昨年12月5日のコラムで、「北京-東京フォーラム」が実施した世論調査で明らかにされた、"中国人の対日感情が改善傾向にあるのに対して、日本人の対中感情は悪化の一途をたどっている"という結果に関して、日本人の対中感情が悪化している原因についての中国人研究者の分析を紹介しました。興味深い後日談がありますので紹介します。
 12月29日(2020年)付けの韓国・中央日報日本語版WSは、この世論調査結果に関して、中国メディア『澎湃新聞』が最近中国に赴任した垂秀夫大使にインタビューした記事を以下のとおり掲載しました。

駐中日本大使「中国、日本人の非友好的感情をよく研究してほしい」
駐中日本大使が中国に対する日本人の非友好的感情に対して「中国側がその原因および局面転換方法に対してよく研究してほしい」と明らかにした。
 29日、中国メディア「澎湃」によると、垂秀夫大使(59)は最近、同メディアとのインタビューで、両国民の相手国に対する認識に関連した世論調査の結果に対してこのように話した。
 該当の調査は「北京-東京フォーラム」が今年実施したもので、日本に友好的な中国人の回答者は歴代最高の45%である反面、中国に友好的な日本人回答者は最低の10%だったという。
 垂大使は「日本も中国と共に考え、必要なら参考意見を提示することもできる」としながら「中国側の努力に対し、最善を尽くして協力する」と話した。
 彼は「過去、中国人の日本に対する認識が良くなかった時期に、中国は常に日本政府に措置を要求した」としながら「日本政府も中国人観光客誘致制度および文化・青少年交流などで努力をしてきた」と明らかにした。
 私が毎朝チェックしている中国新聞網の内外記事の中には『澎湃新聞』のこの記事は含まれていなかったので、わたしは中央日報日本語版WSをチェックする中で初めて垂大使の発言を知りました。私は、若い頃の垂氏と親しくしていたので、日本政府代表者としての立場での発言に終始する彼に違和感を覚えるとともに、民間で日中友好事業に献身する知人(複数)から、「垂は変わった」という発言を聞いたこともあったので、「ああ、こういうことか」と妙に納得する複雑な思いも味わいました。
 中央日報の記事を読んだ翌日(12月30日)の環球時報WSは廉徳瑰(上海外国語大学日本研究センター主任)署名文章「中日民衆感情の違いを「研究」するべきは誰か」を掲載し、垂大使発言(日本人の対中感情悪化の原因は中国側にあるとするもの)に対して、領土問題(尖閣、台湾)を取り上げて、正すべきは日本政府の主張及び日本メディアの報道姿勢であることを指摘しています。私はかねてから、いわゆる「領土問題」(尖閣竹島、北方4島)に関しては、ポツダム宣言第8項により本州、北海道、九州及び四国以外の「諸小島」の帰属に関しては連合国の決定に委ねることを約束した日本には「領有を主張する法的根拠はない」ことを度々このコラムで指摘してきましたので、廉徳瑰の指摘には何の違和感もありません。そのことを念のために指摘して、廉徳瑰文章を紹介します。
 中国民衆の対日好感度は近年上昇し続けているが、日本民衆の対中好感度は逆に落ち込んで最低にまで達している。この違いについて、日本の新中国大使・垂秀夫は最近中国メディアのインタビューにおいて、「この現状を引き起こした原因及びこの局面を如何に打開するかに関しては、中国側がよく研究することを希望する。もちろん、我々としても中国側と共に考えたいし、必要があれば参考意見を提出することもできる」と述べた。
 日本大使が日本政府の立場で発言することは完全に理解できることであり、中国で「暴言」とされることはあり得ない。しかし、両国国民の感情が真逆になっている原因については客観的に分析する必要がある。
 近年、中国民衆の対日好感度は確かに上昇している。このことは日本の開放的な観光客誘致政策と密接に関係があり、多くの中国人が自らの目で日本を見る機会があり、日本の環境、人文がすべて良好な印象を残している。中国メディアも積極的に報道し、戦後日本を客観的に紹介している。とりわけ新型コロナ・ウィルスが流行する中で、「山川異域、風月同天」の報道は多くの中国人を感動させた。人々は両国が関係を改善し、未来を展望する曙光を見届けたのだ。
 しかるに、日本メディアの対中報道は友好的とは言えない。近年の日本メディアを賑わしているのは「中国脅威論」と価値観的な偏見がほとんどである。その話題はほとんどが、台頭する中国が今や日本の「民主」「自由」及び国家の安全保障に対して脅威となっているとするものだ。そこで、日本人は「自由で開放されたインド太平洋」「アジア版NATO」を論じ、「民主国家」が団結して抑え込まないと、世界はいずれ中国の「覇権」によって支配されると論じるのである。
 日本が「中国脅威論」を宣伝する格好の題材は釣魚島(尖閣)紛争である。この問題に関する日本の基本的立場は、①尖閣は歴史的にも国際法的にも日本の領土である、②日中間には解決を要する領土問題もなく、紛争を棚上げするという共通認識もない、③中国公船の巡航は日本領海侵犯である、という3つの言葉で概括される。日本メディアが繰り返し、繰り返し宣伝することで、この3つの言葉は日本では人心に深く入り込み、「神話」になっており、中国の歴史的及び国際法的な証拠は完全に否定されている。
 しかし、「神話」はしょせん神話であって、事実に置き換えることはできない。釣魚島の主権に関して言えば、遠い過去はいわないとして、1863年に出版された『皇朝中外一統輿図』においてすでに釣魚島を中国版図内に線引きしており、これは明治政府が1895年1月に同島を「無主地」として沖縄県に編入した32年前のことだ。日本がすでに中国の領域内に組み込まれていた領土を「無主地」としたのは国際法違反である。さらに日本は、サンフランシスコ平和条約を根拠として、第二次大戦後の国際条約がアメリカに釣魚島の占領を認め、アメリカはその後日本に任せたとしている。しかし、周恩来は同条約署名から10日も経たないうちに、同条約は不法無効であり、絶対に承認できないと声明した。日本の釣魚島強奪は帝国主義拡張政策の表れでしかない。暴力と貪欲によって領土を奪取した国については、カイロ宣言が駆逐されるべしと規定し、ポツダム宣言はカイロ宣言を確認している。1972年の中日共同声明第3条も日本がポツダム宣言を遵守すると定めている。これらの声明・宣言こそが日本の遵守するべき国際法関連条項である。
 日本の中には、現在の中国が「外交的苦境」にあり、日本に頼っているから、世論を操作して中国が譲歩するように圧力をかけるべきだと考える者がいる。基本的事実と証拠を無視するその様からは次のことを想起せしめずにはおかない。すなわち、1874年5月2日、西郷従道は清朝に対して、清朝は台湾を統治したことがないと言い張り、清朝政府が日本側に対して10巻以上の戸籍簿と税収簿記等の文献を示しても、日本政府の代表は「見る暇がない」と言い、台湾は無主地だと頑なに主張した。この様は、現在の釣魚島問題における日本の態度と驚くほど一致している。
 最近、王毅外交部長が訪日し、日中双方は5つの重要な共通認識と6つの具体的な成果を達成したほか、釣魚島問題に関する中国の立場にも言及した。日本のメディアは会談の成果には言及せず、いわゆる「暴言」を特筆大書した。このことは次のことを想起させる。すなわち、1878年に中日が琉球問題を交渉した時、交渉代表の何如璋が日本の琉球併合を非難した際、当時の日本のメディアはこれを「暴言事件」と形容した。
 釣魚島の面積は4平方キロ程度しかない。中日両国は、地域の平和と繁栄という大局に立って、領土紛争に理性的に対処し、危機を管理コントロールするべきであり、「神話」を作り出すべきではないし、ましてや、このことを利用して逆ギレし、嫌中感情を煽るようなことをするべきではない。