3月18日&19日の両日にわたってアラスカで行われた米中両政府の外交トップによる対話は、記者取材の公開の場におけるブリンケン国務長官の外交儀礼無視(しかも事前に了解のあった発言時間を大幅にオーバー)の中国批判発言に立腹した中国側のこれまたストレートなアメリカ批判発言(10分以上の長広舌)、それに対するブリンケンの再度反論発言という異例ずくめの幕開けになりました。ただし、正確を期していえば、今回の対話では双方が激突することは、日本及び韓国でのブリンケンの中国に対する厳しい発言(新疆、香港、南シナ海、中国の「ルール破り」等)の連発、ブリンケンの取り上げた具体的問題に関して中国が一歩も退かない立場を表明していたことから、事前に十分予想できたことです。「異例ずくめ」というのは、その激突が記者取材の場で長々と繰り広げられたことに関して言えることです。
しかし、2日間にわたる会談は、米中双方が一致して今回の対話を積極的に評価する形で終わりました。すなわち、アメリカ側は記者団に対し、「広範囲のテーマについて長時間の極めて率直な会話を行うことができた」、「多くの中国側の行動について我々が持っている重大な関心について中国側とシェアすることができた」 、「我が方の政策、プライオリティ及び世界観を中国側に明確にすることもできた」(以上、ブリンケン)、「我が方のプライオリティ及び意向を明確に説明し、また、中国側のプライオリティ及び意向を聴取する機会を得た。明確な問題意識を持って会談に臨み、明確な問題意識を持って会談を後にしており、ワシントンに戻って我々の立場をよく検討するつもりだ(We were clear-eyed coming in, we're clear-eyed coming out, and we will go back to Washington to take stock of where we are)」(サリバン)と述べました。また中国側も、「双方は、それぞれの内外政策、中米関係及び共通の関心ある重要な国際及び地域問題について、率直で、踏み込んだ、長時間の建設的な意思疎通を行った。双方は、対話がタイムリーかつ有益であると認識し、相互理解を深めた」(中国側発表文)と、対話が実りあるものだったと評価しました。
 このような結果で終わった重要な原因については、上記サリバン発言が間接的に答を与えています。つまり、アメリカ側が今回の対話を中国側に申し入れたのは、バイデン政権の今後の対中戦略・政策を策定する上で不可欠な、現時点におけるアメリカ側の中国に対するプライリティ及び意向を中国側に明確にするとともに、それを受けた上での中国側のアメリカに対するプライオリティ及び意向を詳細に聴取し、把握しておきたいという目的意識に出発点があったということです。
 このサリバンの発言が会談後の「とってつけたもの」の類いでないことは、対話に先だって行われた国務省及び国家安全保障会議の高官による特別ブリーフィングでも、「アンカレッジでの会話は、互いの関心事、失礼、双方の関心事、意向及びプライオリティを理解し、中国がそれらの点についてどうなのかを理解するための最初の議論という位置づけだ」という説明が行われていることから確認できます。この高官は、新疆、香港、アメリカの同盟国及び友好国に対する中国の経済的圧力、台湾海峡等について、アメリカの立場を中国に明確に伝えると述べました。同時に高官は、今次対話はより広範囲にわたる戦略的対話であるとして、バイデン政権が全般的な対中戦略を立案するプロセスの中にあることを明らかにしつつ、パンデミック、気候、イラン、朝鮮などを具体的に挙げて、中国側の考え方を聴取することの重要性を強調しました。
中国側としてもアメリカ側の目的意識は「願ったり叶ったり」であり、バイデン政権成立時から繰り返し表明してきた基本的立場にほかならないわけで、双方の目的意識が一致して理想的な「土俵」が設定されたと言えます。中国の以上の基本的立場に関する私の理解が失当でないことについては、3月19日付け(WS掲載は18日17時29分)環球時報社説が米中対話開始に向けて、「意思疎通は必要だ。なぜならばアメリカの中国に対する判断は全体として間違っており、‥中国としては中国の基本的立場及びその立場を堅持する確信の源についてアメリカに理解してほしいからだ」と述べて、6点の基本的立場及びその確信の源を明確にしていることから確認できます。また、米中対話冒頭の激しいやりとりを受けて書かれた20日付け(WS掲載は19日18時20分)社説でも、「(この冒頭のやりとりのなかからも)積極的なシグナルには事欠かないと考える」とし、「共存及びなんらかの方法による協力展開が中米の唯一の選択だ。望むとか望まないとかではなく、忍耐し、相互の妥協を模索し、よろめきながらでも戦略的ウィンウィンを追求しなければならない」と述べているのです。
 アメリカ側が今次対話において具体的にいかなる発言を行ったかについては、ブリンケンは、中国と基本的対立にあるテーマとして、新疆、香港、チベット、台湾、サイバースペースを挙げるとともに、もっと広範囲のアジェンダとして、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、気候を、また経済問題として、貿易、テクノロジーを挙げました。ただし、具体的発言の中身には触れていません。
 これに対して、3月20日付けで中国外交部WSが発表した「中米ハイ・レベル戦略対話」の発表文では、以下の諸点を強調し、あるいは協議したと紹介しています。
○中国共産党の「執政」は歴史の選択、人民の選択であること。中国共産党執政の地位及び制度を損なうことは触れてはならないレッド・ラインである。
○中国の発展目標は中国人民がよい日々を送れるようにすることであり、これがすべての政策制定の出発点であること。
○中国の特色ある社会主義民主の核心は「人民の当家作主」であること。
○中国はアメリカの政治制度に干渉する意思はなく、アメリカの地位及び影響力に挑戦し、取って代わる意思はゼロであること。しかし、アメリカも中国の政治制度及び発展の道並びに中国の世界に対する影響を正しく見て取るべきである。
○合作共嬴は中国発展の原則であるとともに、対外交流上の黄金原則でもあること。
○真の多国間主義とは国連憲章の精神及び原則の堅持であること。中国は、国連を中心とするマルチのシステムの中でアメリカとともに真の多国間主義を守っていきたい。
○中米関係の本質は互利共嬴であり、ゼロ・サムの争いではないこと。
○台湾問題は中国の主権と領土保全にかかわる核心的利益であり、いかなる妥協譲歩の余地もないこと(アメリカ側が一つの中国政策を堅持することを確認したと言及)。
○香港の選挙制度は中国内政であり、外国には干渉の権利はないこと。
○(新疆に関して)「ジェノサイド」の汚名を中国に押しつけることは今世紀最大の戯言であること。
○アメリカがチベットは中国の一部であり、「チベット独立」を支持しないというコミットメントを守ることを希望すること。
○経済貿易、軍縮軍備管理、衛生、サイバー・セキュリティ、気候変動、イラン核問題、アフガニスタン、朝鮮半島、ミャンマー等問題を議論し、意思疎通・協調を維持し、強化することに同意したこと。