香港政府は1月23日、「疾病予防及びコントロール規例」(第5991章)を適用し、佐敦(ジョーダン)内の一定地域を「受限区域」として封鎖し、域内住民が居所に留まり、かつ、当局のアレンジに従って強制PCR検査を受けることを明らかにしました。当局の説明によれば、「受限区域」内のコロナ患者が多く(これまでに162人)、この区域内の住民約1万人に対して、衛生署、民生事務総署、警務所などから約3000人を動員(外国人住民のために通訳も配置)して51カ所の移動式採取所を設け、48時間以内に検査を完了させ、この区域を「コロナ・ゼロ」にすることを目標とするとしています。また、コロナの潜伏期間のことも考慮して第2回目のPCR検査の可能性もあるとしました(同日付中国新聞網)。
ちなみに、1月23日は、1年前のこの日に香港で最初のコロナ患者が報告された日に当たります。中国新聞網によれば、香港では、2020年7月18日に累計患者数が1777人となって2003年のSARS患者数1775人を上回りました。その後、9月15日及び16日に連続2日間患者数ゼロを記録しましたが、その後再びコロナ患者が発生(浅井注:経緯については2020年の9月22日、10月18日、12月10日付けのコラムを参照してください)、現在は第4波の中にあります。この間、香港の失業率は12月に16年来最高の6.6%を記録、2020年の香港入境者数も対2019年比93.6%の大幅減を記録し、香港経済は厳しい状況に落ち込んでいます。
 この日、林鄭月娥長官は「受限区域」を視察し、上記「疾病予防及びコントロール規例」が昨年12月の行政会議(注:内閣に相当)で決定されたものであり、規例の目的は強制PCR検査を受ける者が検査前に指定区域を離れないようにすることにあるとし、今回の封鎖は規例の最初の適用例であることを明らかにしました。規例はまた、区域を設定する基準としていくつかの衛生指標(コロナ患者数、公共衛生、汚水コロナ状況等)を設けています(同日付中央テレビWSおよび中国新聞網)。
 今回の措置について、香港選出の全国政治協商会議委員で中国経済社会理事会理事の葉建明は次のように述べました(同日付中国新聞網)。

「香港はこの1年、コロナで政府も市民も非常に苦しかった。しかし、抗疫の効果は良くなく、香港政府としては抗疫についての考え方を如何に転換するか考えてきた。コロナに対処するためには思い切った手段が必要であり、そうすることが市民の生命に対して責任を担う者のとるべき方法である。将来的にはコロナ・ワクチンの接種が開始されるだろうが、香港政府はさらに市民を説得動員し、科学を信じ、積極的に接種を受けるようにする必要がある。コロナを前にして、市民は自我を犠牲にして香港を救わなければならず、これは公民である市民の責任である。コロナをコントロールできなければ、経済と正常な生活を回復することは夢物語だ。」
 葉建明の以上の発言は、昨年12月10日のコラムで紹介した上海外国語大学国際関係&公共事務学院副教授の郝詩楠署名文章「香港第四波爆発、断固たる防疫措置を講ずべし」と軌を一にするものと言えます。
 私が香港のコロナ問題に関心を寄せるのは、日本のコロナ問題を考える上での参考価値が大きいと思うからです。「三密回避」をはじめとする国民・市民のコロナ感染予防のための行動はもちろん不可欠です。しかし、感染拡大を防ぎ、抑え込み、ゼロ感染を実現しなければ感染拡大を防止することは不可能であり、政府の果敢な対策がまず先に来なければなりません。特に感染源を見つけ出し、隔離し、治療するという積極的行動は政府の中心的役割です。香港政府のこれまでの対応は安倍・菅政権のそれよりはまだマシだったかもしれませんが、無症状感染者を徹底的につかまえる好個のチャンス(昨年10月)を生かし切れなかったことが今日の第4波の招来につながったことは間違いありません。しかし、今回、林鄭月娥長官以下の香港政府は、地域限定にせよ、住民全体にPCR検査を義務づける思い切った政策の断行に踏み切りました。私としては、今後の香港のコロナ情勢を期待して見守りたいと思います。
 最後に、国民にPCR検査を義務づけることは日本国憲法上問題があるという反論の可能性について一言。私は、伝染力が極めて強いコロナに関しては、「公共の福祉」(public welfare)という概念が適用されるのにもっともふさわしいケースではないかと思います。コロナに感染するかしないかを判断し、行動するのは個人の「自由」かもしれませんが、自らの判断・行動が不特定多数の他者の感染(そして最悪の場合は死)に直結する可能性が極めて高いコロナに関しては、政府がPCR検査の義務化措置を取ることは、「公共の福祉」の要請に基づいて十分に許容される範囲内の行動だと考えるのです。