中国外交部の趙立堅報道官は、3月17日の外交部定例記者会見において、16日の日米「2+2」及びその共同声明(中国の行動は現行国際秩序にそぐわず国際社会に対する挑戦であるとし、台湾・南シナ海・新疆問題に関する関心を表明)に対するコメントを求めた記者の質問に対して、「2+2」及び共同声明に「強烈不満、断固反対」とするとともに、6つのポイントを挙げて、米日の対外政策を極めて厳しい表現で批判しました。3月13日のコラムで、バイデン政権の中国に対する認識・判断は「対決」が基調であり、したがって中国の対米政策も対決を基調とすることで基本的に固まったとする私の判断を示しましたが、趙立堅の発言は、日米関係に関してもバイデン政権に対する対決アプローチと完全に歩調を合わせた感じです。
日本が今回の「2+2」で全面的にバイデン政権と歩調を合わせる立場を鮮明にしたことは、バランスのとれた日中関係を維持することに腐心してきた中国にとって、「予想範囲内ではあるにせよ、その中では最悪に属する結果だった」と受け止めたものと思われます。中国はこれまで、安倍・菅政権の対中基本認識は決して好意的でないことを百も承知の上で、経済的実利に対する考慮故に抑制された対中アプローチを取ることを心がけてきた安倍・菅両政権に対して、努めて肯定的に評価することを心がけてきました。今回の「2+2」の結果を受けた3月16日付け環球時報社説は、バイデン政権に対しては厳しい批判で貫かれていますが、米中対立の狭間に立つ日本に対しては「戦略的冷静」を保つことを求める抑制された立場を明らかにして従来の論調線上のギリギリのラインで留まっています。
 この環球時報の論調と比較すれば、趙立堅報道官の発言内容の厳しさはいっそう際立っています。従来であれば、外交部が抑制された発言を心がけ、環球時報社説が本音の発言を公にするというパターンだったのですが、今回は完全に逆です。私はかなり長きにわたって中国側言論をフォローしてきたと思うのですが、今回のようなパターンを目の当たりにするのは初めての体験です。外交部が中国の言論を引っ張るパターンの最初の事例となるのか、中国内部における「何かしらの事情」による孤立したケースで終わるのか、はなはだ興味深いことではあります。
 私個人の印象をいえば、中国のこれまでの安倍・菅政権に対する「好意的論調」の方がむしろ不自然(安倍・菅政権の「反中的体質」を直視しないようにしている)であり、中国が重視する「実事求是」からかけ離れているという印象を拭えませんでした。そういう意味では、趙立堅発言は中国の対日認識をストレートに前面に押し出したと受け止めることができると思います。
 以上を前置きの上、環球時報社説と趙立堅発言を紹介します。

<環球時報社説「アメリカの引っ張り込みに直面する日本 求められる戦略的冷静」(要旨)>
 米日「2+2」後に発表された声明は、中国を名指ししてその行動が「現行国際秩序にそぐわず、米日同盟及び国際社会に対して政治、経済、軍事及びテクノロジー分野で挑戦をもたらしている」と批判した。声明はさらに、中国の「海警法」を「破壊的事態」と表現した。ブリンケンは記者会見で、「中国が目的達成のために脅迫あるいは侵略という手段を用いるときは、必要に応じて米日はこれに反撃する」と述べた。
 今回の声明は、米日「2+2」のこれまでの声明の中で言葉遣いがもっとも強硬なものであり、ワシントンの姿勢がこの変化を主導したことは明らかである。日本はワシントンの中国に対する立場に屈服したのであり、声明は政権交代したアメリカに対する新たな加入申請書である。このことは、東京は対中関係改善姿勢で一貫しているという北京の信認を削ぐことになる。
 アメリカはいまや中国を主要な戦略的脅威と見なしており、中国抑え込みをグローバルな外交及び軍事上の中心とし、グローバルでは戦線縮小してアジア太平洋に集中し、力を集中して中国に対処しようとしている。ワシントンとしては、各国と中国との協力を可能な限り圧縮し、これら諸国が中国と競争ひいては対抗する方向に仕向けようとしている。
 しかし、中国が戦略的に動きうるスペースはかなり広い。日本と韓国の場合、最近数年を取った場合、両国に対する吸引力という点で、中国とアメリカのいずれの方が増加スピードは上だろうか。中国と個々の国との間では領土紛争があるが、その摩擦規模は限られたものだ。愚か者でない限り、アメリカに付き従って中国と戦略的に対決するものはあり得ない。日本を含むアメリカの同盟国に対しては、常に頭を冷静に保ち、アメリカに頼っていれば安全だなどと考えて、支払いきれっこない加入申請書をアメリカに提出しないようにすることを希望する。
<趙立堅発言>
 米日共同声明は中国の対外政策に悪意ある攻撃を行い、中国の内政に深刻な干渉を行い、中国の利益を傷つけようと愚かにも企んでおり、中国はこれに強烈に不満であり、断固反対する。我々はすでに米日それぞれに厳正な申し入れを行った。ここでは以下の点を強調しておきたい。
 第一、世界にはただ一つのシステムがあり、それは国連を中心とする国際システムだ。またまとまったルールがあるが、それは国連憲章の精神を基礎とした国際関係の基本原則である。米日は一方的に国際システムを定義する資格はなく、ましてや自らの基準を他者に強制する資格などあろうはずがない。
 第二、中国は一貫して、世界平和を擁護し、協同の発展を促進する重要なパワーである。中国は112の国家及び国際組織との間でパートナーシップを結んでおり、100以上の政府間国際組織に参加し、500以上の多国間条約を締結し、安保理常任理事国の中では平和維持部隊をもっとも多く派遣している国家である。誰が世界の平和と安全に対する最大の脅威であるかについては、国際社会には自ずから公論がある。
 第三、台湾、香港、新疆、南海、釣魚島等の問題に関する中国の立場は一貫しており、明确である。中国の国家主権、安全、発展上の利益を防衛する決心と意志は盤石である。中国は、南海諸島及び周辺海域、釣魚島及び付属島嶼に対して議論の余地のない主権を有する。アメリカと南海は8300マイル以上離れているが、毎年のように軍機及び軍艦を派遣して南海で軍事演習を行い、偵察活動を行っている。軍事力をおおっぴらにひけらかし、脅迫し居丈高に振る舞うのは正にアメリカだ。台湾、香港、新疆問題はすべて中国の内政問題であり、いかなる外国の干渉も許さない。米日共同声明は関連する問題の歴史的経緯を無視し、事実と真相を顧みないのは、一緒になって悪巧みをし、中国内政に干渉する今ひとつの証拠であり、中国を中傷し、悪者扱いする今ひとつの事例である。
 第四、米日は冷戦思考に凝り固まり、下心をもって集団で対決を図り、反中「防衛網」を結成しようと企んでいるが、これは完全に時代の流れに逆行するものであり、地域及び世界の大多数の国々が追求する、平和を求め、発展を図り、協力を促す共同の期待と真っ向から対立するものである。米日のこのような行動は地域に混乱ひいては衝突をもたらすだけであり、世人をして地域の平和と安定を攪乱する米日同盟の真の姿を見極めさせるだけである。
 第五、日本は中国の台頭を阻止するという私欲を満足させるために甘んじて人の鼻息を窺い、アメリカの戦略的従属国となり、背信棄義を惜しまず、、中日関係を破壊し、引狼入室を惜しまず、地域全体の利益を売り渡している。このようなやり口は誰も相手にせず、人心も得られない。
 第六、我々は、米日が即刻中国内政に干渉することをやめ、中国に対して「小サークル」を作ることを即刻停止し、地域の平和と安定という大局を破壊することを直ちにやめることを強烈に促す。中国はすべての必要な措置を取り、自国の主権、安全及び発展の利益を断固防衛する。