韓国における新型コロナ・ウィルスの新規感染者数は12月13日には1000人を超えました。「現在の状況を見ると日本の流行状況に似てきている。日本は1日当たり3000人以上の新規感染者が出ているが、人口100万人当たりにすると、11日現在で日本は22.96人、韓国は18.53人」、「日本とは1カ月ほどの時差があるものの、平行線を描きながら(韓国が)後を追っている」(12月14日付けのハンギョレ・日本語WS掲載記事が紹介した高麗大学九老(クロ)病院のキム・ウジュ教授(感染内科)の発言)という見方すら紹介される深刻な状況に陥っています。検査(Test)・追跡(Trace)・隔離治療(Treat)といういわゆる「3T」の「韓国モデル」も崩壊寸前であり、文在寅大統領も深刻な危機感を表明するに至っています。結局は、5月以降、無症状感染者の把握及び追跡が不徹底だったツケが回ってきているということだと思います。
 後手に回った感は否めませんが、韓国政府は12月14日から3週間、首都圏で臨時検査所150カ所を設営して、無料で希望者の検査を行う体制を取りました。菅政権が「ここ3週間が山」だと危機感を表明しながらも、すべては「国民任せ」で肝心要の無症状感染者の割り出しには無為無策であることに比べれば、韓国政府の対応は、政府のなすべきことを自覚している点で、菅政権よりは「マシ」だと言えるでしょう。とはいうものの、「韓国モデル」も「中国モデル」の前ではまったく色あせて見えます。そのことをもっとも痛切に感じさせられたのは、12月14日付けの中国地方紙・広州日報が紹介した、国家衛生健康委員会の高級専門家グループのメンバーである曾光教授とのインタビュー記事でした。
この記事は、国内各地で散発的な感染事例が報告されている背景(浅井注:最近も新疆・トルファン、成都で感染者が発生しており、両地では徹底したPCR検査、感染者の徹底隔離及び濃厚接触者及び濃厚接触者の濃厚接触者の洗い出しを行っています)のもと、来たるべき春節(旧正月)における人口大移動時期における新型コロナ・ウィルス再流行の可能性に関する同教授の見解を紹介しました。結論的には、国内の無症状感染者をゼロに抑え込んでいる中国においては、散発事例に対する完璧な対応策が確立していることを背景に、人口大移動による再流行を恐れる心配はないというものです。初動を間違えるか間違えないかで「月(中国)とすっぽん(日本)」の帰結になるということを改めて思い知らされます。広州日報質問と曾光発言の要旨は次のとおりです。

(広州日報) 最近、四川、黒竜江で感染事例が出現しているが、中国の防疫コントロールについて考える必要はないか。
(曾光) 過去11ヶ月間の戦いを通じて中国はすでに優れた対応上の経験を持ち、適時に発見し、迅速に対応し、瞬時に最小限に抑え込む方法を蓄積している。状況が明らかではない時期に大規模なPCR検査を行うことは極めて良い方法だ。例えで言えば、"現在は大火事はすでに消し止めた。各地で次々と小さな火の手は上がるが、早期に発見し、早期に消し止めれば、大火事になることはない"ということだ。
 本年3月18日に武漢で感染ゼロにしてから現在まで、局地的かつ小規模な感染事例は10カ所以上起こっているが、すべてがコントロール可能な範囲内であり、速やかに抑え込んだ。特に北京での経験からは学ぶことができることが多い。我々の考え方は非常に明確であり、「外からの輸入を防ぎ、内からの拡散を防ぐ」(外防輸入、内防拡散)ということであり、防疫コントロールを常態化し、リスクの可能性のある傷口を塞ぐということだ。9月に公開した「新型コロナ・ウィルス防疫コントロール案(第七版)」では新たに濃厚接触者の濃厚接触者も集中隔離して医学監察を行うことを定めたが、成都等ではそうしている。また、低温流通システムを通じた感染に関しても、「輸入低温システム食品予防全面消毒工作方案」などで重点領域に対する規制を行うことにした。局地的に個別のケースが発生することがあるのは正常なことであり、慌てふためくようなことではない。
(広州日報) 輸入リスクが当面の防疫コントロールにおける主要な挑戦ということか。
(曾光) 国際的にウィルスがゼロにならない限り、国内における防疫コントロールを如何にうまく行ったとしても、やはり警戒する必要がある。毎日多くの人が入国している以上、輸入リスクの防疫コントロールはやはり第一の問題だ。
(広州日報) 春節が間もなく来る。人々は安心して帰郷できるだろうか。大規模な人の動きは感染リスクを増やさないか。
(曾光) 今年の国慶節の際も大規模な人の流れがあった。あのときも調査したのだが、我々の防疫コントロールがしっかり行われさえすれば、リスクは完全にコントロールできるということだ。ただし、春節は二つの点で国慶節と異なる。一つは、春節時の人の流れは国慶節の時と比べものにならないほど多いということ。もう一つは、冬季で気温が低く、ウィルス生存時間がより長い上に、春節に際して親戚友人訪問が多く、大規模な室内密集による感染リスクが増えるということ。
 しかし、人々の中に感染者がいなければ大規模な感染が発生するということはあり得ない。この点からいって、春節期間中に人々が帰郷して年越しすることに問題はない。しかし、互いに訪問し合うことは奨励しないし、大規模な室内でも密集も避けるべきであることには変わりない。2020年の流行期間中に特別な春節を経験して、人々はこういう勧告に対する受容度は高いと考える。要すれば、科学的防疫コントロール、精確な施策、集中的対策、重点突出、早期発見、早期コントロール、さらに加えて今年における経験を考えれば、ウィルスの捲土重来を防止し、今年初のような深刻な事態の出現を防ぐことは防止できると確信している。
(広州日報) 春節の長期休暇に当たって、防疫コントロールに関してのアドバイスを。
(曾光) 春節で帰郷する途次は、乗り物に乗る時はマスクをし、隣の席の人がマスクをしていなければマスクをするように注意喚起する。乗り物の中でくしゃみをする時は口と鼻を覆い、体温が高いことが分かったらすぐに報告する。駅、飛行場、乗り物の中には消毒液が備えられているのでこまめに手を洗う。
 帰郷して春節を過ごす際には、室内で人が多い空間には極力行かないように心がけ、友人親戚訪問も減らし、人混みへは行かないようにする。今年の春節の際にはそうして過ごしたのだから、来年の春節に際しても違和感はないだろう。電話やウェブで新年の挨拶をするのはとても良いやり方だ。一言で言えば、集まらない、集まりを少なくすることだ。2022年の春節までにはワクチンが間違いなく出回っているので、その時はもっと状況が良くなるだろう。
 また、冬の季節は流感や肺炎にかかりやすい時期なので、あらかじめ流感や肺炎球菌のワクチンを接種することを薦める。流感や肺炎にかかると体の抵抗力が弱まり、新型コロナ・ウィルスに対する抵抗という点で不利になる。春節前に新型コロナ・ウィルスのワクチンが出てくるのであれば、そのワクチンを受けることもいい。
 65歳以上でかつ基礎疾患がある年齢層の人に対しては、春節期間中の長旅は薦めない。自宅で年越しをするのが良い選択だ。なぜならば、この年齢層が新型コロナ・ウィルスに感染すると治療が難しくなるからだ。
(広州日報) 新型コロナ・ウィルス用ワクチンについてはどう考えるか。
(曾光) 我々としてはワクチンがないという前提で防疫コントロールを行う必要がある。特に、これからの2ヶ月間はワクチンがまだないので、防疫コントロールをおろそかにすることはできない。社会的防疫コントロールとワクチンによる防疫コントロールは2つの方法であり、同時に使う必要があり、この点での中国の総合的優位は明らかだ。しかし、現在はまだワクチンがないので、すべてをワクチン任せにすることはできない。
(広州日報) 香港の情勢をどう見ているか。
(曾光) 最近の香港の情勢は厳しい。香港における防疫コントロール事情は中国本土とは違う。「外防輸入、内防拡散」という本土のやり方が行われるに至っておらず、このことが香港で流行が繰り返して起こる原因になっている。香港と深圳との間の往来は緊密なので、深圳の防疫コントロールには圧力が大きい。香港政府は厳密な防疫コントロールの施策を制定しているし、香港にも優秀な専門家集団がいるので、カギは施策のそれぞれを実行できるかどうかにある。
 なお、12月15日付けの中央テレビ局WSは、このコラムで度々取り上げている呉尊友の発言を紹介しています。曾光発言に含まれていなかった重要ポイントは、移動中の人々の中に感染者がいなければ基本的に心配ないという曾光発言を確認した上で、「重点は無症状感染者に対するPCR検査による発見であり、感染高リスクの人々に対して定期的にPCR検査を実施し、新型コロナ・ウィルスに接触して感染する可能性があるけれども、症状が出ていない人を適時に発見すること、これが冬期に新型コロナ・ウィルスの流行をコントロールする上で非常に重要な措置である。したがって、輸入冷凍食品や輸入国際貨物を扱う業種の人々は、定期的なPCR検査を行い、その結果について社会と共有することが、従業者に対する管理と合わせ、今冬明春を乗り切ることができるかどうかの防疫コントロール上のカギとなる」という発言です。とにかく、無症状感染者を見つけ出すことがカギだということです。