2月15日付けのタス通信は、ロシア外務省のリャブコフ次官が、アメリカにJCPOA再加盟を納得させるための多国間会合を行うという中国のイニシアティヴについて米中と協議しており、その協議にロシアが加わる用意があると語ったことを伝えました。リャブコフはさらに、イラン議会が採択した法律が定めた期限である2月21日が近づいていることに鑑みてこの多国間会合は特に時宜に適しているとも述べました。法律は、アメリカが2月21日までに制裁を撤廃しない時はイランがIAEAの追加議定書履行をやめることをイラン政府に義務づけています。リャブコフは、「我々はアメリカに対し、JCPOA再加盟の用意をイラン及び他の加盟国に政治的意思を求めている。重要なことは、トランプ政権のもとでのイランに対するいわゆる最大限の圧力政策の根幹であったすべての制裁を撤廃することから開始することである」とも述べました。リャブコフは、このステップをアメリカがとることはイランが予告した行動によって状況がさらに悪化することを防ぐだろうという確信をつけ加えました。
 正直に白状しますが、リャブコフが言及した中国のイニシアティヴについて私は見過ごしていました。冒頭のタス通信は解説の中で、2月9日に中国外交部の汪文斌報道官が、ワシントンがイラン核合意に再加盟する問題について可及的速やかに多国間会合を行うことを提案したこと、会合では「ロードマップに従ってアメリカが合意に回帰する可能性」を議論すべきことを提起したことを紹介しています。中国外交部WSを改めてチェックしたところ、下記のやりとりが2月9日の外交部定例記者会見で行われていました。私は、汪文斌の発言の重要なメッセージを読み取れていなかったというわけです。

(AFP記者質問) フランスのマクロン大統領は、アメリカとイランの間を斡旋し、JCPOAを復活させる意思を表明している。フランスの提案を中国は歓迎するか。
(汪文斌回答) イランの核問題は今カギとなる節目にある。当面の急務は、各国が昨年12月のイラン核問題に関する外相会議が達成した共通認識を早急に実現し、アメリカが早急かつ無条件に合意に復帰して取り決めに従うとともに、すべての関連する制裁を取り消すことであり、その基礎の上でイランは核合意の完全履行を回復することである。中国は関連する情勢の発展を高度に注視するとともに、各国と緊密に意思疎通を行ってきた。中国はすでにJCPOA参加国にアメリカをプラスする国際会議を可及的速やかに招集し、アメリカとイランが核合意上の約束の履行を回復するロードマップ達成の交渉を行うことを提案している。我々は引き続き各国及び国際社会とともに、JCPOAが完全に正常軌道に戻ることを推進し、イラン核問題の政治解决プロセスを推進していく。
 イラン外務省のカティブザデ報道官も2月15日の毎週の記者ブリーフの場で、イラン核合意の他の参加国がJCPOAの義務を2月21日までに満たさない場合にはイランはIAEA追加議定書の履行を停止すると述べました。2月21日の期限に関して同報道官は、他の当事国がその日までに義務を履行しない場合には追加議定書の自主的履行をストップすることを議会は政府に義務づけていると述べました。
 さらに同報道官は、イランは今後もNPT及びNPTセーフガードの加盟国であること、しかし、NPTセーフガード以上の監視は今後認めないこと、ただし、他の参加国が義務に従えば以上のすべての措置は前に戻すことができること、をつけ加えました(IRNA通信)。この点についてイラン放送WSは、同報道官が「(法律が定めた)措置とは、セーフガード協定を越えた査察の終了を意味するものであって、すべての査察の終了を意味するものではない。事実、イランはセーフガード協定及びNPTの加盟国である。しかし、追加議定書の実施は中止されるということだ」、「法律によれば、セーフガード協定を越える査察は中止される。イランはその査察を追加議定書の枠組みのもとで自発的に受け入れてきた」と述べたと、同報道官の発言をそのまま引用して紹介しています。セーフガード協定を越えた査察として追加議定書が定めるのは予告なしで行ういわゆる「抜き打ち査察」です。
 なお、IAEAとイランとの間の追加議定書は2003年12月18日に署名されましたが、イランは批准せず、2015年にJCPOAが妥結した時に、イランが追加議定書を暫定的に適用すると規定しました。いわゆる「抜き打ち査察」は、イランの核開発の全貌を把握し、イランが秘密裏に核兵器開発を行っているか否かをチェックする上で不可欠の役割を担うものと見なされています。
 2月21日の期限が外交問題として急浮上したことにも唐突感が伴います。私は、2月6日のコラムの最後に、「イラン議会が成立した法律が設定した期限(2月←1月30日のコラム末尾参照)、またこの期限をなんとか乗り越えるとしても6月のイラン大統領選挙(今のままでは「強硬派」が勝利する可能性が大きいとされている)を見据えるとすれば、バイデン政権に与えられた時間的余裕が極めて限られていることは間違いありません」と記しました(1月30日のコラムの末尾では、ジャリーリ(国家安全保障会議ハメネイ師代表)の「法律は、2月までに制裁が撤廃されない場合には、ウラン濃縮を拡大し、国連査察を制限することを要求している」という発言を引用しています)。しかし、1月30日コラムを書いた時点では、2月21日問題が正面から取り上げられてはいなかったというのが事実です。ただし、この一見した唐突感も発表されている事実関係しかフォローできない私の「悲しい現実」を浮き彫りにするものであることを認めるほかありません。イラン、中ロ、欧州(EU、英仏独)そしてアメリカの間では2月21日の期限をにらんだ丁々発止のやりとり・攻防が行われていることが今回やっと浮上した、というのが事の真相だと思います。