4月5日に中国側の申し入れで日中外相電話会談(日本側発表では1時間半に及んだ)が行われました。中国外交部WSによれば、王毅は、「日本が独立自主の国家として中国の発展を客観的、理性的に見ること、中国に偏見を持つ国家に「追随して(中国脅威を)あおり立てる」ことをしないことを希望する」、「日本が新疆、香港などの中国内政に介入することに反対する」、「日本が国際関係の基本原則を遵守し、隣国として中国の内政に対して最低限度の尊重を払うことを要求し、手を伸ばしすぎないことを要求する」と述べました。
 また王毅は、「日本が精神的にもっと前向きになって中国の発展を見ることを希望する」と述べた上で、中国の発展が中国人民の生活をよくするだけにとどまらず、「中国の発展は世界の平和(愛好)勢力の伸長であり、国際協力の有利な要因であり、日本経済の長期にわたる発展にとっても重要なチャンスになる」ことを指摘しました。さらに王毅は、中国は自らが担う国際的義務を常に意識しているとし、「国連を中心とする国際システムを確固として支持し、国際法を基礎とする国際ルールを確固として支持し、真の多国間主義を確固として支持し、国際の公平及び正義を確固として維持する」、「中国は他国の内政に干渉しないし、他国が中国内政に干渉することも許さない」、「中国が擁護するのは中国の主権的権益だけではなく、国際関係の基本原則も擁護するのだ」と敷衍しました。
 その上で王毅は、「ある超大国の意思が国際社会を代表することはあり得ず、この超大国に付き従う少数の国家が多国間ルールを壟断する権利もない。多国間主義を名目にして集団政治あるいは大国対決に血道を上げ、甚だしきに至っては、ウソの情報に基づいて他国に対して気の向くままに一方的かつ不法な制裁を実行することになれば、世界は正邪の区別のないジャングルの法則に後退してしまい、広範な中小国家にとって災難になるだろうし、国際社会の大部分のメンバーは絶対に従わない」と指摘しました。
 ちなみに、6日付けの朝日新聞はこの電話会談の内容について次のように報道しました。もっぱら茂木外相の発言内容を紹介するもので、中国の菅政権に対する厳しい認識・立場が示されたことには一言も触れていません。

 「茂木敏充外相は5日夜、中国の王毅国務委員兼外相と1時間半にわたり、電話で協議した。日本外務省によると、中国の海警部隊に武器使用を認めた海警法や香港、新疆ウイグル自治区の人権状況などについて深刻な懸念を伝えたという。
 日本外務省の発表や同省幹部によると、協議は中国側の要請で行われた。茂木外相は中国海警部隊による沖縄・尖閣諸島の周辺への領海侵入、中国の進出が続く南シナ海の情勢についても深刻な懸念を伝え、具体的な行動を強く求めたという。一方、気候変動問題について対話を深めていくことで一致したほか、北朝鮮情勢に関し、非核化に向けた連携を確認したという。」
 私は3月18日のコラムで、3月16日に行われた日米「2+2」及びその共同声明に対して、3月17日に中国外交部の趙立堅報道官が「強烈不満、断固反対」を表明し、安倍政権を継いだ菅政権に対して抑制された立場を維持してきた従来のスタンスから一転したことを紹介しました。この趙立堅発言が中国政府の菅政権に対する基本的立場表明であることは、翌日(3月18日)付けの人民日報及び新華網が中国外交部WSの発表した趙立堅発言をそのまま紹介したことで裏付けられます。
 中国外交部はその後も厳しい対日発言を繰り返し表明してきました。3月29日の定例記者会見では、菅首相とバイデン大統領との日米首脳会談及びイギリス主催のG7で、菅首相が中国に対して強硬な発言を行う可能性に対するコメントを求められた趙立堅報道官は、「アメリカ及びごく少数の西側同盟国がデタラメ及びウソの情報に基づいて中国の関連機関及び個人に対して理由のない一方的制裁を課していることに対して、中国はすでに厳正な立場を表明し、断固とした対抗措置を取った。我々は、日本が言動を慎み、アメリカの同盟国だからという理由でアメリカに追随し、中国に対していわれのない攻撃をしないことを希望する。そのようなことは日本の利益に合致しない」と述べました。
 4月1日の定例記者会見では、共同通信が「最近行われた日本とインドネシアの「2+2」で、「南シナ海、東シナ海で中国が緊張を激化させる可能性がある行動をとることに、双方は強烈に反対する」、「中国が公布した海警法に対する関心を表明した」と報じたこと、しかし先日インドネシア外相が行ったメディアに対するブリーフィングでは、中国に対する共同報道のような内容は入っていなかったことについてコメントを求められた華春塋報道官は次のように述べました。
 「日本メディアの報道には留意している。実は、日本側の報道があった後、インドネシア側は直ちに中国側に内部的に意思疎通を行い、関係した状況についてクラリフィケーションを行った。
 私が強調したいのは、いかなる国家関係においても、その発展は両国の利益に合致するだけではなく、地域及び世界の平和と発展に対して建設的な役割を果たし、ポジティヴなエネルギーを貢献するべきであって、第三国に対抗するものであるべきではないということだ。我々は最近における日本の中国に対する消極的な一連の動きに対して重大な関心を表明するものであり、もめ事を引き起こすことをやめ、国際関係の基本原則を遵守し、中国に対してデマを飛ばし中傷することをやめ、実際の行動で中日関係の大局を擁護することを要求する。また、日本のメディアが社会的責任と職業上の倫理を守り、ウソの情報を作らず、地域の国家間の対立を煽らず、緊張を作り出さないことを希望する。」
 また、中国国防部の呉謙報道官は3月30日、前日(3月29日)行われた日中防衛部門間の「海空連絡メカニズム」年度テレビ会議についてコメントを求めた記者の質問に対して次のように発言しました。
 「会議の席上中国側は次のように述べた。釣魚島及び付属島嶼は中国の固有の領土であり、日本がどのように目論んでもこの事実を変えることはできない。日本側は釣魚島問題について中国を挑発する一切の行動を停止するべきであり、さらには黒白を転倒して中国に対して逆ギレするべきではない。中国側は、最近における日本の一連の消極的な動きに対しても強烈な不満と深刻な関心を表明するものであり、日本が国際関係の基本原則を遵守し、中国に対してデマを飛ばし中傷することをやめ、実際の行動で中日関係の大局を擁護することを要求する。中国は、海警法制定は中国の正常な立法活動であり、国際法及び国際慣習に完全に合致していることを強調する。」
 「国際関係の基本原則を遵守し、中国に対してデマを飛ばし中傷することをやめ、実際の行動で中日関係の大局を擁護することを要求する」という対日要求の文言は華春塋と呉謙において完全に一致していることは直ちに分かります。つまり、日米「2+2」で、バイデン政権に対する全面支持を明らかにし、同政権の異常を極める対中対決政策に前のめりの姿勢を鮮明にした菅政権に対して、中国はいまや極めて厳しい認識を持ち、かつ、その認識を公然と表明するに至っているということです。冒頭に紹介した王毅外交部長の茂木外相に対する発言は、中国外交No.2(トップは楊潔篪)による、菅政権の対中批判・非難外交に対する総括的批判であり、バイデン政権に対すると同じく、中国が菅政権に対しても一歩も譲らない強い立場を明らかにしたものと言えるでしょう。
 ちなみに、3月17日の趙立謙報道官の対日強硬発言以後、環球時報、解放軍報、中国国防報には日本に対して批判的な文章が次々と掲載されています。4月5日までに目にしたのは以下のとおりです。
<環球時報>
○ 3月23日 胡継平「日本 対中「わだかまり」を解くべし」(胡継平は中国現代国際関係研究院副院長)
○ 3月25日 霍建崗「日本の釣魚島に関する騒ぎ立て 自業自得」(霍建崗は中国現代国際関係研究院日本所副研究員)
○ 3月30日 胡継平・徐永智「中国海警法攻撃 世論を惑わせるもの」(徐永智は中国現代国際関係研究院東北アジア研究所副研究員)
○ 3月31日 詹徳斌「韓国 米日の「朝鮮核芝居」を見極めるべし」(詹徳斌は上海対外経貿大学朝鮮半島研究中心主任)
○ 3月31日 張玉来「最近の日本 冷静さを欠く」(張玉来は南開大学世界近現代史研究中心教授)
<解放軍報>
○ 4月1日 欧翔「日本電子戦部隊 牙むき出し」(欧翔は軍事科学院)
<中国国防報>
○ 3月24日 張岩「日本 「南西電子島弧」建設」
○ 3月31日 楊忠潔「米日軍事装備協力 問題頻発」