日本の新型コロナ・ウィルス対策は、いつまで経っても国民に対する行動自粛強化を呼びかけることに終始し、感染源を徹底的に追跡し、隔離・治療するという政府が行わなければならない基本中の基本にはほとんど手をつけないでやり過ごしています。3月の本格的感染流行(いわゆる第一波)の時に、基本中の基本の追跡・隔離・治療を徹底的にやっていたのであれば、慌てふためく今日の事態の招来は避けられたはずです。尾身会長が「危機感を露わにしている」という報道を見る時、今日の危機を不可避にしたのは、尾身会長が中心に進めた「医療体制崩壊阻止」を至上解題とし、感染源の徹底追求を二の次にした政府の初動の誤りに「蓋をする」厚顔無恥に嫌悪すら催します。しかし、いまからでも過ちは過ちとして認め、基本中の基本に立ち返るべきです。
<韓国>
そういう点で、12月9日付けの韓国・聯合ニュースが流した次の記事に示された韓国の軌道修正の動きはとても重要だと思います。「韓国モデル」とまで称された韓国の新型コロナ・ウィルス対策でしたが、最近の感染急増に対する対応は後手後手で日本のやっていることと五十歩百歩であり、私としては首をかしげざるを得ませんでした。しかし、韓国にはまだ軌道回復能力が残っているらしいことを示すのが今回の記事です。つまり、局地的ではありますが、「全員PCR検査」を行う方針を打ち出している点です。

韓国疾病管理庁の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)庁長は9日、新型コロナ・ウィルスの首都圏の防疫状況を点検するために開かれた緊急会議で、今後3週にわたり首都圏の主な地域を中心にウィルス検査を集中的に実施することなどを盛り込んだ計画を文在寅大統領に報告した。
 鄭氏は若者が集まる学生街やソウル駅など約150の地域にウィルス検査を行う診療所を臨時で設置すると説明した。
 携帯電話の番号さえ提出すれば、症状の有無などを問わず誰でも匿名で検査を受けることができる。鼻の奥から検体を採取して行うPCR検査、唾液により行うPCR検査、抗体の有無を調べる抗体検査など、検査を受ける人が正確さや容易さ、判別の早さなどを考慮して3種類の方法から選んで検査を受けることができるという。  また会議に参加した李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は、感染経路が分からない感染者が広範囲にいるとし、特定地域を選んで全員を対象に検査する方式を導入する考えを明らかにした。
 これまでは多数の感染者が発生した施設の利用者などを対象に検査をしていたが、感染の封じ込めに限界があるため、感染リスクの高い地域の住民全員の検査を行う方針だ。
 徐旭(ソ・ウク)国防部長官は首都圏の疫学調査を強化するよう文大統領から指示されたことを受け、陸軍の部隊を投じると報告した。
 文大統領は関係官庁に対し、「状況を早く落ち着かせるために最大限努力してほしい」と要請した。
<香港>
 香港における新型コロナ・ウィルス問題については、直近では10月18日のコラムでも紹介しました。中国本土政府の支援を受けて大々的なPCR検査実施に踏み切った香港ですが、本土におけるような「応検尽検」(検査するべき者はすべて検査する)という徹底した対策を取らず、市民の自発性を尊重する中途半端であったために、PCR検査を受けた者は香港人口の約1/4に留まってしまい、無症状感染者(忍者・一匹狼)を完全に洗い出すことができませんでした。それが今日の感染再拡大を招く原因になったことは間違いありません。要するに、いまの香港の事態は日本の事態とほぼ変わらないということです。
 香港政庁がまったく無為無策であるということではありません。対象を限定して強制的なPCR検査を行う動きも出ています。しかし、腰が据わった対応というには程遠いのが実情です。そういう香港の状況を厳しく批判する文章が12月9日付けの中国網に掲載されました。上海外国語大学国際関係&公共事務学院副教授の郝詩楠署名文章「香港第四波爆発、断固たる防疫措置を講ずべし」です。香港が煮え切らない対応に終始してきた根本原因は「西側自由主義の観念に縛られているため」という指摘は「一針見血」(そのものずばり)です。そして全員PCR検査が急務であることを指摘します。要旨は次のとおりです。
 最近の報告では、香港の一日当たりの新規感染患者は100人前後となっており、住民の間ではパニックが起こって、多くの市民が一家を挙げて「北上」し、深圳入境には人だかりができているという。この現象は、香港と大陸におけるコロナ対策における違いに対する香港市民の評価を反映している。中国内地では「応検尽検」、中高リスク地域での「全員検査」そして効果的な隔離措置によって赫々たる防疫成果を挙げている。
 香港の防疫対策実施においては、西側自由主義の観念が政府と社会の関係を「縛って」いる。一部の人々は政府が権限を乱用して市民の権利を侵犯していると非難し、政府が内地の検査機関を導き入れたのには「政治的目的」があったと指摘している。そのため、第四波の大流行が起こっているというのに、政府指導部は相変わらず、「全民検査」は必要がなくコストが高いとする「小さい政府」の教条主義にこだわっている。また、政府は「集会制限令」等の防疫措置を強めてはいるが、その執行過程では過度に警察力に頼っており、社会なかんずく基層レベルの組織との協力はおろそかにしており、そのことが「防疫死角」の頻出と疫学的調査における「連鎖切断」をもたらしている。こうしたことが「感染源不明」患者が多いことの原因である。
 これに対してマカオでは、早々と全民検査と厳格な防疫措置との同時進行によって患者ゼロを実現し、中国本土との間で健康証明QRコードの相互承認を基礎として通関を回復し、経済及び社会は正常軌道に戻りつつある。ところが香港では、健康証明QRコードを呼びかけ、通関を回復すべきだという主張が次々と押し寄せるコロナ衝撃波によって圧倒されてしまっている。香港政府がこれからも「積極的不関与」の教条主義にこだわり、断固とした防疫措置を講じる決心をしないのであれば、香港の人々の生命及び財産の安全を保証できないのみならず、香港の長期にわたる繁栄と安定をも損なうことになるだろう。
<豊洲市場>
 12月8日付けの人民日報・海外網は、豊洲市場における新型コロナ・ウィルス発生状況に関して、481店舗が自主的にPCR検査を受けた結果、3111人から160人の感染患者が出たというNHKの報道を紹介しました。同時に、東京都の担当者の発言として、「同一店舗内で短時間に5人以上の感染確認の事例はなく、異なる患者の感染確認の間隔も2週間以上開いているので、衛生当局は濃密接触者ではなく、したがって集団感染ではないと判断している」という言葉も紹介しました。
 しかし、11月29日のコラムで紹介したように、国内の感染者を基本的にゼロにした中国における新型コロナ・ウィルス対策の現時点での重点は、①海外からの感染渡航者による「持ち込み」(内蒙古・満州里のケース)をいかに食い止めるか、そして②低温流通システム従業者が輸入冷凍貨物を取り扱っている際に、コンテナ、貨物(特に包装)に付着している新型コロナ・ウィルスに感染するのを如何に防ぐか、の二つに置かれています。これら従業者の感染が見逃されたため、天津、上海、青島では市中感染に繋がったのです。
上記海外網が豊洲市場のケースを報道したのは、記事では触れていませんが、豊洲市場も低温流通システム関連であることに着目したからであることは容易に想像がつきます。中国からすれば、豊洲市場で160人もの感染者が出たのに、東京都が集団感染ではないとし、豊洲市場も営業を続けているというのは到底理解不能ということだろうと思います。中国的感覚からすれば、豊洲市場は即刻営業を中止し、徹底的な感染対策を講じなければならないということです。私が理解不能なのは、低温流通システムが低温多湿であるために新型コロナ・ウィルスの長期生存を可能にしており、現実に多数の感染事例が報告されている中国の状況について、日本国内では何らの関心を呼び起こしていない事実です。しかも、豊洲市場の大量感染があったのに、東京都(及び日本政府)はなんらの手も打とうとしていないのですから、もはや奇々怪々といわなければなりません。
 12月9日付けの新京報は、「低温流通業では至急ワクチン接種を進めるべし」と題する社説を掲載しています。社説の趣旨は、低温流通業に従事する労働者に至急ワクチン接種を進めて感染を防ぐべきだ、というにあります。しかし、低温流通システムが感染源となることに関する指摘部分は、この問題にまったく無知で、関心も示さない日本社会に対する客観的警告という意味合いを持っています。「全員PCR検査」というこのコラムの趣旨とは若干それますが、社説該当部分を紹介します。
 12月に入ってわずか7日間の間に、低温流通システムという環境の中から検出された新型コロナ・ウィルス陽性というケースは、湖北、山東、河南、山西、安徽、遼寧、黒竜江等多くの省にわたっている。以前発見された「低温流通システムによるウィルス感染」が沿海地域に集中していたとすれば、最近明らかになったケースは、その感染が内陸地域にまで及んでいることを示している。低温流通システムにおける防疫の情勢はますます厳しさを増している。
 「低温流通システムによるウィルス感染」の範囲はますます広範となっており、それによる直接的帰結の一つはこの業種に従事する人員の感染リスクが増大しているということである。以前、天津、上海などで感染者が出たが、それは輸入低温流通システム及び関連物流と関係があった。これに対して、国務院聯防聯控機関の関係部門は一連の政策措置と技術ガイダンスを発表し、輸入低温流通食品の防疫強化の取り組みを指示した。また、孫春華副首相は近日、冬季の防疫コントロール上の必要に基づき、通関関連従業員及び一線監督管理人員等の高リスク・グループに対するワクチンの緊急使用について指示した。
 輸入低温流通システム従事者は都市の基本的運行を保証する特殊な人々である。彼らは、輸入物資と緊密に接触する職場であって極めて重要である。しかも、国外における新型コロナ・ウィルスの流行が極めて高い状況の下、彼らは海外からのウィルス流入を防ぐ第一線にある。こういう職業的性質により、一般の人と比較して、これらの人々がウィルスに感染するリスクははるかに大きい。しかも、ウィルス感染は往々にしてチェーン的であり、彼らが感染した時に適時に有効な隔離措置を取らないと、より広範囲の感染を引き起こす可能性が極めて大きい。(ということで、緊急時のワクチン接種をこの業種の人々にも適用する必要があると結論づけている。)