私は、日米豪印「クアッド」バーチャル首脳会議が中国の「ワクチン外交」に対抗するべく、「東南アジアを中心に、アジア諸国に新型コロナウイルスワクチン10億回分を2022年末までに提供することで合意した」という報道に接したとき、強烈な違和感を覚えました。まったく同じ違和感を、バイデン大統領が3月31日に2.2兆ドル以上の財政支出(8年間)で老朽化したアメリカのインフラ再建を行うことで雇用造出するという計画を発表した際に、その意義について、「米経済を成長させ、世界で競争力を高め、国家安全保障の利益を促進する」と述べたのは当然として、さらに「中国とのグローバルな競争でアメリカを勝利させる」とまで述べたことを知ったときにも再び味わわされることになりました。
 私が違和感を覚えたのはほかでもありません。中国の「ワクチン外交」に対抗するためにアジア諸国にワクチンを供給する政策を打ち出すという貧弱な発想です。言い換えれば、中国の「ワクチン外交」攻勢がなかったならばクアッドは何もしないというに等しいのです。しかし、WHOのテドロス事務局長は早くも2020年11月に、途上国にワクチンを公平に分配する計画を提唱しています。中国はワクチンを公共財と捉え、国内で積極的にワクチン接種を進める(最近の報道では、例えば、北京市は1000万人以上の市民に接種を行ったとのこと)ことは当然として、これまでに50カ国以上にワクチンを提供するとともに、WHOの計画にも応じているのです。米日をはじめとする西側諸国が中国(及びロシア)のこのような行動を「東西対決」という視点だけで捉え、公共財としての視点を欠落させているのはあまりにもお粗末といわなければならないでしょう。
 また、アメリカのインフラが劣悪な状況にあることは公知の事実であり、その原因は長年にわたって公共投資が貧弱な水準に据え置かれ続けてきたことにあることはバイデンが認めるとおり(「アメリカは、公共投資及びR&DがGDPに占める比率が過去25年間一貫して減少し続けてきた、主要経済国で数少ない国の一つである」)です。したがって、バイデンが大規模なインフラ投資計画を打ち出すのは、雇用政策上のみならずアメリカ経済再建上も不可欠な対策です。ところがバイデンは、この計画を進める必要性を、「世界的リーダーシップを我がものにするチャンスがある市場で、とりわけ中国との競争において、アメリカのイノヴェーション上の優位性を高めるだろう」と述べて、中国との対決・競争という意味を強調するのです。アメリカ国内の対中感情は近年ますます悪化していることはピュー・リサーチの調査結果が示すところですが、純然たる国内問題にまで対中対決を持ち込むバイデンの発想は貧相すぎると思わざるを得ません。
 私が覚えた違和感(超大国アメリカの指導者としては発想があまりに狭量かつ貧相ではないかということ)は、当然のことながら中国も共有するところとなったようです。4月2日付け(WS掲載は4月1日20時17分)環球時報社説「インフラ建設でも「中国対抗」、異常すぎるアメリカ」(中国語:"美国搞基建也要"对抗中国",太错位了")は、「敵を作り、対抗することに血迷うのは、度量の欠けた、消耗型の引き算策略であり、下策に属すること間違いなし。人において然り、国家においてもまた然り」と断じていますが、当然のことでしょう。政治眼に長じた中国から見ると、バイデン・アメリカは赤子のように見えるのではないかと思います。この社説のさわりの部分を紹介します。

 「インフラ建設を行うに当たっては、社会の内在的動力が利害をめぐる争いという阻止力よりも大きくなるべきなのだが、今日のアメリカはそうではない。「中国に勝つ」ことを切り札にして推進力にしようというのでは異常さも極まっており、耳にするだけでも危なっかしい。
 中国が高速鉄道を建設し、ハイウェイを不断に網状にし、インターネット網建設に余念がないのは「アメリカに勝つ」ことを考えたからか?これらはすべて中国国内の検討課題であり、投資の推進力は極めて大きく、中国の人々も総じて大いに支持している。中国のインフラ建設は「軽々と」推進しており、我々が常に注意しているのは建設が過度になり、浪費や債務のリスクが生じることだ。
 今のアメリカでは、国内政策においても至る所で中国の影を持ち出し、国家安全保障のレッテルを妄りに貼り付け、ある産業がおかしいとなればすぐに中国のせいだとする。こういうやり方はナショナリズムを煽ることはできても、問題解決にはほとんど資さない。これが昂じると、中国となればなんでも反対となるだけではなく、「反中であることでのみ政策となる」こととなり、アメリカは道・方向を見失うこととなるだろう。
 アメリカにとって必要なことは自分自身と競うことである。高速鉄道建設を唱えるようになってから十数年経つが、1キロも建設できていないのはなぜなのか。このような低効率が中国とどんな関係があるのか。
 アメリカが本当にインフラ建設投資で盛り上がるようになれば、中国社会はその実現を楽しみにするだろう。なぜならば、アメリカがそうすれば市場の需要を拡大することになり、中国経済の動力拡大にとってもプラス要因となるだろうからだ。ましてや、中米の「力比べ」は本来まずは、それぞれが国内の発展を競うものであるべきであって、互いに外交上の「囲碁を打つ」ことを競うものではない。
 アメリカが注意力の重心を正すことになれば、現在のように「中国の脅威」を誇張することもなく、中米協力のメリットはゼロ・サムの競争よりも大きいことが分かるだろう。バイデンがアメリカのインフラ再建を願っているのであれば、アメリカが望めばという前提で、中国はその計画のパートナーとなることは100%可能である。
 敵を作り、対抗することに血迷うのは、度量の欠けた、消耗型の引き算策略であり、下策に属すること間違いなし。人において然り、国家においてもまた然り。」