の創造者であり、人民こそが真の英雄である。習近平は「民心こそが最大の政治」「党の土台は人民にあり、血統は人民にあり、力量は人民にある」「山河(国家)すなわち人民、人民すなわち山河(国家)であり、人心の向背は党の生死存亡にかかわる」と述べた。人民が歴史の創造者であり、人民に依拠して歴史の偉大な事業を創造するということは、大歴史観を樹立する上での必然的要求である。(中略)
 人民が最終的判定者であることを堅持する。習近平は、「時代が出題者であり、我々が答案者であり、人民が採点者である」と指摘した。人民は党の工作の最高かつ最終の採決者であり、判定者である。国家の発展の道がふさわしいか否かについては、その国家の人民のみが最高の発言権を有する。