11月2日のコラムで中国のアメリカ大統領選挙に対する基本的に「冷めた」判断を紹介しました。11月9日付け(ウェブ掲載は8日)の環球時報社説「中米関係 幻想は禁物、努力は放棄せず」は、バイデン勝利を受けて、バイデン政権と中国との関係について、他国の人権問題に対する民主党の強硬姿勢、トランプ政権時代に米エスタブリッシュメントの対中観が強硬という点でほぼ一色になったことなどから、本質的変化は望み薄としつつ、新コロナ・ウィルス対処問題、環境問題などでは協力の可能性があることに着目して柔軟な対米アプローチを行う用意を明らかにしました。それほど新味があるわけではないですが、参考までに訳出紹介します。
 なお、新コロナ・ウィルスの世界的蔓延については、中国の初動が誤ったことに問題があるとする見方はアメリカ国内に根強いものがあります。したがって、バイデン政権がこの問題にかかわっていかなる対中アプローチを行うかについては、環球時報社説の見方は楽観的に過ぎるのではないかとも思えます。しかし他方、アメリカの専門家はこうした見方を共有していないことも確かであり、バイデン政権が専門家の意見に耳を傾けるならば、コロナ問題に関する米中協力の可能性は大いにあるとも思います。

 バイデンが次の大統領になることはほぼ決まりとなり、アメリカの西側同盟国・友好国は、トランプの態度にはお構いなしにバイデンにお祝いのメッセージを出している。トランプ執政4年間の対外政策でもっとも大きく動いたのは対中関係であり、中国を全面的にやっつけ、抑え込むことはトランプの最大の「外交遺産」となったと見ることができる。では、バイデンはどの程度対中関係における「トランプ路線」を継続するだろうか。
 多くの分析が指摘するのは、トランプ執政期間中に貿易戦争を含めて発動した高強度の衝突によって中米関係の大環境はリセットされ、そのことでアメリカのエスタブリッシュメントの対中観は全体的に変化したということだ。バイデン登場後は、中米関係のこの基本枠を引き継ぎ、中国に対して基本的に強硬な姿勢を維持するだろう。新疆、香港など、アメリカ式定義による「人権」問題では、民主党政権はさらに強硬となる可能性も排除できず、総じていえば、アメリカが中米関係で圧力行使を緩めることはあり得ないだろう。
 しかしながら、以下のことも見ておく必要がある。本年になってからのトランプ政権の「圧力行使のための圧力行使」現象の大量出現の原因は大統領選挙のための主要な作戦ということにあった。トランプ政権は、中国に対して強く出れば出るほど、アメリカのコロナ対応の失敗の責任を中国にかぶせればかぶせるほど、選挙での得票に有利だと信じた。したがって、アメリカの対中政策にはことさらに中米関係を緊張させようとするバブル的要素が含まれている。
 これらのバブルを取り除く点ではできることがあり、北京としてはバイデン政権との間で可能な限りの意思疎通に努め、緊張している中米関係を予測可能な状況にまで回復させるべく努力するべきである。
 まず、コロナの分野における中米関係に関しては大きな調整スペースがある。バイデンが政権についてからの真っ先の仕事はコロナ対策であり、彼自身が言っているように、科学的対策について協力する以外の選択はあり得ない。そうであるとすれば、中国に対する「責任なすりつけ」と「責任追及」は続けることは難しく、コロナをめぐる中米間の激しい対立から実務的協力への可能性が出てくるし、この協力が中米間の他の問題を再認識する契機を作り出すかもしれない。
 第二、バイデンはパリ協定に復帰することを表明しているが、国連の気候変動にかかわる動きを推進する上では中米協力は不可欠であり、この点でも中米で非対立的なテーマを増やすことができる。  第三、経済貿易分野ではバイデンはおそらくトランプの高圧路線を堅持するだろうが、トランプ政権の賭けまがいのやり方が新政権に引き継がれるとは限らない。過去数年間、アメリカは「1000人の敵を殺して自らも800人を失う」という愚策を講じてきたが、アメリカの対中貿易赤字縮小には効果を生まず、多くのアメリカ企業の怨嗟の的になってきた。政権交代によって調整の模索が行われる可能性がある。
 第四、人的交流においてもトランプ政権はやり過ぎで、中米の人的交流展開に対する確信をぶち壊した。それに加え、コロナのために中国人家庭の多くが子供たちのアメリカ留学計画を諦めており、バイデンが中国人学生及び学者に対する締め付けを行うスペースは少なくなっている。
 総じていえば、トランプ政権がすでに対中強硬政策をやり過ぎたので、打てるカードはすでに打ち尽くした状態であり、バイデン政権がさらに強硬な対中政策をやろうとしても使える材料は大幅に減ってしまっている。正直言って、これまでの中米関係がすでにあまりに不正常であり、中米間の緊張は両国の現実的利益とあまりにもそぐわなくなっている。過去数年間、ワシントンは中国を「敵」扱いしてきたが、中米は敵対関係ではなく、多くの競争はあるが広範な利益の相互融合こそが真実である。この分野における一定程度の揺り戻しは遅かれ早かれ来るだろう。
 もちろん、価値観の分野では民主党はより執拗であるが、中米は二つの大国として価値観の衝突だけのために戦略的対抗に向かうというのは不可能なことだ。中国は、バイデン登場がもたらす可能性のある関係緩和への逆転ということに幻想を持つことはできないが、中米関係を改善するという信念を弱めることもできない。流れとしては、アメリカの中国に対する競争心と警戒心は不断に強まるだろうが、両国関係の緩和とコントロールは両国人民及び国際社会にとっての共同の利益である。両国がとんでもない関係にある種の平穏と予測可能性とを実現し、両国関係に破壊的な悪化が現れないように管理コントロールすることは、両国が共同して行わなければならない必要な政策的努力である。
 最後に、アメリカの戦略的挑戦に対処するための中国の根本的方法は不断に自らを強大にすることである。我々はアメリカがやっつけようがなく、混乱させようがない強大な存在になって、対中協力がアメリカの国家利益実現の最良の道であるようにする。これが根本の道である。