私は昨年(2020年)9月21日のコラムで、今回の台湾海峡緊張激化はトランプ政権特にポンペイオ国務長官の「狂」の域に入り込んだ、米中国交正常化における最重要原則(アメリカによる「一つの中国」原則承認)にすら挑戦する対中政策に原因があることを指摘しました。その緊張が今日さらにエスカレートしているのは、バイデン政権がトランプ政権の仕掛けた対中対決政策をそっくり引き継いでいることに最大の原因があることも天下公知の事実です。ところが、「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動」を懸念した上で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とした今回の日米共同声明は、以上の明々白々の事実をことさらに無視し、台湾海峡緊張激化の責任を一方的かつ全面的に中国に押しつけるものであり、中国ならずとも、盗っ人猛々しい、言語道断の極みと言わなければなりません。
 バイデン政権の対中対決政策が今やなりふり構わぬ域にまで入り込んでいることについては4月4日のコラムで指摘しました。バイデン・アメリカは「アメリカ第一主義」である点で本質的にトランプ政権と同じです。その「国際主義」も「アメリカ人民のための国際主義」(ブリンケン)であり、第二次大戦後のアメリカが長らく標榜してきた、世界のリーダーを自任する意味での「国際主義」からはまったく異質なものに変化しています。ところが菅政権はその本質的変化を見極めることができず、そしてまた、自民党政治の本質とも言うべき「中国に対する体質的違和感」もあからさまに表面に浮上して、前後の見境もなくバイデン政権の対中対決政策にのめり込んだ結果が今回の共同声明です。
ちなみに、私は菅政権のコロナに対する無為無策に、この政権は凡庸の極みであり、歴代自民党政権の中でも最悪に属するという印象を深めてきました。コロナ第4波到来が現実になる中、なんの緊急課題もないのに「バイデンが迎える最初の外国首脳」という栄誉(???)のためだけに訪米する意味は皆無と言わなければなりません(菅首相が日本にればコロナ対策が少しはましになる、ということではまったくありませんが)。しかもバイデン政権は、対中対決戦略推進上不可欠な日本の囲い込みに血眼であり、菅訪米はまさに「濡れ手で粟」だったでしょう。菅訪米は日本外交史上「あってはならない外交」の一番手に上がる最悪事例です。菅訪米は犯罪的であると言っても過言ではありません。
 菅政権・自民党政治は、「日中関係が最悪の事態になれば、アメリカは日本を見捨てるはずがない」と思い込んでいるかもしれませんが、今のヨレヨレのアメリカは自分のことで精一杯です。中国を責め立てる限りでは「リーダーシップをとる」意欲満々ですが、中国が不退転、まなじりを決した場合、すなわち台湾海峡あるいは尖閣をめぐる軍事衝突を正面に見据えた場合には「腰砕け」になることは見え見えです。菅政権の単細胞な対米のめり込みは危険極まりないものです。
 中国外交部の趙立堅報道官は、4月16日(菅首相訪米直前)と17日(日米共同声明発出直後)の2回、記者の質問に答える形で中国政府の公式の立場を明らかにしました。また、環球時報も4月15日付けと18日付けで社説を発表しています(前者は台湾海峡問題に対する中国の断固とした立場を明らかにするもの、後者は日米共同声明発出に対するものです)。以下に紹介します。

<4月16日の趙立堅発言>
(日本テレビ記者質問) 報道によれば、日米首脳会談で台湾海峡の平和と安定の重要性等の問題が提起されるという。中国側コメント如何。
(趙立堅) 関係報道に留意しており、日本の指導者の訪米及び日米共謀の中国に対する消極的な動きについて、日米に重大な関心表明を行った。強調したいのは、目下の中米及び中日関係が重要な正念場にあるということであり、国際社会は今回の訪問において米日が対外的にいかなる情報を発出するかを極めて注目しているということだ。中国は米日が正常な二国間関係を発展させることになんの意見もないが、この関係は地域国家の相互の理解と信頼を増進することに資するべきであり、アジア太平洋の平和と安定に有利であるべきで、第三国に向けたものであるべきではないし、第三国の利益を損なうべきではない。
 台湾、香港、南海、釣魚島等の問題に関する中国の立場は一貫しており、明确である。国家主権、安全、利益発展を防衛する中国の決心と意思は盤石である。米日は中国の関心と要求に対して厳粛に対処し、中国内政に干渉し、中国の利益を損なう言動をとってはならず、中国に敵対する「小グループ」を作ってはならない。中国は情勢に応じて必要な反応を行う。
(中国中央テレビ記者質問) 日本のネット上では、日本漁船を釣魚島海域に向けて中国の海警船と衝突させて事を起こし、エスカレートさせて、日米安保条約の釣魚島への適用を強化する措置を推進するべきだとするものもいる。中国側コメント如何。
(趙立堅) 最近、日本側は怪しげな「漁船」なるものを釣魚島海域に出没することを放任しており、これが釣魚島情勢が複雑になっている根本原因である。あなたが言う状況が現実となるとすれば、事を起こそうとする日本の者が釣魚島問題で「わざと事を起こし」、事態をエスカレートさせて、その責任を中国に転嫁しようとしているということだ。
 強調したいのは、釣魚島及び付属島嶼は中国の固有の領土だということだ。領土主権を守る中国の意志と決意は確固としており、中国の主権を侵犯する日本の不法行為には断固とした対応をとる。日本側には、中日間の4つの原則的な共通認識を守り、内をしっかり取り締まり、情勢悪化のエスカレーションを防止することを再度厳粛に促す。
<4月17日の趙立堅発言>
(問) 日米共同声明は、台湾、釣魚島、香港、新疆、南海等の問題について関心を表明した。中国側コメント如何。
(答) 台湾、釣魚島は中国領土だ。香港、新疆の問題は完全に中国内政だ。中国は南海諸島及びその近海域に対して論議の余地ない主権を有する。共同声明は中国内政に乱暴に干渉し、国際関係の基本原則に深刻に違反する。中国はこれに強烈に不満であり、断固反対する。すでに外交チャンネルを通じて米、日に厳正な立場を表明した。
 米日は口先では「自由開放」を鼓吹するが、実際には徒党を組み「小グループ」を作って、集団的な対決を煽っており、これは完全に時代の潮流に逆らった動きであり、地域及び世界の大多数の国家の、平和を求め、発展を図り、協力を促す共通の期待に背くものであり、地域の平和と安定を害する「米日同盟」の本質と狙いについて世人がますます見極めることとなるだろう。
 米日が中国の関心に厳粛に対応し、一つの中国原則を厳守し、直ちに中国内政に対する干渉をやめ、中国の利益を損なうことを直ちにやめることを要求する。中国はすべての必要な措置を講じ、国家主権、安全及び発展の利益を断固として守る。
<4月15日付け環球時報社説「ホンモノの決意がないアメリカ 戦略的曖昧さが好都合」(中国語"缺少真实决心时,战略模糊点对美国好")>
 台湾問題における「戦略的アイマイ」政策を変更し、武力行使による「台湾防衛」を明确にすることを呼びかける声は、アメリカの政界及び学界でますます多くなっている。こういった主張を行うものは、中国がますます武力による台湾統一の能力と意向を強めており、アメリカの「戦略的アイマイ」はもはや北京が行動をとることを阻止できなくなっており、アメリカが決意を明確にすることで北京の誤断を避けるべきだとする。
 アメリカは対中国交樹立以来たしかに台湾に対する戦略的アイマイを維持してきた。すなわち、台湾を支持するが「台湾独立」は奨励しない、一つの中国は承認するが「台湾関係法」で「台湾との非公式な関係」をますます緊密にする、台湾向け武器売却を通じて「保護」を提供するが台湾が攻撃されたときに直接の軍事介入を行うというコミットはしない。アメリカの以上の戦略的アイマイは「台湾のステータス・クオ」の一部となってきたのは事実だ。
 実は、中国大陸の台湾政策には両岸統一という明確な目標はあるが、戦略的アイマイの部分もある。両岸の平和統一を主張するが、武力使用の可能性を排除したことはない。両岸統一のタイム・テーブルはなく、いかなる状況下で武力を使用するかについては、「反分裂国家法」は原則的3条件を示しているが、これらの条件成立の裁定は法律問題であるだけではなく、それ以上に政治的決意である。
 台湾にも戦略的アイマイがある。表面的には「中華民国」の「法統」を維持しているが、民進党当局は「台独」を追求している。台湾が採用している「サラミスライス」戦術は「主権独立」と「現状維持」を段階的にすり替えることを意図したものだ。
 台湾海峡の平和は近年、二つの大きな衝撃に見舞われている。第一に、民進党当局は一つの中国原則を核心とした両岸の「九二共識」を放棄し、台湾海峡の現状を再構築しようとしている。第二に、アメリカは対中政策を根本的に変化し、ますます台湾当局を支持する冒険路線に傾き、これによって中国大陸を牽制し、もって台湾問題の外部環境を変化させてきた。
 大陸側は台湾当局とワシントンの破壊的行動に対抗して台湾海峡地域における軍事デモンストレーションを強化してきたが、これは何よりもまずバランスを失った台湾海峡情勢に対する是正措置であり、一種の戦略的リバランスである。解放軍の軍事闘争準備は台湾海峡緊張の原因ではなく、その緊張の源は政治にあり、台湾当局の「独立」志向と台湾及びアメリカによる一つの中国原則破壊の共謀が根源である。
 今日の台湾海峡の平和は極めて脆弱となっており、アメリカが戦略的アイマイを変えてあからさまな戦略的ギラギラをとることになれば、台湾海峡における戦略的アイマイ・システムはガラガラと崩れ去ることになる。そうなると、大陸としては平和統一の可能性が失われ、全力で軍事闘争を準備し、台湾解放を実現することとなる。
 指摘しておくべきことは、「独立」追求、台湾武力保護、軍事手段による台湾問題徹底解決という3つの決心の中では、第三の中国大陸の決心がもっとも断固としたものであるということだ。その原因は二つある。一つは、台湾問題はアメリカと台湾当局が我々に押しつけたものであり、中国の大量の資源を消耗しているので、「長い痛みは短い痛みに如かず」というロジックはホンモノであり、強烈であるということ。もう一つは、大陸の軍事動員能力は台湾とアメリカが台湾海峡及びその周辺海域で展開できる軍事動員のトータルをはるかに凌駕しており、我々の意志と能力が優位に立っているということ。
 したがって、我々はワシントンに勧告する。ホンモノの決意と能力を欠く戦略変更はするべきではない。アメリカの戦略的ギラギラは中国政府及び中国人民の腰を抜かすことはできず、「台湾独立」という長期にわたったクギを抜いてしまうという断固とした我々の決断を促すだけだ。戦争はしたくはないが、戦争を恐れてはいない。ましてや、主権と領土保全を防衛する正義の戦争ならばなおさらである。アメリカは70年前に中国を見誤った。前轍を踏まないことを望む。
 中国は、「サラミスライス」的「台独」を図り、戦略的にも全力でアメリカの対中封じ込め戦略に加担している台湾政権を長期にわたって容認することはあり得ず、台米がそれでも独断専行するならば、民進党当局を引っこ抜くことは早晩不可避になる。アメリカが戦略的アイマイか戦略的ギラギラか、もはや大したことではなく、台湾というお荷物を肩から降ろすためには大陸は代価を惜しまない。
 仮にアメリカが一部エスタブリッシュメントの主張する戦略的ギラギラに変化して台湾海峡情勢の突発的変化をもたらし、中国大陸が台湾解放の決心を行うときには、ワシントンは二つの選択に臨むことになる。一つは、シンボリックに声を上げるが現実を受け入れることを迫られて、同盟友好国の前で恥をかくこと。もう一つは、中国とハイ・リスクの大規模戦争を行うことであり、そのためにはそうすることによって支払う代価を今すぐ評価しておくべきだろう。アメリカは、台湾は中国の核心的利益であり、中国は絶対に後退しないことを知っておくべきである。
<4月18日付け環球時報社説「米日同盟 アジア太平洋の平和を害する枢軸に」(中国語"米日同盟正成为危害亚太和平的轴心")>
 米日共同声明における基調は共同で中国に対応することだ。声明は米日同盟関係の重要性を大いに語り、同盟を「新時代のグローバル・パートナーシップ」と称した。声明は「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序が直面する挑戦」に共同して対抗することを強調し、インド太平洋情勢を突出させ、この地域で中国が「経済的なもの及び他の方法による威圧」を行っていると非難した。今回の共同声明は1969年以来初めて台湾問題に言及した。
 声明は、「海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている」と賛美した。かかる情緒に訴える記述は偽善の極致である。米日は第二次大戦における勝者と敗者であり、前者が後者を主導する関係にあり、外交面では際だった主従関係の性質であり、今回の声明により、アメリカの極端な対中政策が日本外交に対する強制的主導権を強化し、日本は積極的かつ小心翼々とこれに迎合した。
 日本がアジアにおいてアメリカの中国封じ込め政策にもっとも緊密に付き従う国家となるのには二つの原因がある。一つはすでに述べたように、アメリカは今日まで日本に対して軍事占領を維持し、日本外交はせいぜい「半主権」のレベルであって、アメリカに「逆らう」可能性はほとんどないことだ。もう一つは、日本が中国を封じ込めることにもっとも熱心なアジアの国家ということだ。中国の強大な発展エネルギーに対する羨望と嫉妬、これこそが米日の対中問題上の最大の「共通の価値」である。アメリカの覇権主義的思考は中国が実力においてアメリカに接近することを許すことができないし、日本は中国との対比において再び「二流国家」に転落することに我慢できない。
 近代以後、日本はどれほど中国に加害を重ねたかということを忘れてしまったのだろうか。逆に、中国は日本に危害を加えたことがあるかについて例を挙げることができるだろうか。釣魚島は針の先端ほどのちっぽけな島であり、中日間の領土紛争ではあるが、日本は後生大事に中日間の戦略レベルにまで持ち上げ、日々持ち出して煽っている。面白いのだろうか。
 米日同盟はアジア太平洋の平和に致命的破壊を及ぼす枢軸に変化していく可能性がある。それはかつての独日伊枢軸と同じだ。アメリカの核心的狙いは覇権を維持し、国際法及びルールに反するやり方で中国の発展を封じ込めることにある。アメリカの独断専行は最終的にアジア太平洋の平和を葬り去る可能性があり、日本は徐々にこのアメリカの邪悪な政策の、アジアにおける主要な共犯者となっていくだろう。
 ワシントンと東京は両国及びインド、オーストラリアによる「クアッド」を米日同盟の拡大昇級版にしようと考え、さらにもっと多くの国々を引きこんで中国に共同で対抗し、その中で米日同盟がグローバルな役割を担うことを企んでいる。彼らは「共通の価値観」を口にするが、世界は本来多元的であり、もっとも危険なことは対決、もっとも甚だしいのは集団的対決である。米日はいわゆる「インド太平洋」を引き裂き、対決をこの地域の主旋律にしようとしている。
 彼らがしきりに言う「ルールを基礎とする」ことは大変よいことだが、国連が制定したルール体系がその根拠であるべきであり、米日がルールを定義することはあってはならない。アメリカは中国に対して勝手気ままに貿易戦争の棍棒を振り回し、カギとなるテクノロジー及び製品の供給を絶つことで中国のハイテク産業に打撃を与えているが、これがルールだというのだろうか。アメリカは日本などを引っ張り込んで中国のサプライ・チェーンを排除しようとしているが、これもルールだというのか。さらに、アメリカ以下の西側は勝手に他国の内政に干渉するが、このようなことは国連憲章が奨励しているだろうか。
 日本は過去数年間中国と同じ目標に向かって歩んでおり、中日関係は徐々に正軌道に戻ろうとしていた。ところが現在突然に路線を変え、アメリカの中国封じ込め戦略に加わることで中日関係改善の流れを断ち切った。これはアメリカの圧力によるものであるとともに、日本の戦略的自己膨張の致すところでもある。日本はあまりにも近視眼だ。往時はドイツと結束し、今はアメリカの過激路線に唱和する。日本はまったく教訓をくみ取っておらず、再び自ら対決の渦巻きを作り、その中に巻き込まれている。
 最後に、我々は日本に対して、台湾問題から少しでも遠く離れていることをお勧めする。ほかのことでは外交手腕を弄んでもいいし、合従連衡を弄してもいいが、台湾問題に巻き込まれたら火を招いて身を焼くことになる。巻き込まれ方が深ければ深いほど、日本が支払うべき代価はそれにつれて大きくなるだろう。