12月17日にロシアのプーチン大統領はいまや恒例となった年末記者会見に臨み、約4時間半にわたって様々な質問に対して答えました。私にとって特に興味深かったのは、新型コロナ・ウィルス(以下「コロナ」)に対するロシアの初期対応に関するプーチンの発言です。西側メディア報道に「洗脳」されている私たちは、"中国が武漢での感染爆発を故意に隠そうとしたことが世界的感染流行を引き起こす原因になった"、"コロナは武漢の感染症の研究所が作り出したものだ"などと中国を批判・非難するトランプの言説を額面どおりに受け止めていますが、プーチン発言はそれを客観的に否定するものとして極めて重要です。
 そもそも、トランプがウソを平気で言う常習犯であることは世界に知れ渡っていることです。ところが、こと中国に関する発言となると、トランプのでたらめ発言がまかり通ってしまいます。中国に対するマイナス・イメージはトランプのそれを遙かに上回ってしまうのです。しかし、プーチンは、中国の警報によってロシアは時間的余裕を持ってコロナに初期対応することができたことを明らかにしています。確かに、ロシアの感染者数は今や、アメリカ、インド、ブラジルに次いで世界第4位です。しかし、その原因は、東側正面(中国)に対しては十分な予防措置を講じたけれども、西側正面(欧州)に対しては対応が遅れたことにあります。ロシアの現状はプーチン発言の重みを奪うものではありません。
もう一つとても興味深いのは、ロシアの医療面での初期対応能力は非常に限られたものだったが、短期間で飛躍的に医療対応能力を整えたとする、プーチンの数字を交えての発言です。この発言は、「医療体制の崩壊」と警鐘を乱打するだけで、医療面での対応能力拡充の緊要性については頬被りしてやり過ごした安倍政権の無為無策を客観的に暴き出す意味を持っています。
私の承知する限りでは、プーチンのコロナ関連の発言に関する紹介は、中国メディアを含めてありません。プーチン発言を紹介する所以です。ちなみに、質問はロシアの医療制度一般の問題点を問うものでしたが、プーチンは、世界各国が同時的に直面した新型コロナ・ウィルスによる挑戦に対して、ロシアは他国と比較して適切に対応したことを強調する内容で答えました。

 医療システムに関して言えば、世界が直面したコロナという大型の問題に対して、即応できる医療システムを備えていた国は世界のどこにもなかった。そもそもこの問題に対応できるシステムはなかったのだ。我々は世界中で起こっているすべてのことを分析しているが、そのようなシステムは存在しない。しかし、ロシアで組織されたコロナ対応の実例はある。他の国々と比較した場合、つまり世界で起こっていたことと比較した場合、ロシアの医療システムは結果的にはより機能的だったことが証明されるのだ。
 コロナが始まったばかりだった時、すなわち、中国の友人から"問題が起こった"という最初のシグナルが来た時、我々は直ちに国境沿いで行動を起こした。このことは何度も話してきたことだが、そのこと(中国が知らせてきたこと)によって我々は準備するための時間を稼ぐことができたし、コロナが大規模でロシアを襲った時には我々は準備ができていた。時間を稼いでいる間にコロナを防ぐための医療システムその他の措置を迅速に配置することを開始した。我々は時間を浪費することはなかった。
 コロナ患者のために必要なベッド数は95000床だったが、当初は必要数の50%しか備えがなかった。しかし、我々はごく短期間の間に12万5000床、17万7000床、そして27万7000床まで増やした。その間に40のコロナ・ウィルス・センターを建設した。30は国防省、10は地方が建てたものだ。40番目のセンターはこの年末までに完成することになっている。以上の事実は、我々が迅速に問題に対応する能力があることを示すものだ。
 コロナの流行が始まった当初、医師及びスペシャリストは少なく、8300人だった。しかし今では15万人の医師がコロナ関連で働いており、医療スタッフ全体としては50万人以上、多分52万から53万人になっている。どうしたかって?コロナに対応できるように医療機関の機能転換を行い、医療関係者の再訓練システムを作った。我々は、医師をサポートするため、「レッド・ゾーン」で働く人々(医科大学の上級生及び専門学校の学生を含む)に対するボーナス制度を導入した。また、個人用の保護具や防護服、施設を消毒するための消毒剤の生産も急速に拡大した。マスクの生産量は20倍になっている。ロシアの医療システムとガヴァナンス・システムは資源を速やかに動員することができることを示した。
 問題もある。薬の必要量は2倍になった。地域によって、また、個々の病院によっては薬が足りないという現象が起こっている。薬局についてもそうだ。しかし、これらの問題はコロナが起こった当初に我々が直面した問題とは違う。これらの問題は配達遅延などのロジスティックスに関係するものである。マクロ的に見れば、当該産業はうまく対応している。
 コロナが始まった当初、我々は直面している問題が何かも分からなかったし、コロナの特定、テストの方法も知らず、治療法も分からなかった。有効なワクチンについても知らなかった。今はどうだろう。これらすべての問題について大きく前進している。テスト(PCR検査)に関して言えば、ロシアは世界でトップ3国の一つだ。WHOは大量テストがコロナ流行問題に対処する方法だと言っている。薬に関して言えば、必要量を国内で生産できる。ワクチンに関して言えば、ロシアはワクチンの開発及び生産における世界最初の国だ。ロシアのワクチンは安全でよく利く。専門家によれば、免疫率は95%以上で、96から97%に近づいている。副作用の報告は一度もない。
 外国の同業者もロシアのワクチンに対する見方を変え、彼らが未解決の分野で協力する用意があると言っている。アストラゼネカ社は協力したいと言っており、協定署名のプロセスが進んでいる。これは極めて喜ばしいことだ。アストロジェネカは巨大優良企業であり、世界的評価が高い。この協力は間違いなくロシア市民にとってだけではなく世界全体のためにも良いことだ(浅井注:12月21日のロシア大統領府WSは、プーチン立ち会い(ビデオ会議)のもとで、ロシア側関係機関とアストロジェネカ社との間で覚書が交わされたことを発表)。