日本社会では今や「GO TO キャンペーン」が大手を振ってまかり通る状況になっており、「コロナをどうするのか」ではなく、「コロナの現実にどう適応するのか」という意識が中央から末端まで支配・浸透していますが、本当にこれでいいのでしょうか。「コロナ・ゼロを実現する」とする中国の真剣そのものの取り組みを見ていると、ますます日本の現状を疑問視せざるを得ません。そういう問題意識を込めて、中国・香港の取り組みについてまとめてみました。

1.中国大陸の黄金周の人出

国慶節と中秋節がつながって8連休となった今年の中国のゴールデン・ウィーク(中国語:"黄金周")では6.37億人が国内旅行に繰り出し(それでも昨年比でまだ80%に留まるのだそうです)、北京の雑踏風景を映し出したTVの光景にびっくりした人も多かったと思います。「コロナ感染は大丈夫なの?」という疑問が出てくるゆえんです。このコラムで何度も紹介している流行病の権威・呉尊友は連休直後の10日の中央テレビとのインタビューで、「今回の黄金周は(中国の)コロナ防疫コントロールに対する"一大テスト"だった」としつつ、「連休前の初歩的判断では、国内には基本的に新コロナ・ウィルスはなく、無症状感染者に接する確率も極めて低く、感染者が現れる可能性は極めて低い」と見ていたが、「おおむねパスした」という判断を示しました。ただし呉尊友は、「新コロナ・ウィルスには潜伏期があるので、最終的な判断はあと10日ぐらい観察してからになる」とつけ加えました。

2.青島市のケース

 呉尊友の上記発言直後の10月11日、青島市衛生健康委員会は、青島市胸科医院(コロナ患者受け入れ病院)が外来患者に対して通常のPCR検査を行っている中で3人の無症状感染者を発見したことを公表しました(12日までに感染発病者6人及び無症状感染者6人に増える。12人全員が同医院と関係があることを確認。最終的には13人の感染者を確認)。このニュースは直ちに全国に伝えられ、連休中に青島を訪れた人が447.58万人であったことから、各地に衝撃が広がり、各地は対策に追われることになりました(11日付け澎湃新聞WS)。
<9月24日の感染者>
 実は青島では9月24日に、青島港の低温流通システムで働く労働者に対する定期的な検査で2人の無症状感染者が発見されていました(10月12日付け澎湃新聞WS)。青島市は直ちに濃厚接触者234人、濃厚接触者の濃厚接触者260人を突き止めて集中隔離の医学観察措置を取り、全員が陰性であることを確認しました。青島市はさらに一般接触者244人、コミュニティの重点グループ150031人、低温流通システム関連労働者63827人に対してPCR検査を実施し、全員が陰性であることを確認しました。9月30日に青島市は、関連する低温流通関連産品をすべて封鎖監督し、1440のサンプルを検査した結果51のサンプルから陽性反応を確認しました。無症状感染者のサンプルと低温流通関連産品サンプルのコロナの遺伝子配列は高度に一致し、その結果、感染経路は汚染された輸入冷凍水産品であり、国外からの輸入であると判定されました(以上、上記澎湃新聞WS)。
<青島市の対応>
 10月11日の発表翌日(12日)、青島市衛生健康委員会は市民全員に対するPCR検査を5日間以内に行う計画を発表するとともに、国及び山東省の専門家の指導の下で、ビッグ・データに基づいた追跡調査を行って、9月22日から10月10日までの12人の活動軌跡を割り出し、それに基づいて濃厚接触者及び濃厚接触者の濃厚接触者の割り出しに全力を挙げました(なお、6人の感染発病者及び6人の無症状感染者はすべて青島住民であり、国慶節期間中上記医院を離れてそれぞれの所属コミュニティで活動していたこと、また、各地から青島に訪れた旅行客が多数いたことが懸念材料として指摘されました)。そして同日(12日)17時30分に、濃厚接触者、濃厚接触者の濃厚接触者、一般接触者、医療関係者、入院患者及びその付き添い、コミュニティ関係者合計1037614人に対してPCR検査を行い、新規陽性感染者がいなかったことを明らかにしました。全国各地も12日中に青島を訪れた者に対するPCR検査を行い、陽性者がいなかったことを確認しています。また、今回の12人がすべて上記医院におけるPCR検査で発見され、直ちに指定病院で隔離治療を受けることになったため、コミュニティに伝染するリスクは小さく、胸科医院が属する地域を中リスク区域と指定したほかはリスク地域に指定されるところはありませんでした。すでに13日の段階で、青島市政府の記者会見で、コミュニティ・レベルでの感染の可能性はますます低くなっているという判断が示します。
 青島市は、山東省が派遣した210人7グループのPCR検査隊及び1050人の採取担当者の協力も得て全市民を対象にしたPCR検査を敢行します。全市で3600の採取地点を設置しました。
<呉尊友の初期判断>
 10月14日、呉尊友は中央テレビのインタビューに答えて次の判断を示しました。
○これまでの結果(14日15時30分の時点でのPCR検査数423万で、新規感染者ゼロ)から見て、今回の感染規模は大きくないだろう。最初にニュースに接した時は大いに心配した(特にタクシー運転手が含まれていることを懸念。この点は後述参照)が、症例は胸科医院に集中している。したがって、北京新発地や新疆ウルムチのような規模にはならないだろう。
○黄金周期間中に青島に旅行した人たちがPCR検査を受ける必要はない。今回の症例は胸科医院に限られているので、旅行者が彼らに接触する機会はない。
<10月16日&17日の発表>
 10月16日付けの新華社WSは、同日に山東省衛生健康委員会発表として、疫学的原因調査及び実験室検測の結果、今回のケースは医院集団感染であり、コミュニティから医院に感染が伝わった可能性はないと判断した、と報道しました。この発表は、中国疾病コントロール・センター及び山東省疾病コントロール・センターが遺伝子配列を比較した結果、今回の胸科医院の集団感染と9月の青島港の2人の感染者の新コロナ・ウィルスの遺伝子とは高度に一致することが判明、感染源はこの2人であることが判明したこと、また、この2人と今回の感染者との間には胸科医院以外での接触の可能性がないことを明らかにしました。
さらに、胸科医院の録画画像をチェックしたところ、青島港で感染した2人が胸科医院で隔離観察中、封鎖病区を離れてCT検査を受けており、防護及び消毒の不備からCT室が汚染され、翌日そのCT室で検査を受けた1人の入院患者及びその付添人がウィルスに感染し、院内感染を引き起こしたことが判明しました。以上から、今回の集団感染は、青島港での感染者が入院中、普通病棟の患者とCT室を共用したために院内集団感染を引き起こしたものであり、コミュニティへの感染の広がりは起こらなかったと結論されました。
 青島市の薛慶国副市長は中央テレビのインタビューに答え、16日18時までに青島市の10899145人のPCR検査の結果、全員が陰性だったとし、コミュニティへの感染の広がりのリスクはないと発言しました。さらに17日の青島市の記者会見で、感染者の一人がタクシーのドライバーであったことに関して、9月29日16時から10月10日22時にかけて同人が183回客を乗せたこと、16日12時50分までに乗客231人全員を追跡したこと、内訳は青島市196人、省内11人、省外24人であったこと、これまでの検査で全員が陰性だったことも明らかにされました。

3.香港のケース

 香港におけるコロナ対策に関しては9月22日のコラムで紹介しました。中国政府の支援(575人の検査支援隊派遣)を受けて香港市民を対象とする大がかりなPCR検査を実施しましたが、市民の自発的協力に委ねた(一国二制の香港では全市民の一律検査は不可能)ため、最終日14日までに検査を受けたのは178.3万人に留まり、PCR検査を受けたのは人口のほぼ1/4に留まりました。最終的に42人の感染者が発見されました。陽性比率は0.002%であり、10万人中2人の感染者がいる可能性があると報告されました。香港全市では約100人の感染者がいるだろうということになります。
香港市は判明した感染者についての追跡調査を行い、87人の濃厚接触者を突き止め、その中の5人が感染していることを確認しています。林鄭月娥長官は15日に記者会見を行い、たまたま15日に7月初以来はじめて新規感染者がゼロだったことを基に、香港の第三波が抑え込まれたという認識を示し、正常な市民生活への復帰を表明しました。
 しかし、この判断は楽観的すぎることが数字で裏付けられることになりました。国外から来港した感染者を除いて香港内での感染者の推移を見ると、翌16日に早くも5人(すべて感染経路判明者)、17日6人(内3人が感染経路不明)、18日2人(2人とも感染経路判明者)、21日2人(感染経路不明1人)、22日3人(3人とも感染経路判明者)、23日2人(2人とも感染経路判明者)、24日不明、25日2人(2人とも感染経路判明者)、26日ゼロ、27日1人(感染経路不明)、28日3人(3人とも感染経路判明者)、29日ゼロ、30日1人(感染経路不明)、10月1日1人(感染経路不明)、2日2人(感染経路不明)、3日1人(感染経路不明)、4日2人(感染経路不明1人)、5日4人(感染経路不明1人)、6日5人(感染経路不明3人)、7日2人(2人とも感染経路不明)と報告されました。10月1日から7日までに12人が感染経路不明で、感染者全体の48%を占めます。これは、9月23日から30日までの7日間で感染経路不明者が1人(全体の9%)だったことと比較して極めて高くなっています。
そのため、専門家は香港で再び感染が拡大しはじめていると警告しました。別の専門家は、9月のPCR検査に市民全員が参加しなかったこと、検査漏れの感染者がコミュニティにいる可能性があり、これが感染蔓延の原因になっていると指摘しました。そして、香港政府に対して、ハイ・リスク業種の雇用者及び労働組合等とともに、一定程度の強制的な定期検査を行うことを提言しました。
 ちなみにその後の感染状況は、10月7日9人(感染経路不明3人)、8日14人(感染経路不明1人)、9日7人(感染経路不明1人)、10日3人(感染経路判明者)、11日4人(感染経路判明者)、12日5人(感染経路不明1人)、13日&14日不明、15日4人(感染経路不明2人)、16日1人(感染経路不明)、17日ゼロです。

4.まとめ

 青島と香港の事例から確認できるのは以下の諸点です。
○PCR検査を徹底すれば感染源(無症状者を含む)を完全に洗い出して感染ゼロを実現することは十分可能(青島)だが、中途半端にやったのでは根絶することは不可能であるのみならず、再び感染拡大を招く可能性が大いにある(香港)。
○日本のごとき場当たり的なPCR検査はしょせん対症療法に留まり、追跡調査によって濃厚接触者さらには濃厚接触者の濃厚接触者まで突き止め、PCR検査を行う必要がある(青島)。香港も、感染者の濃厚接触者までは追跡しているが、中途半端な感を否み得ない。
○中国本土では、いわゆるビッグ・データ解析によって個人一人一人の行動を基本的に把握しうる態勢が整っていることが徹底した追跡を可能にしている。中国はこれを「体制の優位性」とするけれども、「プライバシーを重視する」建前の日本では「国家による統制」にほかならず、「人命>プライバシー」に立つ中国方式は政策的オプションになり得ない。
○しかし、今の日本を見ていると、「コロナをゼロにする」という発想はゼロで、「コロナありき」の前提で物事が動いているけれども、それはいわば「百年河清を待つ」の類いであって、先への展望は出てきようがない。やはり、「コロナをゼロにする」という目標を設定することは不可欠であり、その目標を達成するためには何をしなければならないかという問題意識を国民的に共有すること、その上で中国方式とは別個の政策的アプローチのあり方を国民的に議論し、実行に移すことがなければならない。「GO TO キャンペーン」を所与のものとするマスコミの垂れ流し報道(及びそれに慣らされて行動する国民の意識)は「もってのほか」と言わなければならない。