ピュー・リサーチ・センターが10月6日に発表した14の経済先進国の対中国観に関する世論調査結果(以下「報告」)は、「対中国観が近年悪い方向に変化しており、特に昨年に比して顕著に悪化している」と紹介されました。報告は何も触れていませんが、昨年から今年にかけての対中国観の顕著な悪化は新コロナ・ウィルスを「中国ウィルス」と名づけ、アメリカ国内での蔓延に対して有効な対策を講じ得ない責任を中国に転嫁する言説を振りまいてきたトランプ政権の言動と無関係ではあり得ないと思います。
 アメリカに対するイメージ特にトランプ政権に対する見方、なかんずくそのコロナ対策の不手際に対する見方は先進国、途上国を問わず極めて厳しいものがあることは、今回のピューの調査でも、トランプに対する国際的評価は習近平に対する評価を下回っているという結果に示されています。
しかし、ことが中国にかかわってくると、もともと中国に対して色眼鏡で批判的に見る傾向が強い先進諸国のマス・メディア及びそれに流される各国世論は、トランプ政権の対中国言辞が信憑性のないことよりも、自らの色眼鏡的対中国観にマッチするその言辞に誘導されて、対中国観の悪化に拍車がかかるわけです。今回のピューによる世論調査結果は正にそれを裏付けるものだと思います。
経済先進国の多くは欧米ですが、日本、韓国、オーストラリア等も含まれます。日本人の対中国観はもともと厳しいものがありますが、私が毎朝チェックしている韓国3紙の報道からは、韓国人の対中国観も複雑であり、批判的であることに気づかされます。オーストラリアにおける対中国観の消極的な意味での変化も近年驚くべきものがあります。こういう世論はトランプ政権の根拠のない中国攻撃を退けるのではなく、むしろ「自分の見方を裏付けるもの」と受け止めるのです。
 しかし、「経済先進国の国際世論=世界世論」ではありません。アメリカのアラブ・センター・ワシントンDC(自己紹介によれば、非営利独立調査機関)が発表した「2017-2018アラブ・オピニオン・インデックス」は、アラブ諸国における対米及び対中世論の所在の一端を示しています。ここでは中国に対するまったく異なる見方が存在していることを明らかにしています。
私たちは、中国の途上国に対する経済援助(「一帯一路」構想に基づくものを含む)が途上諸国の債務超過を招いているといった類いのマイナス的評価の西側メディアの報道に数多く接して、「ああやっぱりな」と合点してしまうことが多いのです。しかし、途上諸国における中国イメージに関する世論の所在についてはほとんど調査がありません。アラブ・センターのこの調査は、アメリカの非営利独立調査機関によるものであり、とても貴重です。
 ちなみに、いわゆる「国際世論」が西側メディアの圧倒的影響力のもとで「形成」されることに対する中国、ロシア、イランの問題意識は強いものがあります。私がチェックしているイランのメディアからは、IRNA(イランの通信社)が中国、ロシアをはじめとする国々の通信社と連携・提携を強化して、西側メディアに対抗して国際世論に働きかけを強化する可能性を模索していることを知ることができます。私たちも、意識的に非西側世界の言論の所在を把握する努力を行うことが重要だと痛感します。
 以上の前置きを踏まえていただいた上で、以下ではピュー及びアラブ・センターの世論調査結果の概要を紹介します。

1.ピュー世論調査結果

 今日、14カ国の大多数において中国に対する非好意的意見が存在している。オーストラリア、イギリス、ドイツ、オランダ、スエーデン、アメリカ、韓国、スペイン及びカナダでは、10年以上前に調査を開始して以来、否定的見方が最高となった。オーストラリア:81%(対前年比+24%)、イギリス:約75%(+19%)、アメリカ:74%(+13%)。
特徴的なことは、非好意的見方は中国のコロナの扱い方に関する広範な批判の中で起こっていることだ(浅井注:中国のコロナ対処に対しては、WHOのみならず、『ランセット』以下の国際的に権威がある医学、自然科学関係の雑誌が高く評価しているのに、ピューのこの数字は、経済先進諸国の世論が圧倒的にトランプ政権の言辞に支配されていることを示しています)。14カ国を総合すると、中国の対処の仕方が悪かったと答えたのは61%(良かったとしたのは37%)だった。地域的に見ると、欧州諸国では悪かったとしたのは平均で56%、良かったとしたのが41%だったのに対して、アメリカではそれぞれ64%対31%、オーストラリアは73%対25%、韓国は79%対20%、日本は79%対16%であり、日本とか韓国が突出していることが分かる。ちなみにアメリカについては悪かったとしたのは84%(良かったとしたのは15%)、WHOについては好評価が63%、悪評価が35%だった。
報告は中国に対する評価が2002年から2020年にかけて悪い方向に変化する傾向があること、特に2019年から2020年にかけての悪い方向への変化が急激であったことを示すグラフを12カ国について示している。次のとおりだ。

報告はまた、中国のコロナ対策への悪評価が習近平主席に対する消極的評価の拡大につながっていることを指摘した。すなわち、14カ国平均で78%が習近平の国際問題に関するハンドリングに対して信頼していないと答えた。しかも、ほとんどの国で習近平に対する否定的評価がこの1年間で10%以上増加したという。具体的には、アメリカ:50%→77%(+27%)、オーストラリア:54%→79%(+25%)、ドイツ:61%→78%(+17%)、イギリス:60%→76%(+16%)、フランス:69%→80%(11%)、韓国:74%→83%(+9%)、日本:81%→84%(+3%)などである。習近平に対するこの否定的評価は、日本及びスペインを除けば、ピューのこれまでの調査ではもっとも高い。
ちなみに、日本の伸び率が他国に比してとりわけ低いのは、下掲グラフからも明らかなように、もともと習近平に対する評価が突出して悪いことによる。ちなみに、下掲グラフから窺えるのは、日本人の習近平に対する評価は一貫して厳しいが、韓国人の場合は当初好意的だったのが、年を追う毎に悪化してきていることだ。 なお報告は、習近平とトランプに対する各国の評価度を比較しており、習近平の方がトランプよりはましであるという結果を示した。例えば、ドイツでは習近平に対する否定的評価が78%であるのに対して、トランプに対する否定的評価は実に89%に上っている。

2.アラブ・センター世論調査結果

この調査は、エジプト、イラク、クウェート、ヨルダン、レバノン、モーリタニア、モロッコ、パレスチナ、サウジ・アラビア、スーダン、チュニジアのアラブ11カ国の18830人の市民を対象に行われた。調査項目は、生活条件、国家機構及び政府効率、デモクラシー評価、政治参加、宗教性、主要大国の外交政策等である。 主要大国の対アラブ外交政策に対するアラブ世論の所在を示す数字は興味深い。回答は、肯定的、やや肯定的、やや否定的、否定的、分からない・無回答の5段階評価である。主要大国として中国及びアメリカに加え、トルコ、フランス、ロシア、イランが対象とされた。結果は次のとおりである。
  肯定的 やや肯定的 やや否定的 否定的 無回答等
中国      18      26      12      20     24
アメリカ       3        9      13      66     10
ロシア       7      19      18      37     19
フランス      11      25      17      28     19
トルコ      30      24      12      19     15
イラン       7      14      16      48     15

トルコを例外とすれば、中国だけが肯定的評価44%(18%+26%)>否定的評価32%(12%+20%)であり、アメリカは肯定的評価12%(3%+9%)<否定的評価79%(13%+66%)で、アラブ諸国と対立関係にあるとされるイランよりも低い評価である。 しかもアメリカに対するアラブ諸国の評価は年を追う毎に厳しさを増している。具体的には以下のとおり。

  肯定的 やや肯定的 やや否定的 否定的 無回答等
2017/18       3       9       13      66      9
2016       2      13      20      57      8
2015       9      18      23      42      7
2014      13      23      20      29     15

アラブ地域諸国に対する脅威国についての回答では、イスラエルを別格とすれば、アメリカをあげるものが圧倒的に多く84%、中国は最下位28%だった。具体的には以下のとおり。

  イエス ややイエス ややノー ノー 無回答等
アメリカ      70      14      5      3      8
中国      13      15     26     25     21
ロシア      34      23     18      9     16
フランス      22      23     25     13     17
イスラエル      82       8         2        2      6
トルコ      15      19     23     30     13
イラン      47      19     12      9     13