(1月5日追記)
 大連における感染源は調査中と書きましたが、1月4日にチェックした1月3日の中国各メディアの報道によりますと、同日、大連市衛生健康委員会の責任者が記者会見を行い、大連の今回の集団感染は、ロシアの貨物船の陽性反応が出たばら積み貨物を扱っている際に感染した埠頭労働者(複数)が感染源であると特定したと発表するとともに、その後の感染拡大の経緯についても説明しました。北京以来、中国国内で散発している新型コロナ・ウィルス感染事例は、国外からの感染者(帰国者または渡航者)が感染源であるケースと、汚染された輸入貨物を扱った労働者が感染源であるケースとに分類することができます。つまり、これまでのケースすべては国外から持ち込まれたものであり、中国国内に無症状感染者がまだ潜伏しているという可能性は除かれることになります。

日本における年末年始の新型コロナ・ウィルス感染者数の急増、その結果としての医療体制の逼迫は、初動の段階から一貫して、「医療体制崩壊阻止」を至上解題とし、集団感染(クラスター)対策にのみ集中して無症状感染者(忍者・一匹狼)を放置した厚労省(医療技官)主導の対策が招いたものであることは間違いありません。新型コロナ・ウィルス感染症対策分科会長である尾身茂氏は、最近は若者に対して行動を慎むように「上から目線」で講釈しているようですが、私に言わせれば、重大な結果を招いた初動の誤りの責任について謝罪するのが先でしょう。「検査(早期発見)・隔離・治療」の徹底(WHOも推奨)で抑え込みに成功した中国のケースをフォローしていた門外漢の私が4月13日(2020年)のコラムで、「日本の「クラスター」中心主義(とは表向きであり、要するに、見つかった「クラスター」以外は野放し)は、当初こそ「伸び」を低く示すことにつながったけれども、検査されない発症者(浅井注:この表現は間違いで、「無症状感染者」が正確な表現でした)が野放しされる状況が続くことによって、3月下旬以後は「クラスター」以外の「一匹狼」が急増する結果になった」と書いていたことを思いだしてくだざい。
全土で感染者を抑え込むことに成功した中国ですが、12月(2020年)に入ってから各地で新型コロナ・ウィルスの感染例が散発しており、春節の人口大移動の時期を控えていることもあって、警戒する動きが現れています。私が何度も紹介する呉尊友は、「移動中の人の群れの中に感染者がいない限り大規模感染は起こりえない。したがって重点は無症状感染者を検査で発見することであり、高リスク・グループ(冷凍食品をはじめとする輸入貨物を扱う業種を例示)に対して定期的にPCR検査を実施することによって、ウィルスに触れて感染する可能性があり、症状を出すには至っていないものを適時に見つけ出すことである。これが感染流行を抑える上で非常に重要なことだ。」と述べました(12月15日中央テレビWS)。日本も2020年2,3月の初動の時点でこのような対策をとっていたら、現在の状況はずいぶん違っていただろうと思います。
 中国の報道を見ていて納得させられるのは、新しい感染例が見つかった後の対応の徹底さです。一つは、感染者が出た場合、その濃厚接触者はもとより、濃厚接触者の濃厚接触者、そして感染者が関係する場所(職場、住居)さらには全市の住民を対象にPCR検査を、一度ならず繰り返して行うことです。1回目の検査で陰性だとしても2回目以後の検査で陽性と判定される場合があることを踏まえた対応です。
もう一つは、発見されたすべての感染者のウィルスの全ゲノム解析(浅井注:訳が間違っているかもしれません。中国語は'全基因組分析'で英語はsweeping genetic analysisです)を行うことによって、感染源の特定を行い、感染源が国内か国外かを突き止めることです。以下では、新疆ウイグル自治区トルファン市、北京順義区及び四川省成都市のケースを紹介します。なお、大連の場合、感染源は一つではなく、複数の感染源によるものであり、さらに分析が必要である(12月25日付け中央テレビWSが紹介した呉尊友発言)ために、国家衛生健康委員会が調査に入っています(同日付中国新聞網)。
(トルファン)
 トルファンで発生した感染の場合、感染者全員のウィルスについて全ゲノム解析を行うことにより、そのウィルスはその前にウルムチ市及びカシュガルで起こった集団感染のウィルスとは異なることを突き止め、新疆内でウィルス感染が広がった可能性はないことを立証するだけではなく、国内の他の地域で流行している感染のウィルスとも関係がないことを突き止めました。つまり、トルファンでの感染事例は国外からのもの(入国者・帰国者または輸入された冷凍食品その他の輸入物によるもの)であるということです(12月14日付け新華網)。
(北京市順義区)
 北京市順義区で起こった集団感染については、12月30日付けの中国新聞網が北京市疾病予防コントロール・センター責任者の記者会見での発言として、PCR検査、血清抗体検査及び全ゲノム解析に基づき、順義区の集団感染はインドネシアから入国した無症状感染者に起因するものであることを明らかにしています。この記事は、「感染源の分析」「伝染経路分析」として次のように詳細を紹介しています。

<感染源の分析>
 北京市疾病コントロール・センターは今回のウィルス・サンプルに対して全ゲノム解析を行った結果、今回のウィルスはすべてLゲノム型の欧州系に属する同一チェーンであり、2020年11月に東南アジアで発見されたウィルスとの同一性が高く、国外から持ち込まれた可能性が高いことが分かったとした。当該ウィルスは、中国でこれまでに発見された、国外から持ち込まれた症例及び国内本土の症例のウィルスとのゲノム上の関係性はなく、国内で最近数ヶ月に発生した感染源によって引き起こされたものでもない。
 遺伝子配列分析等により、今回の感染源は12月28日に報告された国外から入国した無症状感染者(以下「病例1」)であるととりあえず判断される。病例1はインドネシア国籍の28歳で、11月26日にインドネシアから入国した(福建省で報告されたインドネシアから入国した病例と同じフライトでの濃厚接触者)。福建で14日間の隔離後のPCR検査陰性判定後、12月10日に北京に到着して順義区で居住した。12月26日の検査では陰性だったが、翌27日の検査で陽性と判明して入院した。12月28日の検査でも陽性で、無症状感染者と診断された。
<伝染経路分析>
 現場の調査で得られた証拠に基づき、今回の順義区の集団感染は単一の伝染経路であることが示される。病例1が集団感染の発生源であり、北京到着後に共同賃貸した入居者(病例2)及び買い物先の店員(病例3)に感染させた。病例3は集団感染のカギであり、今回の感染の最初の報告例となった感染者(病例4)に感染させた。病例3は夫(病例5)にも感染させ、夫(病例5)は予約乗車したタクシーの運転手(病例6)に感染させたほか、集会、買い物等の間に病例7及び病例8に感染させた。タクシー運転手(病例6)は食事を共にした同僚(病例11)に感染させた。病例7及び8はそれぞれの夫(病例9及び10)に感染させた。病例5,7,9,10の仕事場所は順義区金馬工業園であり、行動を共にすることによって病例12,13,14,15,16に感染させた。
 感染が発生した後、順義区は金馬工業園全域のサンプル調査とPCR検査を実施、病例が働いている場所でのサンプルからはウィルスを検出したが、その他の環境からは検出しなかった。さらに、金馬工業園関連の北京市内のすべての企業の人及び環境のサンプルを採取して検査したところ、人のサンプルはすべて陰性だったが、環境サンプルの一部から陽性反応が検出された。環境サンプルはモノの表面及び外装表面の飛沫であり、密封された中身からは陽性反応は検出されなかった。病例の発病時間の順序、環境の陽性分布、波及した人の範囲及び遺伝子配列を総合した結果、環境における陽性は金馬工業園の某企業で確認された病例が排出したウィルスに基づく環境汚染であることを考慮し、輸入貨物を通じた金馬工業園区の従業員の感染の可能性及びそれによる集団感染の可能性は排除された。
<結論>
 以上の証拠を総合した結果、今回の感染流行はインドネシアから入国した無症状感染者によるものであるという初歩的判断になった。ただし、これまでの証拠に基づけば、12月24日に報告された西城区の無症状感染者及び12月23日に出国し韓国に赴いた無症状感染者と順義区の集団感染との関連性は発見されておらず、感染源は引き続き調査中である。
(成都市)
 成都に関しては、12月31日付けの中国新聞網が詳しく紹介しました。すなわち、12月7日に最初の症例が報告された後、成都市は濃厚接触者647人、濃厚接触者の濃厚接触者2661人を管理下に収め、累計で235万6千人に対してPCR検査を行い、症状のある感染者13人と無症状感染者1人を報告しました。そして12月17日に最後の病例が報告された後は14日連続して新規感染者はなく、ウィルス感染が遮断され、流行は抑えられるに至ったと判断しました。国家衛生健康委員会と四川省及び成都市は、現場調査、ビッグ・データ解析、PCR検査、DNAシークエンシング等の総合分析によって感染源特定を進め、今回のケースは国外から入った病例と関連するものと判定しました。
 すなわち、ウィルスの核酸の全ゲノム解析及び照合の結果、今回のウィルスの遺伝子型はL型欧州ファミリーブランチ2.3であり、11月にネパールから入国した病例のウィルスの遺伝子配列と高度に一致することが分かりました。さらに調査の結果、以下のことが判明します。つまり、11月9日にネパールから入国したグループが濃厚接触者として隔離地点に収容され、医学監察を受けました。そしてその中の5人から陽性者が検出されます。この隔離期間中に工作人員が規則に基づかないでゴミを指定場所に入れます。同時に、最初の病例がこのゴミを拾いました。
 今回の14人の病例中、3組の夫婦その他5人が最初の病例の友人または隣近所であるほか、さらに2人がこれらの病例との麻雀友達であり、明らかな密状態にありました。以上を総合して、今回のケースの病原はネパールからの入国者であり、最初の病例はゴミに接触したために感染し、さらに人際交流によって伝染していったものと判断されました。